短い迷ロナ話。
https://privatter.net/p/8674441 の小話二つ目の後日談のようなもの。
※詩人に名前があります
@hirop573
「やあロナード。今日は料理の本かい?随分熱心に読んでいたようだけど」
「………」
溜息を一つ。ロナードは気配なく近付いてきた男を呆れ顔で見遣り、持っていた本の角で小突いた。
「あいた」
「いい加減ストーカー紛いの行為をやめろ。普通に会いに来い」
「ごめんよ。つい癖で」
反省している素振りを全く感じない男を見て、二度どころか三度と溜息が吐き出される。料理をしたいと思ったのは嘘ではないが、ロナードは別の目的があり、この男の視線を掻い潜らなければならなかったために本屋に来ていた。それはこの男の名を決める事だ。
以前この男には名がないと判明し、呼びにくいと文句を垂らせば決めてくれと言われてしまった手前無下にできなかった。無下にしてもよかったと思うものの、ロナードはこの男をボディガードとして選んだのだからと今後のために考えざるを得なかったのだ。あくまで今後のために、とロナードは二度己に言い聞かせて。
人間観察が得意なこの男に隠れて何かをするというのは無意味なのかもしれない。だが心の内までは把握しきれないようなのでロナードにとっては都合が良かった。男に対して怒りや呆れだけを向けていたのが功を成しているのは少し複雑ではあるが。
そしてそれはたった今をもって目的も達成出来るのだ。時間稼ぎには十分だった。
「ストレイ」
「?」
疑問符を浮かべているようなとぼけた顔を見たのは初めてだった。
「お前の名前」
「!」
花が咲いたような笑顔を見たのも、初めてだった。
名を聞くや否や男はロナードに抱きついた。手を握られたり体を抱えられたりと様々な扱いを受けてきたが、こと熱烈な抱擁はロナードにとって初めてであった。そのために反応が遅れ混乱し、落ちた帽子にさえも気づけず硬直してしまう。
「嬉しいよ!愛しの君から名を貰うだなんて夢みたいだ。ストレイ…ストレイだね。…おや、どうしたんだいロナード」
普段ならばロナードの怒声が響く頃であったが、そのいつもの反応がないと訝しんだ男は抱擁を解きロナードを心配そうに見つめる。
ロナードはさも冷静に落ちた帽子を拾い上げ目深に被り直した。
「もう…二度と…抱きつくのは…やめろ」
真っ赤になった顔を隠そうと必死なロナードは知らない。この男が何もかもお見通しで、隠れていない手や耳が赤く染まっているという事を。
それを見て恍惚な表情をしているという事も、知らない。