@EmptySeat_
幕間Ⅴ
▶視点 南天寺クオン
「随分楽しそうに語っていたね、三鶴クン」
放課後。片付けを始めていた彼女に後ろから声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返った。
「そうかな」手には書き込みの目立つ脚本といくつかのノート、そして華奢なペンケースがある。それらを閉じながら片付けながら応答する彼女は、この会話に価値を見出していないように見えた。
「結局、あの話の着地点はあれで良かったのかい? かなり才治クンに偏った解決だったけれど」
手が止まる。何が言いたいんだろうという純粋な疑問を伴う視線が、真っ直ぐにボクの目を貫いた。
「烏星の話?」
「まあ……そうだね。キミは早い段階から彼女との対話に見切りをつけていたようだから」
あぁと納得したように相槌を打つ彼女は、目線を逸らしどこか遠くを見つめているようだった。なぜだかその目が諦めを伴っているように見えたのは、ボクの気の所為だろうか。
「烏星が僕を苦手としているのはいつもの事だよ。それこそ1年生の頃から、ずっとさ」
それに僕の事を苦手としている生徒は決して少なくない、そうだろう? そう言っていつも通り隙なく笑う彼女に、特別返す言葉をボクは持たなかった。
ボクはこの学園で誰よりも"御剣三鶴"を知らない。なぜこの天才がここまで持ち上げられているのか、ここまで許されているのか。伝え聞く範疇でしか、日常生活内での関わりの範疇でしか分からなくて。
「それに──君も決して僕の事が得意では無いはずだ」
いつの間にか、ボクの元に戻ってきていた視線がボクを強く射抜いた。強い確信と、自信を持つその目。……それは、いつぞやに見たアイツの視線とよく似ていて。ギリ、と奥歯が軋む音が聞こえた気がした。
「君の場合は他生徒とはまた違った理由に見えるけれどね──まあ、いいよ、別に。好かれようとも思っていない」
からりとした声で彼女は笑う、笑う。何もかもを眼中に置いてないような、そんな風に。
「僕はただ、この舞台を作り上げられたらそれでいいのさ。君達がどう思おうと、僕自身がどうなろうと、ね」
じゃあ、また明日。車椅子を器用に動かして、その場から立ち去る御剣三鶴。視界から消え去るまで、僕はそれをじっと見つめていた。動くことなく、瞬きひとつ出来ずに。
あの日を思い出す。いつだって、俺らは蚊帳の外に居た。アイツにとって俺らはどう足掻いてもただの他人だった。なんの価値も無い、どうでもいい、ただのゴミに過ぎなくて!
ガンッ、と壁を強く叩く。生徒が誰も居なくてよかった。──こんな顔、あまり見せたいものでは無い。
彼女の言葉が、歪んで別の人間の言葉へとすり変わっていくのを感じていた。腹の底から笑いが込み上げてくる。……オマエら天才に、俺の一体何がわかるって?
ぐしゃりと頭をかき混ぜてしゃがみこむ。本当はこの後職員室に向かう予定だったのだが、取り繕うこともままならないこの現状では到底近寄れそうになかった。小さく舌打ちを残し、その場を後にする。
人の少ない方向へひた歩く。拳は強く握りしめたまま、しばらく剥がれそうになかった。