X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

ring a Bell 〜Magia Notes Part.27〜

全体公開 ツイステ二次創作 14442文字
2022-09-04 17:24:06

響く鐘の音がこの日限りの音楽と舞踊の宴へと誘う。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第27話。
※創作女監督生の名前が出ます
※6章ネタバレ有り
※捏造設定あり

Posted by @natsu_luv

響く鈴の音が妖精たちの宴の始まりを告げる。
色とりどりの花々に囲まれたステージ、蓮の花が浮かぶランウェイ。
小鳥や蝶たちも宴の舞台へ舞い降りた。
華やかな宴の場に現れたのは、妖精に扮した麗しい王子たち。
王子たちは皆、それぞれ違った美しさを持っている。
ランウェイを歩きながら、花びらに込めた幸せを観客たちに運ぶ者たち。
女王をステージへ誘い、達者な語り口調でイリュージョンを魅せた者。
途中でハプニングこそあったものの、妖精たちの宴は歓声に満ち溢れていた。

私とグリムはすっかりモニターに映る幻想的な世界に夢中になっていた。
元はナイトレイブンカレッジの空調管理をしている設備に使われている魔法石を取り返すための作戦ではあった。
だけど、いざフェアリー・ガラという名の宴が始まると、私達はあっという間にファッションショーの虜になってしまった。
なんとか魔法石を取り返すことができ、めちゃくちゃだった校内の空調も元通りになった。
こうして、フェアリー・ガラにまつわるナイトレイブンカレッジでの騒動は幕を下ろした。

フェアリー・ガラが行われて数日経った頃。
放課後に私は先輩たちと軽音部の部室で次に行う予定のライブに向けて練習をしていた。
フルコーラスを歌い上げて休憩していた時、ヴィル先輩とオルトくんが部室を訪問してきた。
突然の来客に、私とリリア先輩とケイト先輩は驚いた。
一方で、カリム先輩はいつもと変わらぬ笑顔で二人を招き入れた。

「ヴィル、オルト、今日は来てくれてありがとうな!」
「あれ、どうして二人がここに……?」
「あら、アンタたちカリムから何も聞いてないの? アタシたちは映画研究会の部員としてここに来たのよ」
「そうじゃったのか! ひとまず話を聞こうではないか」

私達はヴィル先輩とオルトくんを迎え、ソファに掛けてもらった。
さっそく、ヴィル先輩が企画書のようなものを私達に配った。
文頭には『軽音部と映画研究会のコラボレーションライブ』と書かれていた。

「ちょっと待って! こんなの前代未聞だよ!」
「面白そうだろ! ヴィルとオルトと話してたら、あれこれ浮かんできたんだ!」
「軽音部とコラボレーションをしたいと言ったのは、実はオルトなの。アタシは手を貸そうと思っただけよ」
「もう少し話を詳しく聞かせてくれんか?」
「はい、企画については僕からお話しします」

オルトくんがコラボレーションライブの概要を話し始めた。
軽音部の演奏に併せて映画研究会の部員たちがダンスを踊る。
ステージは映画研究会の裏方役とイデア先輩とオルトくんがプロジェクションマップを創作して美しく飾る。
最終的にはコラボレーションライブを映像作品にするといった内容だった。
ヴィル先輩は製作総指揮者としてオルトくんに手を貸すそうだ。

「どうかな? 面白そうだと思わない?」
「うん、面白そう! でも、これから人を集めるんだよね?」
「そうだよ。兄さんと映画研究会の裏方役のみんなには事前に話しておいたから、あとはダンサーだけかな」
「ダンサーの一人はオルトにするつもりよ。問題は残りのダンサーね……

ヴィル先輩が手を顎に添えて考えごとをしている。
ひとまず、残りのダンサーについては映画研究会の中で決めてもらうことをリリア先輩が提案した。
今回は企画の概要だけ説明してもらい、内容を詰めていくのは翌日以降にすることになった。
今まで活動してきた中では考えられない面白い企画だ、軽音部の部員たちは口を揃えて言っていた。

軽音部と映画研究会のコラボレーションライブ企画が持ち上がって二日後。
私達はヴィル先輩とオルトくんを部室に招き、コラボレーション企画の内容の話し合いを始めた。
まずは、ライブのセットリストを決めることから始めた。
今回は通常通りのバンド形式のライブの中にダンスをメインにした楽曲を挟むことになる。
私達は楽曲のレパートリーを書いた紙をヴィル先輩に見てもらった。

「あら、良い曲が揃ってるじゃない」
「中にはカリムとニコルが入部する前に演奏した曲もあるのう」
「この曲とかどう? ダンサブルでお洒落だよ」
「そうね……。いくつか演奏してもらっていいかしら?」
「わかった! 色々聴いていってくれよな!」

私達はヴィル先輩とオルトくんに選曲してもらった楽曲をワンコーラスずつ演奏してみせた。
二人とも真剣な表情で聴き入っている。
ひと通り演奏し終わり、私達は二人にどの楽曲が気に入ったのか尋ねた。
ヴィル先輩とオルトくんが楽曲のタイトルが書かれた紙を眺めながら協議を始めた。
しばらくすると、ヴィル先輩がセットリストを書いた紙をリリア先輩に手渡した。

「アンタたちにはここに書かれた楽曲を演奏してもらうわ」
「振り付けをつけやすそうで僕らが気に入った楽曲を選んだよ」
「ほう……。ヴィル、この曲はお主が気に入っていたものではないか!」
「ええ、そうよ。アタシ、この曲だけは絶対に演奏してほしかったの」

ヴィル先輩がセットリストの最後の楽曲のタイトルを指さした。
この楽曲は有終の美をテーマにしたクラシック音楽を連想させるメタルナンバーであり、軽音部のレパートリーの中ではヴィル先輩一番のお気に入りだそうだ。
今回のコラボレーションライブの製作総指揮者の権限を行使させてもらったとヴィル先輩は仰っていた。
ライブに出演してもらうダンサーは、映画研究会内のオーディションで選出するらしい。
次回からポムフィオーレ寮のボールルームで選ばれたダンサーたちと一緒に練習を始める。
そのことを約束して、ヴィル先輩とオルトくんは映画研究会の部室へ戻った。
私達は引き続き、コラボレーションライブで演奏する楽曲のアンサンブルに励んだ。



コラボレーションライブのセットリストが決定して三日後の放課後、私達はポムフィオーレ寮の玄関の前でヴィル先輩の迎えを待っていた。
定刻になり、ヴィル先輩と先にポムフィオーレ寮に来ていたオルトくんが出迎えてくれた。
軽音部の部員としてポムフィオーレ寮のボールルームに来るのは、今回が初めてだった。
ポムフィオーレ寮のボールルームは相変わらず煌びやかで、デコレーションを施すだけで立派なライブ会場と化すほどだ。
私達は先に来ていたダンサー役の映画研究会の部員たちと合流した。
それから、ボールルームの一角に機材を設置して簡易なステージを作った。

「軽音部の皆、待っていたよ。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」

ダンサー役の映画研究会の部員のひとりが私達に手を差し出してきた。
彼らとしっかりと握手を交わした後、ヴィル先輩が私達全員に集合するように呼びかけた。
いよいよコラボレーションライブに向けての練習が始まる。

「これから二ヶ月後の本番に向けて、しっかりと練習に励むわよ。軽音部と映画研究会のコラボレーションライブ、必ず成功させましょう」
「はい!」
「まずは、映画研究会のダンスを見てもらうわ。短めの尺だけど、ダンサーたちの実力をわかってもらえるはずよ。アンタたち、用意はいいかしら?」
「問題ないです!」
「では、始めましょう」

ヴィル先輩の掛け声を合図に、ダンサーたちが定位置についた。
メトロノームが刻むリズムに合わせて、ダンサーたちは軽やかなステップを披露していく。
ポジションのセンターはオルトくんで、鳥のように優雅に上空を舞っている。
華やいだ舞踊にマッチするような演奏をしなければ、ダンサーの皆に対して失礼だ。
私達はダンサーたちの舞を見て気を引き締めた。
映画研究会の部員たちによるダンスが終わった。
私を含む軽音部の部員たちは拍手でダンサーたちを讃えた。

「すげぇ! カッコよかったぜ!」
「オレたちも良い演奏ができるように頑張るよ!」
「ありがとう!」
……足りないわ」

見事な踊りを披露して満面の笑みを浮かべるオルトくんの傍らで、ヴィル先輩は何か思い悩んでいる様子だった。
ダンサーたちの踊りはほぼ完璧だったはず。
他に何が足りないのだろうと考えていた時、ヴィル先輩が口を開いた。

「あと二人ほどダンサーが欲しいわね。体育館が会場だと、あまりにもこじんまりとし過ぎているわ」
「では、映画研究会から呼べばいいではないか。それではいかんのか?」
「ええ。もう映画研究会からダンサー役を選出することができないの。ダンスに精通している部員が思った以上に少なかったわ」
「オレ、助っ人呼んでくる!」
「ええっ!?」

突拍子のない発言をした後、カリム先輩はそのままスマホを持ってボールルームを飛び出した。
私達はいったん休憩をとることにし、カリム先輩が戻ってくるのを待った。
しばらくすると、カリム先輩が満面の笑みを浮かべてボールルームに戻ってきた。
カリム先輩の後ろには見知った人影が二つあった。

「待たせたな! 頼りになりそうな助っ人を連れて来たぜ! これでコラボレーションライブのダンサーも足りるだろ?」
……カリム。コラボレーションライブのダンサーとはどういうことだ?」
「俺はダンスの経験がほとんど無いが、引き受けても良いのだろうか……?」

カリム先輩が呼んだ助っ人はジャミル先輩とシルバー先輩だった。
ダンスの経験が豊富なジャミル先輩はともかく、シルバー先輩を呼んでくるとは思ってもみなかった。
ヴィル先輩もカリム先輩の人選に驚きを隠せない様子だ。

「カリム、本当にこの二人で大丈夫なの?」
「心配するな! この二人ならば、ちゃんとやってくれるはずだぜ」
「はぁ……。どうやら、俺に拒否権は無さそうだな……
「映画研究会と軽音部の力になれるのならば、喜んで引き受けよう」

仕方なく引き受けたジャミル先輩に反して、シルバー先輩は進んでダンサー役を務めようとしていた。
以前、シルバー先輩はフェアリーガラのファッションショーに出演していた。
目を見張るほどの美しさで妖精たちを魅了しながらランウェイを歩いていた姿は、今でもはっきりと覚えている。
今回はそのことを踏まえての人選なのかもしれない。

「ひとまず、楽曲に合わせて踊ってもらいましょうか。オルト、プロジェクターの準備をして」
「了解です!」
「さぁ、どんなものになるのか見せてもらうわよ」

軽音部の部員たちはステージで演奏の準備を始め、オルトくんはプロジェクターをボールルームに運んできた。
ダンサーたちも定位置に着いた。
演奏を始めると同時に、プロジェクターに映し出された振り付けの映像が流れ出した。
私達はいつものように楽曲を演奏し、ダンサーたちは映像を見ながら踊り出す。
今回のライブで披露する予定の楽曲を通しで演奏し終わった後、ヴィル先輩が率直に感想を述べた。

「ちょっと、アンタたち! まるで幼稚園のお遊戯会みたいじゃない!」
「ですよね……
「ヴィル、最初から楽曲と踊りを合わせるのは無理があるのではないか……?」
「確かに、リリアちゃんの言うとおりかも……
「アタシもわかってたわよ。説明不足で申し訳無かったけど、現時点での実力を把握しておきたかったの」

ダンスの経験がある映画研究会の部員たちとオルトくん、ジャミル先輩は上手ではあるけれど、周りと噛み合っていない。
シルバー先輩は周りと調和しようと一生懸命ではあるけれど、実力がまだまだ足りていない。
軽音部の演奏も悪くはないけれど、どこかぎこちなさを感じる。
ヴィル先輩の講評はこの通りだ。

「まずは、ダンサー役とバンドそれぞれ分かれて練習をしましょう。アンサンブルはそれからよ」
「そうだね。オレたちも楽曲をちゃんと仕上げないと」
「本番が近くなれば、体育館でプロジェクションマップと合わせながら練習を重ねるつもりよ」
「兄さんたちも僕らのために頑張ってくれるみたいだから、気合いを入れなくちゃ」

私達はステージの方へ、ダンサーたちは鏡のあるエリアへと向かった。
ダンサーたちはヴィル先輩から直接振り付けを教わるみたいだ。
シルバー先輩たちが振り付けの練習をしている様子をちらりと見つつ、私は先輩たちの演奏に合わせて旋律を歌い上げた。
この日から怒涛の練習の日々が始まった。
私達は本番まで忙しい日々を駆け抜けることになった。



二ヶ月後に控えたコラボレーションライブの練習が始まって数日経ったある日のこと。
練習メニューの内容が個別練習からダンサーたちとバンドのアンサンブル練習へと移行していった。
今日のアンサンブル練習の内容は、ダンサブルな楽曲二曲をメインに行われる。
ひとつ目のダンサブルなメタルナンバーは、ナイトレイブンカレッジ生たちにも概ね好評で軽音部のライブでも何度か演奏している。
まずは、その楽曲からアンサンブルを始めることになった。
私はライブで歌っている時と同じように旋律を歌い上げた。

「ねぇ、ニコル。もう少し色っぽく歌うことはできる?」
「色っぽく……ですか?」
「そうよ。この楽曲は小悪魔のような女性が男を誘う歌。だから、もう少し色気が欲しいわ」
「わっ、わかりました……

ヴィル先輩からの指摘を受け、私はもう一度演奏に併せて歌い直した。
息遣いなどを少し変えてみて、意中の男性をダンスフロアへと誘う女性を表現してみせた。
歌い終わった後にヴィル先輩からもう一度感想を言ってもらった。

「さっきよりは良くなったわね。せっかくだから、ダンサーたちとの絡みも足しましょうか」
「やっ、やってみます……!」
「もう一つの楽曲でもニコルとダンサーたちの絡みを増やすわ。いいわね」
「はっ、はい!」

もう一つの楽曲はオルトくんの大好きなダンスポップ寄りのロックナンバー。
四つ打ちのリズムが心地良い、歌っていても楽しいナンバーでもある。
比較的新しい楽曲なので、軽音部のライブで演奏したこともほとんど無かった。
前奏が始まり、ボールルームが一気にダンスフロアへと変わる。
私は軽快に踊るダンサーたちと一緒に身体を動かしながらメロディを歌い上げた。

「アンタたち、そんなに照れくさそうにしないで。特にニコルとシルバー!」
「えっ、そんなに照れてるように見えましたか!?」
「見えたわよ。動きがぎこちなくなってるもの。普段のアンタたちでいなさい。いつもこっちが恥ずかしくなるようなお戯れをしてるでしょう!」
「そうだったのか……
「君たち、今まで気付いてなかったのか……

不思議そうな顔で呟くシルバー先輩を見て、ジャミル先輩が小声でツッコミを入れていた。
気を取り直し、私達は再び通しで練習に励んだ。
練習を重ねる度に、ぎこちなさや照れが少しずつ払拭されていく。
練習時間が終わる頃には、歌うこともダンサーたちと踊ることも板についていた。
定刻になり、今日の練習が終了した。
ボールルームを出た後も、私はシルバー先輩と一緒にオンボロ寮のゲストルームをスタジオ代わりにして自主練を続けた。

翌日の放課後も、私達はコラボレーションライブの練習に励んでいた。
今日はバンドメインの楽曲のアンサンブルだ。
最初にアンサンブルを行う楽曲は、コラボレーションライブのオープニングを飾るメロディアスなメタルナンバー。
暗闇に覆われた道に光を灯し、自分の信念に正直になって歩いていく。
そういった強い気持ちが歌詞に込められた楽曲だ。
今回のライブではイントロに鐘の音を鳴らした後に歌が始まる仕様になっている。
鐘の鳴り響く音に耳を澄ませ、少しの静寂を挟んでから私は歌い始めた。
歌が始まると同時にダンサーたちも踊り出し、楽曲をさらに華やかに彩っていた。

「さすが、軽音部はこういった楽曲に慣れているといった様子ね」
「ロックやメタルはわしらの十八番だからのう」
「次はアタシの一番のお気に入りを演奏してもらうわ」
「了解!」

私達は定位置に着き、楽曲のイントロを奏でた。
散りゆく戦士の有終の美を描いた佳曲は、ヴィル先輩だけでなく多くのナイトレイブンカレッジ生たちに支持されている。
優雅に舞うダンサーたちを見ながら、私は戦士の散り際と美しい声で鳴く瀕死の白鳥を重ね合わせた歌詞を歌い上げた。
ヴィル先輩もすっかり聴き入っている様子だった。

「素晴らしいわ。やっぱり、この曲は最高ね。だけど、一つだけ気掛かりなことがあるの」
「気掛かりなこと……ですか?」
……オルト。そんなに悲しそうな素振りを見せないで」
「どうして? 戦士が死にゆく歌なんでしょう?」
「これは決して悲しい歌ではないの。悲壮感を込められ過ぎると、この楽曲の良さが半減してしまうわ」

ヴィル先輩が楽曲のことを熱く語っている間も、オルトくんは頭に疑問符が浮かんだままの様子だった。
歌詞の意味を考える時間が欲しい、そうオルトくんはヴィル先輩に懇願した。
今日までずっと通しで練習していたから、休息日を設けても良い頃合いだと他の部員たちからも声が上がった。
ひとまず、明日を休息日にすることが決まった。
その後はもう一度楽曲と踊りのアンサンブルをし、今日の練習はお開きとなった。
オンボロ寮へ戻ってからは、宿題と夕食を済ませた後にすぐに寝支度を始めた。
明日は休息日、私は練習でくたくたになった身体を休めることに専念することにした。

コラボレーションライブの練習が始まってからの初めての休息日。
私はシルバー先輩とオンボロ寮の談話室でアイスティーを囲みながら他愛の会話を交わしていた。
最近ずっと歌い続けていたから、喉を休めるにもうってつけだ。
隣でうとうとし始めたシルバー先輩を寝かせ、私はアイスティーのお代わりを注ぎにキッチンへ向かった。
氷いっぱいのグラスに入ったアイスティーをテーブルに置いた時、玄関の呼び鈴が鳴った。
一体誰がオンボロ寮を訪れたのだろう。
そう思いながら、私は玄関の扉を開けた。

「お邪魔してごめんね。僕、監督生さんとお話ししたいと思ったんだ」
「オルトくん! 大丈夫だよ。さぁ、上がって」
「ありがとう」
「ちょうどシルバー先輩も来てるから、差し支えなければ一緒にお話を聞いてもらおうよ」
「うん、そうする」

私はオルトくんを談話室へ誘導した。
呼び鈴の音で目を覚ましたのか、シルバー先輩がソファから立ち上がっていた。
オルトくんに席に着いてもらい、私とシルバー先輩は今回のオルトくんの相談事に耳を傾けた。

「今回のコラボレーションライブの最後に演奏する楽曲の歌詞の意味をずっと考えていたんだ」
「散りゆく戦士の有終の美がテーマのあの楽曲だよね」
「僕、ずっとわからないままなんだ。悲しいだけの歌じゃないってヴィル・シェーンハイトさんに言われても理解できなくて……

オルトくんがわからないと言うのも無理はないだろう。
私達の日常生活の中では、死ぬことは悲しいことと捉えられるのがほとんどだ。
私も軽音部で演奏すると決まった時は、歌詞の意味を模索することに必死になった。
図書館で騎士の物語を読み漁ったこともあった。

「オルト、この楽曲は騎士道を全うとした勇敢な戦士の歌だ」
「騎士道……?」
「この楽曲に出てくる戦士は、死を恐れずに武勲をあげた者かもしれない。きっと、悔いなく命を散らしたはずだ」
「そういった考えがあるんだ……
「ヴィル先輩が悲しいだけの歌ではないと言ったのは、悔いなく生きた戦士を讃えた歌だからだと俺は思っている」

珍しくシルバー先輩が饒舌に語っていた。
私もオルトくんの近くで頷きながら話を聞いていた。
騎士のようにツノ太郎さんの傍で護衛を務めているシルバー先輩だからこその解釈といってもいいだろう。
ちょうどテレビでクラシックコンサートの番組が流れ始めた。
今回のテーマは『動物たちの謝肉祭』だ。
もしかしたら、何かヒントになりそうなものが得られるかもしれない。
私達はディスプレイを眺めながら、コンサートの楽曲に耳を傾けていた。

「シルバーさん、監督生さん、ありがとう。少しずつだけど、僕のこの楽曲でやるべきことが見えてきたよ」
「それは良かった」
「オルトくん、私達も頑張るよ」
「うん! あっ、兄さんたちがプロジェクションマッピングのデータが完成したって言ってたよ」

オルトくんがにっこりと微笑んで報告してくれた。
もうすぐ本番まで一ヶ月を切る。
プロジェクションマッピングに合わせながらのアンサンブル練習が始まる。
クラシックコンサートが終わった時点で、オルトくんが帰り支度を始めた。
玄関先までオルトくんを見送り、私とシルバー先輩は再び談話室で穏やかな時を過ごした。



休息日から数日後、いよいよ体育館でプロジェクションマッピングを合わせたアンサンブル練習が始まった。
体育館内のステージに機械がセッティングされている。
PA席の近くにイデア先輩とその他イグニハイド寮生たちが勢揃いしていた。
普段は引きこもっているイデア先輩がいらっしゃるのは珍しい。

「あっ、映画研究会の皆さん、軽音部の皆さん、よろしくお願いしやす……
「相変わらず声が小さいわね」
「よろしくお願いします」
「兄さん、今回のプロジェクションマッピングは自信作って言ってたよね。さっそく映し出してみようよ!」
「わかったよ、オルト……

イデア先輩が装置のスイッチをオンにしたタイミングで照明が落とされた。
まず最初に映し出されたのは、光を灯された真っ直ぐな一本道だった。
映像が切り替えられ、次の映像が映し出された。
今度は体育館内のステージが情熱的な赤を基調にしたダンスフロアと化した。

「すごい……! この映像と一緒に演奏するのが楽しみになってきました」
「監督生氏、まだまだ用意してありますぞ」

得意げな顔でイデア先輩がまた映像を切り替えた。
ダンスフロアの照明が虹色に変化し、ステージがさらに華やかになった。
次が最後の楽曲を彩る映像だとイデア先輩が説明してくれた。
ステージ全体が森と化し、ダンサーたちの踊るエリアに蓮の花が咲き乱れる池が現れた。

「イデアくんたちスゴいね! めっちゃ映えるじゃん!」
「オレも楽しみになってきたぞ! ありがとな、イデア!」
「褒め殺しは勘弁して……
「兄さん、二人に失礼でしょ! ごめんね、兄さん照れちゃってるみたい」

オルトくんが慌ててケイト先輩とカリム先輩に弁解した。
ヴィル先輩の号令がかかり、私達は定位置に着いた。
イグニハイド寮生が私達の最初の立ち位置にカラーテープで目印を付けていった。
曲ごとに色を変えてくれているので、該当する色さえ覚えていれば簡単に位置につくことができる。
カラーテープの目印が付けられた後、私達はプロジェクションマッピングを使ったアンサンブル練習を始めた。
楽曲の旋律やダンサーの動きに合わせて、プロジェクションマッピングの映像が見事に切り替わっていく。
コラボレーションライブのセットリストの楽曲を全て演奏し終わると、イグニハイド寮生たちとヴィル先輩が拍手をしてくれた。

「練習し始めの頃から見違えるようになったわね。この調子で本番まで駆け抜けるわよ」
「やったぁ!」
「アンタたち、くれぐれも気は抜かないでちょうだいね。現状に満足していてはダメよ」
「はっ、はい!」

私達はもう一度定位置に着いた。
今度は楽曲ごとにダンサーたちの踊りとバンドの演奏、プロジェクションマッピングの動きの細かいところを詰めていく。
ヴィル先輩のアドバイスに耳を傾けながら、私達バンドとダンサーたちは動作のひとつひとつを調整していった。
あっという間に時間が過ぎ、今日の練習が終了した。

「今日はここまでね。明日は衣装合わせよ。オルト、カリム、準備は整っているかしら?」
「バッチリだぜ!」
「僕もだよ!」
「了解。明日の練習場所はボールルームだから間違えないようにね。それでは、解散!」

イグニハイド寮生たちがプロジェクションマッピングの機械を端の方へと移動させた。
私達は楽器を転送装置でポムフィオーレ寮のボールルームへと送った。
オンボロ寮に帰宅してからは、今日の練習のおさらいと宿題に時間を費やした。
カレンダーに印を付けながら、私は本番の日を心待ちにしていた。

翌日、ポムフィオーレ寮のボールルームを訪れた私はトルソーに飾られている衣装に驚きを隠せずにいた。
フェアリー・ガラのファッションショーで使われた衣装を再びお目に掛かることになったからだ。
この衣装は今回のコラボレーションライブの話を聞いたクルーウェル先生が特別に貸し出してくれたという。
改めて実物の衣装を見てみると、レースや花飾りが繊細で本当に煌びやかなものだと思った。

「またこの衣装を着ることになるとは思わなかったな」
「さすがに全員分は用意できなかったと思うんだけど、どうやって用意したの?」
「足りなかった分はオレが父ちゃんの知り合いのデザイナーに頼んで作ってもらったぜ!」
「そっ、そこまで……!」

学生たちによるコラボレーションライブのために、豪華な衣装にまで出費してくれるとは。
私達のような庶民には到底理解が追いつかなかった。
トルソーに飾られた私のための衣装を眺めてみた。
白いフレアスカートのドレスにピンクゴールドを基調にしたレースや花飾りがデコレーションされている。
この衣装を着て本番のステージで歌うのが楽しみになってきた。

「アンタたち、いつまで衣装に見惚れてるの? 今日はその衣装を着て練習してもらうわよ」
「はっ、はい!」
「更衣室はあっちよ。さっさと着替えてらっしゃい。ニコル、アンタの更衣室はこっち」

演者たちはトルソーに飾られた衣装を取って更衣室へと歩いていった。
私はヴィル先輩にポムフィオーレ寮の空き部屋へ連れて行かれた。
衣装に着替えてボールルームに戻ると、煌びやかな装いになった演者たちが揃っていた。
本番はフェアリー・ガラを彷彿とさせる華やかなステージになるに違いない。
ヴィル先輩が練習開始の号令をかけた。
私達は定位置について一曲目から通しで演奏した。

「さらにパフォーマンスに磨きがかかったわね。その調子よ」
「ありがとうございます!」

ヴィル先輩からお褒めの言葉を頂いた。
最初はダンスと演奏がバラバラではあったけれど、今ではきちんと纏まっている。
これから本番までの練習は総仕上げの段階へ移っていく。
練習時間が終わった後、私はそのままオンボロ寮へと帰り着いた。
カレンダーの印が増えるたびに、楽しみと緊張感も増していく。
本番まであと少し、私は体調管理と歌の練習に力を注いだ。



待ちに待った、軽音部と映画研究会のコラボレーションライブ本番の日。
今日の授業が終わった後、私はすぐにライブ会場である体育館へと向かった。
体育館の前に今回の演者たちとヴィル先輩とイデア先輩が揃っていた。
挨拶を交わした後、私は楽屋へ行ってメイクと着替えを済ませた。
楽屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
入るように呼び掛けると、煌びやかな衣装を纏ったシルバー先輩が顔を出した。

「まさか、ニコルと同じステージに立つことができるとは思ってもみなかった」
「私もです。すごい偶然ですよね」
「ニコルたちの演奏を引き立てられるように、俺たちも全力を尽くさないといけないな」
「私達もダンサーの皆が気持ち良く踊れるような演奏を届けますね」

互いに意気込みを伝え合ってから、私達は抱きしめ合って口付けを交わした。
そろそろ観客たちが入場してくる時間だ。
私達は楽屋を出て、舞台袖にいる他の演者たちと合流した。
舞台袖に備え付けられているモニターから客席の様子が見える。
最前列にグリムと一年生たちが揃って座っている。
開演時間が近付いてくると、映画研究会の照明担当のスタッフが少しずつ会場内を暗くし始めた。

「いよいよですね……!」
「皆、定位置に着いて。アタシはPA席近くのカメラブースへ移動するわ」
「了解! 素敵な映像にしてね」
「さぁ、もうすぐ開演よ!」

ヴィル先輩の掛け声を合図に、私達はステージへ向かって自分たちの定位置に立った。
ステージの照明が完全に暗くなった。
開演時間を告げるブザーの音が会場内に響き渡った。
少しの静寂の後、荘厳な鐘の音が鳴り出した。
響き渡る音が観客たちを音楽の世界へと誘う。
鐘の音が遠のいた後、私は始まりのメロディを歌い上げた。
プロジェクションマッピングが拓けていく道を映し出す。
光射す道の真ん中でダンサーたちが優雅に舞う。
緩やかな曲調の冒頭から一気に力強い曲調へ変わると、ダンサーたちの舞にも強さが加わった。
楽曲の最後にある先輩方による合いの手と私のスキャットのパートに移ると、ダンサーたちと観客たちが一体になっていた。
コラボレーションライブの出だしは順調だ。

「皆さん、本日は軽音部と映画研究会のコラボレーションライブへお越しいただき、ありがとうございます。最後まで楽しんでいってくださいね」

観客たちへ挨拶の言葉を告げた後、すぐに二曲目のイントロのギターの音が鳴り出した。
プロジェクションマッピングも赤を基調にしたダンスフロアの映像に切り替わった。
始まりのフレーズを高らかに歌い上げると、ダンサブルな曲調に合わせてダンサーたちと観客たちが踊り始めた。
私もダンサーたちの方へと歩み寄り、旋律を歌い上げていく。
普段の私とは違う、色香のある小悪魔のような女性を演じながら意中の男性を堕とすように。
カラフルな照明の光とダンスフロアと化したステージが楽曲に彩りを与える。
演奏が終わった後、拍手の音が会場内に響いた。

少し間を置いてから、三曲目の演奏が始まった。
イントロが鳴り出した途端に、客席から歓喜の声が聞こえてきた。
二曲目の時とは違う、青を基調にしたダンスフロアがステージに映し出された。
心地良い四つ打ちのリズムに身を任せ、私はダンサーたちと身体を動かしながらメロディを歌い上げていく。
シルバー先輩が私に手を差し出した。
躊躇いなく手を取り、私はさらに高まった気持ちを歌に込める。
愛する人とのステージの共演を実現できたことは、私にとって奇跡といっても過言ではない。
ケイト先輩のギターソロが始まった。
ここから曲調ががらりと変わる。

「オレも踊りたくなってきたぜ!」
「カリム!?」

曲調が熱砂の国を連想させるエキゾチックなものに変わった途端、カリム先輩がドラムから離れた。
驚くジャミル先輩の方へと駆け寄り、カリム先輩は元気良く観客たちに手を振っている。
突然のカリム先輩のアドリブに、リリア先輩とケイト先輩が笑みを浮かべながら演奏している。
ダンスフロアがえんじ色とゴールドに変化した。
スカラビア寮長と副寮長による太陽と月の舞が始まった。
見事なダンスの応酬に客席のボルテージも高まっていく。
再び曲調が変わった頃には、カリム先輩も元の位置に戻ってドラムを叩いていた。

笑顔の観客たちとダンサーたちが流れてくる旋律に合わせて踊っている。
バンドの私達もステップを踏みながらメロディを奏でていく。
PA席にいるイデア先輩、カメラブースにいるヴィル先輩も、微笑みを浮かべながらそれぞれの仕事を果たしていた。
楽曲が終わると、歓声と拍手が会場の辺り一面に飛び交った。
次はいよいよ最後の楽曲だ。
ミネラルウォーターで喉を潤し、私はマイクを握りしめた。



ピアノの前奏が聴こえてくる。
死地へ赴く戦士の物語が始まる。
体育館のステージが蓮の池と化した。
その上をダンサーたちが華麗に舞う。
流麗な旋律に勇猛果敢に闘う戦士の詩を乗せ、讃えるかのように歌い上げていく。
サビに突入すると、センターで踊っていたオルトくんの髪色が桃色に染まった。
地上で踊る他のダンサーたちの上空を舞いながら、オルトくんが散りゆく戦士と美しく鳴きながら舞う白鳥の姿をシンクロさせている。

間奏に入ると、ダンサーたちはまた違った動きを見せた。
ひとつひとつの挙動に力強さを感じられ、命を懸けて闘う戦士のようだ。
ギターの音色がオーケストラの第一バイオリンのように主旋律を奏でている。
それを支えるかのように、ベースの低音とドラムのリズムがステージの地に鳴り響く。
楽曲が終盤を迎える頃には、上空を舞うオルトくんの姿が美しく在り続ける瀕死の白鳥と化していた。
曲のテンポが遅くなり、ピアノの旋律だけになった瞬間、オルトくんにスポットライトが当たった。
オルトくんはゆっくりと蓮の池の上に舞い降り、散りゆく戦士の有終の美を見事に演じてみせた。

ピアノの響きが遠くなっていく。
曲の終わりの余韻に少しだけ浸った後、会場内に拍手の音が反響した。
私達は観客たちに手を振り、そのまま舞台袖に引っ込んだ。
歓声と拍手がまだ鳴り続けている。
コラボレーションライブは大成功だ。
終演のアナウンスが入った後、観客たちはぞろぞろと帰っていった。
その様子を舞台袖で見届けてから、私達は楽屋へと戻った。

「ニコル、ライブが成功して良かったな」
「あっ、シルバー先輩。お疲れ様です! お客さんたちも楽しんでくれたみたいで嬉しいです」

楽屋の前でシルバー先輩が声を掛けてくれた。
私はシルバー先輩とライブ成功の喜びを分かち合い、ぎゅっと抱きしめ合って口付けを交わした。
じりじりとした視線を感じる。
振り返ると、シュラウド兄弟とヴィル先輩が私とシルバー先輩をじっと見つめていた。

「ふぉぉおっ〜〜!! リア充爆ぜろぉ〜〜〜〜!!」
「兄さん、そんな失礼なこと言っちゃダメだよ! あっ、二人の様子は僕のメモリーにしっかりと保存したよ」
「アンタたち、本当に相変わらずね……。ケイトが集合写真を撮りたいって言ってるから、アンタたちもいらっしゃい」
「はっ、はい!」

私とシルバー先輩はヴィル先輩たちの後を追い、体育館のステージへ再び足を踏み入れた。
ステージには軽音部の先輩方とジャミル先輩、映画研究会のダンサーたちとスタッフ、今回のプロジェクションマッピングを担当したイグニハイド寮生たちが勢揃いしていた。
ケイト先輩がスマホを取り付けた三脚を立てている。
記念撮影の準備は万端のようだ。

「あっ、これで全員揃ったね! みんな、こっち側に並んでね」
「わしらは前の方に並ぶとするかのう」
「そうですね」
「シルバー、ジャミル、オレの近くに来いよ!」
「こら、カリム! 引っ張るんじゃない」
「あはは、みんな良い感じだね! じゃあ、さっそく撮っちゃうよ」

ケイト先輩がスマホのカメラのタイマー機能をオンにした。
数秒後、スマホからシャッター音が聞こえた。
何枚か撮った後、ケイト先輩が撮れた写真を皆に見せてくれた。
画像の中の皆が満面の笑みを浮かべている。
フェアリー・ガラを経て、オルトくんが持ちかけてきた軽音部と映画研究会のコラボレーションライブ。
きっかけはオルトくんの些細な思い付きではあったけれど、多くの人々が創り上げたライブは無事に成功した。
ライブの成功を祝う鐘の音が微かに聞こえたような気がした。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.