人間エンドに至ったナホビノが人修羅に挑み続ける話
エグめの戦闘描写があります
@fengli25
至高天に辿り着いてまで、またこの顔を見ることになるとは思わなかったな、と少年は内心肩を落としていた。豊穣神デメテルの策略により引き合わされた、ギリシャといえばお馴染み主神ゼウス、との二度目の戦い。
一度目は少年が勝った。多少苦戦したが、雷を司る神と分かっていれば事前対策の手段も選び放題、先に対峙した北欧の主神オーディンとさほど変わりなく打ち倒せる相手だった。二度目は前回のようにいかぬ、と向こうから吠えてきているが、さてどうなることやら。
(面倒だ)
常日頃の口癖を一心同体の片割れに聞かせる。至高天に来てからというものの、誰と相対しても、どう話しかけても滅多に口を利かなくなった片割れだ。何を考えて黙りこんでいるのか、少年には、ほんの少ししか心当たりがない。なので最初から応えなど期待していなかった。
『……気をつけろ、以前より脅威度が大幅に増している。強敵だ。全力で挑むことを推奨』
そこに声をかけられたなら、どんな些細な内容だって心に残ってしまうに決まっている。それも最後に聞いた声だったら。
きっとなんかじゃない、絶対に、この魂を賭けたっていい。未来永劫、未練たらしく引きずる傷痕になる。
そうに決まっているのだ。
視界がぶれる。吐き気が喉元で渦巻いている。
痛覚の鈍い身体とはいえど、痛いものは痛いし、おまけに膝をついてから下半身に力が入らない。感覚での判断にすぎないが、おそらく腰あたりの骨が砕けて馬鹿になっている。ナホビノに人体の理屈が通じないとしても実感そのものは人間のままだ。人間としての本能が警鐘を鳴らす。このままでは。
青白い炎を光源とする暗がりの中、先に飛び出していった影は雪の色をしていた。たなびくマフラーは若草色。セタンタだ。
連れていた仲魔の中でも耐久力に特化させていた不運もあって、あの「無数に湧き立つ槍の雨」を受けながら生き延びてしまったのだろう。他の仲魔は見当たらない。ただようマガツヒの残滓を数える限り、残っているのはセタンタとナホビノだけのようだ。その命も、風前の灯にすぎない。
まずは体勢を立て直せ。懐から呼び出した仲魔で場を繋ぎ、必要があれば黄泉から呼び戻し、即刻立ち上がらなければお話にならない。痛覚など知るか。さっさと腕を動かせ。重苦しい上体を辛うじて支えているからなんだってんだ、そんな場合じゃない。早く。腕を。
鈍い金属音があがった。項垂れていた視線を前方へ向けると、まさに大気に溶けようとしているマガツヒを無造作に払う、悪魔の立ち姿が目に入った。
「だから言ったじゃない、人修羅はとっても強いって」
悪魔の横でくすくす笑うピクシーと、背後に控えるギリメカラ。隣に立つのはクー・フーリンだろうか。どれも一歩たりとも動きはしなかった。人修羅と呼ばれた悪魔の一撃で、すべてケリがついてしまったのだ。姿形はお互い同じ年頃の「少年」のように見えるのに、力の差は歴然であり、向こうからしてみれば神魔が人の手を捻るよりも楽な一戦だっただろう。
とうとうナホビノの腕が限界を告げ、潰れるようにしてその場に倒れ伏す。未だマガツヒの光となったセタンタの後を追わないのは、体力的には動ける状態のためであり、先に折れたのは心だった。
あいつには勝てない。全身に、青白く禍々しい光で縁取られた刺青を巡らせる、あの悪魔にナホビノの力では到底及ばない。こちらを見下す金の眼光が「お前は弱い」と嘲笑っている、ように感じる。
(俺を打ち負かす奴がいたなんて)
ナホビノは裁定の時を待った。人修羅が己にとどめを刺すか、それとも見逃すか。どちらにせよ敗者に選択の権利はない。
全身に広がる髪の一本すら煩わしく、重なるようにのしかかった沈黙と横たわる。本当に静かだ。こんな体験初めてだった。
(あいつなら……)
少しでも視界に留めておきたくて、顔だけは床に伏せないよう力を込める。こんなことに全力を注ぐぐらいなら仲魔でも何でも呼べばいいだろうに、ナホビノの頭からはすっかり抜けてしまっていた。それよりも人修羅を見ていたかった。己の停滞し続ける心をこじ開けてくれたかもしれない彼を、何かの間違いで忘れてしまったらと思うと、消えるに消えられない。
膠着が解かれたきっかけは人修羅の一手だった。前へとかざした手を合図に、控えていた悪魔が歩き出す。
(えっ)
音もなく近づいてくる悪魔、クー・フーリンを認めたナホビノの瞳が揺れた。同時に「いやだ」と息が漏れる。とっさに崩れ落ちた身体を引きずり上げるように腕の力だけで浮かせ、人修羅へと手を伸ばす。地を這う芋虫より無様な姿だっただろう。
背中に衝撃を覚える。肺腑から勢いよく吐き出された空気に「踏みつけられた」と理解するより早く、心の臓を貫かれた。
+++
意識が浮上する。柔らかく肉感のある枕を頭に感じたナホビノは、視界に入ってきた悪魔を認めるなり、その身を起こした。
「おや、妾の膝枕では不満かの」
贅沢モノめ、と笑う金眼の悪魔はジョカと名乗った。かつてたった一人の人生に付き添った末、姿をくらました悪魔は、ナホビノの召喚により仲魔として契約を結ぶに至った。本人曰く行方知れずのジョカがどうなったのか預かり知るところではないという。いつかマガツヒに還ったときにでも分かるだろうよ、そう嘯いた悪魔は遠い憧憬を見ているようだった。
床の上で意識を取り戻したナホビノのまわりには、ジョカの他に複数の仲魔が鎮座していた。それぞれ起き上がった主の様子に十魔十色の反応を見せていたが、とりわけ騒がしかったのが真っ先にナホビノへと飛びこんできたアマノザコだった。
「なんであんな無茶したのさー!! ほんとに、ほんとに消えるんじゃないかって心配したんだからね! アタシ一撃だったもん! アンタなんか二撃でダウンだよ絶対! 絶対!!」
「……髪を引っ張るな」
「そのままハゲちゃえバカ! バカバカのバカ! あーんなに頭数揃えておいて! 何もしないで負けるなんて!」
信じらんない! アマノザコの叫びが呼び笛となり、他の仲魔からも「そうだそうだ」「何考えてるんだ」「マッカ寄越せ」だの非難轟々の嵐が巻き起こる。どれも、主に騒々しさでナホビノの体力を削るものだったが、特に決死の覚悟で時間稼ぎに走ったセタンタからの「私は王を守れなかった」発言含めた自責の正座には少しばかり罪悪感をくすぐられた。
かつて妖精の集落で引き入れてから至高天まで付き合ってもらっている良識派の古株だけあって、あまり邪険にもできない。それはもう面倒な仲魔なのだ。
(まだアマノザコの方が対応しやすくて楽だな……)
遠い目を見せたナホビノの髪束を引っ掴み、がくがく揺さぶるアマノザコに、ようやく待ったが掛かる。事の成り行きを静観していた堕天使アブディエルからの一声だった。
「そこまでにしておけ。過ぎたことを騒いだところで、そこのナホビノの性根が変わるわけでもあるまい」
「あ、アンタに言われなくたって分かってるよーだ! アタシがスッキリしたいだけ!」
ナホビノに隠れて威嚇するアマノザコに、呆れた様子のアブディエル。思う存分騒げたのか清々した様子で自由行動を取りはじめる仲魔たち。至高天の間、崩壊した玉座。いつもの光景だ。今日も変わらず悪魔と人間が果てのない争いを続けている。
かつて至高天へと降り立った一人のナホビノは就くべき王座を蹴り飛ばし、混沌の時代をここに宣言した。絶対の王など必要ない。魔も人も、己が武器を手に戦え。強者には更なる未来への戦いを、弱者には停滞を切り捨てる死を。
抗う者に価値を見出したナホビノは例外を認めず、己にも責務を課した。俗に言えば「俺より強い奴に会いに行く」ピンポイントスナイプ訪問だ。世界中どこにいてもナホビノの目は見逃さず、強者と認めた者の前に降臨し、戦いを挑む。来られる方からしてみればいい迷惑である。
ただ生命と知恵の合一を果たした完全なる神、といわれたナホビノに匹敵する強者もまたナホビノ以外に存在する筈もなく、実際のところは強者との生存競争というより、王座復興とともに新たな創世を目指す他のナホビノどもを潰してまわる地均し作業の一面が強くなっていた。
ナホビノは数多のナホビノを葬った。その中に見知った顔があったかもしれないが、数少ない友人すら至高天へと降り立った時点で手にかけていたのだ。今更、何人増えたところで同じことだった。
ほとんど変わらなかったのは仲魔の顔ぶれだ。王座を破壊した時点で神の懐にしまってあった仲魔は二十三、訳あって一減らし、そこにジョカとアブディエルを足して二十四、これ以上は増やせない最大ストックまでぎゅうぎゅうに詰めて、どれだけの時間が経過しただろうか。
彼らは至高天へと続く光の道、至高ノ御柱を住処とし、ナホビノがピンポイントスナイプ訪問を仕掛けに出向いたときのお供役を務めている。たとえ出張先で殺されたとしてもナホビノさえ健在なら蘇生できるというのだから、他の悪魔からしてみれば反則級の存在だろう。
ならナホビノを討てばいいのかといわれると、少なくともピンポイントスナイプ訪問時では意味がない。いくら至高天から派遣された分霊をなんとか追い返したところで、瞬きの間に崩壊した玉座のもとで目を覚まし、何事もなかったかのように「こんにちは」と挨拶に来るのだ。いくら強者といえども無限に湧いてくる悪魔と神を前には、なす術もない。疫病神もびっくりのしつこさである。
ほとんどの仲魔が去った至高天「元」王座、創世の間の床で、ナホビノは再び身を横たえ、あーだの、うーだの、うめいてから自らの顔を両手で覆った。とっくに興味をなくしていたアマノザコは床に広がるナホビノの髪をいじりながら暇を潰している。
その場から動こうとしなかったアブディエルだけが生来の生真面目さを発揮したのか、うめくナホビノへと声をかけた。
「どうかしたのか」
「あー……初めて負けた」
「そうだな。清々しい程の惨敗だった。どのような戦況でも、しつこく足掻いてきた貴様にしては珍しい」
「うん……」
「……本当にどうしたのだ。そこまで弱々しい応えを配下に聞かせるなど、正気の沙汰ではないぞ」
困惑を滲ませたアブディエルの問いかけに対し、どう説明したらいいものかナホビノにも分からなかったのだ。
王座を壊す前から集めていたメノラーと魔人との因縁。その終着点にようやく辿り着いた矢先に出会った、混沌王を冠する最強の悪魔、人修羅。王座を壊したナホビノでさえ及ばない圧倒的な力を前に、自分は。
「………今だけでも、アレが欲しい」
「は?」
この上なく滾ってしまったのだ。
意識が浮上する。これで二度目。
先の一戦で序盤の戦い方を掴んでいたナホビノは、敵側の召喚悪魔にあわせて対策を組み、果敢に挑んだ結果「十分程度」で負けた。全体確率即死技とか聞いてない。ありとあらゆる内臓を口から吐き散らすような死に様だったと覚えている。あのみっともなさはあまり思い出したくないが、相手の手の内を覚えてこその収穫、倒せないなら何度でも挑めるのがナホビノの特権だ。
ルール違反上等、勝てばいいのだ。
意識が浮上する。これで三度目。
技能構成から組み直して挑んだ結果「五分延長」を経てから負けた。カラオケの退室予告ベルでも、もう少し猶予がある。双方悪魔を展開させた攻防戦のさなか、人修羅が構えた瞬間、突如としてひび割れた大地から湧きあがった衝撃に塵も残さず吹き飛ばされたのは、ある種の貴重な体験だった。
二度と味わいたくない。
意識が浮上する。これで四度目。
初戦から自分だけタコ殴りにされている気がしてならなかった感覚が、徐々に確信へと変わりつつある。かつて堕天する前のアブディエルに襲撃された、あの戦いと似た殺気だ。一度経験しているなら話は早い。盾としてのナホビノを想定しつつ物理攻撃への耐久度を高めてみたところ「三分」で半壊した。
「あの野郎こっちの耐性視てやがったな!!」
起き上がるなり吠えたナホビノを待ち構えていた額への衝撃に、一瞬意識が遠のく。再び床へと逆戻りさせられ悶絶する姿に「やかましいわ」とかけられる声。ジョカお得意のデコ弾きだ。たかがデコ弾きでも、地母神の側面を持つ悪魔からの手加減の手の字も無い一撃であれば、ナホビノとはいえ、そこそこの痛手を被る。よほど大声が気に障ったらしい。
ひりつく額を押さえ、改めて身を起こしたナホビノは、ふと気がつく。ジョカ以外の仲魔が見当たらない。
元々適度な放任主義によって仲魔たちを抱えてきた身であり、人修羅との初戦後、頼んでもいないのに集まってきた方がよほど珍しい場面だったのだが、それでも常日頃から事あるごとに飛びこんでくるアマノザコが姿を見せていないのは異常だった。
何かが起きている。至高天に降り立ってから、未だ例を見ない何かが。
最初に戻ってきたのはヒュドラだった。無数に分かれた頭のうち、無事に残っていたのはたったの二つ、無惨に落とされた傷跡はどれも鮮やかな切り口だった。
「構えろ、ナホビノよ。汝の敵が来た」
ヒュドラの口腔から滴り落ちる毒液と混ざり、垂れ流されていくマガツヒの光をナホビノは捉えた。懐から取り出した宝玉を残った口に咥えさせる。意気揚々とした様子で豪快に噛み砕かれたのち、膨らみかけた傷口からして時間を取らずとも万全の状態まで持っていけるだろう。
それからアルテミス、ガルーダと続き、どの仲間も瀕死一歩手前の傷を負っていた。殿を務めたのは左腕にアマノザコを抱えたフィンだった。持ち帰った彼によると、大きな怪我こそしてはいないが引き際も考えず手当たり次第に力をぶつけた結果、すっかり昏倒してしまったらしい。そう報告するフィンの右肘から下は無くなっていた。
気づけば創世の間は負傷者で溢れかえっていた。ナホビノの手当てが追いつかなくなった時点で単独での迎撃態勢に切り替え、控えに入った面々でお互いがお互いの治療を続けるさなか、唯一無傷で皆を迎えたジョカだけがナホビノに寄り添う。
「懐かしい気配じゃ。かつてジョカが添い遂げた『人間』の気配よ。其方はどう見る?」
「盲点だった」
「ほう」
「他のナホビノは見つけ次第叩き潰した……けど『人間』は弱いし、数が多すぎて目立たない。だから、ここまで辿り着けた」
「ふ、ふふふ……愉快、愉快。八雲の蒔いた種が芽吹く様を、この目で見る日が来るとはな」
若きナホビノが座を破壊してから、魔と人が争う世界が生まれてから、幾たびの年月を経ても至高天へと足を踏み入れた者は存在しなかった。今日この時までは。
確実に創世の間へと近づいてくる気配は笑ってしまうほど人間そのもので、ダイモーンにでも襲われたなら抗うすべもなく散ってしまうような、儚い命にしか見えない。本来であれば至高天に入ってすぐ、待ち構えていたヒュドラの一飲みにより消化されていただろう。そもそも手前にある万古の神殿で潰える命だった筈だ。悪魔ですら同じ運命を辿る場所だというのに、そこに現れたのが信じがたいことに人間。それも感じ取れる気配の数からして、複数人。
ナホビノは喜ぶべきだった。己が知恵と工夫で至高天にまで辿り着く人間が現れる世界こそ、彼が望んだあるべき姿だったのだから。
ああそれでも。
「先に謝っておく。ごめん」
返ってくる疑問より早く、創世の間に集っていた仲魔は一体残らず消え去った。傍に並んでいたジョカの姿もない。座に辿り着いた人間との邂逅を楽しみにしていた様子からして、次に懐から出したときは一戦を覚悟しておいた方がいいだろう。思い入れによっては離反される可能性すらある。それでも、ここから先はナホビノのみで臨まなければならなかった。
気配が近づくにつれ、ナホビノの感覚は己が身から遠ざかり、残されたのは内にたぎる激情だ。喜びなんてものじゃない。待ち望んでいた強者との戦いを前に高揚するような、子どもめいた健やかな情動は、とっくのとうに擦り切れている。
あの鮮やかな切り口。懐かしい気配。元からそんな機能など持ち合わせていない筈なのに、どうしようもなく泣いてしまいそうだ。どこからか溢れた雫は黒く、足元にぽつりと、落ちた一滴一滴が際限なく広がっていく。
+++
創世の間へと踏み入った挑戦者を待ち構えていたのは、禍々しい呪に満たされた予想外の光景だった。
かつて王を擁していた座は粉々に砕かれ、空間に漂う破片ですら全容は伺えず、栄光の見る影もない。代わりに、とばかりに無数に生えてきている何かは、ドス黒い呪を纏った人間の腕のように見えた。
ある腕は人を招き入れるように開かれ、ある腕は魔を手繰るように掌を開いては閉じている。指先で何かを模っている腕は上下に交差し、天を指差す腕があれば、地を撫でる腕もあった。どの腕も、先端に備えられた指が青白く光っている。
この悍ましい姿こそ世界を争いに沈めたナホビノの本霊、と直感した挑戦者はすぐさま戦闘態勢に入った。左腕に着けていた装置を起動させ、各々の仲魔を召喚する。そのうちの一体が右腕の剣を横薙ぎに払い、挑戦者のつま先まで届きかけていた呪を一定範囲まで蒸発させた。これで一時的ではあるが足場を確保できるだろう。
隙を見計らった一人が空間全域にスキャンをかける。何事かに気づいたのか、慌てた様子で他の挑戦者へ声をかけた。崩壊した玉座から生えた腕の下に、地上に蠢く呪に隠された別の存在がいる。力の流れから呪の発生源とみて間違いないだろう。まずはあれを叩かなくては、思うように動けない。
召喚した仲魔へと指示が飛ぶ。同時に、呪の発生源から無数の帯が弾き出され、凄まじい速さで悪魔一体を奪い取った。右腕の剣が目立つ悪魔だった。呆気に取られた挑戦者は、すぐに残った仲魔で救出すべく攻撃を仕掛けたが、呪で造られた壁を突破するには至らなかった。
帯は無数の細い糸で構成されていた。見ようによっては髪の毛とも取れる細い糸だ。絡みつく帯に引き寄せられた悪魔は、白い機体を拗らせ、なんとか自由を得ようと足掻いている。目の前にあるのは呪の発生源。祭壇に載せられた生贄の如く、力づくで差し出された身体に指が這う。足の付け根から肋骨に、首筋を伝って頰へと行き着いた頃には、呪の隙間から覗く顔を認識できるようになっていた。
非常に整った造形のどこか幼い顔つきに、底無しの穴が二つ並んでいる。溢れ続ける呪は涙のかわりだろうか。奇しくも引き寄せられた悪魔と呪に隠された何かは、青い髪がよく似ていた。
唐突に終わりは訪れた。呪の発生源から、突然の悲鳴と聞くにたえない破壊の音が挑戦者へと叩きつけられたのだ。少しずつ万力で締めつけ、ゆっくりと伸びていくような苦痛と絶望の声だった。もう助けられない。
か細く消えていった音とマガツヒの光ごと呑みこむ咀嚼音のあとに残ったのは、不気味なほどの静寂だ。挑戦者の一人が新たに別の仲魔を召喚する。出せるだけの力をもって打ち倒さなければ、ここに転がるのは己の亡骸だ。むしろ形として残れば良い方かもしれない。
かつて数多のナホビノが追い求めた至高天の王座は、転じて呪いの坩堝と化していた。
完璧な神の姿だなんて、とんでもない。世界を争いに巻きこみ、魔を滅し、人を殺して。あらゆる穢れを詰めこんだ災禍そのものじゃないか。
決着まで、そう時間はかからなかった。何事もなかったかのように、一人のナホビノが黄金の渦巻く床に佇み、見渡す限りほかに人影はない。座は崩壊したままだ。相変わらず粉々に砕け散ったかけらが宙を漂っている。
ナホビノの手には血に濡れた機械がぶら下げられていた。あの挑戦者が身につけていた、おそらく悪魔を召喚するための装置だろう。
手にした機械を無造作に放り投げる。瞬間、ぽっかりとあいた穴へ吸いこまれるようにして消えていった。大きく息をつき、それから耳元に指を当て、ナホビノはつぶやく。
「俺たちの予想よりも人間は強くなった。そう思わないか」
何も返ってこなかった。
最初は手も足も出なかった人修羅との戦いも、回数を重ねるごとに、良い線まで掴みかけてから派手に吹っ飛ばされる程度には慣れてきた。ナホビノの特権様々である。
合間に日課のピンポイントスナイプ訪問をこなしたり、時たま至高天に侵入してくる人間を追い返したりと、相変わらず忙しない日々が続いている。仲魔の数に変動はない。一時期、怒り心頭のジョカが出奔したことで懐に空きができたが、暫くしてからナホビノの元に戻ってきた。
どのような心境の変化があったのか語ろうとしない。だが、ジョカが戻ってきてから明らかに至高天へと辿り着く人間の数が増えたので、何かしらの種を蒔いてきたことはナホビノにも察せられた。お互い、心の柔らかい部分は不可侵領域と承知している。あの一戦からナホビノ単独で人間を迎え討つような真似は二度としなかった。
「ほんっとアンタも懲りないよね~、勝てない戦いってそんなに楽しい? 楽しいの?」
意識が浮上する。今回の膝枕担当はアマノザコのようだ。うっかり小さな膝を潰してしまわないように、頭をそっと浮かせてから寝転ぶように身を起こす。
以前にアブディエルから聞いた話によると、ジョカが膝枕をやめてから面白半分に興味を持った仲魔の一部が「誰の膝枕にナホビノが乗ってくるか選手権」を開催しているらしい。参加者はそれぞれ魔石を用意し、見事ナホビノの頭を射止めた悪魔が総取りする仕組みになっているという。
前回はナーガの尾で目覚め、その前はオルトロスの腹だった。膝でなくとも問題ないらしい。それでもアマノザコの体躯では参加するに厳しいのではないか、と見ていたが、漂う気配からしておそらく自らにラスタキャンディをかけて耐久度を上げている。そこまでやるか。
「あはは、儲けちゃった! 次もアタシのところに来ていいんだからね! ね!」
「……前々から気になっていたんだけど。その魔石、どこから持ってきてるんだ」
「何言っちゃってんの。ナホビノぶっ潰し作戦でアタシが探してきた魔石捨ててるの、アンタでしょ! あれホント良くないよーもったいないよー」
「それで持ち帰っていると」
「アンタのものはアタシのものだからね!」
トーゼンでしょ! と胸を張る小さな仲魔の頬を人差し指で小突いてやる。もちろん手加減無しの噛みつきをお見舞いされるが、ナホビノの肌に傷ひとつ付かないと分かっていての、じゃれあいに過ぎなかった。
「ねぇ、次は誰連れてくの?」
アマノザコの問いにナホビノは指折り数えていく。セタンタ、ガルーダ、それとアリラト。
「えー、アタシお留守番? 人間相手するの飽きてきたんだけど」
「ならセタンタと交代するか?」
「ぜ――ったいヤダ」
「そう言うと思った」
珍しく微笑みを残して、ナホビノは至高天から姿を消した。仲魔数体を引き連れて、あの最強の悪魔へ殴りこみをかけに行ったのだろう。
何度戦っても諦めを知らない。もう数すら覚えていないのかもしれない。アマノザコが見上げた視線の先には、崩壊した玉座がある。そこから伸びる無数の腕。蠢く腕。模る腕。そのうちの一対がひび割れ、粉々に砕け散った。
「あーあ、また負けてやんの」
次はどの膝に戻ってくるだろうか。アマノザコは魔石を一つ掴み、口元に放りこんでから間もなく噛み砕いた。
+++
今回は本当にいいところまで来ていた。人修羅以外の悪魔を蹴散らし、召喚する暇も与えなかった。出せる力を出し尽くして、あと一撃与えれば勝てる。あの人修羅の命を掌に収めている。その筈だった。
こうしてお互い昏倒寸前でぶっ倒れていなければ、今にでも決着がついていただろう。
「ぐっ……ゲホッ、ゴ………プ」
嘔吐感を覚えてすぐ得体の知れない体液をぶちまける。濁りきった汚泥を思わせる吐瀉物から口を離し、必死の思いで上体を起こした。ろくにものが見えない。ぼやけきった視界の中で、かろうじて見えた赤く点滅する肉体を目印に、ナホビノは右腕へと力をこめた。ずり、ずりと馬鹿になってしまった全身を腕一本で動かし、少しずつ這いずり、近づいていく。
奇しくもあの時と似た光景だった。初めて人修羅に負けたときの、手を伸ばしても到底届かず、それでも伸ばさずにはいられないほど焦がれた情動は、今も同じように抱いている。
赤く点滅する肉体が動いた。同じように身を起こそうとして四苦八苦している様子を気配で察する。これまでの経験上、あと数分も経てば悪魔一体を呼び寄せる程度には回復するだろう。
人修羅の体力は無尽蔵だ。ナホビノとは、また違った面でルール違反級のカラクリを隠し持っている。そこにかつて座を破壊する前に感じていた何者かの輪郭を掴んだこともあったが、あまりにも不愉快だったので、今まで考えないようにしていた……どうして思い出したのだろう。
指に熱が触れる、人修羅の肉体だ。倒れこむ形でのしかかってから己の体重で身動きを封じ、暫く芋虫のような緩慢さの攻防を繰り広げてから、ナホビノはその肉体に乗り上げた。見下ろした先から微かな唸り声が聞こえる。声を辿っていけば喉元に指が届く。あとは剣を突き刺せばおしまいだ。
(俺の勝ちだ。俺が勝った。勝ってしまった)
いやだ。
ナホビノの指先が動くことはなく、代わりに緩慢さをもって垂れた頭を相手に合わせ、その口元にふうと息を吹きかけた。再び身を起こせば点滅する光が赤から青へと変化している。これで形勢逆転だ。対するナホビノはもう限界だった。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ、といった気分だったのだが。
「は?」
地の底から響くような重低音を感じとる。怒ってる。これ絶対怒ってる。第六感が警鐘を鳴らすよりも早く、目の前に閃光が走り、あっという間に何も見えなくなった。
意識が浮上する。頭だけでなく背中から足にかけて熱を感じ、瞼を開いたところ、だいぶ上の方に白黒二分割の顔面が待ち構えていた。善悪の二面性を持つ、ギリシャといえばお馴染み主神ゼウス。随分久しぶりに会ったような気がする。
「よう、やっとお目覚めか」
声をかけられて、ようやく相手の組んだ胡座に乗せられる形で、体を横たえていたことに気がつく。ふくらはぎの裏にゴツゴツとした隆起が当たって絶妙に痛い、おそらく左半身の黒いトゲのせいだろう。ゼウスは主神に相応しく、人に近い見た目を持ちながら身の丈四メートル程の巨躯を誇るため、ナホビノを赤子のように抱くことも朝飯前だ。
首の動く範囲であたりを見回せば、そこは創世の間だった。いつもの光景で、いつもの目覚め。違う点があるとすれば膝を貸している予想外の顔。
「珍しいな、お前が賭けに乗ってくるなんて」
「膝枕がどうってか。ハッ、バカバカしい。侍らせたけりゃ好きにやる、他の奴らが何賭けようがオレの知ったことじゃねえ」
「……そこの魔石の山は?」
「貢物だろ」
傲岸不遜を地でいく主神らしい回答に他地方の主神、たとえばオーディンを召喚していたら面倒なことになっていただろうな、とナホビノは改めてあったかもしれない可能性に遠い目を馳せた。
オーディンとは二度対峙した場面でしか言葉を交わさなかったが、言葉の端々から滲み出る偏執的な知性、敵を観察する際の内まで見透かすような目。どれをとってもゼウスとはソリが合うわけもないだろう。とはいえ、至高天に集めた仲魔は皆お互いに距離を取り、不要な争いを避けるべく立ち振る舞う努力を示していることをナホビノも承知済みのため、案外、もしかしたら、ごく僅かな可能性ではあるが主神同士うまく付き合えていたのかもしれない。どうだろう。ちょっと無理があるかも。
「何悩ましい顔見せてんだ、オイ」
「秘密」
「ハッハッ! 一丁前にクチを利くじゃねえか。その口、オレが割ってやろうか」
頬を白い方の指でぐにぐに揉まれながらナホビノは無抵抗で身を預けていた。預けざるを得なかったのだ。人修羅との一戦が思った以上に後を引いているのか、指一本動かす気力も残っていない。全身が鉛のように重くて仕方がないのだ。もしも、ここでゼウスに襲われようものなら万が一が起こり得る、そんな状態だった。
かつてゼウスにより、倒れる一歩手前まで追い詰められた記憶がある。創世の座を破壊する直前の一戦だった。本来であれば優先すべき事柄ではなかったのだが、あれから何百年、何千年経ったとしても色褪せることなく鮮烈さを湛えながらこびりついてる。
だから召喚したのだ。他のギリシャ神を差し置いて、仲魔との不和が起こり得るリスクを予測した上で、ナホビノはゼウスを選んだ。ジョカも、アブディエルも、そうだった。彼らは強かった。叶うならツクヨミも懐に閉じこめてしまいたかったが、どんなに呼びかけても彼が応じることはなく、賢明な判断だとナホビノは受け取った。
「それで? 勝てた勝負を放り投げた感想はどうなんだ、オイ」
散々いじくりまわした頬から指を離し、代わりに顎を持ち上げられる。言わない選択肢は最初から与えられていないようだ。ナホビノは異なる色彩の両目から視線を逸らさず、口を開いた。
「面白くない。けど、勝ったら終わってしまうだろ」
何度でも挑戦できるのはナホビノの特権だ、人修羅は違う。一度彼に勝ってしまえば次はない。彼以上に強い相手と巡りあえるなんて、夢のような話などありはしない。ナホビノは嫌になるほど分かっていた。
どこか投げやりな答えに呆れた様子のゼウスから掴んでいた顎を解放された。何言ってるんだお前、と口にせずとも表情が語っている。
かろうじて身体が動くようになったナホビノは視線から逃げるように床へと手をついたが、瞬時に察したのか小さな身体を右腕のみで抱えこみ、ゼウスはその場から立ち上がった。ナホビノの抗議もどこ吹く風、黒い方の爪をコツコツと薄い胸板にぶつける。
「勝つことが目的ではない、なら何のために戦っている? オレは創世の座に就けと言ったんだ。ソイツを蹴ってまで争乱の時代を続けさせたお前を、突き動かす何かがある筈だ。お前を縛りつけてもいる何かが、な」
「……」
「図星か、分かりやすい顔しやがって。いいか。次は絶対に勝て。何事も終わらせなきゃ先がねえだろ。人間と悪魔が戦いに明け暮れ、いずれ強者が前時代の王を打ち倒し、覇権を握る。結構な世界じゃねえか! だがな、頂点にいるお前が勝利に怯えていちゃ話にならないんだよ」
「……お前が人修羅より強かったらよかったのにな」
「調子が戻ってきたじゃねえか、オイ。ケンカなら買ってやる」
それとも発散したいか? と下腹部に当てられた指をナホビノは丁重に押し退けた。無意味だ、とも告げる。この身体に「そういった機能」は備わっていない。相手が男だろうが女だろうが、無理なものは無理だ。
ナホビノの告白を理解するまで少々時間を要したゼウスは、難しそうな顔つきで何事かを思案し、唸り、やっと「お前、難儀な奴だな……」と憐れむような目を向けた。余計なお世話だ、と言いたいところだが、常日頃からの悩みでもあるので無言で受け入れた。本当に、難儀な身体なのだ。
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久しぶりに人修羅と対峙する。理由をつけては別の用事を優先し、痺れを切らした仲魔たちに尻を蹴っ飛ばされてようやく、の邂逅だ。
相変わらず何を考えているのかよく分からない表情に、薄く重なるようにして向けられた怒りの視線が突き刺さる。あれは仕方ない。俺だってやられたら怒る。
気まずさを甘んじて受け入れたナホビノは、それでも来なければよかったと内心後悔した。
珍しく人修羅は一人だった。常に侍らせているピクシーの影もない。異様な空気に未だ剣も出せていないナホビノへ、突然何かを投げ渡してきた。
受けとめた掌には小さな箱がおさめられていた。一目でメノラーとマッカを凝縮してまとめた代物だと把握し、はっと顔を上げる。
「お前の勝ちだ」
人修羅の声だ。言葉として投げかけられたのは、初めてだった。
「もうお前とやりあうのは一切御免だ。二度とその面、見せてくるなよ。腹が立つから」
「……えっ」
「えっ、じゃない。早く帰ってくれ」
「…………」
「聞こえてい、うわっ」
ぎょっとした表情を見せた人修羅はよほど人間らしく、その辺にいるような少年にしか見えない。何をそんなに引き攣った顔をしているのか分からず、ナホビノは内心困惑する。ぽつ、ぽつと顎から垂れる水滴に気づき、空いた指を頬に寄せてからようやく納得がいった。
全く意識していなかったが自分は大粒の涙をこれでもかと垂れ流しているらしい。しかも止まらない。
「何なのお前……」
「分からない。どうしよう、これ」
「俺が知るかよ! いいから早く! 帰れ!」
駆け寄ってきた人修羅に腕を引かれ、そのまま抗わずに、とぼとぼと部屋を後にする。不思議と鼻の奥は平常のままだったので、涙以外の諸々を垂れ流す醜態とまではいかなかった。
何を泣いているのだろうか。ナホビノになってから、そんな機能があることすら想像もしていなかったのに。何が悲しいのだろうか。今まで何百回、何千回も戦ってきたけど、一度だって聞こえはしなかっただろう。常に俺は、一人だっただろう。
もう限界が近いのかもしれない。
腕を引く人修羅を先導に、二人は階段を昇っていく。亀よりもゆっくりとした速度だったが、お互い何も言わなかった。
一段上がるたび重くなっていく足取りに人修羅が振り返ることもなく、一段上がるたび伸びていく髪の毛を引きずるナホビノが違和感に言及することもなかった。まだ涙は止まらない。水気を含んでさらに重くなった髪の束が「いかせない」と纏わりついて仕方なかったが、人修羅の歩みが止まることはなかった。
無言のまま階段を昇りきり、引っ張られるがまま隣に並び立つ。ちらりと見えた己の腕は禍々しい帯が幾重にも重なり、肌を伝って人修羅を徐々に侵していた。
もう離していい、と切り出そうとしたナホビノを人修羅は一瞥もせず、力任せに腕を振り解かれ、わずかに足がふらつく。己の肌に貼りついた帯を剥がしては捨てる横顔に疲労の影はない。
「あとは一人で行けるだろ」
かけられた言葉に無理かも、と返す。座を壊してから、一人で問題なかった場面など一瞬たりともありはしなかった。ただひたすら、かつての記憶をなぞっていけば、いつか「会える」かもしれないと思って。それだけが心の支えだった。人修羅に勝ってしまった今、人も魔も神も、自分よりずっと弱く望みは断たれたも同然と諦めてしまった今、何を頼りにすればいいのだろうか。
ああもう、と唸る人修羅を見下ろす。出会った時よりも、ずっと下にある頭がこちらを見上げ、不快でたまらない、といった感情をこれでもかと突きつけてくる。金の両目に、どこか懐かしさを覚えた。
「あと一戦だけだ。二度と、戻ってこれないように、この世界から魂ごと消してやる。これで満足か!」
分かったら行け! 踵の後ろあたりを思いっきり蹴られて、前のめりになる。
なんてことだ、人修羅の提案はこの上なく魅力的だった。停滞し続ける心をこじ開けてくれるかもしれない、今となっては朧げな直感はやはり正しかったのだ。それでも気になることはある。
「一度負けた奴がナホビノに勝てるのか」
「うるせ――!! 一言余計なんだよ!」
至高天へと続く道に降り立ったナホビノは迎えた仲魔たちを一体ずつ呑みこんだ。
抵抗する者、嘆く者、目を閉じる者、反応は様々だったが、みな知っていたような顔で己が運命を受け入れた。最後に絡めとったアブディエルは「どのような姿になろうと御心は変わらない。そうだったな」と言いかけてナホビノの中に沈んだ。ここにはいない者へと向けた言葉のように聞こえたが、手向ける墓標もない以上、関係のない話だった。
透き通る瑠璃の道を、真珠の散りばめられた階段を、黄金の渦巻く床を、すべて呪の海で塗りつぶす。行き着いた先にある崩壊した玉座を見上げれば、そこには無数の見覚えのある腕が蠢いていた。初めて見る悍ましさだったが、どう観察しても自分の腕以外の何物でもなかったので特に忌避感はなく、そっと手を伸ばす。
爪先立ちの感覚で遥か高みにある腕の群体に触れようとしているのだ、自分の姿も負けず劣らず悍ましい何かになっているのだろう。
ナホビノは意識を沈める。次の来訪者が人でも魔でも神でも構わない、もう自ら出向くこともない。約束もした。そう経たないうちに現れる。戻れないほどバラバラに引き裂かれたとき、生命と知恵が分たれたなら、それはきっと。素敵な最期だ。