四宮くんバージョンの異能力妄想。
全部捏造です。今回は伊織くんのお話です。
ゆるっとした関西弁は、正しくないかもしれない……。
@aricosyyim
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01. シンイーター
この世界は、生きるにはつまらない。
四宮伊織という男は心の底からそう思っていた。
正負を逆転させるという強大な能力を持っていながら、自らも結果がわからないという不確定な力は、幼い頃から伊織を苦しめてきた。
異能力所持者は、両親から疎まれることが多い。伊織の家も例外ではなく、両親から手放された伊織は、幼い頃から施設で育ってきたのだ。
その施設は、さまざまな理由で親に捨てられた子どもが多く暮らしており、やはり異能力者が多かった。「この施設で出会った存在は、自らと同じ境遇の友人となり得る」……というのが施設側の主張である。
しかし、皆「使い道のある能力」の持ち主で、伊織のような不確定要素の多い能力使いではなかった。ゆえに、伊織には「同じ境遇の友人」が出来ることはない。
施設の他の子どもたちは、伊織のことを理解することができなかったし、伊織もまた、彼らが理解出来るとも思っていなかった。
能力を使えば何が起こるかわからないという恐怖を、理解できる者などいるはずがなかったからだ。
とはいっても、四宮伊織は本来心優しい少年であった。
それに、自らの中にある孤独のようなものを表沙汰にするような人間でもなかった。
「伊織はどうして自分の能力のことを話さないの?」と、告げる施設の子どもたちに対して、いつだって「みんなみたいにすごいもんじゃないから恥ずかしい」と返すような人間だった。
そんな伊織が、自らの中にある能力を心から疎んだのは、伊織がこの施設で暮らし始めてから数年後の出来事である。
世話になった施設の大人が病に倒れたのだ。
どうやら医師にも匙を投げられているようで、死を待つばかりの状態だった。
伊織は、その大人に聞いたのだ。「病気、治って欲しい?」と。そして大人は答えた。「治って欲しい」と。
今思えば、それが、現在の四宮伊織のスタート地点だった。
伊織は初めて施設で自分の能力を行使した。病気という負を正の要素に逆転させようとした。
結果として大人の病気は完治した。
そのかわり、大人の身体からは、三本の腕が生えた。
以降、伊織はいよいよ施設内で孤立することとなる。
自分の能力=自分の存在価値だとは思っていないが、どうしてこんな力を自らは持っているのかと呪った。
「こんなになるんだったら死んだほうがマシだった」
と、救いたかったはずの人間に言われた時に、四宮伊織の中の何かが一つ壊れた。
壊れたのは、それが一度目だった。
伊織の能力は、世の中にある異能力の中でも、さらに異質の能力である。
(どうして僕はこんな能力を持ってるんだ……)
そうやって頭を抱えても、現実は変わらない。
(いっそ能力なんて使わずに生きていけたら)
けれど自分が能力者であることは変わらない。
世界は何も変わらない。自分がいてもいなくても能力があってもなくても変わらない。変わらないのだ。何一つ変わらない。
変わらないのならば、なんで自分はこんな世界に産み落とされたのか。
(ふざけてる……どうして僕だけが……っ)
喉を掻き毟っても、声が枯れるまで叫んでも世界は少しも何も変わらない。
(なら、もう終わりにしてみたら?)
そして、四宮伊織は自らの能力をきごう自らに行使したのだ。
『全能の逆説 -ライズ アンド トゥルース-』
など、大層な名前をつけたそれを、幼い頃から負で満ちた自分の感情に使った。
その結果、この負の感情は逆転。正の感情へと強制的に変化したそれは、伊織の負の感情ー自らの能力に対する憎悪ーを、「能力を使って生き抜くこと」へと変化させたのだ。
誰もが持ち得ない異能力。そして、その中でもさらに異質な自らの能力を、自分が生きることだけに使う。これが今の伊織の生きる理由だ。
施設を出たのは少し前の話だった。
というのも、施設は無くなってしまったからだ。
「なくなった」というのは、経営ができなくなったということではなく、襲撃をされ、物理的に壊されたという意味だ。
その時伊織はたまたま施設の外に出ており、戻った時には全てが変わって、終わっていた。
血で濡れた壁、床、そして、転がる腕、足、腸。そこには、まるで獣に食い散らかされたような人間たちの死体が転がっていた。
伊織はその時のことを鮮明に思い出すことができる。
何せ、その時に自らの中に生まれた感情は絶望でも悲哀でもなく「解放感」だったからだ。
自分のことを理解出来ない人間は全て死んだ、自分はもう、誰にも気をつかわなくて良いのだと思った瞬間、肩がスッと軽くなったように感じた。
夥しい血液が流れ、バラバラにされた死体が転がる中、まるで朝の森林にでもいるような清々しさで伊織は深呼吸をする。
肺に溢れる血の鉄臭さも気にならないほどに、息がしやすいと思ったのだ。
「さ。これからどないしようかな」
と、呟いて、伊織はスキップでもしたい気持ちで施設を後にした。
◆
とは言っても伊織には行く場所などなかった。最初から居場所とは言えない場所であっても、施設は帰る家であることにはかわりなかったからだ。
せっかくだら自由を謳歌しようにも伊織には金がなかったし、体一つで食い繋ぐような能力だって持ち合わせていなかった。
(まっ、ええけどな。結局はどうにかこうにかして生きれりゃええって話よ)
どうせ否応なく死ぬまでは死ねないメンタルなのだ。使い方の難しい能力であったとしても、使えないわけではないだろう。
「さてと、これからどこいくかなぁ……」
施設を出て、街へと繰り出す。あの血と肉に塗れてしまった施設を伊織が振り返ることはない。
アスファルトの上で踵を鳴らすと、口を閉じたまま鼻歌をこぼす。ふんふんと音を奏でれば、久方ぶりの音楽が生まれたことがなんだか無性に嬉しかった。
即席のメロディに、適当な歌詞を乗せて口ずさんでいたら、ちょうどいいタイミングで腹が鳴る音がした。ぎゅるるる、とまるで漫画のような音が鳴ったところで、自分が空腹であることを自覚した。
「腹減ったな。なんか食べられるもん探さな、普通にすぐ死ぬな」
果たして、空腹というのは負の要素だろうか。それを強引に正へと変えたら、何が起こるだろうか。あまりリスクの高いことはしたくないが、伊織が自らに施した異能力の影響は濃く、今すぐにでも異能力を使いたい衝動に駆られる。
(使ってみるか……?)
自分に問いかけて首を横に振ったところで、つま先が何かに当たった。
伊織は極力人目につきたくなかったので、人通りのない裏通りを歩いていたのだが。
自らのつま先が触れたものを見ると、そこにあったのは、人の頭だった。
「…………なんだ死体か」
うつ伏せに倒れている存在を見て、目を逸らす。死体ならば放っておけばいいし、死体じゃなかったとしても放っておくのが良い。
「……死体じゃないですぅ……」
「死体じゃなくても死体にしといた方がいいものもこの世にはあると僕は思う」
死体から発せられた声に返事をして、そそくさとこの場を去ろうとした。
ーーその時。
「………………この匂い、美味そうだな」
そう、死体だった男が体を起こしながら呟いた。
「匂いは間違いないんだが……なんか、味変されてる……?」
「何を言うてるのかわからんのやけど?」
伊織が首を傾げると、目の前に立った男は突如気配を変える。
『ねぇねぇ藍月。たぶん合ってるわよ。彼で』
それは、まるで別人が話をするような口調と声音だった。自らの唇から発したそれに返事をするように男は頷く。
「んー。朧がそう言うならそうってことか。黄昏は?」
そして再び男は気配を変える。今度は口の端を不敵に持ち上げてニヤリと笑った。
『俺様は美味いものなら何でもいい』
その言葉に応えるように男は曖昧に頷く。
「まぁ、じゃあいいか。結局お前たちにも食事は必要だしなぁ」
ゆらりと、男の体が揺らめいたと思った瞬間、あたりには霧が立ち込めていた。そして、伊織の目の前には、二匹の狼がいた。
「味変したって言っても、美味いラーメンは美味いだろ」
「私にはラーメンの良さはわからないけど、そりゃあ美味しいものは好きよ。特に、彼みたいな煮凝りみたいなの」
「俺様はもっとこう、ガッツリしたわかりやすーい味が好きだけどなぁ」
「ワガママ言わないの。飯があるだけありがたいと思え」
先ほどまでは藍月と呼ばれた男が一人で話していたが、今は狼の口から人の言葉が聞こえた。
「なぁ……その狼、喋んの?」
「ん? ああ、喋るぞ。ちなみに、食うもんは人の悪意っていう変わった奴らだ」
「悪意?」
伊織が聞き返すと、狼の片方ー朧と呼ばれていた方だーが、そう! と頷く。
「私たちは悪意を食べる。そこで、あの施設に昔から目をつけていたというわけ。それなのに実際行ってみたら薄い味のものしかなくて、すこし拍子抜けしてたところなのよ」
「藍月風に言うなら、美味いと聞いてたラーメン屋があったが、屋号だけ残して美味いラーメンはなかったって感じか?」
「ちょっと違うと思うが、まぁそんな感じだ」
と、狼と男は次々に喋る。
「アンタらの言いたいことはわかったし、したいこともわかった。つまり最初から僕を狙ってたってことやろ?」
「ああそうだ」
「けどな、理由が分かっても、じゃあどうぞー、なんて言うわけあらへんやろが」
「まぁ、答えは聞いてないんだけど、そっちの発言に耳を貸さないってわけでもない」
「そうなんか? 少しは話ができる人で良かったわ。で、その狼たちの悪意を食うってのは、命を取るってことで合ってる?」
藍月と狼二匹は同じタイミングで首を縦に振る。その様子は、施設のあのような惨状を見ていなければ可愛いものに思えたかもしれない。
だが、この一人と二頭は施設にいた人間たちすべてを八つ裂きにしているのだ。恐らく、腹が減っていたと言う純粋な理由で。
「まぁ、命を取るっていうか、その悪意を最後の一絞りまで食わせようと思うと、結果的に殺さなきゃなんなくなる」
「……あのさ、そこの狼さんらはわかるけどな、アンタ、藍月さんやったっけ? はなんでこんなことしてるん?」
「なんでってそりゃ、こいつらの面倒見ないと俺がこの異能力に殺されるからな」
「あ〜〜なるほど、そういう……」
やはりというかなんというか、この狼たちは藍月の異能力らしい。
「藍月の一族は狼のモノって決まっているの。だからすりっぷは私たちに食事を提供する義務がある」
「でなけりゃ、腹をすかせた俺様たちは、空腹をしのぐためにコイツを食わなきゃなんねえ」
「……てこと」
というわけで、大人しく食われてくれと、悪気なく首を傾げる男の隣で狼たちが舌なめずりをする。
「…………ちょっとだけ待って!」
「なんだ?」
「僕は死にたくないのよ。なぜなら、そういう風になってしまったから。ちなみに言うと、僕も異能力者だ。だから、僕の能力で何とか出来る方法が見つける。だって、食べ物がありゃいいって話やろ?」
恐らく、ここで能力を使わなければ伊織には狼たちに勝つ手段はない。だが、正負を逆転させる能力を使ってこの状況は打破できるものだろうか。
「あっ、そうだ」
「どした? 何か思いついたか?」
「あんまりにも自分の能力を使わんかったから忘れてたけど、四宮、正も負に出来るんやったわ」
つまりだ。悪意がそこにあればいいと言う話だ。
四宮伊織という男は、基本的には心優しい青年であるが、生きるためには手段は選んでいられなかった。
「自己紹介もしとらんかったから、ついでに今しとくわ。僕は四宮伊織。僕の異能力は、この世にあるすべての正と負を逆転させる能力。けど、その逆転がどういう風に出るのかはわからないギャンブルみたいなヤバい代物や」
伊織は、二匹の狼と男に向かって一歩を踏み出した。そして、今考えていたことを言葉にするべく口を開く。
何度も言うが、四宮伊織という男は、基本的には心優しい青年なのだ。
けれど、あの施設で過ごした日々が、彼の中にあったものを壊したことで、少しばかりそれが歪んでしまった。というよりは、失われてしまったのだ。
「これは交渉なんやけどな、藍月さん」
藍月は、伊織の次の言葉を待っているし、狼たちも動かずにじっと伊織を見ていた。
「僕の力で、善意で満ちた人を、悪意の塊に変えてったら、世の中の悪意食べ放題じゃない?」
「ビュッフェってことか?」
少しだけ眼を輝かせた(ように感じた)黄昏は前足をたしたしと動かして尾を揺らす。
「まぁ、そんなとこ。味は美味しい時も不味い時もあるかもしれんけど」
交渉材料としては弱くはないはずだ。良心は若干痛むが、それに関しては『能力を使って何がなんでも生きる』という感情の前には簡単に霧散してしまう。
「つまり、お前はラーメンじゃなくて、ラーメン屋になるってことか」
「そう、それ! 僕は食事を提供できる、だから、藍月さんは僕を殺さない、悪い条件じゃないやろ?」
「どうする? ふたりとも」
「私は賛成」
「俺様も賛成」
「じゃ、まぁいいか」
こうして、四宮伊織と、狼を連れた男、藍月すりっぷは二人で組むこととなった。
伊織の異能力は、人の中にある「正」の感情を「負」へと変化させる。それはつまり、元々悪意を多く持っていた人間の中に残っていた善意も悪意に変えることができるため、狼たちは骨をもしゃぶり尽くすように人一人の中に生まれ得る悪意を食らった。
二人と二匹が組んでから数日後、伊織は一つの提案を持ちかける。
「すりっぷさん、これは提案なんやけど」
「おー。またか、今度はなんだ?」
「犯罪者とかなら、なんぼ殺してもええと思わん?」
「あー……、なるほど、元々悪意ありそうだしなぁ。俺とコイツらで犯罪者を襲って、いおりんの力で全部の感情を悪意に変えて最後の一欠片まで食うって話で合ってるか?」
「うん、合ってる。最初の話みたいにビュッフェしてもええんやけど、犯罪者だけ襲ってたら足も付きにくいやろ」
藍月や狼にとっては食事であっても、他の人間にとっては、殺人は犯罪である。何度か警察部隊に追いかけられたこともあり、伊織はいつか捕まることを警戒していた。
そこで、この度の提案に行き着いたのだった。その言葉を受けて、藍月はニヤリと口の端を持ち上げる。どうやら黄昏が答えるようだ。
『俺様は体を動かせんなら別にかまわねぇけどなー。でも朧は嫌だろ?』
『まあねぇ。出来るならあんまり戦いはしたくないわね。でも、私は伊織のこと気に入ってるから伊織の提案なら飲むわよ』
「あはは、朧姉さんおおきに」
礼を言うと、藍月の気配が彼本来のものに変わる。
「てわけで、どうや?」
「わかったよ。じゃあ、それでいこう」
こうして、この街には「犯罪者を狩る狼」が誕生したのだ。そして、彼らが犯罪者を追う過程で、別の異能力者二人と出会うのはもう少し先の話である。
続きます。
伊織くんは、なんというかセルフ「生きろ」ギアスの状態です。
すりっぷさんは、意識の中に狼を飼ってるイメージです。
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