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幕間Ⅲ

全体公開 1249文字
2022-06-30 22:45:26
Posted by @EmptySeat_

▶視点 後縫まつり

「まぁ、いいんじゃねえの」
「少しは目を通してから言いなよ穀潰し」

 隣から聞こえてきた冷ややかな声に首を竦める。こっそりと目を向けると、そこには車椅子の三鶴さんがいた。手には新しく刷られたような冊子が握られており、ああなるほど完成したのかと目を瞬かせる。

 ──それは2週間ほど前の事、三鶴さんより突然の台本変更が告げられた。
 脚本が出来上がるのは2週間後。それまでは基礎練習や体力増強に勤しむようにと指示を出された舞台演出学科には、ただただ困惑が広がっていた。
 特に強く反発していたのは将次さんだ。「元々2ヶ月しかない練習期間がさらに縮んでしまう。君の進行に慣れている僕達ならまだしも、慣れていない1年生にはあまりにも無茶だ」そう言って、三鶴さんを説得しに掛かっていたのだけれど、こうやって台本が新しく出来上がっているあたり説得は失敗してしまったみたい。

 三鶴さんのチクチクとした口撃は未だ続いている。倉坂先生はその全てを聞き流しているようで、ノーダメージそうなのがより一層火に油を注いでいる気がする。
「君のその耳は飾りかなにかなのかな? 馬耳東風なんて四字熟語があるけれど、馬の方が君よりも人間の言葉を聞き取ってくれそうだ」
「そう、飾りだから聞こえねえわ。帰れ」
「いい加減におじいさまに報告するよ」
「すれば? 別に俺は困らない」
…………はぁ。君をスカウトしたあの頃の僕の目を疑うよ。どう考えても正気じゃなかったな」
 解雇されないと分かってて適当な事言いやがって、と不愉快そうに呟いて三鶴さんはため息をつく。……スカウト? たしかに倉坂先生は自分で教師の道を目指した訳では無さそうだとは思っていたけれど……、二人の間に一体何があったんだろう。


「後縫先生」
 はっと声のした方を見ると、いつの間にか三鶴さんはこちらを向いていた。倉坂先生に至っては姿を消している。一体どこへ……。新しい台本を私に渡すと、彼女はもう一度ため息を付く。
「倉坂高明はあの有様だからね、一応台本のチェックをしてくれるかい。脚本としての出来はどうでもいい。ただ、わかりやすいかとおもしろいかに重点を置いて読んで欲しい」
「え、あの、私、演劇は──」
「知ってる、ほとんど関わって来なかったんだろう。それでいい……いや、むしろその方がいいんだ」
「その脚本を演じるのは1年生だ。彼等が理解出来なければ仕方ない。──彼等の学力や理解力は既に把握しているだろう?」
 なるほど、と脚本を捲る。慣れない文体に目が泳ぐまま、了承の返事を返した。
「練習は1週間後に再開する。他学部のクリエイター達には僕が話を通すよ。時折協力を仰ぎに来ることもあるだろうが──、まあ、その時には協力して欲しい」
 言うだけ言うと三鶴さんはそれじゃあねと言い残し、車椅子を動かして去っていった。目の前に残ったのはまだ新しい、熱のこもった暖かい台本。私はごくりと生唾を飲むと、それを読みに掛かった。


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