了遊(付き合ってる)。 ラキカ4のワンドロライ参加作で、お題「雨」。 時間内に書き終わらなかった……ので追記しました。
制限時間に合わせた話考えるの難しい。
@d9_bond
雨が降っていた。
一昨日遅くから降り始めた雨は、梅雨だけあって今も降り続いている。遊作はベッドの端をイス代わりにかけたまま、窓の外に垂れこめた重く暑い灰色の雨雲を陰鬱に見やった。今すぐにでも晴れてほしいがそんな都合のいい奇跡が起きるはずもない。
ぱたん、ぱたんと定期的な雫の落ちる音が静まり返った部屋に響く。
「遊作」
呼ばれて遊作は、そろそろと声の主──了見を振り返った。
了見は真顔で鍋を手にじっと遊作を見ている。遊作が返事をする代わりのように、その鍋の中へ天井から落ちた雫が、ぱたんと音をたてた。
遊作の借りているアパートは非常に年季の入った代物だ。
その老朽化がついに形に現れたのか、連日の雨のせいか今朝から雨漏りがしていた。最初は一か所、部屋の隅だ。そこには遊作が持っている一番大きく深い皿を置いている。実を言えば前からたまに水が垂れていたが、ぞうきんを置いておくくらいでフォローできていたので放置していた。だがここにきて建物のひび割れが進んだのか雨がひどすぎたのか、ぽたぽたと水が落ちるようになってきていた。
今朝になって、食事用のテーブルの上に二か所目の雨漏りが発生してしまった。こちらは現在了見が持っている鍋の中へぱたんぱたんと定期的に雫が落ちている。
なぜ了見がここにいるのかと言えばチクられたからだ。部屋の中で雨が降り始めたのに放置していると聞いて朝から飛んできた。思いがけず顔を見られたのは嬉しいが、お説教モードなのが面倒だ。
遊作は恨めしく戸棚のガラス戸の向こうのデュエルディスクを見たが、犯人は引っ込んだまま出てこない。確かにこれまでAiが管理会社に連絡しろとか引っ越そうとか言っていたのを面倒だからと流していたのは遊作自身だ。それはまあ気遣いを無駄にして悪かったと思う。だがAiの方では諦めていなかったようだ。管理会社に、ではなく遊作が絶対に無視できない相手を引っ張ってくる辺りよく分かっている。
「そろそろ観念したらどうだ?」
「……管理会社に連絡したら補修してもらえるはずだ」
了見の顔が渋面に変わる。そのくらいではこの顔面国宝の美貌はいささかも損なわれたりはしないのだが。
「その連絡を怠っていると報告を受けている」
Aiが言わないわけがなかった。目を逸す遊作へ了見が追い打ちをかける。
「そろそろ取り壊しの話が出るかもしれないな?」
「……それは」
それも危惧しているところである。実際この部屋に愛着があるわけではないが、引っ越しや何やらが億劫なのとそこまで必要性を感じていないので流していたわけだ。
「うちに来ればいいと前から言っているだろう」
同棲しようというのは実は前から言われていた。魅力的な提案だ。おはようからおやすみまで了見と一緒の暮らしなど人生のボーナスステージとしか形容できない僥倖である。
だが、遊作はどうしても頷けないでいた。
「その……通学が大変になる」
「私は少しでもお前と多く過ごしたいと思っている。お前は違うのか?」
「だっておまえは、仕事でひと月とか平気で居なかったりするだろう」
「ああ」
了見は訝しみつつも頷いた。
それはこれまでだってあったことで、デンシティを離れている間はこまめに連絡する形でフォローをしていた。それについて遊作は今まで何を言ってきたこともなかったが、実はそれでは足りていなかったのだろうか。
「もし一緒に暮らしたとして。了見、おまえが毎日一緒にいることに慣れてしまったら──仕事と分かっていても、長期間いない状況に我慢できないかもしれないだろ」
最後だけ、囁くように遊作は言った。
「いつもいると思っていた奴が、一時でもいなくなるのは淋しいんだ」
くせで声をかけてしまい、その度に返事はないのだと思い返す時のあの感覚にはきっと慣れることはないと思うのだ。
「……」
了見は、大きく息を吐いた。
鍋を置いて代わりに端末を取り出すと、何やら操作しながら口を開く。
「分かった。お前がそこまで言うなら譲歩しよう」
「譲歩」
諦めないのか、と遊作が顔をあげると了見はにっこり笑ってみせる。
「今、駅前のウィークリーマンションを借りた。引っ越し先が見つかるまで当面はそこで過ごすといい」
「今⁈」
「引っ越しの手配もしておく。……手続きややり取りを面倒がるぐらいなら、少しは私を頼れ」
「しかし」
「──遊作」
さすがに申し訳ないと断ろうとする遊作を了見は遮った。
「雨が降るような家に恋人を住まわせて平気な人間はいない」
「それは、……雨漏り程度で大げさだ」
「普通の家は雨漏りしないものだ」
ぐ、と遊作は詰まった。確かに、万が一にも了見が雨漏りするような家で暮らしていたら、遊作だって転居を勧めるだろう。行動が極端に過ぎるが、ごもっともですとしか言いようがない。
「それにどの道この物件自体がそろそろ限界だろう。改修工事でも入れば嫌でも一時的にでもここを出ることになる。同じことだ」
「……わかった」
呻くように言えば、了見は満足げによろしいと頷いた。
「おまえは俺に甘すぎる」
「お前が大事にしないからな。その分私が好きにさせてもらっているだけだ」