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そんな理由―種ヶ島修二の場合―

全体公開 3 1616文字
2022-07-22 01:31:25
Posted by @uk_plus_



 あり得ないことが起きて、愕然とした私は耐えられずに学校を休んでしまった。事実を知ったのは昨晩で、一晩中泣き明かし学校へ行けるような状況ではなかったから。なのに、だ。なのに、そんな時に限って朝から電話が来たのだ。ある人間から。

 「なに」
「修さんからのモーニングコールやで★」
いらない」

2コール辺りで通話ボタンを押してぶすくれた声で応答し、今の気分にはそぐわない相手の声を聞いて、2秒で拒絶の返事をした。しかしそれだけでは対峙した相手は引いてくれない。そういう人間なのだ、こいつは。

「なーんやの、けったいな声しよってからに!爽やかな朝やで~」
「それはあんただけ、切るよ」
「まぁ待てって」
「嫌だ切るよ」
「女のコの日かいな」
「馬鹿」

絶妙に失礼なことを言われて即座に電話を切った。しかし電話が間を待たずに再び鳴り出したので、今度は即行で出てやった。

「いらないって言ってるでしょ」
「まぁまぁまぁまぁちょお聞くだけ聞いてもええやんか」
なにさ」
「なんかあったんか?」

 電話の相手である種ケ島修二はつかみどころがなくていつもヘラヘラとしている。だからこそ今回の電話だけはすぐに切りたかった。

何にもないよ」
「嘘やな」
「なんでよ」
「俺にはわかんねん」

どきりとした。その声がまるで私の心の奥を見透かしているようだったからだ。素っ気なく返した言葉に怯む様子もなく、彼はまた言葉を続けた。

「で、何があったん?」
……笑わない?」

私はため息を吐いてからぽつりと言う。電話の向こうから笑わん笑わんと軽薄そうな声が聞こえてきた。

 こうなることが予想出来たから種ケ島とは話したくなかった。彼はこういう人間だ。いとも簡単に人の心に入り込んで、何でも開示させてしまうようなところがあるのだ。人たらしとでも言えばいいのだろうか。奴のそんなところが私は若干苦手だった。

 「……好きなバンドが、解散した」
……はぁ?」

改めて口にするとまた胸が痛く感じられた。そして更に電話の先から聞こえてきた声にその痛みを逆撫でされる。

「ほらー!そういう反応するだろうから嫌だったんだよ!」
「あーすまんすまん」
「ぜんっぜんごめんって思ってないでしょ!?」
「思うとる思うとる」
「おいこら種ケ島!」

私は電話口で未だヘラヘラと返事をする男にぎゃんと鳴いた。

 そうなのだ。ずっと前から追っていた大好きなバンドが昨晩解散報告をしたのだ。もう新しい音楽が聴けないのだと思うと辛くなって学校を休んでしまったのだった。そもそもこんな腫れた目では行く気にもならなかったが。

 「もー知らない、種ケ島なんか知らない」
「なんやのそないなこと言うて。学校でやったら修さん、たくさん笑わせたるで?」

おもろいで?と言う軽薄そうな声がけらけらと笑った。

「自分で言うな!そんなことでこの傷が埋まるか!」
「なんやのも~けったいやわこの子~」

すると何やら電話の先からガサゴソと音がした。そしてよいしょという声の次にドアが開くような音がする。

「せやな!今からそっち行くわ★」
「何が!?何もせやじゃないんですけど!?」
「そんじゃな★」

ぶつりと切れた電話の音と部屋の沈黙だけが残って、私は潜り込んでいた布団から飛び起きた。本当に奴は今から来る気なのだろうか。とにかく私はボサボサの髪とぐちゃぐちゃの顔面をどうにかするため、急いで部屋を飛び出た。


―――――――――――――――――――――

「来たで~★」
「うわほんとに来た!」


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