・(元)執事ノーマン✖️お嬢様エマの主従パロ
・pixivにおいてある仮面舞踏会(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17725408)の続編
・ノマエマ18歳晴れて夫婦に
・まりもさん(@Marim01001 )のイラストや呟きからいくつか案を拝借して書いております
@OTANO35542251
困ったことになったなぁ、というのが正直な感想だった。
エマと両想いになれてからというもの、当日はパーティーの疲れからか安心からかベッドに入った瞬間エマが寝落ちして何もせずに終わり、その後は手続きやら引き継ぎやらで怒涛の日々に追われエマとゆっくり過ごす暇も無く、ようやく時間が取れたかと思えば急遽夫婦用にあつらえたベッドルームの中でだなんて。
これまでもエマが眠りに落ちる寸前までベッドの横で手を握って話し相手をしていたりしたことはあった。客間でうたた寝したエマを横抱きにしてベッドに運んだこともあるし、エマの着替えを手伝ったことも、ハグしたことも、掌に忠誠のキスをしたことだってある。
でもそれは全て“執事”としてしたこと。
エマを想う気持ちからの行動であったとすれ業務の一環にすぎず、その範囲から逸脱したことはなかった。
けれど今後は自分の意思でエマと接していかねばならない。これがなかなかに難しい。
立場の壁が取り払われ、もう僕の感情を制御する理由はなくなった。今後は婿としてエマの人生に寄り添うだけでなく、パートナーとしてのコミュニケーションも僕が担っていける。
でも今までは絶対に超えてはならなかった一線を自らの采配で超えていくのは、中々度胸のいることなのだ。
コンコンと軽いノック音の後に開け放たれた扉からは、先日妻となった元主人が元気なオレンジ髪を揺らして現れる。
見慣れた筈のフリルのついた薄手のネグリジェも今更ながら物凄い破壊力で直視できない。広く開いたデコルテも、薄い布がヒラヒラと頼りなく揺れている様も全て僕を掻き立てる。今までエマは手出し不要の清廉潔白な主人だったから意識しないようにしていたけれど、己の触れられる対象になれば細胞が入れ替わったかのように感じ方が違ってしまうものだ。
エマはそんな気を知ってか知らずかいつもと変わらない無邪気な笑顔で近寄ってくる。心を落ち着ける間も無くすぐさまベッドの方へ促してくるから戸惑うと、そのままぎゅっと抱きつかれた。
「ノーマン、会いたかったよ」
そう言って子供のように甘えて来るから、肩に入った力が抜けて自然と抱き返した。
そういえば互いに忙しかったからこうしてゆっくり過ごすのは久しぶりだ。
昔から頑張った後は褒めて欲しそうにくっついてくるのがエマだった。エマは妻になろうとエマでしか無く、急に何かが変わるわけでは無いのかもしれない。
今までもエマは僕が寝所に長居することを好んで、早めにベッドに入っては眠くなるまでおしゃべりしてほしいと要求してくる事は多々あった。きっとそれと同じようにしてほしいだけだったんだ。
いつものようにエマに誘われるままにベッドに向かい、掛布を捲ってエマを中に促す。しっかりとエマに布団をかけてから横にある椅子に座って手を握った。
これから眠くなるまでおしゃべりをしよう。特別に金平糖をあげてもいいかもしれない。
そう考えながら調光を落とすと、エマが一瞬考えた後にガバリと起き上がってきてしまった。
「ノーマン寝ないの?」
「眠るよ、エマが寝た後に」
「今日からここは私たち二人の寝室だよ。私だけ横になるのおかしい」
「でも、」
「ほら!ノーマンも来て」
ぐいぐいと手を引かれ中へ促される。どうやらいつも通りはお気に召さないらしい。長年執事として仕えて来たせいでどうにもエマからの要求には弱い。
言われるままに隣に行って半身は起こしたままでいるとエマも同じように半身起こして僕の方をまじまじと見つめて来た。
「なぁに?」
「ノーマンがシャツ姿なの初めて見た」
「普段は仕事柄燕尾を纏っている事が多かったからね。エマの前では常に仕事中だった訳だし…」
「もう業務外でも一緒にいられるようになったね」
「そうだね、」
慣れない距離感に緊張しながらもどうにか平静を装って対応していたら、きょろきょろと軽く目を泳がせた後に突然エマが目を瞑って口を尖らせて来た。
どきっ…と心音が高まる。人生二度目のキスの催促。
エマは割と積極的だ。前回はパーティーの直後だったし執事としての立場に沿わないからと手へのキスで誤魔化したけど、今は正式に夫婦。断る理由は何も無い。
エマの肩に手を添えて、そっと顔を近づける。
高鳴る心音はまるで地鳴りのようだ。全身にどくどくと響いて煩くて仕方ない。
僕を求めて照れ臭そうにキスを待つ姿はなんとも可愛らしい。ほんのり桃色に色付いた頬も、血色の良い潤んだ唇も、決意したように閉じられた瞼も、全て僕に向けられたもの。
ついにこの一線を超えてしまうんだ。
身分の違いから絶対にしてはならないと己を制し続けていた行為を、エマを自分の妻にしたという確かな実感を、ついに。
じれったそうに待ちかまえるエマの肩は微かに震えている。
身が竦む思いは一緒なのかもしれない。
これをしたら二度と戻れなくなる。友達にも幼馴染にも主従にも。
超えてしまいたい。もう戻ることのできないように。今すぐエマと契ってしまいたい。
──のに。
「ごめ……ちょっと待っ…、」
カァァと顔に昇った熱が火傷しそうなほどに熱い。
でも限界だ。キスを待つエマの姿が愛らしすぎる。
他でもない僕に初キスを捧げようと健気に誘ってきてくれた時点で既にだいぶまずいのに、そのあともずっと幸せそうに待ち構えていてくれるからもう心臓がもたなかった。
こんなに好きな人と結ばれてしまって本当にいいのだろうか。
今まではどんな業務も完璧に行って来たのに恋愛に関しては経験もなければ知識も乏しく、情けなく誘いを逃した甲斐性無しになってしまった。愛想を尽かされても仕方ない。
フラれる可能性も視野に入れた上で恐々と目を開けると、エマは何故か目をキラキラさせていた。
「ノーマンもしかして緊張したの!?」
「……うん、ごめん」
「嫌だったとかじゃない?」
「それは絶対に無い」
「嬉しいっ」
何が?と聞きたいところだが、目の前のエマは心底幸せそうにむぎゅっ!と抱きついてくるからどうやら本当に僕の失敗を気には留めていないらしい。逆に緊張からいかにこのキスを真剣に考えているかが伝わったようで、喜んですらいる。
エマはいつも僕の気持ちを楽にしてくれる。
ゆっくりゆっくり愛を育んでいきたい。
大切に、エマが傷ついたり怖がったりしないように。
「ありがとう、エマ」
「うんっ」
笑顔で見つめ合って心を交わす。キスは出来なかったけれど、今日のところは同衾だけでも充分な進展だ。
夫婦としての最初の一歩として不足ない。
このままエマを宥めて寝よう。
これ以上はこちらの心臓も持たない。
しかしぴったりとくっ付きたがるエマにかき乱されながらどうにか就寝に持って行こうとしたのに、エマは何か閃いたようにねぇねぇ!と声を弾ませ出した。
「命令だったら緊張しない?」
「なにがっ!?」
「ほら!私がノーマンに『キスして』って命令するの。そしたら出来そう?」
「どうだろう…?」
「だってノーマンは一度も私のお願いを聞けなかった事ないじゃん!絶対どうにかしてくれた」
「……うん、」
「それかせーのでするとか!カウント取って3、2、1、0でするとか!」
指折り数えて必死で案を出しながら食い下がってくるエマからは、どうにかして今すぐキスしたいというのが伝わってくる。
こんな可愛らしいことばかり言ってもらえるだなんて、今まで生きてきて思いもよらなかった。脳の容量がスパコン並みだと仲間達から羨望の目を向けられてきた僕は、今まさにキャパシティを越える案件に直面している。
もうとっくにこちらの理性も限界でエマのこと直視すらできないのに。
ヒリヒリ迫る、感じた事の無いほどの渇望に侵される。
けれどエマはまだ僕を逃すつもりは無いらしい。
ならば僕も、自分の矜持に関わらずありのままを晒していくしかないのかもしれない。
「エマ、本当にいいの?」
「うんっ!」
「僕はエマの閨事のお相手を出来る立場じゃなかったから、色々と勉強不足で今までのように教えてあげることは出来ないし、上手く出来るかも分からない」
「でも!私はノーマンとがいい!分からないなら、一緒に覚えていけばいいじゃん」
両手を握って真っ直ぐこちらを見つめてくる。
確かに執事たるものお嬢様に纏わる全ての事を履修して諭すべきと思って生きてきたが、今後は夫婦なのだから共に学んでいけば良いのだ。凝り固まった拘りを解す糸口はいつもエマが握っている。
漸く目を見て微笑みあってから、ゆっくり瞼を閉じて顔を近づける。
今からするキスは一緒に変わっていくためのもの。
お互い自然に引き合って、湿った柔らかい感触が自分のものと触れ合った瞬間、痛いくらいにときめく胸の苦しさがくる。徐々に熱が交わって、エマの吐息が体の中に溶け込んでくる。
幸せが深く深くへと侵食する。
もう戻れない、これを知らなかった頃には。
しっかり感触を噛み締めてから惜しみながらも離して余韻に浸ろうとしたら、エマがそのまま僕のシャツのボタンに手をかけてくる。まさかの行動にギョッとすると、エマは嬉々として次々ボタンを外していった。
「エマ!?」
「ノーマン脱ぐと意外と筋肉あるんだね!」
「な、にを?」
「情事の際は服を脱ぐんじゃないの!?」
「ッ!?それはまだ早っ…」
「昔は折れそうだったのに今はがっしりだ」
「〜〜ッ、〜〜〜!!!?」
「触るのダメ?」
「いい、けど」
「硬くて気持ちいい」
「一応ボディガードでもあるから」
はぁー…と深く息を吐く。
この人には敵わない。改めてそう痛感した。
ファーストキスに浸って満たされていた僕を置いて、エマはもう次に向かって進んでる。
ぺたぺたと開いたシャツの隙間から素肌を触られれば体がびくびく反応してしまう。やられてばかりじゃいられない。
堪えきれなくなってどさりとベッドに押し倒すと、エマときたら怖がるでもなく嬉しそうに目を輝かせ出した。
「いよいよだねっ」
「エマがこんなに危なっかしくなったのは僕の責任でもあるから、きちんと責務を全うするね」
「あははっ、責務!」
「お覚悟を」
ちゅ、と首筋にキスを落としてから強く吸い付き痕を刻む。
僕の恋慕、敬愛、親愛、執着、全てぶつけたらエマはどうなってしまうのだろう。
業務外のことはよく分からないから、あとは本能の赴くままにしていくしかない。
後になってエマが恥ずかしがって根を上げる予想は出来るけど、その時はもう引き返せなくなっているのだろう。
まずは手始めに、ずっと触れたかった肌に残した自分の痕跡をなぞりながら全身にこれを刻もうと決めた。