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越知月光は見ているだけではなくなった9

全体公開 3 1431文字
2022-08-28 23:06:43

続編

Posted by @uk_plus_



 「そういえばさ」

学校のお昼休み時。自席で弁当を広げていた越知の前に座る小柄な友人が、思い出したように口を開いた。

「越知って彼女になんて呼ばれてるの?」

その質問を聞いた越知は口に運ぼうとしていた卵焼きをぽろりと落として、は?と口から漏らした。

「お行儀が悪いよ」
「すまない質問の意味が
「わからないわけないでしょ」

奇跡的に弁当箱内に落ちた卵焼きをもう一度箸の先それは微かに震えていたようだで捉えてから、越知はそれをゆっくり口に運んだ。そしてしっかり咀嚼し終わってから彼の質問にもう一度答えた。

「越知君、だが
「へぇ越知“君”ねぇ」

そんな越知の返答に小柄な友人は不満そうにオウム返す。その顔はどこか不満そうで、しかし面白がっているようでもあった。

「ねえ」
「なんだ」
「それでいいの?」
「それでいい、とは

 越知は特に現状の彼女との関係性に不満はなかった。この前は満足いくデートが出来たと思っていたし、何よりその時は彼女が楽しそうにしているそれだけで充分だったのだ。
 しかし今目の前にいる友人はそんな越知に何か足りないものを感じているようだった。そしてそれは“名前の呼ばれ方”についてあると踏んでいるらしかった。

「お節介かもしれないけど、なぁんか壁がない?」
「壁、とは

未だもぞもぞとしながら弁当の中身を箸で突いている越知に、目の前の小柄な友人がひとつため息を吐いて人差し指を目の前に指した。

「月光って呼ばせたらいいのに」
っ、げほ、ごほっ」

丁度口に入っていたブロッコリーが喉を通る直前だったようで、越知はひとつふたつと大きく咳き込んだ。咽た喉元を落ち着けるためにどんどんと右手で二三度胸元を叩き、ペットボトルの飲み物を飲んでから越知はふうと一息つく。そして小柄な友人の人差し指をやんわりどけてから、口を開いた。

「呼ばせるとはどういうことだ」
「言えばいいんだよ、下の名前で呼んでくれって」
「それは

柔らかい雰囲気を持ちながらも、この小柄な友人はしっかりと発言をするタイプであることは越知はよくわかっていた。しかしこうもはっきり言われてしまうとやはり戸惑いが勝ってしまう。
 だが下の名前で呼ばれることに越知自身も嬉しくないわけではなかった。今目の前にいる友人に言われて脳裏を過った彼女の口元と、そしてそこから発せられる己の名前には耐え難い甘美がたしかにあったのだ。もしその口から望んだ音を溢してくれたら
 そこまで考えて越知は頭をぶんぶんと左右に振った。

「それは、彼女のタイミングだろう」
「えー今がその時だと思うんだけどなぁ」

だらだらと不満げに言う友人にため息を吐いて、越知は弁当箱の蓋を閉めた。かちゃりと嵌る音が、脳内で考えた薄ピンクの思考を落としてくれたようだ。

「とにかく、次の目標は決まったね」
お前は楽しんでるだろう」

まるで天使のように笑顔を作る小柄な友人にげんなりしながら、越知は首を掻いた。また越知にひとつ悩みの種が出来てしまった。これが芽吹いてしまうのはまた別のお話だ。




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