夢の中の廃墟群で彷徨うハス探。2ページ目以降は会話文。増えるかもしれない。
@hirop573
『目覚めたか』
目覚めた開口一番邪神の声。
いつもの荘園の部屋ではない。起き上がれば硬い大理石の上に寝転んでいた事が分かる。
周りを見渡せば見知らぬ景色ばかり。自然で溢れ、豪華な居城であっただろう場所も廃れ崩れており、長年人がいなかったことも伺える。要は自分とこの邪神以外に頼る人物はいないのだ。
そして、これは夢なのだとも。
しっかりと地に足をつけている感覚はある。ただしかし頭ではなんとなく、これは夢だと確信を持っている。
「なんでこんな夢見てるんだろ。夢の中で目が覚めるとか変な感じ」
『さて。我とて万能ではない故な。そうさな…散策してみよ。予想は出来ているが確証がない事象がある』
いつもはその提案に難色を示すものの、ここは夢の中だ。たまには乗ってもいいだろう。
夢の中だから、と自分に言い聞かせて。
▼
「ここ、昼がないんだね。朝があってすぐ夜になる。こんなのじゃ仕事も出来やしないな」
『夢の中までその様な話をするか、そなたは。勤勉なのか貪欲なのか』
「五月蠅い」
『今は捨て置け。醒めぬ夢ならば足を動かしてみよ。引き金があるやもしれぬぞ』
「…分かってるよ」
▼
『ふむ…。これは』
「うわ。あなたの書庫みたいだ。……ねぇ、もしかして」
『いや、構わぬ』
「いいの?」
『類似したものが存在するということは即ち…我と同類かつ敵意がないもの。これは事故。故に早急に出る必要はない』
「そう」
『触れて良いぞ。我の書庫に無い物もあるやもな』
「………ん。でも、いいや」
『ほう。なにゆえか』
「なんとなく」
『そうか』
(あなた以外から得る知識って頭に残らないだろうな、なんて言えない)
▼
「寒い」
『夢幻でも感じるか、難儀よの』
「わ、すごい見てよ。夜になったら鼻水凍っちゃった。あはは」
『……危機感の欠如は些か問題であるな』
「だってあなたがいるだろ。僕一人だったらこの辺りの森一帯燃やしそうだし」
『…………』
「?僕何か変な事言った?」
『いや』
▼
「あなたは夢の事覚えてるんだっけ。いいな」
『人によっては悪夢もあるのだぞ。それでもか?』
「それでもさ。…僕は何もかも忘れたくないんだ」
『己が身を滅ぼすぞ』
「そんなの今更さ。中途半端に覚えて忘れて…それなら全て忘れられるか覚えるか、どちらかがいい」
『全く…やはりそなたと過ごすと退屈せぬな。そのような思考を持つ人間はそうそうおらぬ』
「それはどうも」
▼
「ねぇ、僕の服って変えられる?」
『可能だ』
「星の服、お願いしたいな」
『ほう。そなたは好かんと思っておったが』
「夢の中ぐらいたまには」
『よかろう。そら』
「ありがとう。…やっぱり慣れないなぁ。髪も白いんだろ、今」
『左様。普段のそなたとは真逆よな』
「それ馬鹿にしてる?」
『フ…好きに捉えよ』
▼
「僕の夢にしては贅沢だ。四季の星座が全部あるじゃないか。狡い」
『己に嫉妬してどうする』
「人間には一年が長いんだよ。天気が悪いとまた来年になるし、数年に一度しか見られない天体もあるんだから。全部あるじゃないかここ。狡いって言わないでなんて言うんだよ」
『よく囀る。…現に戻り覚えていたのなら見せてやろう』
「本当?あ、流れ星。覚えてますように」
『現金な奴よ』
▼
「ここ、昔は豪華なお城だったんだろうな。売ったらいくらになるだろうか」
『………。おそらく人間に価値は分からぬものだ。我の知る物質に近い物を感じる』
「そうなの?言われればあなたの居館のものと似てるかな」
『よく見ておるではないか』
「嫌でも見るだろ。ほとんど居るんだし」
『そうかそうか』
「なんでニヤニヤしてるの…」
▼
「僕が今ここから落ちたら、あなたは助けてくれる?」
『無駄な事を。好奇心か?』
「うん。…あの時以上に痛いのかな」
『フフ。そうとなればさせまいよ』
「どうして」
『そなたには生き永らえさせた方が地獄とみた』
「!」
『図星か。さぁ、落ちてみよ。如何様に堕ちようが掬ってやろう』
「……やっぱり嫌いだ、あんた。僕の嫌な事ばかりしてくる」
▼
「あなたもどこか好きな所へ行ってもいいんだよ。どうせ呼んだら戻ってくるんだろ」
『…………』
「何さ。出来ないの?」
『ここはそなたの夢の中と我は言ったな』
「うん」
『そなたの思うがままだと』
「…うん…?」
『そなたの望むまま、だ』
「…………嘘だろ」
『離れる事は可能だが…よもやここまで導いて分からぬそなたではあるまい?ノートンよ』
「信じられない……僕が望んでるからあなたがずっといるってことなの?」
『ク…ハハ…。左様。心の臓で否定しても根底は覆す事が出来ぬ。それが真実だ。そなたが認めようと認めまいと、その欲は在るのだ』
「………………」
『恥じる事は無い。現に戻れば忘れてるやもしれぬぞ』
「覚えていたら、どうやってあなたと接したらいいか分からない。今だってそうだ。…僕、こんなの…」
『我儘、か』
「!」
『幾年と人間を見てきたが、そなたはほど欲を潜める者はおらぬ』
「……」
『今はそなたの好きにせよ。我はその願いと共にある』
「ほんっとに…あなたのせいで何も出来なくなっちゃうよ」