謎のウイルスによって動物になってしまったマークとスティーヴンを、ジェイクが一人でお世話をするお話の続きです。
分裂同居設定。CP要素は無し。3人仲良し。
ご都合設定なので細かいところは気にしない。
たぶん、あと一回続くはず。
@tara_moso
僕たちの生活が一変して、もうどれくらい経ったのだろう。ジェイクは時々出かけて、僕たちのご飯を抱えて帰ってくる。僕も外の様子が気になるので付いていこうとしたけれど、危ないからといつも留守番だ。(一度、ジェイクのカバンに潜り込んで行こうとしたけど、鼻の効くマークに嗅ぎつけられて回収されてしまった)
この部屋にテレビはもう無い。ジェイクが僕たちが広々遊べるようにと部屋の隅へと片付けてしまった。線も全部抜かれてるので、ウサギの僕には電源すら入れられないし、マークはテレビの隣に置かれた脚の折れた(マークが折った)ダイニングテーブルに爪研ぎする方が楽しいらしく、手伝ってくれる気配もない。
僕とマークは日がな一日遊んで暮らしていた。
遊んで、食べて、寝て、起きたら遊んで食べて…そりゃペットならそれが当たり前の日常かもしれない。でも、僕たちは変な奇病に罹って動物の姿になってしまっているだけの人間。そう人間なんだ!…そう時々自分で自分を奮い立たせないと、どんどんとウサちゃんになってしまう気がして怖い。それに僕の目の前でゴーゴーと寝息を立てているこの大きな猫ちゃんは本当にマークなのだろか。雄のライオンは食べたらあとは寝るばかり、て話は聞いたことがある。現にマークは食べてる時以外はほとんど寝て過ごすようになった。たくさん寝るようになったから、食べる量も少しずつ減ってきた。最初は具合が悪いのかと思ったけど、僕が心配して顔を覗き込むと、いつも戯れついてきて有耶無耶にされてしまう。ジェイクはお前は心配しなくていいから、といって僕にごはんをくれるけど…実は夜中に彼らが二人だけで話しているのを、こっそり少しだけ聞いてしまった事がある。話している、といっても喋ることが出来るのはジェイクだけだから、ジェイクが喋ってマークがグルルと相槌を打つだけだったけど。その時ジェイクが、すまない…といつもよりずっと弱々しい声でマークに謝っていたのを聞いた時は、何か聞いてはいけないものをきいたような、すごく不安な気持ちになって、僕は2人に近寄る勇気が出なくてそのまま寝たふりをしてしまった。
外の様子もすっかり変わってしまった。こんな事になった最初の頃は、割と頻繁にサイレンの音が鳴っていたのに、今は通りには車は一台も走ってないし、たまに山羊とか馬とか牛とかが歩いている。この前一度だけキリンを見た時は3人してテンションが上がってしまった。きっと変身してしまった人は大変だったと思うけど…ちょっと羨ましかったのは内緒だ。とにかく、もはやこの世界に人間はおらず、みんな動物になってしまったんじゃないか。そんな気がしてならなかった。原因も解決方法も分からないまま、こうして地球は動物の楽園となって…ビリビリビリ…もぐもぐもぐ…
ふと、考え事の合間に動かしていた口に意識が移った。僕は何を食べてたんだっけ?手元を見ると、見るも無惨になった僕の大事なエジプト神話の本があった。
またやっちゃったーーーーーーーー!!!!!!
ダダン!!ダダン!!ダダン!!
悔しくて足ダンが止まらない。最近はこういうことが頻発してしまう。自分を保つために、コレクションの本を引っ張り出して読んでみるけれど、初めはちゃんと読めていた文字が、少しずつぼんやりとしてきた。こうして人間の記憶はちゃんとあるし、ジェイクの言葉も分かるのに。頑張って読もうとしても、すぐに他のことに思考が移ってしまって、無意識に目の前のものを齧ってしまう。本だけじゃなくて、家のあちこちに僕の歯形が残っている。大切な本なら意識を保てると思ったのに…
その時、涙なく泣いていた僕をモフモフの腕が、さらにモフモフしている胸元へと引き寄せた。眠っていたマークを僕が起こしてしまったらしい(そりゃこれだけ近くで足ダンしたら起きるよね)。マークは大きなザラザラした舌で僕のことを舐める。最初はこのグルーミングは僕の中のウサギの部分が怖がってしまい心臓の鼓動が爆発するんじゃないかって速度になってたけれど、今はすっかりリラックスできるようになった。だからきっと僕はまだスティーヴン・グラントだし、ぐるぐると優しそうな音を出しながら僕のことをくまなく舐めてくれるこの猫ちゃんも、僕のこと食べないでいてくれる内は、マーク・スペクターだって信じていていいんだよね…そんな事を考えながら、僕の意識は夢の中へ旅立っていった。
目を覚ますと部屋がすっかり暗くなっていた。またたっぷりと寝てしまった。ウサギって本来こんなに長く寝る生き物じゃないらしい。きっと僕の中の人間の部分が僕の中のウサギよりも勝っているんだな!僕はまだ人間さ!なんて1人で盛り上がっていたけれど、ふと自分を包んでいたモフモフがいない事に気がついた。
こんな時間なのだからジェイクもきっと戻っているはず。耳を澄ませればキッチンの方から2人の気配を感じて安心する。ちょうどお腹も減ってきた。僕は2人の元へ向かった。
真っ暗なキッチンに2人がいた。別に僕とマークは夜目がきくからこの暗さも問題ないけど、ジェイクはなにも見えないんじゃないかな。何をしているんだろう。
足をダンと鳴らして呼べば2人が振り返った。
ん?なんかシルエットに違和感。そしていつもよりもジェイクの匂いをはっきりと感じる。僕を抱き上げたその手は、暖かさを感じる素肌の手だった。
久しぶりに見たプラスチック越しではないジェイクの顔は、優しい笑みを浮かべて僕を見ている。
防護服は??感染しちゃう!!離して!!
やっと思考が追いついたので僕は慌ててジェイクから離れようとしたけれど、より一層強く抱きしめられた。
ウサギの力じゃ到底敵わない。困ってマークに助けを求めても、マークはふるふると首を振るだけだった。
僕が抵抗することをやめたので、ジェイクは腕の力を緩めた。そして僕をまた顔の前まで持ち上げると…
ボフッと僕のお腹に顔を埋めた。
突然のことに固まる僕。ズォーーーーーとお腹に謎の吸引力を感じる。ジェイクが僕のお腹に顔を埋めながら思いっきり匂いを嗅いでいる。いや、吸い込んでいる。肺いっぱいに吸い込んだ後、ぷはぁと息継ぎをしてまた吸い込んでくる。今度はじっくり深く吸って吐いてまた吸って…。
僕はもう一度マークに助けを求めたけれど、そのままにしといてやれ、と生暖かい目で僕たちを見ている。しばらく僕を吸ったジェイクは、最後に唸りながら僕のお腹に顔を擦り付けてから顔を上げた。
「マークも、もう一回だ」
僕を抱っこしたままリビングに歩き出すジェイク。ゲンナリとした顔で付いてくるマークは既に吸われていたようだ。
リビングについた後、ジェイクはひとしきりマークを吸ったあと、今度は僕にたっぷりと頬擦りをしてから、まさにご機嫌!といった具合に、ルンルンとご飯の準備を始めた。
僕はマークにどういう事なのか相談したかったけど、言葉は話せないので、表情を読むしかない。マークはじっとジェイクの後ろ姿を見つめるだけで、そこから何かを読みとるのは難しかった。ただ、不安だけが募る僕を優しく舐めてくれた。
レジャーシートの上にご馳走が並ぶ。野菜は萎れかけ、ラビットフードの量は乏しく、肉はよく茹でられていたけれど、それでもジェイクがかき集めてきてくれたご馳走だ。僕はポリポリとフードを食べる。どんな時だってごはんを食べると喜ぶ体は便利だった。
ジェイクはそんな僕がポリポリと食べている姿を微笑みながら眺めていた。
マークが、器用に牙で切り分けた茹で肉を、ジェイクの前に置いた。突然の事に目を丸くしたジェイクを、マークが促すように見つめる。
「…そうだな。やっとお前たちと一緒に食べられるもんな」
頂くよ、とジェイクは茹で肉を齧る。僕も何か渡したくて…流石にラビットフードは食べられないだろうから、にんじんスティックを咥えてジェイクに差し出した。
「いいのか?お前の好物なのに」
笑いながらジェイクは食べてくれた。それが嬉しくて僕はぷうぷうと鼻を鳴らした。
夕食を食べ終わり、ジェイクはもう必要のなくなった彼のクリーンルームを本来のバスルームに戻し、僕らを詰め込んでシャンプータイムをした。人間的な営みであるはずの入浴は、ウサギとライオンの僕らにはすっかり苦手なものに分類されていて、それでも人間としてのプライドがあるので大暴れしたりなんかしないけど、マークは銅像のように固まってたし、僕は抑えようとしても足ダンが止まなかった。
裸で僕たちを洗うジェイクの背中は、黒いビロードのような毛が広がっていた。腕はもうモフモフで、辛うじて残っている指で僕の顔の周りを丁寧に洗ってくれる。その指がかすかに震えてるのは、変化が怖いのか、水が怖いのかは分からなかった。ただ、優しく撫でてくれるジェイクの手が気持ちよくて、僕はたくさんすりすりをした。
濡れた体を盛大にブルブルしたマークに、せっかくジェイクに拭いてもらった僕はまたびしょびしょになった。足ダンで抗議すれば、ふふんと鼻で笑われる。
一緒にびしょびしょに戻されたジェイクも仕返しだとタオルでマークを捕まえた。力任せにぐわしぐわしと立髪を拭かれてガウガウと文句を言うマーク。僕も負けじと背中でジャンプしてやった。降参だと腹を向けるマークだけど、ジェイクが追い討ちとばかりにこちらもタオルでぐわしぐわしと拭きあげた。追い討ちへの仕返しにマークが大きな腕でジェイクを捕まえた。
もがくジェイクのまだ濡れている頭を、今度はマークがザリザリと舐めはじめた。力の抜けていくジェイクは耳までペタンと寝かして、完全にマークに身を委ねていた。僕もマークによじ登って、ジェイクの顔の近くまでいった。彼の顔に擦り寄ればこっちを向いてくれた。すっかり変化してしまった彼の目は、虹彩の色が淡くなってより一層左の赤目が綺麗に映えている。
ジェイクが、マークを僕ごと強く抱きしめた。
「ーーー」
彼の声は掠れて、もはや人間の言葉は出なかったけど、それにマークと僕はゴロゴロぷうぷうと返した。
翌朝、僕が目を覚ますと、左隣のライオンはまだ大きな寝息を立てていたけれど、右隣の黒豹はもう目を覚ましていて、起きた僕のことを優しく舐めた。僕もお返しに頬擦りをして、寝坊助のライオンはお腹にジャンプして起こした。
さぁ、今日は何して遊ぼうか。