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He went to see him son(彼は息子に会いに行った)

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2015-07-21 16:57:50

鋏定規さんの「イン・ザ・メキシコ・ヴァーサス・ウェポンズ」の後日談SS。
ジェラルドとエドウィンの会話。

 心地よい音をさせて、ボーンチャイナのデミタスカップが揺れた。テーブルの上に置かれた雪のような色のそれに、琥珀色の水面が見えている。
 エドウィン・コートダイクは読んでいたタイムズから視線を移し、おやと呟いた。首をかしげ、カップを置いた人物を見上げる。そこには彼の執事であるジェラルドがいつもと変わらぬ様子で立っていた。視線が合うとニコリともせずに微かに眉を上げる。
「同じものを四杯も召し上がりましたゆえ」
「ああ」
 この人物はいつも、こうなのだ。エドウィンが聞きたいことを、的確なタイミングで正確に答えてくれる。要するに同じアッサムばかり飲み過ぎだと言いたいのだろう。英国貴族は身体を起こし、デミタスカップを手に取った。
 鼻腔に届いたのは、強めの薫香だ。水面に目を落とせば、いつもより赤みの濃いマホガニーの中に自分の顔が映り込んでいる。
「正山小種(ラプサン・スーチョン)か」
「たまにはよろしいでしょう」
 彼はエドウィンが全く珈琲を好まないことを知っている。カップの中身が珈琲でないことは分かっていたが、ラプサン・スーチョンとは。このスモークされた独特の香りのする紅茶を出されたのは初めてのことだ。フレーバー・ティーは好みが分かれる。だからデミタスカップを使ったのだろう。
 珍しいことだ。
 しかも、すぐに退出せずにジェラルドはその場にずっと立ち、主人の様子をうかがっている。
「悪くないね」
 と、エドウィンは囁くように紅茶の感想を伝えると、片手でタイムズを放るようテーブルに置いた。上目づかいに執事を見上げる、その口元には笑みが浮かんでいた。彼も相手の意図を読んだからだ。
「──僕に何か話があるんだろう?」
「はい」
 ジェラルドは即答した。しかし主人が口にカップを運ぶのを見て、もう一呼吸置く。相手が落ち着くのを待ったのだ。
「三日ほど、お暇をいただきたく」
「なるほど」
 頷くエドウィン。静かにティーカップを置く。
「構わないけど、どうして?」
「理由が必要ですか?」
「言いたくない理由でも?」
「いえ」
 ジェラルドは居住まいを直すこともなく、ただ空気のように同じ場所に立ち続けている。
「息子が就職したもので」
 へぇっ、とエドウィンは、いきなり素っ頓狂な声を上げた。
「息子ッ!? 息子って、子供いたの?」
「いますが、それが何か」
 エドウィンは目を見開いて執事の顔を見つめていた。完全に予想外の言葉が相手の口から飛び出たことに驚きを隠せなかったのだ。息子がいたとは、何年も一緒にいたのに全く知らなかった。
「知らなかったな……。今回は、お祝いか何かで?」
「ええ。食事でも、と」
「ああ、そう。それはいいことだ」
 表情の変わらないジェラルドに対し、主人の方は驚きから表情を軟化させ、しまいにはニコニコと微笑みはじめている。
「何か僕からも贈り物を」
「いえ、結構です」
「そう言わずに」
「いえ。本当に必要ありません」
 そこでようやく、ジェラルドの表情が動いたのだった。
「──旦那様と私の息子は無関係です。お気遣いは無用です」
 彼の、ほんの僅かに曇らせた瞳が、エドウィンの微笑みを消していった。
 分かったよ、と小さな声で囁いて。彼はまたデミタスカップを手に取った。残った少しだけの醒めた紅茶を喉に流し込む。薫香だけが鼻腔を刺激した。
「お前がいないと、代わりにイヴリンが来る。僕は彼女があまり好きじゃない」
 ややあって、エドウィンが言った。
「存じております」
「でも、そういうことなら、ゆっくりしてくるといい。一週間ぐらいでも構わないよ」
「ありがとうございます」
 ジェラルドは深く頭を下げた。
「三日で戻ります。それ以上の時間をかけることではございませんので」


 そして、彼はタイを外し、姿を消した。


 四日目の朝。ジェラルドは、きっかり朝8時にエドウィンの部屋の扉をノックした。
 朝の挨拶をかわし、何も変わらない様子で。有能なる執事は、主人にいつもと同じ朝食を用意した。
 最後にことりと置かれるのは、ウェッジウッドのフロレンティーン・ターコイズ。水色のカップの中には美しい琥珀色のアッサムが注がれていた。
 エドウィンはその青いラインの入った取っ手に指を添えて、静かに口へと運ぶ。
何も変わらない朝だった。
 それでも、彼は何の気なしに軽い咳払いをした。退出しようとしたジェラルドを呼び止めたのだ。
「──どんな話をした?」
 どうせ、自分には土産話などしないのだろう。そうは思いながらも、声を掛ける。
 執事は足を止め、ゆっくりと主人を振り返った。
「ほとんど会話はいたしませんでした」
 食事の手を止めるエドウィン。期待していなかったものが返ってきたからだ。
「しかし、思い出しました。彼に教えたことを一つずつ、一つずつ」
ジェラルドの視線は窓の外に向けられていた。「一緒に食事をしたことや、彼の悩みを聞いてやったこともありました」
 今日はどういうことか。エドウィンは、振り返ってポツリポツリと話し始めたジェラルドの様子を凝視していた。
「──夢にも見ました。ただそれだけでした」
 エドウィンは彼の左手がそっと握られるのを見た。部屋の中だというのに手袋をしている。なぜ気付かなかったのだろう。
 主人から視線を向けられていることに気付き、ジェラルドは瞳に浮かんでいた何某かの感情を瞬く間に消した。左手を隠すように背中へと回す。その仕草を目で追っていたエドウィン。二人の視線が交差する。
 エドウィンは何も言わなかった。
 そして、それ以上の質問をするのもやめた。


..fin

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どうということもない壁打ちです。
鋏定規さんの「イン・ザ・メキシコ・ヴァーサス・ウェポンズ」
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5572242
……の後日談ですので、読まないとたぶん話の展開よく分かんない感じになってると思います。


そして、ジェラルド。エドウィンにはメキシコで見たものとか会った人物のことは話さないんですよー(笑)。
上司のMI5のイヴリンには話しますけどね。
そういうドライな関係なんです。
だって、知ったら、エドウィンがなんか危ないことに手ェ出しそうじゃない(笑)?


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ふゆしろカナエ
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