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不満の不満

全体公開 1405文字
2022-08-28 22:11:18
Posted by @uk_plus_



 近頃彼女の態度がおかしい。そのことに越知は悩んでいた。

「月光」
「なんだ」
「ううん、なんでもなーい」

例えば今のように用もないのに名前を呼んできたりするようになったのだ。日にこれを何回も繰り返されては、越知はそんな彼女の態度に首を捻る回数を増やしていた。何か大事な話があるのならばしてほしい。そんなことも言えないまま、越知は悶々とした日々を過ごしていた。

 そして放課後の教室でそれは起きた。越知が荷物をまとめて部活へ赴く準備をしている時だった。自席で座しながら鞄のチャックを閉めた越知にひとつの影が近づく。

「つ~きみつ!」
「どうしー」

肩を叩かれて名前を彼女から呼ばれた越知は、問いながら後ろを向こうとした。しかしそう言い切る前に越知の頬に何か細いものが当たる。ふにりと何かが食い込んだ頬は越知の口元を少しだけ歪めて、越知はそれに呆然とする。それは小さな彼女の細い指で、肩に置かれた手から人差し指だけ持ち上げた状態だったらしい。

なんだ」
「!」
「用があって呼んだんじゃないのか」

頬に指が刺さったままそう言えば、目の前の彼女は何故か驚愕の表情で越知を見つめた。それに越知はますますわからなくなって首をひとつ掻いた。すると彼女は肩に置いた手をぱっと離してふるふると肩を震わせ始める。

「どうした」
「月光はさ
「ああ」
「怒るって感情はないの!?」

そして彼女は越知の両肩に両手を起き、がくがくと揺す振りながら大きな声で聞いてきた。越知は揺す振られながら待ってくれと言い、その長い腕で逆に彼女の左肩に右手を置いてその動きを止めた。

「どういうことだ?」
「だって!月光ってば何しても怒らないんだもの!」
「何をしてもとは

そこで越知は全ての合点がいった。彼女が今までおかしな態度を取っていたのは、越知を怒らせるためだったようだ。

「そういうことだったのか」
「なんか一人で納得してない?」
「お前は怒られたいのか?」
「そうじゃないけど、月光が怒ってるとこ見てみたいの!」

見てみたいと言われてもなと越知が首を捻ると、彼女は俯きながら小さな声で続けた。

「あとさなんか、私に不満とかないのかなって、ちょっと心配で」

あんまりにも怒らないからと漏らされたそんな小さな声に、越知はほっと胸を撫でおろした。自分が想定していたようなことではないと安堵したのだ。

「お前に不満などあるわけないだろう」
「本当に?」
「本当だ」

そして越知は置いたままの右手をさらりと彼女の左頬に沿わせて、口元だけで笑った。

「こんなに可愛らしいお前にひとつも不満などない」
「!?」

越知のそんな行動に顔を真っ赤にさせた彼女は、更に俯きまた肩を震わせたのだった。



――――――――――――――――――――――――――

「おい」

越知はそう言いながら彼女の肩に右手を置いて人差し指だけ持ち上げた。

「なに、つきみちゅ」
っ」
「あ!?今笑った!?今笑ったでしょ月光!」
笑っていない。仕返しだ」



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