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なにも知らない13

全体公開 1 2672文字
2022-08-15 23:47:41
Posted by @uk_plus_



 「ほんなら、もうそっち行きますわ」
「ああ、わかった」

駅内ホームを抜けて改札を通りながら、毛利はスマホの通話を切る。自分の住まう土地よりも、幾分か違う人混みの激しさにため息を吐く。

毛利は口数の少ないダブルスパートナーである越知と、合宿外で会う約束をしていた。以前の用の際には越知に赴いてもらったので、今回は毛利が都内へ出ることになったのだった。毛利が向かうのは氷帝学園高等部。事前に聞いていた道順通りに歩みを進めていくと、一目してわかる大きな施設がすぐ毛利の目に飛び込んできた。

「は~立派なもんやねぇ」

そうひとりごちて毛利は越知が待つであろう校門前を目指した。

 「ツキさん!」

校門が見えてきた頃、そのすぐそばですらっと高いひとつの人影が見える。越知だ。毛利は越知に少し大きく声をかけた。声をかけられた越知は毛利を認めてから、ゆっくりと近づいてくる。

「場所はすぐにわかったようだな」
「ええ。流石氷帝っすわ」

近くに来て、より大きく見える校舎を見上げながら毛利は笑う。

「ほなら、行きましょ!」
「ああ」

長身二人が校門前から離れようとした時だった。

「越知くーん!」

息を切らせた声が、駆ける音と一緒に越知を呼びながら近づいてきた。越知と毛利が声の方を見ると、二人よりもうんと小さい一人の女子生徒だった。越知の目の前で足を止めてから、息を整えつつ話し出した。

「部室かと思ったんだけど今日はもう帰ったって聞いて
「名前、すまない、伝えてなかったな」
「ううん、大丈夫。こうして会えたしね」

女子生徒は謝罪する越知に対し朗らかに笑いながら、額の汗を右手で軽く拭った。その様子をじっと見ていた毛利に気付いた彼女は、はっとしながら二人に言う。

「ごめんね、何か用事の最中だったなら
「少しなら問題ない」
「そっか。突然ごめんなさい。クラスメイトの苗字名前です」
「え、あ、毛利です!」

急に会話の輪に入れられた毛利は慌てて自己紹介をする。それを聞いて、彼女は一瞬驚いた顔をしてから更ににっこりと笑った。

「ああ、越知くんの!毛利くん!」
「え、ああ、はい、毛利です」

間抜けにもう一度名前を言って、毛利は頭をかいた。ゆったりと、しかしはっきり話をする彼女に少し面食らっていたのだ。越知にも臆さずに話しかけている名前は、毛利の目にはとても新鮮に映った。

「あ、で、越知くん、先生からこれ預かってて」
「ああ、ありがとう」

呼び止めた理由を思い出したように越知に紙を渡した名前は、二言三言説明をしてから毛利のほうを向き直った。

「それじゃお邪魔しちゃってごめんね、毛利くん。越知くんも」

じゃあねと校舎に戻っていく彼女の姿を見届けて、二人は再び校門から離れた。

 日が暮れて、そろそろ青と濃紺が降りてきた頃。必要なことを済ませて、毛利と越知は駅を目指していた。その時、毛利はふと校舎前で別れた名前のことを思い出す。

「そういやツキさん、仲良うしてる女子なんかおったんすね」
どういう意味だ」
「いや失礼な意味とちゃうくて!なんや、ツキさんに対しても俺に対しても臆することない、珍しい人やなぁって」
「ああ。そうかもしれないな」

平均より飛びぬけた身長の毛利と、それすらも飛び越えている越知の二人が並んでいれば成人男性ですらひるむことも珍しくはない。しかし彼女は微塵もそんな様子を見せず終始話をしていた。毛利にはその姿がとても印象に残っていた。

「彼女は一年の頃から知っている」
「じゃあツキさんで慣れとるんすね」

合点がいったように言いながら毛利がうんうん頷いていると、越知の歩が止まっていた。そして何かをじっと見ている。

「どうしました?ツキさん」

毛利も倣うように視線をやれば、そこには丁度話題に上がっていた名前が歩いていた。あちらも二人を認めたようで、先ほどと同じようににっこりと笑いながら手を振り歩み寄ってきた。

「越知くん、毛利くん、偶然だね」
「今帰りか」
「うん。少し先生に質問とかしてて」
「先輩も駅までですか?ほんなら一緒に行きましょ」
「ありがとう、毛利くん」

人好きのする声音と笑顔で誘った毛利に、名前はまた朗らかに笑いながら頷く。本日何度目かの彼女のそんな表情に、毛利は少し不思議な気持ちを感じていた。

 「ほんならもう!練習きっついんすわ~」
「たまに話は聞いてたけど本当に大変なんだね」
「ほんまですよ。俺なんかツキさんがおらんかったらどないなっとったか

越知と名前に挟まれて歩きながら、毛利は彼女と談笑していた。名前は毛利の話題に優しく笑い、そして時に驚きながら頷いては終始楽しそうにしていた。毛利もいつも以上に饒舌に自分の学校の話や、合宿についてなどを話している。

「それにしても、本当に毛利くんっていい子だね、越知くんから聞いてたとおり」
「ええ、ツキさんが!?なんて言っとったんですか!?」
「毛利名前も、もういいだろう」

名前が越知の方をにこにこと眺めながらそろそろ越知にとって余計な話題が上ろうとした時、駅の改札が三人の目の前まで見えてきた。

「あ、ほんなら自分、こっちなんで」
「ああそっか。そしたら毛利くん、またね」

ひとつの改札を指差して、毛利は二人に別れを告げる。しかしふと名前の顔を見て、彼女の方へ歩み寄った。そしてスマホを取り出して何気なく話し出す。

「名前先輩、お近づきの印に連絡先交換しましょ」
「え!う、うん、いいよ」
「なんやったら今度三人で遊びましょうね」

さっと連絡先を交換し合い、そして毛利は少しだけ身を屈めて名前へひとつ笑った。

「そんじゃあまた」

ひらひらと手を振りながら改札へ入っていけば、ほんの少しぼんやりと己を見つめる名前が毛利の目に映った。

彼女の表情を反芻させながらエスカレーターに足を踏み込んだ毛利の気持ちは、何故だか温かく感じられた。



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