@nori_gno
ぼんやりと暗闇に浮かぶ旧時代のものらしいデジタル時計は深夜とおぼしき時間を指している。アラビア数字にはまだ慣れないが、確かこの形は”2”と”4”…… 半分だけ開いた目と半端に覚醒した頭を軽く掻きながら、隣ですやすやと寝息を立てるラキオとを交互に眺めながらレムナンは考えた。
ふたりで使うにはもう少し広さが欲しいところだったが、このサイズがいいと折れないラキオに譲歩する形で選んだベッド。寝返りを打つとすぐに相手の足や腹にぶつかったり、今日のようにふと目を覚ました時に真正面に見える目を閉じていても十分に整った顔立ちに驚いて思わず飛び起きそうになることもあったが、数ヶ月経った今では少し慣れてきたように思う。
耳の下から顎のラインを抜けて、鎖骨の方に向けて流れる髪。後頭部の毛先はクセがあるのか少し跳ねているものの、首元から鎖骨にかけては素直に流れるラキオの髪にレムナンはそっと触れてみた。毛先を指にまきつけ少し遊んでみるがラキオが目を覚ます気配は全くない。すぐに絡むレムナンの髪質に毎度「羊の毛刈りのようだ」と言いながらも丁寧に整えてくれるラキオの姿を思い出した。痛みが出ないよう毛先の方からブラシを入れていると感謝を要求され、僕がいないと何にも出来ないンだからとつり上がった眉と対照的に楽しそうな声色でハサミを入れる。
グリーゼで暮らすようになり、普段の食事に加えて栄養補助のサプリを採り入れた結果、レムナンの髪は以前よりずっと早く伸びるようになった。勘を頼りにざっくりと切っていた襟足も、少し重めになっていた前髪もいつのまにか背中や耳元まで届いている。
邪魔にならなければいいやと利き手で簡単にまとめて、近くにあったコードや靴紐で結ぶ。それを見たラキオに横着がすぎると酷い剣幕で詰め寄られたことを思い出してつい口元が緩んだ。あんなに怒る必要、あったのかな。
人差し指と中指のあいだからのぞく、深みのある緑色の毛先を見つめながらレムナンはひとりごちた。
そのうちきっとまたまぶたが重くなり、気がつけばまたも慣れない文字をぼんやりと見つめながら、先程見たものと違うことを認識するだろう。照明の着いた部屋、狭かったはずのベッドにはゆっくり腕を伸ばすだけの余裕もできていて、いつもと同じ、起床のあいさつの前に始まる小言を聞きながら体を起こす。繰り返される、いつもと変わらない清々しい朝。こんな日が、いつまでも続きますように。小さな願いをそっと心の中だけでつぶやいて、絡めた指をほどいた。