@B9Fi1
高校3年生の夏、期末テスト2日目の放課後。一緒に勉強してたはずなのに気づいたら目の前で寝息立ててる宮近くん。
わたしより長いんじゃない?ってぐらいきれいな睫毛も、ワックスもオイルもつけてないさらさらの髪の毛も、ふわふわのほっぺたも、全部愛おしい。たべちゃいたい。
って宮近くんの髪の毛を撫でながら考えてたら大きい目がパチって開いてわたしの手首を捕まえられる。
少しだけ顔を持ち上げて、寝起き特有のとろんとした目の中にわたしを映して、にこって微笑んでそのまままた眠りにつこうとしてる。
『手は離してよ、勉強できないじゃん』「もうちょっと」って離してくれないから『せめて左手にして』『ねえ、宮近くん』って言ったら
いきなり体を起こして「いつまで宮近くん?」ってちょっと不機嫌そうな宮近くん。
どういうこと?って聞いたら「俺、いつまで宮近くん?」「海斗って呼んでみて」って言われる。
今更呼び方を変えるのも急に呼び捨てで呼ぶのも緊張するから『やだよ恥ずかしい』『宮近くんは宮近くん』って応えたら
「じゃあ俺も苗字で呼ぶ」『やだ、距離あるじゃん』「宮近くんはいつもそう思ってるんだけど」ってずっとわたしの手を捕まえてた宮近くんの手に少しだけ力がこもる。
『距離なんかないよ、だいすき!』「だいすきって言えば許されると思ってるでしょ」『じゃあすき!』「じゃあってやめて(笑)」「レベル下がってるし(笑)」って俯いてわらってる。
「1回だけ海斗って呼んでみて」って念を押してくるのがかわいくて『かいとくん』って応えたら
満足気ににこってして「かわいい」ってわたしのほっぺたに手を当てて親指で撫でてくれる。
それがうれしくて『だいすき!』って言ったら
「誰のことが?」ってやっぱり下の名前を言わせたがりな宮近くん。


宮近くんとの初めてお泊まり。今日家族だれもいないから来ない?って言葉に甘えて。
デートの時は毎回「危ないから」とか「女の子だから」とか言って早めに送ってくれるから
こんなに長い時間一緒に過ごすのは初めてでドキドキする。もちろん、一緒に朝を迎えるのも。
夜ご飯は宮近くんのお母さんが作ってくれてたのをご馳走になった。
おいしいのと嬉しいのと楽しいのと、いろんな感情が混じって幸福感に満たされてたら「ん?おいしい?」って幸せが顔に出てたのバレる。
1つ残さずたいらげてご馳走様したら「お風呂、一緒に入る?」ってわたしの反応を伺ってくるずるい宮近くん。
どんどんわたしの顔が熱を持つのを見て「冗談だよ(笑)」「タオル後から持ってくから入ってきな」って完全に遊ばれてる。
お風呂から上がったら「ドライヤー、ソファのとこ置いてるから」ってリビングにいた宮近くんと、お風呂にいたわたしで場所交代する。
でも髪の毛を乾かすのがめんどくさくて携帯いじってたら
いつの間にかお風呂から上がってきた宮近くんに「全然乾かしてないじゃん」「風邪ひくよ」って怒られる。
『めんどくさかったの』「もう、ほら貸して」って手を出してくれるから『やった〜!』ってドライヤー渡して宮近くんの前に着席する。
風を当てながらわたしの髪を揺らすからだいすきな人と同じ香りで包まれてまた幸せが零れる。
「はい、おわり」『ありがとう!だいすき!』って振り向いたらそのままわたしの顔を捕らえて唇を合わせて、離して、また合わせてを繰り返す宮近くんとそれにただ応えるだけのわたし。
だんだん大人な甘いやつになって「ベッド、行こ」って言われて戸惑う。
『わたし、まだしたことない』「こわい?やだったらまた今度にしよ」『、大丈夫』って言ったら
「嫌になったらすぐ言ってね」って優しい顔で頭を撫でてくれる。
わたしの手を引いて寝室に入って行く宮近くんはいつも以上に甘くて、苦しかった。
宮近くんのおかげで怖さは全くないけど、緊張で体が固まってたら「大丈夫」「こっちに集中してて」って手を繋いでくれてまたキスが降ってくる。
そんなに優しくしてくれなくてもいいのに、ってぐらいひとつひとつ確かめるように丁寧に扱ってくれる宮近くん。
朝目が覚めて、薄暗い部屋の中でわたしを腕の中に収めて寝てる宮近くんからするりと抜け出したら
「、どこ行くの」って手首掴まれて結局さっきの状態に戻される。
「痛くない?」ってわたしの腰を撫でながら聞いてくれるから『わかんない』って宮近くんの胸に顔を埋める。
「照れないで(笑)うつる(笑)」『むかつく、宮近くん慣れてた』って恥ずかしさを隠すように怒ったら
「あー、宮近くんに戻っちゃった」「昨日は海斗くんっていっぱい呼んでくれたのに」って誤魔化してくるずるい宮近くん。

宮近くんが大人になってしまった。高校を卒業してから髪の毛も染めてピアスも開けて知らない人みたいになってる。
『何で髪染めちゃったの…』『ピアスも開けてるし…』「やだった?」『やだよ!』『わたしの知らないところで宮近くんモテちゃう!』って怒ったら
「なにそれ(笑)」「変わらないよ」ってわたしの心配をよそに呑気にわらってる宮近くん。
『もう何で大学同じじゃないの』『わたし他の女の子より不利じゃん』って言ったら「不利とかないから(笑)」「彼女じゃないの?」って顔覗き込んでくる。
『彼女だよ』「じゃあもう勝ってるじゃん」って言われる。
それでも可愛い女の子がいたら?とかスタイル良い女の子に言い寄られたら?とか思いながら『そっか』って言ったら
「大丈夫だよ、他のやつ興味ないから」ってわたしの頭の中全部 読まれてる。
「てか俺のこといろいろ言うけど自分もこれ、どうにかしなね」って太もも触ってくる。
「肌出しすぎ」『だれも見ないよ』「男はみんな見るから」『宮近くんも足出してる女の子いたら見るんだ…』って言ったら「今その話してない」って怒られる。
「そんな着たいなら俺がいる時にして」「大学なんかパジャマで行けばいいの」「いや、パジャマ姿見せるのもちがうな」って珍しく余裕ない宮近くん、めちゃくちゃかわいい。愛されてる。



宮近くんの好きなところ、実は歩くのがはやいところ。
歩くのがはやいから好きなんじゃなくて、わたしといる時ははやくならないところがすき。
宮近くんの友達は〈あいつ速すぎて俺でも置いていかれる〉ってよく言うけどわたしにはそんなところ一切想像できないくらい、わたしの歩幅に合わせてくれるところがすき。
高校の修学旅行で班のみんなと歩いてたらわたしが遅すぎてどんどん1番後ろに流されたとき、宮近くんは気づいてくれて「みんな速いねえ」って隣に来てくれたな。
放課後一緒に帰るときは、『もっと一緒にいたいからゆっくり歩こうよ』って言ったら
「これ以上ゆっくり歩いてたら家つかないよ(笑)」ってわらってたけど結局コンビニ寄ったり遠回りしたりして夜まで一緒にいてくれたな。
って立ち止まって考えてたら「なにしてるの(笑)」「ほら、おいで」ってわたしの少し前で手を差し出してくれる誰よりも愛おしい人。
『いつもありがとう』って出された手を握ったら「?」って少しだけ眉毛を上げて優しい顔で握り返してくれる。

宮近く、海斗と念願のいちご狩り。だいすきな人とだいすきな食べ物。帰り道車に跳ねられたりしないかなって思っちゃうぐらい幸せ。
『ねえ!早く食べたい!』「うん、いちご好きだもんねえ」『大丈夫!海斗の方が好きだしおいしそう!』「その心配はしてない(笑)」
分かったら早く食べなさいって口にいちご突っ込まれるからそのまま指も食べてやろうかと思ったけど怒られそうだから我慢した。
甘そうないちご見つけて『ねえ宮近くん!あ、ちがう。海斗!』って勢いで呼び間違えちゃったら
「いいよ、ゆっくりで」ってにこにこで頭撫でてくれる海斗。
「ゆっくり慣れてくれればいいから、ね?」って言った後にちゃん付けでわたしの名前を呼ぶから『その呼び方やめてよ』って言ったら
いちご取りながら「ちゃん付けで呼ばれるの好きだもんねえ」「すぐ締まるから(笑)」って周りに聞こえない声でわたしの耳元で言ってくる海斗。
「あー、赤くなっちゃった(笑)」もうどっちがいちごか分かんないじゃんってわたしのほっぺた触ってくるから
『もお、ほんとにやだ。変なこと言わないで』って海斗の口にいちごを詰め込む。


『聞きたいことあるんだけどいい?結構真剣』って海斗の前に立ったら「どしたの?」って首傾げて目を合わせてくれる。
『ずっと思ってたんだけどね、』『何でそんなにイケメンなの?』って聞いたら
「なにそれ(笑)」ってわらってるイケメン。
「聞きたいのってそれ?」って逃げようとするから
『こっちは真剣に聞いてる!』『ねえどうやったらそんなに綺麗な顔になるの?』『横顔とかたべたいくらい綺麗だよ』って海斗の腕を捕まえて言ったら
「そんな目光らせて言わないで(笑)」「もう見るな」って手で目を隠されちゃう。
わたしの目に覆いかぶさったイケメンの手を除けて『ほんとにかっこいいねえ』『おいしそう』って流れ作業のように本音を漏らしたら
「はいはい」「食べないでくださいねー」って慣れたようにわたしの話を流してソファまで歩いていく海斗と
その後ろにぴったりくっついて『こんなイケメンがわたしの彼氏ってどう思う?』『何があったの?』って後を追うわたし。
そのままソファに座ってテレビ見るのかと思ったら隣に座ったわたしの方に体を向けて「じゃあ何で俺と付き合ってくれてるの?」「顔?」って聞いてくる海斗。
『なわけないじゃん!』『顔も好きだけど他にも好きなところいっぱいあるよ!』
まずは顔でしょ、って指を1本折ると「顔はいいから(笑)」って聞こえるのを無視して
『歩くスピードわたしに合わせてくれるし、わたしが行きたいところもしたいことも全部一緒に楽しんでくれるし、わたしの話全部聞いてくれるし、』ってどんどん指を折っていったら
「俺も同じだよ」って言う海斗に頭が『?』でいっぱいになる。
「顔もすき、ほんとにかわいい」「何してても楽しそうにしてるところも、ほっといたら俺以上に喋ってるところも、たまに元気なくて俺に頼ってくれるところも、あとは」
ってどんどん夢みたいな言葉が押し寄せてきて苦しくなる。
『まって、もういい!これ以上もらったら寝込む』って海斗の口を手で抑えようとしたら
その手を捕まえられて「あとは俺のことがだいすきなところ」って悪い顔してる海斗。
……ご名答。



最近の海斗は何を考えてるのか分からない。分かるけど分からない。大学の友達と朝まで遊んだり、連絡を取る頻度が極端に減ったり。
友達とは楽しく過ごして欲しいし全然いいんだけど、わたしのこと忘れてない?居て当たり前だと思ってない?
『すきだよー!』って言って「うん、知ってる」って笑うのは昔と変わらない。その後の「俺も好きだよ」はなくなったけど。
久しぶりに遊んでも大学の友達の話ばっかり。わたしその人知らない。
「あ、ここのミルクティー飲んだよ」「前教えてくれたでしょ、おいしかった」って誰の話?わたしそんなお店なんか知らない。
『海斗バケハ被ってるのめずらしいね、キャップやめたの?』「あーそう、さっき言った大学の子がね。これ似合うんじゃない?って」似合ってるけど、よく分からない女の趣味で選んだ帽子なんかいらない。
わたしは海斗の変化に気づくけど、海斗はわたしの変化に気づいてない。
珍しく今日はポニーテールにした理由も、あのネックレスを外してることも、海斗に対する気持ちにも。
こんなに近くにいるのに何か遠い。最近は初めて味わう感情ばっかりでもうお腹いっぱい。いらない感情ばっかり。もう食べたくない。
『ねえねえ、わたしといて楽しい?』「なんで?楽しいよ」『わたしのこと好き?』「じゃないと一緒にいないよ」なんかあった?って何かしかない。それに欲しかった言葉はそれじゃない。
『わたしじゃなくてもいいんじゃないかな』「は?何でそう思うの?」ってわたしの気に入らない帽子を外して頭を搔く海斗。
『もう何か海斗のことよく分かんない』『正直しんどい』
海斗の目を見たら涙が出ちゃいそうで咄嗟に俯く。
必死に堪えて次の言葉を待ってたのに返ってきたのは「そっか」の一言だけ。欲しかったのはそんな言葉でもない。
何も返せなくて俯いたままいたら「じゃあもういいんじゃない?」って。
わたしが1番欲しくない言葉を、その言葉をどんな顔で出したの?
『そうだね、別れよ』『今までありがとう、宮近くん』
振り絞った声で1番言いたくなかった言葉を捨てて、大好きな人の顔も最後まで見れないまま私たちは終わった。
────── 元彼宮近 になった日

