ディカイオスの天秤 第5話
■1/オープニング
⚖第5話 きみのドキュメンタリー
■2/柚葉・丹所・薬師寺

「あはは、すごい仰々しいの作られてる~」
丹所と柚葉はモニターを覗き、笑みをこぼす。
こんなとこも撮られてたんだ、ここの誰々がかっこいいね、なんて話をしながら2人は楽しそうにそれを見ていた。
「メディアの取材なんて緊張したけど、いい経験だったなぁ
…」
「美杜さんの眉間がずーっとこんなになってましたけど」
そう言いながら丹所はぐぐ~っと眉間に皺を寄せて険しい顔をする。
丹所が普段見せないような表情で、何だか微笑ましく思えた。
「ふふ、うちは及川さんがあたふたしてた」
「ははっ、何か想像つきます」
昼下がり、小休憩がてら2人はお茶とお菓子をつまみつつ、先程届いた動画を見ていた。
それは先日に撮影されたGRIMOIREの密着番組のデモテープで、完成品が放映前 ひと足お先に届いたのだった。
番組自体は結構有名なもので、職人や業界人など働き手のリアルな様子をとり上げているものだ。
元は一課の異能力犯係の密着だったのだが、刑事が顔を晒すのはデメリットの方が多いということで、スケープゴートに選ばれたのはGRIMOIREだった。
どうやら上の判断的にGRIMOIREというのは如何なる危険にあおうがお構いなしなのだろう。
新設の部署、優秀な人材を集めている試験的な課、異能力者とボーダーの架け橋のようなチームなど様々耳触りの良い言葉で番組側を丸め込み、そのままGRIMOIREへと丸投げしてきたのだった。
勿論一部のメンバーはいい顔をするはずもなく
……。
しかし、上からよろしく言われている局長は事態を全て穏便に、かつ丸く収めてそこそこの成果を出さねばならぬということで奔走させられる羽目となった。
メンバーたちの言動のフォローに回る姿は、GRIMOIRE設立以来随一の機敏さを見せていたかのように思う。
そんな様子も思い出しつつ、2人はモニターに流れる映像を楽しげに見つめていた。
「楽しそ~ね、おふたりさん」
「! 薬師寺さん」
唐突に現れた薬師寺は後ろから柚葉の頬をつつく。
驚いて振り返る柚葉と目があうと、彼女は無邪気な少女の様に微笑んだ。
「薬師寺さん、お疲れ様です」
「はろはろ~
……何見てるのかと思ったら、この間のやつね」
2人の見ていたモニターを薬師寺もちらりと確認する。
画面の中では、訓練場でメディア用のデモンストレーションに鈴丸が派手な技を繰り出している。あのメンバーの中じゃ異能力者として対応が柔らかいのは彼くらいだった。
「ここの鈴丸さんカッコイイなぁ」
「美杜さんは呆れてましたけどね~、大道芸じゃないんだからって」
「まぁでも、こうやって鈴丸くんが相手してくれてたから他の子が追っかけ回されずに済んだってのはあるけどね」
無能力者 からすれば異能力者の異能力というものは未知なるもので、根掘り葉掘りあれこれといらないことまで探りたくなるものだ。結構な失礼に対しても鈴丸だけは緩やかに終始和やかに接していた。
燃々焼や美杜なんかは論外で、クルーが近付こうものなら睨みをきかせたり近付くなオーラを出したりと、ヒヤヒヤさせられる場面が多々発生して周囲をドギマギさせたものだ。
「って、のんびりしてる場合じゃなかった。及川くんは今どこに?」
モニターを眺めていた薬師寺がハッとする。
「及川さんなら燃々焼さんと訓練場の方に行ってましたよ」
柚葉が答えるのに「あの2人は頑張り屋さんですからね~」と丹所が付け加えた。
「そっか、ありがとう。そっちの方行ってみるわ。もしも私が出た後に戻ってきたら、薬師寺さんが探してたって伝えておいてちょうだい」
「はい、わかりました」
小走りに去っていく薬師寺の背中に柚葉と丹所はのんびり敬礼する。
背中を見送った後に、柚葉が「あ
…」と小さく声をもらした。丹所が敬礼したまま首を傾げると、柚葉は少し悲しげに目を伏せる。
「佐藤くんの転院先、聞こうと思ってたんだけど
……」
「忙しそうですし、また今度ですかね」
「うん、元気になってるといいな
……」
寂しそうな柚葉を見つめ、丹所はいつも通り気安く柚葉の頭をポンポンと軽く撫でた。

◆side:柚葉 優
─自己紹介をお願いします
「柚葉優です。自分で言うのもなんですが、素直さが取り柄だと思っています」
インタビュアーに向かって言葉通り素直そうに微笑みかける柚葉。
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「皆さん個性が強くて面白い方ばかりです。あの中にいると僕は埋もれてしまいますが、縁の下の力持ちを目指して皆さんをサポートしていきたいと思います!」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「鳳条さんとは親戚で、学生の頃からお世話になっています。今日もお昼をご一緒させてもらおうかなと思っています」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「ジムに通ったり、映画を見たり
……余裕がある時は近場で旅行をしたりすることもありますね。広く浅く趣味を持っています」
しばし近場の観光地についてインタビュアーと話が盛り上がるが、カットされて本題の方へと戻ってくる。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「オムライスです! 自分でもよく作ります」
─許せないものはありますか?
「努力を怠ることでしょうか。過度に求めているわけではありませんが、努力している姿は人を輝せると思います。自分自身のことに限って言えば、私生活を疎かにすることが好きでは無いです。仕事が忙しくとも両立していきたいですね」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「何でしょう
……」と呟き、しばし悩む柚葉。
「強いてあげるなら、小さい頃初めて見たアクション映画でしょうか。皆を救う絶対的なヒーローに心臓を鷲掴みにされました」
輝く瞳がインタビュアーを真っ直ぐ見つめている。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「GRIMOIREの皆さんともっと仲良くなりたいです! あともう少し身長を伸ばしたいです」
柚葉の言葉にスタッフも思わず笑ってしまい小さく笑い声が入る。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「もちろん人としての正しさが一番ですが、僕の永遠の夢として『人を惹きつけるヒーロー』があります。ワクワクさせてくれる存在はまさしく『正義』ですね」
そう言って柚葉は瑞々しく笑った。

◆side:丹所 暖人
─自己紹介をお願いします
「丹所暖人です。よろしくお願いしま~す」
早速インタビュアーに名前を聞いたり話を広げたりで脱線している様子が続く。
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「頼もしいメンバーですよ。あ、お菓子食べます? 頂き物なんですが」
スタッフとお茶し始める。インタビューはそのまま続くようだ。
─プライベートでは何をなさっていますか?
「特別な事は何も」
そう答えた後、逆に丹所が質問し何故かインタビュアーのプライベートの話が広がっていく。
どちらがインタビューしているのか曖昧になっていく
…。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「肉~」
焼肉っていいよね、から好きな肉の部位で盛り上がる。
そのままスタッフと今度焼肉に行こうという約束まで取り付けていた。
─許せないものはありますか?
「人や物を大切にしないこと」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「なんかあったっけ~」と、しばし考えるが全然違う話題を口にし始め、スタッフもその会話にのって盛り上がってしまう。
しばらくしてようやく本題へと戻る。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「特にないです。平々凡々と生きていけたらいいなと思います。今みたいな日が続いて、ちょっと変わったり変わらなかったり
…平和が一番ですよね」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「自分を守るためのもの、です」
最後の回答だけ丹所はインタビュアーやカメラから視線を外して、どこか遠くを見つめていた。
■3/木端・桐野・白鳥

「桐野くん、すまないがあっちの棚も確認してもらっていいかい?」
「はい。あ、木端さん、防犯カメラの映像なんですが回してもらえるそうです」
「ありがとう、助かるよ」
木端と桐野は資料室を忙しなく動き回っていた。
ファイルを手に取りながら、桐野は棚越しに木端を覗う。
ルビーを思わせる美しいロングヘアが一転してバッサリと切られていた時は驚いたものだが、本人は案外平気そうである。
こちらの班が大捕物をしている間、あちらの班もかなり苦しい状況になっていたらしい。
急にヘアスタイルの変わった彼女もだが、フルフェイスで異色だった彼女もその素顔を露わにしていたりと、かなりの変化があった。
聞いた話によれば足が切断されたり、死闘があったり。こちらに戻ってきた際には、もはや緊急搬送の様相だった。
異能力者というのはどうしてこうも死に急いでいる様な行動が多いのだろうか
……呆れるような憂うような、ないまぜの感情を細いため息と共に吐き出した時、不意に木端と目が合った。桐野の視線を敏感に感じ取ったらしい。
焦ることもなく桐野はいつも通り微笑むと、木端もつられて若干微笑む。
「今更ながらヘアスタイルを褒めても?」
「何だいその聞き方。褒めてくれるのなら勿論受け付けるさ」
「聞き及んだところ、望んでの散髪ではなかったようなので」
「
……あぁ
…」
なるほど、と視線を落とす木端。
このどこか掴めない後輩は自分の心配をしてくれたのかもしれないと思い、顔を下げたままこっそり笑う。
すっかり短くなってしまった髪、まだ少し違和感はあるけどバッサリいった分 軽くなった。
「でもね、悪い気分ではないよ」
未だ昨日のことかのように思い出せる事件の様々を巡らせながら、木端は顔を上げて桐野にニッと歯を見せて笑った。
「
……ショートも良くお似合いですよ」
桐野は静かに微笑んだ。
──唐突に派手な音を立てて扉が開かれると同時に資料室に声が響き渡る。
「おい、GRIMOIRE!!」
声の主
……白鳥はいつもの不機嫌な様子で立っていた。
白鳥は木端の姿を見つけると大股でそちらにずんずんと近寄り、机に分厚いファイルを1つ叩きつける。
「孤児院の資料だ。ありがたく目を通せ!」
約30cmほど上から睨みつけてくる男に対し、木端は臆することなくその瞳を見つめ返した。
「仕事が早くて助かるよ。ありがとう」
「当然だ! 貴様らとは出来が違うのでな」
木端の視線にフン!とそっぽを向く白鳥。
そんなやり取りの中、桐野も資料棚から戻って2人に合流した。にこやかな桐野の顔を見て、白鳥は余計に眉間の皺を深くする。
「白鳥さん、お疲れ様です」
桐野の挨拶に「
…ご苦労」と小さく返し、また視線をそらす。
白鳥は不機嫌を露わにしたまま腕を組み、周囲を見渡し人の気配を探ると、いつものよく通る大声を低く落としながら口を開いた。
「連続爆破事件の被疑者は面会謝絶、M2の件も組対5課担当になるかと思えばGRIMOIREの案件になった挙げ句にこちらも被疑者は面会謝絶
……それに加えて天野かごめの即日執行。どう考えてもイレギュラーが過ぎる」
佐藤の件に関しては本人の心身の問題なのかもしれないし、M2については『ソロモンの鍵』に関係するかもしれないということでGRIMOIREに話が回ってきてしまったのだ
…と言い返す余地はあるにはあったが、連続して被疑者が面会謝絶にされている上に、天野の有無を言わさぬ即日の執行は流石に違和感を覚えるものだった。
何かが起きているのかもしれないと思い当たるのも当然なのかもしれない。
木端は苦い表情を浮かべる。自分にだってわからないのだ。上の指示だからと被疑者を早々に連れて行かれ、何の報せもないまま事後報告だけ受けているのだから。
一方で、机に叩きつけられたファイルを指先で触れながら、桐野はM2の彼の輪郭を思い起こしていた。
彼の出身とされる孤児院の資料、次の調査対象だ。これも上からの指示であり、『ソロモンの鍵』に関係するかもしれない案件らしい。
黙ったままの2人に白鳥は真っ直ぐ向き合い、力強い瞳で率直に問うた。
「GRIMOIRE、貴様らは何をしている。何をさせられている」

◆side:木端 香
─自己紹介をお願いします
「木端香、GRIMOIRE所属の警察官です」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「私の班はみんな優秀ですよ。本当に、いつも助けられています」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「1人で旅行に行ったり、庭の手入れをしたり
…ですかね?」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「漬物が好きですね。ばばくさいと思うでしょう?」
いえいえそんな、とインタビュアーが否定する。その様子を若干からかう様に笑う木端。
─許せないものはありますか?
「理不尽な暴力です」
理不尽な上に暴力ですからね、二重で悪いことじゃないですか?と冗談めかして笑う。
その姿は、少し表現を軽くしようとしているようにも感じられた。
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「後輩の成長かなぁ」
思い出すかのように目を伏せる木端。瞳が優しい。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「私は異能力者なので、異能力をもっと有効に使えるようになることですかね」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「守ることです」
木端はインタビュアーを真っ直ぐに見つめ、そうはっきり口にした。

◆side:桐野 藍
─自己紹介をお願いします
「桐野藍と申します。まだまだ新米ですが、諸先輩方を見習って精進しております。私は身長が高いということ以外にあまり特徴が無いので、面白みには欠けると思いますがよろしくお願い致します」
インタビュアーからしばらく身長いじりが入るが、桐野は嫌な顔ひとつせずに付き合っている。
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「一緒に居て楽しい気持ちになれるメンバーだと思っております。本人たちには言いたくありませんが、自慢のトリオですよ」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「恥ずかしながら私はあまり交友関係が広くないのですが、GRIMOIREメンバー内で親しいと言えるのは大鷹さんですね。彼は高校時代の同級生で、私がこの道に進む後押しをしてくれた人物でもあります。何の巡り合わせか、彼と同じ班に所属しているので長い付き合いになります」
スラスラと決められたセリフかのように、そう口にする。
「私の所属している班には、私と大鷹さんの他に燃々焼さんという方がいらっしゃるのですが、その方も親しみやすいお人柄ですよ。といっても、最近気付けたことですし事件がきっかけなので、あまり声を大にしては言えませんが
……」
わかりやすく困ったように笑う桐野。ドキュメンタリー番組のインタビュー映像として理想的な間のとり方や喋り方を続けてくれる。
「ともあれ、班のメンバーはとても立派で尊敬できる方たちですね。私はとても恵まれた環境に身を置かせていただいています」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「月並みですが読書をしていることが多いですね。あとはため込んだ家事をしていることが大抵です。ついつい洗濯を後回しにしてしまうんですよね」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「甘い物であればなんでも好きですよ。昔から燃費が悪いのであればあるだけ食べますが、甘い物だと嬉しいですね。駄菓子に千円以上かけられるのは大人の特権でしょうね」
甘い物がお好きなんて意外ですね、なんて雑談が続く。
─許せないものはありますか?
「特にありませんね。ただGRIMOIREに所属する身として、ルールを破る者は許すべきではないと考えていますが、それは倫理的な話ですしね。そういった点で、強いて言うなら、公正でないものは苦手かもしれません。それでも感情的に強く許せないと思うことは稀だと思います」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「やはり両親との思い出でしょうか。両親共に他界してしまっているので、幸せだった記憶は忘れられませんね。それに忘れてはならないものだと思っています。私が愛している両親があって、今の私がありますからね。親不孝だった私が今 両親にできることは、両親から与えられたものを大切にしていくことだと思っております」
そう言って優しげに微笑む桐野。
インタビュアーも思わず「素敵ですね
…」と呟く。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「一警察官として、不幸だと感じる人がひとりでも減ってほしいと願っております。ですから皆さまに沢山頼っていただけると嬉しいです。ある種他力本願な『叶えたいこと』ですね」
それから少し考えて、「個人的には積読を消化したいくらいとか観光しに行きたいくらいのことしか思いつきません」と苦笑した。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「私にとっては規則の遵守、また平等性と公平性の両立でしょうか。誰もが生きやすいを目指すことが正義だと考えています」
「でも」と言葉を区切ると、桐野は手元へ視線を落とす。
「正義も一義的なものでは無い上、変容するものだと思っておりますので、これから『私にとっての正義』の定義も少しずつ変わっていくでしょうから明言はできません」
指と指を絡ませながら、彼は静かに目を閉じた。
■4/燃々焼・及川

広い訓練場の一角で静坐瞑想を行う2人。
周囲は異能力の使用や会話や叫び声などで騒々しいのだが、2人の周囲だけは音をなくしたかのように静かだった。
最初の頃は注意されるばかりだった及川も、今では燃々焼からの注意も減ってきている。
そんな及川は静かに目を開け、ぼんやりと周囲を見ながら1つの疑問に到達する。
(──燃々焼さん、私のこと誰だかわかってるのでしょうか
…っ?!)
復帰当日から顔出しのスタイルになった及川は周囲に様々声をかけられる事態になったのだが、燃々焼からは何も言われていない。
それどころか、「訓練場にご一緒してもいいですか?」と尋ねた当日のファーストコンタクトで顔を見た燃々焼は「好きにせえ」としか返してこなかったのだ。
わざわざ「私のこと、誰だかわかります?」「及川、顔出し始めました~!」なんて言えるはずもなく、何も言えないまま及川はすごすごとついて行き、現在に至るのだった。
「おい」
「は、はい
…っ!」
反射的に返事をして燃々焼の方へぐるりと顔を向ける及川。及川の百面相を鬱陶しそうに睨む燃々焼と目があった。
「
……そん程度で切らすな」
呆れつつも のっそり立ち上がり、燃々焼は焚き火用の薪を組み始める。普段の言動に反して几帳面にそれらは組み上がっていく。
「あ、あ
…あの
……」
「なんや」
燃々焼が及川をじっと睨みつける。そして及川はじっと燃々焼を見つめる。
……妙な間が空く。互いに無言。見つめ合うばかり。
「
……いえ、何でも、ないです
……ありがとうございます
……」
聞けない! 自分のこと誰だかわかりますか? なんて失礼な質問!!
心の中で頭を抱えて暴れまわる及川。思わず表情も引きつってしまう。
再び調息すべくゆっくりと鼻から息を吸うが、もやもやと雑念が湧いてはぐるぐる巡っていた。
頭を巡る雑念はそのまま及川の顔、表情に表れる。百面相に拍車がかかり、もはやもがき苦しんでいるかのようになっている及川。
「及川」
「はいっ!
…………は、い?」
「集中せんのなら去ね。邪魔じゃ」
「あ
……え
……あの
…す、すみません
………ちゃんとしましゅ
…」
己が言葉を噛んだことも頭に入らず、及川は驚きの表情を燃々焼に向ける。
私のことわかってた
……何で? どうして? 顔、見たことない相手なのに普通に接してた? 何で私のこと私だってわかったんですかー?! というか、初めて名前呼ばれた?!
「きさん、やっぱい帰れ」
目を閉じたままもう放っておくことにした燃々焼。及川の大声謝罪が訓練場に響いた。

◆side:燃々焼 十焔
今までインタビュー形式だったのに、何故か彼のシーンになると文字と映像のみとなっている。
─自己紹介をお願いします
燃々焼十焔と申します。
─班のメンバーについてどう思っていますか?また、GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
仕事熱心な方々だと思います。
皆さん良くしてくださいます。
─プライベートでは何をなさっていますか?
GRIMOIREの方々と食事に行くことはあります。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
栄養バランスのとれた和食を好んでおります。
─許せないものはありますか?
特にありません。犯罪は許せないものに該当するかと思いますが、犯罪者の過ちを正しい方向へ導くのも我々の仕事であると感じております。
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
GRIMOIREの皆さんと出会えた事です。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
少しでも犯罪が減り、市民の皆さまが安心して暮らせる社会になるようこれからも精進致します。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
自分が正しいと思うことを、最後まで貫くことだと思っております。

◆side:及川 鈴子
─自己紹介をお願いします
「えっと、はい。
…グリモア所属の及川鈴子と申します。ええと、自分は異能力者で能力は『放電』と言いまして、はい、雷系ですね」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「班のメンバーについてですか? そうですね
……班の皆さんは本当に優しい人たちです。あっ! GRIMOIREの皆さんは全員優しい人たちばかりですから
…! 自分の班だけじゃないです、けど
……荒船さんは本当に頼りになって、自分が一番信頼している先輩です。あと、頼もしすぎてなんだか兄が出来たような
……そんな気持ちになる時はありますね」
照れ笑いを浮かべる及川。赤くなった頬をおさえながら言葉を続ける。
「ええと、それで柚葉さんはまっすぐで明るくて、なんだかお日様のような方だと思っています。見た目で判断せず、被疑者の事もよく気にかけてらっしゃいますし
……自分の事もよく気にかけてくれて、本当に良い先輩です」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「GRIMOIRE内での親しい人
……ですか? そう、ですねぇ
……ん、こんな自分にも皆さん優しくて良い人達ですよ。だから親しいと言っていいのか分かりませんが、自分はGRIMOIREの皆さんが
……大好きです」
そう言って及川は はにかんでいる。
─プライベートでは何をなさっていますか?
「プライベートは主に自主トレーニングをしたり、家で大人しくしてますね」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「好きな食べ物は安直ですが焼き魚
…ですかね? 秋に食べる脂ののった秋刀魚なんかが特に好きです」
─許せないものはありますか?
「
……人を故意に傷つけようとするのは許せないかも
…しれません。許せないというよりは自分に分からないからかもしれませんが。
そういう意味でなら、自分は
…………警察官として正しいか分かりませんが、大切な人達が傷付けられるのは許せないと思います」
先程までとは打って変わって少し沈んだような表情を見せる。
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「
………先日、現場で相対した異能力者との出来事はたぶん、一生忘れられない事だと思います」
腕擦りながら苦笑いする及川。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「自分はまだまだ至らない事も多く、これからもたくさん先輩方に迷惑や足を引っ張ることもあると思います。
…だから、少しでも早く皆さんの足を引っ張らず、一人前の警察官になりたいですね
……それが自分が叶えたい事、です
…かね?」
言っている内に段々照れてきたのか頬が赤くなっていく。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「自分にとっての正義は
……人を助けること、だと思っています。それが異能力を持って生まれた自分が唯一胸を張ってやれる事だと思いますから」
新人刑事はそう言って拳を握った。
■5/美杜・荒船

射撃訓練場、銃声が響き、余韻を残して静かになった。
「3発命中。上出来だ」
「
……全弾じゃなきゃ意味ないわ」
美杜が不服そうな顔でゴーグルを外す。
「いざという時に当たらないのなら、何の意味もないもの」
そう呟く美杜を見て、荒船は表情を崩すことなく再度手元の記録用紙にペンを走らせる。
「
…銃を腕の力で固定しようと思わない方がいい。力むと呼吸も乱れがちになる。そうなると狙いがブレてしまう」
先程まで美杜が撃った記録を見ながら、荒船は淡々と続ける。
「右にズレがちだな。無意識に右腕に力が入っているんだろう。脱力を心がけつつ、呼吸も意識するといい。射撃と呼吸は密接に関係する」
「
……わかった」
荒船が手元から目線を上げると、こちらをじっと見つめている美杜と目が合う。美杜は少し慌てた様子で視線を外して、手元の片付けへと戻った。
何か聞きたいことでもあったのだろうか、と小さく首を傾げつつ、荒船も記録用紙や周囲の片付けに手を動かす。
「美杜、質問してもいいか」
「
……答えられることなら」
「何故射撃を?」
その質問に美杜はバッと顔を上げ、眉を寄せる。
「その質問は私が貴方に射撃訓練を頼んだ時にするものじゃないの?」
「
……そうかもしれないが、理由があるのだろうと思って。後に聞いた方が効率的かと」
呆れたように美杜はため息をつく。
しばし視線を彷徨わせた後、美杜は素直に口を開いた。
「
……私の異能力は限界がある。無尽蔵に生み出せるようなタイプじゃない。だからいざという時のためのもう1つの武器が欲しい。それだけ」
「賢明な判断だが、お前はセーブせずに無茶するだろう」
「なっ
……!!」
貴方に言われたくないわ!と美杜はジトリと荒船を睨む。一方の荒船はそんな視線を受けても気にした様子はなく、実体験したからな、とサラリと図星を突いた。ぐぐっと美杜は歯噛みする。
「仲間を守りたい気持ちは理解できるが、お前が傷つくのなら それは褒められたことではない」
「それも貴方に言われたくないわ」
美杜はあの雨の日を思い出し、苦々しくそう言った。
あの事件は各々に大きなものを残していった。
恐怖、成長、損傷、トラウマ
……それぞれだ。それほどまでに大きな出来事だった。
その1人である荒船の背中には、落雷を受けた痕が刻まれている。樹枝状に分岐した赤紫色の模様。
病院でその背中を見た時、美杜は息を呑んだ。
あの場に居た異能力者は自分だけで、自分がもっと強ければ誰も傷つかずに済んだのではないか、そう自分を責めずにはいられなかった。
新人だからなんて言い訳は現場で通用しない。全ては己の力不足。
"あの時"から何も成長していない。"あの光景"はいつまでも自分の中にあって、いつだって同じようなことが起きる可能性がある。
守りたい。強くなりたい。誰も、傷つけたくない。
「美杜」
名前を呼ばれてハッとする。
「どうして無茶をする」
「してないわ」
「している。見ている側はそう思うだろう。少なくとも俺はそう感じている」
言いながら荒船は美杜の肩に触れる。
細い肩だ。こんなにも華奢な身体で彼女は何を抱えているのだろうか。
「何かあったのなら話してくれ」
真っ直ぐこちらを見てくる荒船を見つめ返しながら、美杜は口を開くが、悩みながらまた口をつぐんだ。
「
……今度にしてちょうだい。こんなところでは話したくない」
「そうか、わかった。唐突にすまなかった」
「
…………そろそろ離して」
「あぁ」
美杜に言われて、荒船は肩から手を離す。
「話は変わるんだが」
「
…今度は何」
「先日から、しばらく考えているんだがわからないことがある」
「はぁ
……」
またどんなトンチキなことを言われるのかと美杜は身構えつつジトリと睨む。
荒船はまた真っ直ぐに美杜を見つめた。
「先の事件からお前のことをよく考えるようになった。それからお前のことを大事に思うんだが、なんでだろうか?」
「──っ、何言ってるのよ貴方!?!?」
「
……何か変なことを言ったか?」
顔を真っ赤にした美杜が行き場のない感情を拳に乗せて、荒船の胸をポカポカ叩いた。

◆side:美杜 暁
─自己紹介をお願いします
「GRIMOIRE所属、美杜暁」
一切カメラもインタビュアーも見ようとしない美杜。
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「特に何も。仕事仲間で同僚、ただそれだけよ」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「あえて話せるような特別なことは何もない。普通に生活しているわ」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「異能力の都合上、血液を造る食品を多く摂るようにしている。強いて言えばレバーが好き」
─許せないものはありますか?
「許せないものの1つや2つ、誰だってあると思うけど。人間なんだから」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「
……特に何も」
少し言い淀んだ様子。目を伏せている。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「特に何も」
即答でバッサリ切り捨てる美杜。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「誰もが等しく平等であること」
そう答えた後、若干眉を寄せる。
「抽象的すぎて何が聞きたいのかわからないけれど、正義という言葉を人として正しい行いだと解釈するならば、平等こそが正しい道理だと私は思う」
最後までカメラに目線をやることは一度もなかった。

◆side:荒船 正太郎
─自己紹介をお願いします
「荒船正太郎、ボーダーです。よろしく」
─班のメンバーについてどう思っていますか? また、GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「自分の班は後輩ばかりですが、それでも2人ともよくやってくれていると思います。周りをよく見て支えてくれたり、最近では一段と成長した姿を見せてもらえました。とても頼りになる班員たちです。GRIMOIREメンバーについてはみな同僚として親しいと思っています」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「特にこれと言って趣味がないので、プライベートでも体力づくりのためのトレーニングに励んでいます。あとは、そうですね。学生時代に弓道をかじっていたので道場に足を運ぶこともあります」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「体力仕事なのでやはり食事は重要だと思います。好きな食べ物ですか? やはり白米を食べると元気になりますね」
─許せないものはありますか?
「人が無暗に傷つけられてしまうことはやはり見過ごせませんし、許せないと考えています。刑事ですからね」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「
……詳しくはお答えできませんが、この仕事を始めてから忘れてはいけない物が増えました」
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「叶えたいこととは少し違うかもしれませんが、GRIMOIREが有用な課であると実証していければと考えています。異能力者もボーダーも関係なく、犯罪に立ち向かっていることを知ってもらうためにも」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「傷ついている人や困っている人を決して見捨てないことです。当たり前のことですが、自分にとってはこれが正義だと考えています」
淡々と、しかししっかりと前を見据えて荒船は答えた。
■6/鈴丸・大鷹

「大切な人が殺されそうな時、自分の手に銃を持ってたらどうする?」
空っぽになったジョッキをテーブルに置きながら鈴丸は笑いかける。
大鷹は隠すこともなく呆れた顔を鈴丸に向けてから、居酒屋には不似合いな重たいため息を吐いた。
まだジョッキ半分残っているビールを流し込んで、大鷹はクソ真面目にそのクソみたいな問いに答える。
「撃つかもしれませんね」
睨んでいるのかと思うほどの真顔。
鈴丸はその顔を見て、満足そうに微笑む。
「ほら、人の感情を前に法の拘束力なんて意味ないよ。言い方悪いけどさ、法を犯すことが仕方ない時もあるんじゃない?」
「人を殺した相手が自ずと社会の枠組みから外れた以上、その相手に法は適用されないと判断した上で、です」
「お姉さ~ん、生おかわり~!!」
「話聞いてます?!」
ダンッとジョッキをテーブルに叩きつける大鷹を見て、酔っているのか鈴丸は爆笑する。
「あははは! ごめんごめん
……あはは、そうだよね、そういう奴に正当な手段で立ち向かうのは馬鹿のすることだ」
未だクスクス笑っている鈴丸を大鷹は少し気味悪がった。口調や声色こそ明るいが、話している内容が内容だ。
鈴丸のまだ見ぬ側面のようなものを見たような気がして、今まで見ていた彼とのギャップに少しの戸惑いを覚えた。
しばし面白がっていた鈴丸だったが、笑いを収めるといつもの人好きしそうな柔い表情を見せる。
「うーん、でもその理論で行くと法を犯すことは悪で、殺人そのものは悪じゃないんだ?」
相変わらず話している内容は表情とあっていない。
「勿論正当防衛みたいなケースはあるから一概に悪いとは言えないけど
……荘次郎は悪人を断罪するために法律を都合のいい隠れ蓑にしてないかい?」
「揚げ足取りはしないでください。悪人を死罪にするのと同じです、犯罪者の責任の取り方を言いたいんです」
ムッとして大鷹の語気が強くなっていく。
「同じ事をしたなら同じ事をされるのが最も原則的な責任の取り方だと思います。そういう貴方だって、殺すべきだと思っているから聞いたんじゃないんですか?」
「うーん、どうだろうね?」
おかわりの生ビールのジョッキを握りながら鈴丸は曖昧に微笑む。
「悪を裁くのは司法であって警察ではないだろ? ましてや責任の取らせ方を決めるなんて驕りもいいところだよ。君が大好きな法律には酌量減軽っていう言葉もあるけど、その辺は無視するんだね」
口調こそ柔らかだが、言葉の切っ先が大鷹の喉元に突きつけられている。
「俺から言わせてもらえばあんなの米印の補足程度です。皆が当然至極守ってきたルールを犯す奴が、社会で生かされていいわけありますか? なら法は何のためにあるって言うんですか。可哀想だから多めに見てあげて? そんな甘い話ですか? 法を犯した事実を棚にあげて?」
睨みつける大鷹の視線を無視するように鈴丸は大げさに「あぁ、いやさぁ」と言葉を区切りながら、穏やかで温度のない瞳を大鷹に向けた。
「俺は矛盾してない?っていうのを言いたいだけだから、責任云々で人間を殺すのは反対しないよ。君が満足するならやればいいんじゃないかな」
やってることはただの私情による人殺しだけどね、と穏やかに言い放つ。
大鷹は奥歯を噛み締め、少し長めに瞬きの時間を取った。自分が感情的になっているのがわかるけれども、抑え方がわからない。
「私情でしょうか。貴方だって物を買う時に対価を払うでしょ、同じですよ。因果応報っていうただの普遍的な道理を通したいんですよ」
なるべく冷静に聞こえるよう声色を落ち着ける。
そんな大鷹を馬鹿にするかのように鈴丸はにこにこ笑っていた。いや、本人にそのような意図はないのかもしれないが、端から見れば異様な光景であることに違いはない。
本心なのか、それとも酔っているせいなのかもわからない真面目でふざけた内容。
大鷹は再度大きなため息を吐いて、努めて冷静な表情を作る。
「
……法の問題点を考えるのはいいですが、貴方が必要だと言うなら俺も考えてみます。でもそれは犯罪者の為ですか? 被害者の為ですか?」
「どっちだと思う?」
「質問しているのは俺です」
至極真面目な大鷹の様子に鈴丸はまた声を上げて笑う。
この笑いに関しては誤魔化しだな、と察して大鷹はジロリと鈴丸を睨んだ。
「被害者を増やさない法の問題点であればいいですが、犯罪者を擁護する為のものなら俺はできませんよ。結局、人を二分するのは現時点の法です。だからどんな謂れがあれ、法を犯した事実を軽視するのは許されない、許されてはいけないんです!」
「うんうん、そーだねー」
「はぁ
……仮に貴方が犯罪者の中にも救われるべき対象がいると思っているなら言いますが、罪を罰されないままの方が苦行ですよ」
大鷹がそう言うと、途端に鈴丸の表情が消えた。ふっと明かりを消したかのように一切の感情を感じさせない。
鈴丸の様子に大鷹はいよいよ不快にも近い感情を抱いた。
正確には"わからなくて気持ち悪い"だろうけど、それを"不快"だと表現するのが一番率直だった。
真顔の鈴丸は作業のように大鷹の目を見て、ただ淡々と口を開く。
表情通りの感情を感じさせない音だった。
「ねえ、例えばの話だけどさ、もし俺が法では裁けないようなどうしようもない悪人だったらどうする? 殺す?」

◆side:大鷹 荘次郎
─自己紹介をお願いします
「大鷹です。下の名前を荘次郎といいます。GRIMOIREに所属する前は捜査一課に所属していました」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「良くも悪くも個性的だと思います。異能力者とボーダーの隔てなく任務についていますから自由というか、各々がマイペースに任に当たっている様に感じます」
書類作業をしながら大鷹は淡々と答える。
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「
……元々同じ学校に通っていたとあって、班員の桐野くんとはよく交流をとらせてもらっていますね」
─プライベートでは何をなさっていますか?
「何をしているか
…申し訳ない、業務体制を疑われるような答えしか思いつかなくて。結局はオフでも仕事ばかりしています。でもこれは私の意思ですから。仕事にしか生き甲斐を見出せない人間の性ですよ」
そう言いながら大鷹はパソコンに向かい、キーボードを叩いている。手を休める様子はない。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「うーん
……好きな食べ物
………ああ、最近ハマってるのはラム肉ですかね。ラムチョップとかハチノスとか
…ぐらいでしょうか」
─許せないものはありますか?
「そんなの、沢山ありますよ。まあでも一番は道理の通らない事ですかね。善良が救われ不良が罰される、そんな普遍的なものすら罷り通らない事柄があるとすれば、それが一番許せないです」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「この歳なので色んな思い出がありますが、念願の刑事になった日のことはよく覚えています。ガキの頃は馬鹿をしていた身ですから、夢が現実になった日はすごく嬉しくて、その後押しをしてくれた友人や前を向かせてくれた恩人にはとても感謝したものです。
…もう何年も前の話です」
大鷹の作業の手がこの時だけは一瞬止まった。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「特にありません。ただ私なりの役目を全う出来ればいいと思っています」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「正義とは、善人が理不尽に直面しない為に存在するものだと私は捉えています。その為に法があり、その法に則れない悪は二度と気の迷いを起こさぬよう完膚無きまでに潰す事が正義の実現だと思います」

◆side:鈴丸 誓
─自己紹介をお願いします
「鈴丸誓です。よろしくお願いします!」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「2人とも頼りになる人だと思ってます。お互いに楽しくやっていきたいかなぁ」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「GRIMOIRE内に仲良いメンバーは特にいないけど
……因みに大鷹と燃々焼はとっても仲良しで、よく肩組みながらスキップしてますよ! あ、提供者匿名希望でよろしくお願います!」
『※鈴丸さん 使っちゃいましたごめんなさい』のテロップが流れる
─プライベートでは何をなさっていますか?
「トレーニングしたり友人と出かけたり
……あ、あと花子っていうんですけどペットのクラゲの世話とか! これがもう可愛くて可愛くて!
……こんなの」
そう言いながら書類の端にクラゲのらくがきをする鈴丸。
画面外から「鈴丸さん」と鳳条の声がして、鈴丸はすぐさま「すみませんでした!」とらくがきを消しにかかる。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「うーん、何でも食べるしスタミナのつくものは基本好きだけど
……やっぱり一番は誰かの手料理かな? 残念ながら作ってくれる人いないんですけどね!」
─許せないものはありますか?
「あはは、なんだろうな。ご飯残す人とか?」
鈴丸さん?と困惑するインタビュアー。
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「うーん
……別にないかなぁ。あ、チーム分けとかはワクワクで前日寝られなかったかも!」
鈴丸さん?と更に困惑するインタビュアー。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「そうだなぁ、今年の冬はスノボ行きたいな」
いやそういうことじゃ
…とインタビュアーが苦笑する。
わざとなのか否か、鈴丸は明るく笑っていた。
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「1人1人それぞれ違うこと。俺にとっては
……そうだな、市民が、1人でも多くの人が平和に過ごせる社会を作ることです。100万1人の幸せのためには100万人の犠牲を払うことを躊躇わないのも1つの正義だと思います。どちらも救いたいっていう欲張りがいるなら尚のこと。ね?」
■7/不寝喰・鳳条・風守

「局長、どうしてですか?」
「すみません、上から止められているとしか私からは言えないです
…」
局長の困った顔に不寝喰は言葉を飲み込んでしまった。
しかし、唐突にM2に関する全ての調査の停止を命じられたことを納得はできない。
何でも納得できるまで調べなければ気が済まない不寝喰の性分からすれば、理由もなしで調査対象を取り上げられるなんてたまったものではなかった。
「不寝喰くんや薬師寺くんには熱心に調べてもらってただけに、本当に申し訳ないです」
「
………………」
「さて、ここからは個人的なお話になるのですが」
そう言いながら局長は小さなチャック付きポリ袋をデスクの上に置く。中には真っ青なラムネみたいな錠剤、M2が入っていた。
それを見てさすがの不寝喰もギョッとする。
「これ
…っ」
局長はにこやかな表情のまま人差し指を口元にやって、しーっと静かに息を漏らすように音を呟く。
「現状所持している"調査資料"を提出するように命じられましたが、"現物"を出すようには言われてませんでしたので」
完全なる屁理屈だ。不寝喰は苦笑する。
「
…でもこれって不当な所持では?」
「そうですね、でも不寝喰くんは局長の私から"それを押し付けられた"上に"処分を任されてしまった"のです」
暗に秘密裏に調査を続けて良いという許可だ。
先日上からの使いを名乗る職員たちが一切合切を回収していったというのに、こんな物をどこに隠し持っていたのだろうか。
「ではでは、その"パワハラ"を甘んじてお受けしますね」
「どうぞ内密にお願いします。パワハラしてるなんてバレたら私のクビが飛んじゃいますので」
はっはっは、と軽快に笑う局長に敵わないなぁと不寝喰はこっそり笑う。
「お話中すみません、少しよろしいでしょうか?」
いつの間にか鳳条が不寝喰の後ろに控えていた。
局長がどうぞと促すと、鳳条は局長のデスクにいくつかの書類を置く。
話の邪魔になってはいけないと不寝喰は「じゃあアタシは失礼しますね」と退席しようとしたが、「不寝喰さんも同席をお願いします」と鳳条に止められた。
置かれた書類を確認する局長。一通り目を通したのかすぐに顔を上げる。
「風守局長、単刀直入にお伺いします。鈴丸誓についてです」
鈴丸の名前が出るとは思っていなかったため、不寝喰は鳳条の方へ視線を寄越す。
鳳条は目だけで不寝喰の方を見て、またすぐに局長の方へと視線を戻した。
「無礼は承知で彼について少し調べさせていただきました。班員のことは知っておきたいですし、ね」
局長が不寝喰にも自身が読んだ書類を渡してくれる。不寝喰はそれを受け取って目を通していく。
「鈴丸誓は何故GRIMOIREに居るのでしょうか?」
「それは、鈴丸くんがGRIMOIREのメンバーとして不足がある、ということでしょうか?」
「能力に関しては申し分ないと思います」
「ならば問題ないですね」
「
……あの、これって」
書類から顔を上げて、不寝喰が鳳条の方へ顔を向ける。
「ANIMA内の記録として存在している彼の経歴と聴取をまとめたものです」
「事実、でしょうか」
「一方では事実です、公的記録ですので。ただ、これだけが真実だと私は思いません。本人からもお話を聞かないと、ね」
「
……それを聞いて安心したのです。てっきり鈴丸さんを追い出したいのかと思っちゃいましたよ」
「いやまぁ、事が事なら処分をしてもらいたいとは思っておりますが」
「ありゃま、物騒な話でした」
手元の書類を鳳条の方へと返しながら不寝喰が苦笑いを浮かべる。
それに対して鳳条はいつも通りにこやかな微笑みを返した。
「風守局長、鈴丸さんを受け入れた意図が何かおありなのですか?」
「
……そうですね、おふたりにならお話しておいた方がいいかもしれませんね」
局長はデスクからトランシーバー程の大きさの機器を取り出し、ラジオの周波数を合わせるかのようにつまみをひねる。
機器からはノイズのような音ばかり発せられている。しばしそれを操作した後、局長は「問題ないですね」と呟き、機器を再びデスクへと仕舞った。
「これはまだ憶測を出ない話なのですが、『ソロモンの鍵』はもう上層部の一部を操り、行動を開始しています。鈴丸くんをGRIMOIREへと引き入れたのは、彼をこれ以上利用させないためです」

◆side:不寝喰 未環子
─自己紹介をお願いします
「GRIMOIREの不寝喰未環子と申します。よろしくお願いしますネ」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「鳳条さんも鈴丸さんも頼もしい人ですよ。それぞれの考え方や意見とか、伺うととても参考になりますし。メンバーとは基本的にそれなりに仲良くできてると思います。平穏が一番」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「そうだなぁ
……強いて言うなら、桐野さんとは一緒にお菓子を摘んで話すことが多いですな」
棒付きキャンディーを手元で弄りながら不寝喰は にひひと少し特徴的に笑う。
─プライベートでは何をなさっていますか?
「スイーツを食べに行ったり~、勉強したり~、散歩したり~
……。あ、賑やかなところとか、よく歩いてますネ」
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「お気付きかもしれませんが、甘いものが大好物なのです。好きという以外にも、頭を沢山使うので、糖分補給はかかせないのですよ」
食べます?とデスクからココアシガレットを出してくる不寝喰。
─許せないものはありますか?
「皆には無理はしてほしく無いですな~。身近な人にはできるだけ元気で健康でいて欲しいので。それと、証拠を見逃していたり、上手く繋げられない時は悔しくて、自分が許せなくなっちゃいます。その分もっとやる気が出て、頑張りますが」
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「昔の友人と過ごした時間のこと。とても楽しかったので。
……今はお互い離れているので、会っていませんが」
不寝喰は懐かしむように目を伏せている。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「これからも皆で仕事ができればアタシとしては満足です。アタシなりに出来る限り役に立ちたいですネ」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「本当のことを知ること。決して見逃さないこと。そして、例えそれがどんなものだったとしても、目を逸らさないこと」
飴を口に含みながら、不寝喰はへらりと笑った。

◆side:鳳条 一心
─自己紹介をお願いします
「鳳条一心と申します」
─班のメンバーについてどう思っていますか?
「とても頼りがいのある方たちです。サポートをメインとする班のメンバーとしては最高かと。2人の的確な判断、行動にはいつも感謝しています」
─GRIMOIREメンバー内に親しい方はいらっしゃいますか?
「親しいのは別班の柚葉ですね。GRIMOIRE以前から付き合いがあることもあって、今でも変わらず良好な関係を続けております」
鳳条は穏やかに微笑む。
─プライベートでは何をなさっていますか?
「通販サイトを眺めていることが多いですね、それと猫を飼っているので、その子と居ることが殆どですね」
見ます?と猫の写真をインタビュアーに見せながら、猫の話で盛り上がっている。
─活動において食事というエネルギー補給は重要かと思いますが、好きな食べ物はありますか?
「チョコレートが好きですね。嗜好品としても、エネルギー食としても効率が良いですしね」
─許せないものはありますか?
「差別的行為」
きっぱりと言い切り、鳳条はまた微笑む。
─あなたにとって、忘れられないもの(記憶)はなんですか?
「幼い頃受けた言葉です。見た目のせいかよくからかいやいじめの対象になっていました。あまりいい記憶ではありません」
懐かしむように目を細めてから少し苦く微笑んだ。
─これから叶えたいこと、やりたいことはありますか?
「変わらず、先入観を持たず犯罪を追い続けることです」
─最後に、あなたにとって『正義』とはなんですか?
「正しさを過信しないこと、です」
それだけ言うと、何やら意味深気味に鳳条は微笑んでいた。
■8/???
佐藤 陽二
……投薬実験用に保留。健康状況問題なし。今後を考え輸血用血液の準備が必要?
無名
……漬け込み中。用済みとなったらパーツごとに使用予定。
天野 かごめ
……検証中。滅多に手に入らないS級なため、素材の扱いは慎重に。外側より中身に価値がある場合、外側はもう棄ててもいいかもしれない。
GRIMOIRE
……1つくらい入手したい。あの中ならどれがいいだろうか。
「
……身体が足りない。『ゴエティア』から仕入れるか。幼体しかないのがネックだが」
台から血液がこぼれ落ちていく。ぴちゃり、ぴちゃりと床を濡らし、赤黒い水たまりが広がっていく。
⚖第5話 きみのドキュメンタリー 了
【CS更新】外見変更(5話幕間以降)
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【イラスト協力】
木野様 @kino_sousaku1
まさき様 @masaki_aont
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※この物語はフィクションです。作中に登場する事象・思想・個人名・団体名などは全て架空のものであり、現実のものとは一切の関係がございません。フィクションとしてお楽しみください。