アイオリアと夢主が閉じ込められたようです。
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@horohoro_ast
強力な小宇宙で閉じられたその部屋の解錠方法は「相手の心臓の音を聴くこと」だという。
アイオリアは例のごとく「ええい面倒!」と、拳で破壊を試みた壁は、しかし黄金聖闘士の攻撃にも傷一つつかなかった。
なりゆきで一緒に部屋に閉じ込められたちとせはといえば、意外にも落ち着いた気持ちで不思議な部屋と、唯一の出口であり固く鎖されたままのドアをどうにか解錠しようとするアイオリアとを眺めていた。
「ねえ、アイオリア。この課題クリアしたほうが早そうじゃない?」
やがて、ちとせはのんびりと提案した。
無駄に体力を消耗するより、ドアの上のこれ見よがしに刻まれた指令をこなした方がよほど効果的だろう。
ちとせの言に、しかしアイオリアは渋い顔をして首を横に振った。
「お前の言うことはわかる。だが、こんな妙な場所で聖衣を脱ぐ訳にはいかん。何が起こるかわからないのだぞ」
仮に課題をこなしたとして、ただ解錠されるだけとは限らない。何らかの異常が起こった時のことを警戒して聖衣を脱ぐべきではない。
それでは聖衣越しでは心臓の音も聞こえない。
ちとせはなるほど、と頷いた。
戦いに生きる者としての思考だ。だが、アイオリアは一つ忘れていることがある。
「アイオリア、ちょっとこっち来て」
「なんだ、何か妙案でもあるのか?」
「うん。多分、これで開くよ」
彼は素直にちとせの手招きに応じた。
「その場に座って」と、お願いすると、首を傾げながらもちとせの前に跪いた。
座るのはさすがに無防備だと断じたのだろう。それでもここまでしてくれるのは、ちとせとアイオリアの間に信頼関係が結ばれている証だ。
ちとせは自分より視線の低くなったアイオリアとの距離をいま一歩縮めた。不思議そうな青い瞳に笑いかけ、
「な、――!」
その頭を胸元に抱き込んだ。
「『相手の心臓の音を聞く』だから、私の心臓の音をアイオリアが聞けばいいのよ」
アイオリアは自分の心臓の音を聞かせることばかり考えていたのだろうが、別にちとせが聞かなければいけないという指定はないはずだ。
ならば、聖衣を纏っていないちとせの心臓の音をアイオリアが聞けば解決することだ。これなら、アイオリアは聖衣を脱ぐ必要もない。
癖のある髪に指を通すようにして、アイオリアの頭をやんわりと胸に押し付ける。
ふさふさとした金の髪が首に触れて、少しくすぐったかった。
こんなに密着するのは、アイオリアは嫌かもしれない。だが、緊急事態だから許して欲しい。
「聞こえた?」
外に出れたら、謝らないとな。
ちとせがそう考えながら尋ねると、アイオリアがぎこちなく身じろぎ、蚊の鳴くような声で――そう、あの黄金の獅子が蚊の鳴くような声で――呟いた。
「………やわらかい」
言うまでもなく、アイオリアは動揺していた。
何せそうと伝えてはいないものの、好ましいと思っている女の胸に顔を埋めている状態なのである。柔らかい感触と、鼓動が直に肌に伝わるのに、平静でいろという方が無理だ。
「聞こえた」と答えようとしたつもりだったのに、混乱の中で絞り出した言葉は中々に欲望に忠実なそれになってしまった。
「あ、開いた!」
ところが、その声は幸いにもちとせの耳に入ることは無かった。
アイオリアの声とほぼ同時に、がちゃん、と唯一のドアが大きな音を立てて解錠を知らせたからだ。
おかげでちとせの気はそちらへと向き、小さな小さなアイオリアの声は掻き消された。
当然ながら、髪に差し込まれていた指先が離れ、ちとせの温度は遠ざかる。
名残惜しいやら、己の未熟さが腹立たしいやらでどうしようもない。
「くそっ」
思い余って、アイオリアは部屋の壁に頭を打ちつける。血の上った頭を冷やして戒めるにはこれくらいしてもまだ足りない。
しかしこれに驚いたのはちとせだ。
「え、ちょ、アイオリア、どうしたの!?」
頭痛いの? 大丈夫?と焦ってアイオリアの額に手を伸ばしてくる。
ああ本当に、どうしようもない。