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水生木 / 虚淮、小妖精たち、洛竹、天虎

全体公開 23476文字
2022-09-06 22:58:33

『映画後、離島に流刑になった虚淮』という妄想を下敷きにした未来妄想捏造話。

※拙作「のこされたもの(https://privatter.net/p/7000557)」の後々のif世界ですが、読んでなくても問題ありません。
※子守り虚淮(時々洛竹天)です
※オリジナルキャラクター(小妖精複数名、名前あり、台詞多め)がいます。苦手な方はご注意ください。

Posted by @satomi8429

1.

 妖精館が言うところの『あの事件』から幾年月。
 洛竹は龍游の地の片隅で、人間に交じって暮らしていた。時々――たとえば、配達中ふと立ち止まって、季節がもうすでに移ってしまっていることに気づいた時なんかに――自然の変化に気付くのが遅すぎる自分にほんの少し落胆するくらいには、都会の暮らしに慣れていた。弟の天虎は郊外の森でつつがなく暮らしており、時々遊びに行く洛竹に森の匂いを思い出させてくれていた。かつて潜伏していた離島に流刑となった長兄の虚淮は、妖精館の妖精の話によると、島でそれなりに元気に暮らしているらしい。
 そんなある日、洛竹は妖精館から一通の手紙を受け取った。役所からの通知のような形式ばったそれの中身は、虚淮についてだった。刑期がまもなく終わるのだという。飛び上がるほど驚いて、滑りそうになる目をなんとか制して二回読み、それでも自分の目が信じられずに紫羅蘭にも読んでもらった。やはり読み間違いではないのだと確信すると、洛竹は手紙を握りしめて天虎のもとに急いだ。
 頬を紅潮させ興奮した洛竹から話を聞いた天虎も、大きな体で飛び跳ねて喜んだ。
 虚淮が帰ってくる。虚淮、今まであの島にひとりきりで、どんなにか寂しかっただろう。もともと一人だったというし、寂しがるような妖精ではないが、あんな賑やかな日々から突然ひとりになったのだ。自分を振り返っても相当に辛かったのだから、と洛竹は思う。風息もいなくなってしまった今、さすがの虚淮も寂しくなっているに違いない。
 洛竹と天虎は久しぶりに焚き火を囲んで、さてどんなふうに迎えようかと頭をひねった。龍游は自分たちの故郷であり、もうひとりの兄である風息の没した場所だ。長いこと龍游に入ることを許されなかった虚淮なのだから、きっと龍游へ来たいと思っていることだろう。しかし、と洛竹は眉間に皺をよせ頬杖をついた。龍遊はあの時以上に都会になってしまっていて、虚淮は都会に慣れていない。龍游を歩くなら変化は必須だったが、変化は霊力を消費するし、消費した霊力を補充するにしても、龍游市内はとても虚淮が集霊できる環境ではない。虚淮に負担なく、人間にも気を遣わずにのびのびと水入らずの時を過ごすのには、郊外の森のほうが都合が良いだろう。もちろん龍游に行きたくなれば、足を伸ばせる距離でもある。洛竹の提案に、天虎も肉を掲げて賛成した。
 そうと決まれば、と、ふたりは来たるべき出所の日のために森の中で準備に勤しんだ。洛竹は休みの日を利用して澄んだ小川の流れる岸辺に寝泊まりできる場所を作り、天虎は時間をかけてとっておきの酒と肉を仕込んだ。主役である虚淮本人は食べることを必要としない妖精だったが、再び揃った家族で食卓を囲むというのが目的なので問題はない。最初に家族という概念を持ち込み、家族で美味しい食事を囲むというならわしを取り入れたのは風息だった。風息はもういないけれど、三人で楽しく騒いでいれば、きっと目に見えぬ形で風息も参加してくれるだろう。
 そうしてウェルカムパーティーならぬウェルカムバックパーティーの準備を万端に整え、あとは主役が来るのを待つばかり……だったのだが、刑期を終えたはずの虚淮は翌日もその翌日も、洛竹と天虎のもとに来ることはなかった。一週間待っても二週間待ってもなんの音沙汰もない虚淮に、しびれを切らした洛竹が館に乗り込むと、妖精館の妖精は困ったように眉を下げた。
 
 虚淮はまだあの離島に滞在しているらしい。
 妖精館の妖精から聞いた洛竹は腰に手を当ててため息をついた。まったく、首を長くして待ってる弟たちをなんだと思ってるんだよ。
 とはいえ、虚淮が理由もなくそんなことをするとは思えないので、きっとなにかわけがあるのだろう。よし、と洛竹は顔を上げた。そっちが来ないならこっちが行くまでだ。洛竹は妖精館に行ったその足で、離島まで行くことにした。
 舘の設置した転移門を出ると、そこには懐かしい風景が広がっていた。少しむっとする湿度の空気に吹き抜ける海風。樹々の間を通ってやってくるそれは清々しくて心地よい。髪をなびかせる風に、この風景の中に居た風息の姿が思い起こされた。もういないという事実が胸を刺したが、洛竹はそれを飲み下し、改めて懐かしい空気を胸一杯に吸い込んだ。それから虚淮の姿を探すと、そこには驚きの光景が広がっていた。
「虚淮?」
 目を丸くした洛竹の視界に映る虚淮は、確かに虚淮なのだが、見た目からして様子がおかしい。水辺の石の上で座を組んでいるが、その背に流れていた滝のような長い髪は無造作に後頭部にまとめられ、風に遊ぶゆったりとした袖はたすきがけにした紐によってまくられていた。座位で手を組み、気を集めているようにも見えるが、眉を吊り上げたり目線をあちこち移動させたりと集中できていないさまが見て取れる。そして、虚淮の集中を乱しているのは、虚淮の周りを駆け回る小さな妖精たちなのだった。
「これ、どういうこと……?」
 振り向いた虚淮の視線が洛竹を捉えた。
「洛竹か。どうして、ここに、」
 虚淮は一瞬驚いた顔をしたが、視線はすぐに洛竹を離れてきょろきょろとあちこちに飛んでいる。虚淮の視線の先にいるのは三人の小さな妖精――天井のように覆いかぶさる木の枝に足を、蔓に手をかけ逆さになって遊んでいる妖精、霊魚を追いかけ足を踏み外して水に落ち、わんわん泣きながら岸に上がってくる妖精、反対側の石の淵に立って「シューファイ! 見てて!」を連呼しつつ飛び込む練習をしているらしい妖精――がいた。
「あー……
 洛竹は自分の幼かったころを思い出した。彼らのどのアクションにも心当たりがあったのだ。かつては洛竹一人だけの行動――たまに天虎も――だったが、今は三か所同時進行でそんな事態が発生している。洛竹の動きは予測ができない、とため息をついたかつての風息のことも連鎖的に思い出した洛竹は、なんかごめんなさい、と心の中で呟いた。何かあれば手をだせるようにとそわそわしている虚淮は、そんな洛竹を横目で見るとぼそりと言った。
「まったく、誰かの時と違って風息がいないから手が足りない」
 今の、絶対当てつけだろ。
「おっと」
 洛竹は枝から手を滑らせた小妖精を、とっさに自分の出した枝でキャッチしながら考えた。確かにやんちゃだった自覚はあるが、洛竹には保護者がふたりいた。今の虚淮は、洛竹の時より大人の手が一人分足りなくて、子どもが二人分多いのだ。
 
「よし、一旦休憩だ」
 水に落ちた妖精の傍にしゃがんで、服から水を抜いてやりながら虚淮が言った。水を抜き終えた虚淮が手のひらを差し出すと、泣き止みかけている妖精の目の前で氷の塊が生み出された。小さな妖精は、涙の跡の残る丸い頬をふにゃりと崩して微笑んだ。それを見たほかの二人も、我も我もと虚淮のそばに集まってくる。虚淮は二人にも手のひらサイズの氷を出してやり、傍の岩の上にもひと口大の氷片を積み上げてやってから立ち上がると、ようやく洛竹のほうに向き直った。
「待たせたな」
「あの子たち、虚淮が育ててるの? 俺たちにしたみたいに?」
 洛竹が目を丸くして問うと、目を大きく開いて虚淮が答えた。
「育ててるわけじゃない。たまたま出会って懐かれた。それだけだ」
「ふーん」
 
 虚淮の話はこうだった。 
 離島に流刑になって以来、いつも水をやる木があった。その木はあの無限との戦闘で切られそうになったところを風息が助けてやった木なのだそうだ。もうずいぶん立派になった、と虚淮は目を細めた。その日もいつものように水をやりに行ったら、木の根元に妖精の赤ん坊がいることに気がついた。丸まって眠っている小妖精が、珍しいことに三人もいた。目を覚ました彼らはなぜか虚淮に懐いて、いつのまにかついてきていたのだという。
 陽に照らされてきらきらと光る氷を、舐めたり頬に当てたりして堪能している妖精の子らを眺める。片手に持ちながらもう片方の手で新しい氷に手をのばす子、口の中で氷を転がしながら目を閉じて冷たさを楽しんでいる子、花を取ってきてその蜜で味をつけている子。三者三様だ。遠い昔の自分達を思い出す。次々に氷を頬張る洛竹を笑いながら嗜めた風息や、遊び疲れて寝てしまった天虎を膝に抱いた虚淮を。
「ところで洛竹は、何をしにきたんだ」
「何って、虚淮がいつまで経っても来ないから迎えにきたんじゃないか」
 洛竹は思い出して口を尖らせた。せっかく釈放になったんだから、もちろん龍遊に来ると思っていたのに。
 虚淮は、否定も肯定もしないいつも通りの口調で「そうか」と言った。
「これからどうするの?」
「さあな」
「あの子たちのことは……
 舘は知っているのだろうか。虚淮が館に黙って妖精を育てているなんて知ったら、館はあの妖精たちを奪いに来るかもしれない。洛竹の知らない内情もあるのだろうが、虚淮が育てた風息が事件を起こしたということで、館は虚淮をこんなに長いこと拘束していたのだから。洛竹は、もう誰にも悲しい思いをしてほしくなかった。他者の都合で故郷を追われることも、家族のように親しんだ者との間を引き裂かれることも、そんな辛さは味わってほしくない。幼い妖精はもちろんだったが、とりわけ虚淮には。
 洛竹の顔をちらと見た虚淮は、淡々とこう言った。
「このことは館に報告済みだ。今のところ、こいつらはただの木属性の妖精らしい」
 洛竹は胸をなで下ろした。ただの木属性。ならば危険だから館に連行するなどとは言われないだろう。この島で、新しく妖精が生まれるなんてとても喜ばしいことだ。まだまだこの島の自然も捨てたもんじゃない。
 そう思っていたのに、虚淮は続けて言った。
「こいつらは、もう少し大きくなったら館に預けるつもりだ」
「え?」
 驚きと怒りが怪訝な声となって出た。妖精館はまたしても、幼い妖精を故郷から引き離すつもりなのか? せっかく生まれたのに? 危険な能力でもないのに?
「館に言われたからじゃない」
 洛竹の内心を察してか、虚淮が制して言った。
「私が、その方がいいと思ったからだ」
「でもそんな……そうなの?」
 虚淮の言葉に洛竹は眉を下げた。虚淮の意志なのか。本当に?
「こいつらはこれからの妖精だ。これから生きていく者には、これからの時代を生きやすくしてやった方がいい。これからの生き方は館のやり方だというのなら、そっちに乗せてやった方がいい」
 木々がざわめき、二人の上の木漏れ日がまだらに揺れた。
「いろんな妖精と出会い、人間の間で暮らし、新しい共存の形を探る。それがこれからの生きる道だというのなら、古い妖精のやり方に付き合わせるよりその方がいいだろう」
 言葉を切り、まつげを伏せた虚淮の視線の先には、三人の小さな妖精がいた。遊び疲れたのにまだ遊びたいのか、仲間の身体に折り重なって、力尽きて眠っていた。すぴすぴと断続的に聞こえるかすかな寝息は平和そのものだ。虚淮に倣った洛竹も、頬を緩めてそれを見つめた。自分の思い出すのは幼かった天虎の姿だが、きっと虚淮には、風息と洛竹の姿も重なって見えているに違いない。
「まあ、まだ先の話だがな。幼い時代は可能な限り自然の中で過ごさせてやりたいし、もう少し話が通じるようになってからでないと、館も持て余すだろ」
「風息を育てたように?」
 急に心配になった洛竹は、つい口走ってしまった。
 あの日、風息がいなくなった。それを受け入れるのに、洛竹はずいぶん時間がかかった。空いた穴は埋まらない。喪失は喪失だ。でも洛竹には弟も、周りに心を寄せてくれる者もいた。だから、穴を抱えたままでも歩いてこられた。
 自分よりずっと長く風息と共にいた虚淮の穴はいかほどだろう。抜け殻のようになった島にひとりきりで、虚淮はいまどんな場所にいるんだろうか。あの子たちをいつかの風息と同じのように感じているのではないだろうか。虚淮は納得ずくだと言っているが、また来るはずの別れは、虚淮の傷を深めるのではないだろうか。
「こいつらは風息ではない。生まれ変わりでもない。風息の代わりはどこにもいない」
 ちゃんとわかっている、と、遠くを見るように虚淮が言った。
「時間は生きている限り進んでしまうからな。それに、大きくなるまで一緒にいて、あんな別れ方をするのはもうごめんだ」
 ここに来た時は、と虚淮はぽつりと言った。ここに来た時は、子守りなんてもうこりごりだと思っていたのにな。虚淮はうっすらと笑んだ。それは懐かしい温度だった。洛竹がまだほんの子供だった頃の虚淮に似る。
 虚淮は切り替えるように立ち上がった。それはもう、いつもの、小柄ながらに堂々とした立ち姿の虚淮だった。
「と、いうわけだ。悪いが天虎にも、私はまだここにいると伝えてくれ。そのうちこいつらを館に連れていく日が来たら、自分の身の振り方はその時にまた考える」
「わかったよ」
 洛竹も立ち上がって答えた。虚淮が寂しくないなら、俺はもうそれでいいよ。
「ところで、お前たちは元気なのか」
 思い出した、という口調で虚淮が言い、今ごろかよ! と苦笑しながら洛竹が答える。
「俺は街で、天虎は森で、元気でやってるよ。心配しないで」
「また近いうちに来い。子守りを手伝わせてやる」
 折り重なっていた小妖精たちはいつの間にか寝返りを打ち、三人とも地面にのびて熟睡している。
 それを眺める大妖精ふたりの間に、海からの風が優しく吹き抜けていった。


2.

 いつだったか、舘の妖精が必要の際は使うようにと置いていった伝音箱に、時々洛竹から連絡が来る。連絡が来ると音が鳴り振動して、画面に文字でメッセージが表示されるのだ。昔に街で調達したものは、灰色の画面にカクカクした黒の文字だけだったが、これは白く光る大きな画面に細く滑らかな字が映し出される。なお、ボタンもない。画面には、文字に混ざって時折色付きの絵も入っていて、酷い時は絵だけがドンと送られてくることもあった。都会暮らしの洛竹に伝音箱の使い方を聞いたら、翌日から毎日のようにメッセージが送られてくるようになった。が、虚淮があまりにも返事をしないので、今では洛竹も必須の用件しか送ってこなくなった。大抵は明日そっちに行くからという内容で、そういう内容なら虚淮も承知した旨を返信している――最近覚えた「了解」というスタンプが便利で、そればかり使っている――。今日も洛竹から連絡が来ていた。明日天虎と一緒に遊びに来るそうだ。
 虚淮は履歴からいつものスタンプを選び、送信ボタンを押してから視線を空に転じた。夏が終わり、まもなく秋が訪れる。ぎらぎらと暑く眩しかった陽射しが、おおらかで鈍い金色をおびた陽射しに取って代わる頃、朝晩の風が涼しく感じられる頃だ。共に暮らしている小妖精たちに洛竹と天虎が来ることを告げると、彼らは気の狂った蛙のように飛び跳ねて喜んだ。あれ以来時々来ては遊んでくれる洛竹と天虎のことがみな大好きなのだ。洛竹と天虎も彼らとの戯れを楽しんでいたが、三人が全力で向かって来るので日が傾く頃にはへとへとになり、洛竹などは明日の仕事に障るからと言い訳をしながら日没前には退散している。
 さて翌日、転移門を使って洛竹と天虎がやってきた。街に出る時は腕に抱えられるぬいぐるみサイズに変化しているらしい天虎は、離島に着くなり洛竹の腕からぴょんと飛び上がると、一回転して大きな姿に戻った。洛竹に負けず劣らず小妖精たちに好かれている天虎は、変化したとたん三人の妖精に飛びつかれ、入島早々ご満悦だ。毛皮にしがみついた三人を腕で支えると、早速岩から木へ、木から岩へと鞠のように弾んで、島内散歩に連れて行ってやっていた。島いちばんの丘の上まで行った彼らは、追いついた洛竹と共においしい木の実を探し回り、天虎の帽子いっぱいに摘んで帰ってきた。
 太陽はまもなく真上、ちょうどお昼時となったので、虚淮のもとに帰ってきた一同は木の実を囲んで休憩とした。
「みんな、また大きくなったなぁ」と洛竹が言う。毎日一緒にいる虚淮にはわからないが、いつもの場所で並んで座っていると、たまに来る洛竹にはわかるらしい。小妖精の三人は口の周りを果汁まみれにしながらにやにやと笑った。
 口の中にある果実をいち早く飲み込んだらしい妖精が身を乗り出した。
「おれがいちばんおっきいんだ!」
 得意げに胸を張って、灰色の耳に灰色の尻尾をピンと立てて言う。なるほど三人の中では一番背が高く、体格もしっかりしている。
「ライは自分のことおれっていうんだよ」
 くふふ、と笑いながら言ったのは茶色の耳の小柄な妖精だ。立派な尻尾が自慢で、今も楽しそうに尻尾をふわりと広げて見せている。
「だってロジュは自分のことおれって言うだろ。おれも早くロジュみたいになりたいんだ」
 ライが言うと、洛竹は嬉しそうに笑った。
「へえ。じゃあユウはなんて言うんだ?」
「わたしは『わたし』。シューファイもそう言うでしょ?」
 ユウと呼ばれた妖精は、そう言うと隣でもぐもぐしている妖精を見て先回りした。
「ソウはあんまり喋らないの」
 一番小さなソウは、あるかないかの小さな黒い耳に、同じく黒くて長い尻尾を垂らして、目線だけをよこして頷いた。
 んんー、みんな大きくなった!! と破顔した洛竹が三人の頭をわしゃわしゃと撫で、それからライに向かって言った。
「ライは大きくなったから、もう一人で寝てるのか?」
「ひとりで!?」
 ライは飛び上がって大声を上げた。
「そろそろ虚淮やみんなと一緒の部屋は狭いだろ」
 虚淮がライを盗み見ると、ライは頬を紅潮させて目をキラキラさせている。小妖精たちは、ライも含めていつも虚淮の寝床で一緒に眠っていた。
「やる気があるなら、俺の元いた部屋を使えよ。案内してやる」
「いいの!? わーい! シューファイ、行ってくるね!!」
 食べかけていた木の実を放り出すと、ライは勢いよく立ち上がった。
「あ、わたしも行く!」
「いく」
 ユウとソウも後に続き、バタバタと賑やかな面々が去っていく。虚淮と天虎は、食べかけの果実とともにあっという間に取り残され、どちらともなく目を見合わせた。
 
 夕方になり、洛竹と天虎はまた来るよと手を振って帰っていった。
 ライは洛竹から譲り受けた部屋に大興奮で、陽が落ちる前にと、いそいそと初めての一人寝の準備をしていた。虚淮の部屋との間を跳ねるように何往復もしているライを、ユウとソウは興味津々で眺めていた。とっぷりと陽が落ちた後、彼らは新しい部屋に憧れながらも、自分たちはとても無理だと言いながらいつも通り虚淮の部屋に引き上げたのだった。
 高い空から星々が見下ろす夜半、虚淮は横になったものの、ぼんやりと起きていた。虚淮の寝床である木のうろでは、奥にユウとソウが、入口側に虚淮が陣取って寝ている。奥に眠る小さな妖精がひとりいなくなっただけなのに、ずいぶん広くなったように感じる。居れば居たで狭くはあるのだが、いないとどうも落ち着かない。
 とはいえ、と虚淮は考える。ライもずいぶん大きくなったのだから、一人で寝たいと言うのならば、本人の思うようにさせてやるのが良いのだろう。
 そんなことを思いながらうとうとしていると、星明かりが照らす虚淮の顔面を細い影がさっと覆った。現れた影はライだった。
「どうした」
 目をうっすら開けて虚淮が言う。ライはもじもじしながら口を開いた。
「おれ……やっぱり、ここで寝る……
「そうか」
……
 虚淮の反応はいつも通り可もなく不可もないものだったが、ライは両手をもぞもぞさせながらしばらくその場につっ立っていた。
 しばらく見合ったのち、虚淮はふっと笑みを作ると、ライに向かって言った。
「来い」
 身体を横にずらして場所を空けてやる。ライは影のようにするりと虚淮の隣に潜り込むと、顔を真っ赤にして視線を逸らした。昼間はああして啖呵を切ったが、夜になって急に心細くなったのかもしれない。そんな姿がなんだか懐かしくてかわいらしくて、虚淮は横向きになった自分の頭を片手で支えながら、反対の手でついその小さな腹をとん、とん、と叩いてしまった。
「赤ちゃんじゃない」
「違ったのか」
 とぼけてみせると、ライは怒ったようにまた頬を赤くした。しかし、ゆっくりとした速さでとんとんとする虚淮の手を振り払おうとはしなかった。
 愛おしいな、と思った。遠い過去にもこんなことがあった。ひとりで立ちたいと願って、でも巣も必要としている、そんな時期。でもまだ。まだ。
「ライ、」
「なに?」
 小声でささやく。ライの声が、小さな子供のころに似る。
「そんなに急いで大人にならなくていい」
「なんで?」
……
「シューファイがさみしいから?」
「ああ、そうだな」
 そういうことにしておこう。実際ほぼそういうことなのだが、虚淮は大人なので、大人らしくそう考えることにした。ライは安心したように頬を緩めた。
「へへ。しょうがないな、じゃあもうすこし一緒に寝てあげるよ」
 ようやく力の抜けた笑みを見せたライは、顔を傾けて虚淮の肩に額をくっつけると、おやすみ、と目を閉じた。虚淮もまた、ふっと笑って目を閉じた。
 外では氷を砕いたようなたくさんの星たちが、小さな島を見下ろしていた。


3.

 秋が終わり冬が来て、冬が過ぎると春になった。
 離島に暮らす小妖精たちはまたひと回り大きくなり、相変わらず洛竹たちは時々遊びに来た。洛竹から巣を譲り受けたライは、そこへ宝物を運び込んだり、昼寝をしたり、雨の午後には三人で巣にこもって雨宿りをしながら遊んだりしていた。
 昼間はだいぶ虚淮の手を離れた三人だったが、夜には以前と変わらず虚淮の寝床でみんなで眠った。小妖精たちの成長にともない、虚淮の部屋はだいぶ手狭になってきたものの、それ以外は以前と変わらぬ、穏やかな日々が続いていた。
 そんなある日の夜。
 小妖精たちが寝静まり、虚淮もいつものように入口側で眠っていると、遠くでかすかに乾いた音が聞こえた。今は夜中で、今日は風もない。目を閉じたまま虚淮は考えた。ガサガサというのは干し草を動かす時の音だ。誰かが起き上がって、干し草の布団をよけているのだ。虚淮が耳を澄ましていると、音に続いて立ち上がる気配があった。
 夜中に起きるなんて珍しい。そう思いながら薄く目を開けると、その気配はライだった。眠れないのか? それとも何かをしに? こんな夜中に? 半分寝たままの頭に浮かんだ疑問はゆるゆると回転する。夢うつつのまま、どうした?と言うと、声が掠れた。
 気づいてこちらを向いたライは、微笑みを浮かべたような落ち着いた声で、もう行くよと言った。顔を見ようと目を凝らしたが、いつの間にか入口まで来ていたライの顔は、月あかりのせいで逆光のようになっていて良く見えない。
「おれはもう行くよ、シューファイ」
 突然の宣言に、虚淮はとっさに返事ができなかった。
 寝床の話だろうか? 洛竹の巣で寝ると? ライが初めて一人寝に挑み、戻ってきたあの時からもうだいぶ経つ。再チャレンジをするつもりなのだろうか。
 確かに大きくなったしなという気持ちと、まだ早いだろうという気持ちが同時に湧いて、どちらを声に乗せれば良いのか一瞬迷った。ライの成長を見守ってやらないと。何事も経験なのだから。そう思い直したのに、口から出た言葉は「嫌だ」だった。
 情けないことに、本心だった。手を伸ばしたいのに、金縛りのように身体が動かない。
 嫌だ。駄目だ。行くな。
 言わなければ。止めなければ。そう思うのに、身体も口も動かない。
 この状況は身に覚えがあった。あれ以来何度も見る夢だ。
 ライの姿が、あの夢の姿と重なる。ライの声が、あの夢の声と重なって反響する。
『俺はもう行くよ、虚淮』
 駄目だ。行くな。叫んでいるのに声が出ない。
 そうしているうちに、ライの姿は闇の中へ消えてしまう。消えてしまう。
 待て、と上半身を起こすと、そこはいつもの寝床だった。
 氷の身体にも関わらず、息が上がって冷や汗が出て手の震えが止まらない。存在しないはずの心臓がバクバクと鳴るようだった。
 呼吸が落ち着くのを待って、さっきライが消えた入り口にゆっくりと顔を向ける。
 そこには誰も居いなかった。そこは、時折虫の声がする、いつもの静かな夜中だった。
 部屋の奥側に目をやると、ライも、ユウもソウもみな安らかに寝息を立てて、すやすやと眠っている。穏やかで平和な、いつもの夜中なのだった。
 虚淮は目を閉じて上を向くと、観念して溜息をついた。
 
 ああ、もう潮時だ。
 これ以上一緒にいてはいけない。
 
 
 その夜、虚淮はひっそりと覚悟を決めた。


4.

「ああ、頼む」
 虚淮は、十日後だなと念を押し、伝音箱を耳から離して通話終了のボタンを押した。
 小妖精たちを館に預ける、ということは、いずれはという形で以前から伝えてあった。妖精館というところは、妖精の転入や転居の手続きを毎月のように行っているらしい。通話はとてもスムーズに進み、問われるままに事務的な質問に答えるだけの数分で、話は完了したのだった。最後に何か聞いておきたいことはないかと言うので、移動方法は転移門ではなく飛行獣にしてくれと頼むことにした。飛行獣とは、虚淮がこの島に連れてこられた時に乗った、空飛ぶ大猫のことだ。最近新たに設置された転移門があるというのになぜわざわざと訝しむ担当者に、あいつらにはいろんな経験をさせてやりたいのだ、と真顔で言ったら変な沈黙が流れた。手間だから嫌なのだろう。幼い妖精を三人も乗せて雲の上を飛ぶのが危険だというのも、まあわかる。しかし、あいつらも前と比べればずいぶん聞き分けが良くなったのだ。いざ三人きりとなれば、ライは自分がしっかりしなければとしゃきっとするだろうし、ユウは口達者だが空気をよむのが得意だ。ソウは慎重派なので派手なことをする危険は少ない。問題ない躾はしてあると言うと、相手は上に確認しますと言ってしばし保留にした後、ようやく諾の意を口にした。
 
 伝音箱をいつもの場所に戻した虚淮は、まず第一段階を終えたことに安堵した。何ごとも経験は宝だ。それに、小妖精たちが出しなに嫌だとぐずる可能性もなくはない。そうなった場合、空の高いところを飛ぶなんていう珍しい体験は、きっと彼らの不安な気持ちを慰めてくれるだろう。……まあこれは、なるべく穏便に旅立たせたいという大人の都合でもあったりするのだが。
 そこまで考え、虚淮は目を閉じて思った。やはり、子守りに長けた妖精をつけてくれという要望も出しておくべきであったか。
 
 その日の昼過ぎ、虚淮は小妖精たちを呼び集めた。
 うらうらとした日差しの暖かい午後だった。森のあちこちに小さな花が開き、伸び上がっては陽の光を享受している。風が吹けば木々の枝先についたつぼみが揺れ、開花の兆しを見せていた。
「十日後、引っ越しをする」
 虚淮が言うと、三人はぽかんと口をあけてから顔を見合わせた。虚淮が座って三人が立っていると、見下ろされるかたちになる。まっすぐ伸びた新芽のような手足が目の前にあった。幼い妖精らしく、腹も頬もまだまだぽっちゃりとしてはいるものの、それでもずいぶん大きくなったなと思う。大きな目をきらきらさせて駆け回る姿には、いまだに目を細めてしまうけれど。
「ひっこしぃ?」
「ひっこしってなに?」
 ユウが言うと、ライもソウも口を揃えた。
 そうか、こいつらは引っ越しを知らないのだ。虚淮がこの島で転地していないのだから当たり前だが、風息がこれくらいの頃にはとっくに転地を経験させていたので――隣の森だとか山の裏手だとか、大した転地ではなかったが――、していないということをすっかり忘れていた。そう考えると、こんなに大きくなるまで転地の必要がなかったというのは、とても凄いことなのかもしれない。
「引っ越しというのは、今と別の場所に住むことだ」
 小妖精たちに座るよう促しながら虚淮が答えた。
「別の場所って?」
「はまとか、いしのところとか?」
「へぇ、楽しそう! わたしたちで選んでいいの?」
「おれ、あの小さい滝のあるとこがいいな。魚がたくさんいるんだ。シューファイも便利でしょ」
「えー、それなら東の森のほうがいいよ。木の実がたくさん採れるもの」
「どこがいいか、たんけん」
「あ、それいい! だれが一番良い場所見つけるか競争しよう!」
 ああだこうだと遊びの延長のようにきゃっきゃしている三人を見て、虚淮は黙った。こいつらは、この島の外にどんな世界があるのかなど考えたこともないのだ。ここしか知らない、まだまだこの島で遊んでいたい、ここが最良なのだと思っている小妖精たち。
 ふと、まだいいのではないか? という思いが虚淮の頭を掠めた。
 こんなにこの地を好いているのに、わざわざそれを取り上げるようなことをせずとも。いずれはしなければならないとしても、例えばあと一回季節が巡るまで待つとか。もしくは、この島の中で転地をしてみて、それから考えるというのは。
 その考えは、ライが出て行く夢を見たあの夜以来、永遠の夜の底に留まっているかのような心持ちの虚淮にとって、一筋の光明のように思われた。
「シューファイは? どこがいいと思う?」
 気が付くとライが顔を覗き込んでいて、虚淮は我に返った。
 幻の光が霧散する。まばたきをすると、そこに広がっているのは明るい午後の陽が溢れた緑の風景だった。ライと、その後ろから顔を出すユウとソウが、希望に満ちた表情で自分を見て笑っている。
 駄目だ、と虚淮は拳を握った。決意を揺らがせている場合ではない。
 こんなに好いているのだから、ではない。こんなに好いているからこそ、だ。
 ここしか知らないからこそ、この島が好きだからこそ、あそこへ行かせるのだから。
「お前たちはこれから『妖精館』に行く。この島ではない」
 小妖精たちから、えー!? という声が漏れる。新しい住処を探す気満々だったのが早々に挫かれた不満の声だ。しかしそこは子どもである。興味が移るのも秒速だった。
「ようせいかん?」「なにそれ!?」「どこにあるの?」「どんなとこ?」
 矢継ぎ早に三人から聞かれ、虚淮は落ち着いて答えた。
「ここから空を飛んでずっと遠くの、空に浮かぶ場所だ。妖精がたくさんいる。人間も少しいる」
 そらにうかぶばしょ、と口の中で呟いたユウは顎に指を当て首を傾げた。
「たくさんって、十人くらい?」
 動物や精霊以外には、虚淮と自分たち三人、それに洛竹と天虎の最大六人しか知らない小妖精たちを代表して、ソウが言った。
「もっといる。何十人か、百人以上か」
「へえ、すごいや」
 ライが興奮して言った。空を見上げながら、見たこともない数十人の妖精を思い浮かべているらしい。
「いろんな者と出会って関わることは、いい学びになるだろう」
「うん! シューファイはすごいね、そんな場所知ってるなんて」
「一度行ったことがあるだけだ」
「楽しかった?」
……私のことはいい。お前たちは、きっと楽しく過ごせるだろう。洛竹もたまに来ると言っているし」
 虚淮の言い淀みを敏感に察知したユウが、怪訝な顔をした。
「シューファイは? 一緒に行くよね?」
「シューファイ、行かないの?」
 雲行きが怪しくなり、虚淮は言葉を切った。
 仕方ない。わかっていたことだ。どこかで言わなければならないのだから。
「私は行かない。お前たちだけで行くんだ」
 テンションの急降下とはこのことだ。その場の温度がすっと下がり、一拍置いてユウとソウが騒ぎ出した。
「えー!? やだ! シューファイが行かないならわたしも行かない!」
「シューファイいっしょに行く」
「大丈夫だ。私なんかよりずっと面倒見のいい妖精がたくさんいる」
 予想の範疇の反応だ。虚淮は注意深く、用意していた言葉を返した。
 自分の存在をこんなにも求めてもらえることに、嬉しさが全くないと言えば嘘になる。が、そんな些細な嬉しさ以上に、これは多少、いや、相当に胸を絞られるな、と思った。
「シューファイがいなきゃやだ!」
「そう言うな。きっと気に入る」
「シューファイは一緒に行けないの?」
 虚淮にまとわりつく二人のうしろから、ライが真っ直ぐこちらを見て言った。
「ああ」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
 自分の声が、いつも以上に取りつく島のないように響いた気がして気が咎め、虚淮は三人の頬に順番に手のひらをあてた。
「そう言わずに、一度行ってみなさい」
 語調をゆるめ、ひとりひとりの目を見ながら言う。言った途端、小妖精たちと出会ってから今日までの記憶が頭の中に溢れ出した。自分に生じた予想外の反応に、虚淮は内心焦った。いつもどおりにやらなければ。いつもどおりに。
「行ってみて、もし嫌だったら、ここに戻ってくればいい」
 手を離されるのが辛いのは知っているが、自分から手を放すというのも、思ったより難しいものだな、と思う。
「私はずっとここにいるから」
 自分の周りにぎゅっと固まっている小妖精たちの背を、虚淮はそっと撫でてやった。


5.

 それから十日間、虚淮は極力いつも通りに過ごした。取霊をし、子供たちを眺め、何かあれば手を貸し、あるいは見守り、一緒に行こうだのこれを見てだのと腕を引かれるのに付き合い、請われれば氷を出してやったりもした。
 伝音箱には洛竹から驚きのメッセージとともに、その日は自分も手伝いに行くからという内容が届いた。手伝うもなにも、することといえば小妖精たちを飛行獣に乗せることだけなのだから別にいい、と思ったが、やはり何かあった時のために居てもらった方がいいのかもしれないと思い直し、いつものスタンプを返信しておいた。
 最初の数日、小妖精たちは虚淮と片時も離れずに過ごしていた。虚淮を中心とした狭い半径の中で、なんだかんだと声をかけてきてはまとわり付き、隙を見ては虚淮の背中や膝や腕にやってきてごろごろと甘えたがった。
 もう数日経つと、彼らの半径は少し広がった。タイミングを見計らって各々が甘えにやってくるというのは変わらなかったが、気づくといなくなっていることも増えた。とはいえ割とすぐに戻ってくるので、長時間離れていることはなかった。そして、昼間どんな過ごし方をしても、夜にはいつも通り――いつも以上に、虚淮にぴったりとくっついて眠った。
 離れたりくっついたりを繰り返しながら、少しずつ別れの準備をしているのだろう。少し切ない気もしたが、そもそも己の撒いた種なのだし、だったらそれが育つのを見届けるのは自分の役割りなのだろう。虚淮はそう己に言い聞かせ、自らもまた、別れの心構えを新たにするのだった。
 
 島での生活もあと三日となったある夜、巨大な満月が空に昇った。
 雲はなく、気持ちの良い風が吹いていたので月見をした。月見では、月を見ながら団子を食べる。昔風息が人間の里から聞いてきたのを、よく真似したものだった。月が日に日に太っていくのはわかっていたので、今日は昼間のうちに団子をつくっておいた。木の実を石ですりつぶし、先日洛竹が置いていった米の粉というのも入れてかさを増し、水をまぜて捏ね、丸めてから日に干した。
 月のおかげで互いの顔がよく見える、とても明るい夜だった。一同は葉の上に積み上げた団子をもぐもぐと食べながら、水辺に腰掛けて月を見上げた。自ら発光しているかのような、山吹色をした迫力のある月だった。月は水面にも映っていて、時折吹く風がその輪郭を微かに揺らした。
 団子を手にしたままそれらをぼんやりと眺めていると、ユウが突然言った。
「ね、シューファイ、お花出して!」
 氷の花は以前も出してやったことがある。ずっと前、夜空に舞う火の花を出した洛竹に、虚淮もやろうぜと強引に勧められて披露したのだ。その時の花のことを、ユウは覚えていたらしい。
「お月さまが明るいから、きっときれいだよ」
「わぁ、賛成」
「見たい見たい!」
 三人が期待のまなざしで虚淮を見上げる。
「そうだな」
 虚淮もつられてふっと微笑んだ。自分が彼らのために作る氷の花は、きっとこの島での良い記念になるだろう。そう思って頷くと、虚淮は片方の掌を上に向けてつまむような仕草をした。再び手を開くと、そこには蓮の花を模した氷の花が現れた。三人分を作って手渡す。幼い手にはだいぶ大きく、掬うように合わせた両手いっぱいに氷の花が咲いた。空にかざすと、透き通る花弁に月の光が透ける。気候が暖かいので表面から少しずつ溶けてしまうが、それが余計に艶を増してきらきらと綺麗に見えた。
「きれーい」
「冷たいね」
 顔に寄せたり掲げてみたり、ひとしきり手の中で楽しんだ後でライがいった。
「これって水にも浮く?」
 氷だから浮くだろう。やってみろ、と言うと、三人はそろそろと石で囲われた水面に花を浮かべた。弱い風がそれらをゆらりゆらりと運んでいく。水に浮かぶ満月の上に咲いた蓮の花。水に浮かべるというのは初めてやったが、なるほどきれいだと虚淮も思った。それはやがて溶け、水になって見えなくなった。
「なくなっちゃったね」
「せっかくきれいだったのに」
 口々に言いながらも、そこで月見はお開きとなった。
 
 そして最後の二日間、小妖精たちは変わらず虚淮にまとわりついたが、かと思うとしばらく森に入って戻ってこなかったりと、虚淮と離れている時間が増えた。時には全員一度にどこかへ行ってしまい、ひとりぽつんと取り残されることさえあった。仲の良かった木や花や動物たちに別れでも告げに行ったのだろう。
 良いことだ、と虚淮は思った。引っ越しの話をした当初はずっと虚淮にべったりだったので、このままでは上手く別れられないのではないかと心配したが、幼いなりに徐々に別れを受け入れてきているのかもしれない。子どもは強いな、と虚淮は思った。大丈夫、この先も彼らはきっと大丈夫だ。
 そんなこんなで最後の十日間は、あっという間に過ぎ去った。おそらくそれぞれが、この日々を解像度高く記憶しようと、目を耳を凝らしていた。
 
 そして最後の朝。
 既に転移門経由で合流していた洛竹と虚淮たちは、砂浜で迎えを待っていた。
 よく晴れた気持ちの良い日だった。約束の時刻になると、妖精館の妖精を乗せた飛行獣がやってきた。はじめは上空に現れた点のようだったのが、みるみる大きくなり、巨大な姿となって砂浜に着陸する。砂煙が舞い、水が避ける。虚淮は、右手をライと繋ぎ、左手は腰にしがみつくユウの背に置いたままそれを見届けた。ソウはといえば、後ろから虚淮にぺたりと張り付いて、ライと虚淮がつないだ手の間からおずおずと覗いているのだった。
 常に笑っているような顔の飛行獣は、小妖精たちを認めると、ことさらにっこり首をかしげた。彼の輝くような乳白色でふわふわと長い毛並みは、飛行獣を初めて見る小妖精たちの目をたちまち釘付けにした。
 妖精館の妖精が二人降りてきた。二人とも知らない妖精だったが、柔和な雰囲気だったので、幼い妖精の旅立ちであることを館側が考慮してくれたのかもしれない。
「よろしく頼む」
「お任せください」
 短い挨拶を済ませると、虚淮は小妖精たちに向き直った。
 姿勢を落とし、ライの両手と手をつなぐ。
「じゃあな」
「うん」
 ライは目を潤ませながらも気丈に頷いた。
 行ってこい、と背中を押すと、洛竹がそれを受け止めて、飛行獣に乗る手助けをしてくれた。ライが乗るのを見届けると、反対側にいたユウに向き直る。
 ユウの顔はすでに涙でべしょべしょだった。同じくしゃがんで手を握る。
「元気で」
「シューファイも」
 ユウは涙声で言うと、細い腕を巻き付けて短い抱擁をした。
 ユウの背を見送ってソウを呼ぶと、虚淮の着物を掴んだソウの手がぎゅっとなった。
「ソウ」
 虚淮の背後に顔を押し付けて離れないソウのために、虚淮はぐるりと後ろを向いて、手を取ってしゃがんでやった。途端に抱き着いてくるソウの背をとんとんと撫でてやる。
「大丈夫だ」
 耳元で言ってやると、ソウは小さく何度も頷いた。
 全員が乗り込んだのを見届けて、妖精館の妖精も飛行獣に飛び乗った。
 洛竹と並んでそれを見上げる。別れとは、こういうものだったか。初めての経験だな、と虚淮は思った。でも大丈夫。手を放しても、もうこいつらは大丈夫だ。
 そう胸の中で呟いていると、飛行の準備を始めた飛行獣の上で突然ライが叫んだ。
「シューファイ! シューファイは大丈夫!?」
 虚淮がライの予想外の発言に驚いていると、ライが重ねて叫んだ。シューファイは大丈夫? さみしくない?
 飛行獣の足が地面から浮き始めている。虚淮は目を見開いた。
「シューファイ、さみしくなったら、おれたちの木のとこに行ってね」
 おれたちの木……? そんな木あったか?
「シューファイがおれたちを見つけた木! さみしくなったら、絶対行ってね!」
 見ると他の二人もライの言葉に首をぶんぶん振って頷いている。
 飛行獣の浮上に伴い、砂煙がまた舞い上がる。煙の向こうのライたちの顔が霞んで、徐々に小さくなっていく。そしてとうとう飛行獣の腹しか見えなくなり、やがてそれも空の上の点になった。
 
 虚淮は俯いて自分の手に目をやった。両の手にまだぬくもりが残っている。
 とうとう手を離してしまった。
 これが最善だとわかっていても、喪失感まではなくせない。
「行っちゃったね」
 洛竹が言う。
「ああ」
 虚淮は空に視線を固定したまま答えた。
 洛竹に来てもらって良かった。
 口には出さなかったが、心の底からそう思った。


6.

 小妖精たちの旅立ちを見届けた後、洛竹は虚淮と森の中のいつもの場所に戻った。戻る途中、虚淮はずっと無言だった。
 そりゃあそうだろう、と思う。でも、今聞いておかなければならないことがあった。
「ほんとによかったの? 虚淮」
 いつも焚火をし、食事をした場所まで来ると、洛竹はそう口火を切った。これが正解かなんてわからない。でも今度こそ、手遅れにはしたくない。
 黙って前を向いている虚淮から視線を外し、今は火の絶えた焚火跡を眺める。最初は四人だった。それがこの島の始まりだった。途中で小黒が来て、すぐに誰もいなくなり、それから虚淮がひとりやってきて、やがて小妖精たちが加わった。そして今は、この場にふたりきり。
 隣に居る虚淮の胸中を思い、洛竹は決意を新たにした。大切なものの喪失を、胸を締め付けるような思いを、もう虚淮にひとりで抱えさせはしない。何の解決にもならなくても、知ることしかできなくても、同じ重さを分け合いたい。今度こそ、間違えない。
「あいつらはここが好きだった」
 虚淮がいつもの虚淮の定位置に腰かけ、地面を見つめてぽつりと言った。
「ずっとここに居られれば、あいつらもきっと楽しかったろう」
 うん、と洛竹が頷く。
「私もまた、あのままでいれば、ここであいつらと以前のような暮らしができたかもしれない。誰にも追われることなく、誰と戦うこともなく、騒々しい笑い声に溢れた、温かい穏やかな暮らしが」
 洛竹は再び頷いた。目の奥に、彼らの残像をありありと思い描ける。あの大きく隆起した根の上に、並んで座っていた小妖精たち。いつもうまそうに食べ、楽しそうに笑っていた。不覚にも滲みかけた洛竹の涙を、虚淮の冷静な声が止めた。
「でも、それでは繰り返しになる」
「繰り返し?」
 虚淮が洛竹を見上げ、洛竹が視線を受け止める。いつもの冷静な虚淮の視線だ。
「この島も、いずれは人間に見つかる。十年後か、百年後かはわからないが、必ず目をつけられる日が来る。絶対だ。今まで見つからなかったのは、ただ幸運だったに過ぎない。そうなった時にあいつらが、この島しか知らない、私やお前たちとしか話したことのない妖精だったら、どうなると思う。おそらくまた同じことが起こるだろう。大好きな島を、大好きな仲間を傷つけられる日が来たら、あいつらの中から舘を怨み人間を憎む妖精が出ないとも限らない。……私は、それを避けたい」
 それを聞いて洛竹ははっと息を呑んだ。風息のことが浮かんだ。風息と、そして自分たちの。故郷を住処を仲間を傷つけられ、悲しみ、怒り、最終的に自分たちは、館に対して牙を剥いた。そして結果はご覧の通りだ。故郷が戻ることはなく、自分たちは仲間であり家族であった風息を永久に喪った。洛竹は膝の上でぎゅっと拳を握った。
「風息と生きた時間に後悔は微塵もないが……あいつらが同じ目に合うのは見たくない」
「うん」
「憎しみは、憎んだ本人をも蝕む。相手だけでなく自分自身も傷つける。私はあいつらに、誰も憎んで欲しくない」
 洛竹は頷きながら黙って聞いていた。虚淮は後悔はないと言い切るが、きっとその結論を腑に落とすまでには何度も何度も考えたのだろう。おそらく途方もない時間。その重みに胸が痛かった。
「あいつらに、奪われる悲しみを知って欲しくない。傷ついてほしくないし、絶望を味わわせたくない。憎しみなんて、私だけが知っていればいい」
 洛竹は目を見開いた。虚淮はそのために、あの子どもたちを手放したのか。
 喉に熱いものがこみ上げ、目の奥がつんとした。
「もう目の前で大事な相手が消滅するのを見るのは嫌だからな。……なんでお前が泣く」
 虚淮が再び目線を合わせた時、自分の目が赤くなっている自覚はあった。だが。
「まだ泣いてない!」
「そうか」
 洛竹が出かかった涙を引っ込めるべく、自分の頬をぺちんと両手で叩いて深呼吸していると、虚淮も軽く息をついて話調を変えた。
「妖精館にはいろんな妖精がいるだろう。たまに地上に降りればいろんな人間も見られるし、お前もいるし天虎もいる」
「うん」
 もちろん、という気持ちを込めて胸を張る。
「館にいけばそれを見せてやれる。あんな生き方も、こんな生き方もある。いろんな選択肢の中から、自分の目と手で選び取らせてやることができる」
 洛竹は虚淮の意図を理解した。視野を広く持つためには、ここに居続けてはいけないということなのだ。いつもながら慧眼だな、と思う。
「だからこれが最善だ。あいつらは、これからの妖精なのだから」
「そうだね」
 洛竹は目を擦りながら笑顔を作った。それに、と虚淮が言う。
「大事な場所は、いくつあったって良いだろ」
「うん」
 今の洛竹にとって、故郷龍游はもちろん、この離島だって今の龍游だって大事な場所に変わりはない。大事な思い出のあるところ。大事な人のいるところ。今、根を張って生きている場所。あの子たちはきっとこれから、大事な場所や大事な人を増やしていく。妖精と関わり、人間と関わり、新しい未来を作っていくのだ。
 でも、と洛竹は振り返る。でも、じゃあ虚淮は。
「私はここにひとりで構わない。お前たちや、あいつらが遠くで元気に生きているならば、それで十分だ」
「龍遊に戻ってこないの? 小さいけど森もあるし、俺も天虎も近くに居られるのに」
「あいつらと約束したからな。あいつらが逃げ帰ってきたとき、待っていてやる者が必要だろう」
「そっか……。さみしくなるね」
「実際、今の龍游で暮らすには霊力の確保が難しい。ここのほうが快適だ」
「でもさみしいでしょ?」
「慣れている」
「俺が時々遊びに来てあげるからね!」
「ふ、余計な世話だ」
「もう、素直じゃないんだから」
「その代わり、時々写真を送ってくれ。伝音箱に」
「わかったよ。ついでに今度スタンプでもプレゼントするよ」
「今ので足りているが?」
「いっつも同じやつしか送ってこないからだよ!」
 語調を強めながらも、洛竹は内心で安堵していた。大丈夫、いつもの感じだ。ずっと昔から変わらない、自分と虚淮のいつものやりとり。
 積み重ねていこう、と思った。こんな会話を、こんな時間を、こんな日々を。虚淮はあの子たちを待っててやると、困った時にひとりにしないと言うけど、俺だってもう、虚淮をひとりにしないよ。言わないけど。
 そんなことを考えていたら、突然前触れもなく虚淮が立ち上がった。
「行くか」
「どこに?」
「あいつらの木のところ」
「え!? もうさみしくなったの!?」
 つられて立ち上がりながら声を上げる。虚淮は歩き出しながら答えた。
「違う。気になるだろ」
 そういえば忘れてたけど、ライが最後に言っていた『おれたちの木』の話は、確かに気になる。ずんずん大股で進む虚淮を小走りに追いかける。
「虚淮、どこだか知ってるの?」
「場所はわかる」
 石造りのエリアを抜けて、森の深い方へ行く。以前虚淮は、小妖精たちを見つけた場所は、風息が守った木のところだと言っていた。でもあれから随分時が経つので、もう他の木と見分けがつかなくなっていやしないか。そんな洛竹の心配をよそに、虚淮は迷いなく歩みを進める。そしてずいぶん歩いてから、虚淮が立ち止まった。
「ここだ」
 そこは深い森の中で、虚淮の指す木は、根に近いあたりから立派な大枝が三方向に分かれているものだった。そしてその中心から、まだ成長途中であろう若い枝が伸びている。枝というより幹に近い太さで、まわりの大木に比べれば若いというだけで、洛竹が腕を回してちょうど抱えられるくらいはありそうな立派なものだった。
「これが、風息の守った木……
「ああ。私が毎日水をやっていたからな。あの頃は腕ほどもない太さだったが、大きくなった。最近は慌ただしくてあまり来られていなかったが」
 虚淮とともに地面を蹴り、飛び上がってその木の場所まで移動する。木に手をついて見回すと、うっそりと繁った森が四方に広がっていた。むっとする湿度は木々が呼吸をしている証だ。洛竹は大きく息を吸って吐いた。洛竹にとっても懐かしい空気だった。しかし、と頭を巡らせる。ライが言わんとしていたことはなんなのだろう。寂しくなったら自分たちの産まれた場所を見て、自分たちを思い出せと? だが生活していた場所はここではないし、思い出があるのだって寝床や水場のある向こうのほうが多いはずだ。それとも、ここに何かがあるのだろうか?
 洛竹がライの言葉を思い出しながら木の周りを眺めていると、反対側で虚淮が小さく息を呑んだ。固まって動かない虚淮に声をかける。
「虚淮、どうした……あ!」
 虚淮に倣って木の下を覗き込むと、洛竹たちの乗った大木の根元に、明らかに周りとは違う、ひとかたまりの若木が生えていたのだ。ひょろひょろと頼りなく白みがかった若い葉が、僅かに届く日光を反射して輝いている。そしてその周りには、丈の低い小さな花がいくつも咲いているのだった。柔らかい黄緑の絨毯の中に、白や黄や青や桃色の花が点在していている。薄暗い森の中にも関わらず、新しい草花のおかげでそこだけスポットライトが当たったようになっていた。
「これか」
 虚淮が溜息のように呟いた。虚淮に続いて飛び降り近づいて見ると、ひとかたまりに見えた膝丈ほどの若木は、なんと三本の木だった。葉の系統も幹の色も葉のつき方も高さもまちまちの、若葉を茂らせた三本の木。
 洛竹の目に、今度こそ涙が込み上げた。いつだったか、木の生やし方や花の咲かせ方を教えたのは洛竹だった。あの時の小妖精たちは、途中で成長が止まってしまう芽や、葉の乏しい蔓しか生やすことができかなった。うまくいかないと地団駄を踏むのを、笑って励ましてやったことが思い出される。いつのまにこんなにできるようになっていたのだろう。だめだ、ちょっと泣きそうだ。横を見ると、虚淮が穏やかな声で言った。
「あいつらの木か。……仕事が増えたな」
 愛おしそうにその葉を撫でる虚淮の顔が、洛竹の視界に滲んで映った。





〈了〉


あとがき

 拙作をお読みくださり、ありがとうございました。
 この話は、二〇二二年の三月にふと呟いたこのネタから始まりました。
『映画後離島に流刑になった虚淮、離島でぽこぽこと妖精の子が生まれて、なりゆきで三つ子育児みたいなことをしてる図がふと浮かんだ。虚淮はちびちゃんたちとつかずはなれず自然の中で一緒にいてやり、彼らが小黑くらいになったら、違う世界も見てこい、と館に身柄を預ける。行くのを嫌がったらあの時の鳩爺みたいに、行ってみなさい、嫌なら帰って来ればいい、と言って送り出してくれる。その後も離島に留まる虚淮がいたとしたら、その子らが困った時に帰って来られる居場所でありたいと思ってるから』
 書き始めた時は、この妄想を形にしたいという気持ちだけでしたが、書き終えた今、これは未来への希望の話だな、と思います。
(虚淮は風息が幼いころからずっと傍にいた存在で、洛竹はそんな風息が育てた存在である、という個人的な妄想をベースにお話しますが、)風息をずっと傍で見守ってきた虚淮にとって、また、生まれてからずっと風息が傍にいた洛竹にとって、風息の不在というのはとても大きく受け入れがたい現実なのではと思います。彼らは「風息と過ごした過去」と「風息のいない未来」を抱えてどうやって生きていくのだろう。私ごときに答えは出せませんが、自分なりのひとつの形は残せたのではないかと思っています。
 共に残された兄を案じ、もう二度と失わずに生きていきたいと願う洛竹。図らずも過去と同じように幼い妖精と暮らし、彼らをより生きやすい道に導くことができた虚淮。空いた穴は塞がらないけど、かつての風息の存在と不在を抱えながら、それでも未来へ進んでいくところが書けたのではないかと思っています。
 この後妖精館に行った三人は、多種多様で個性豊かな妖精たちを見て、驚きながらも段々に順応していくんじゃないかと思います。ホームシックになったとしても、互いに励まし合いながら帰らずに頑張れるんじゃないかな。耳や尻尾を隠せるようになったら、地上デビューもしたりして。もしかしたら、耳や尻尾の隠し方は、時々館に出入りしてる小黒が教えてくれるかもしれない。洛竹に連れられて紫羅蘭のお店に行ったり、風息公園に行ったり、ハンバーガーに目を輝かせたり、妖精と人間が一緒に暮らしている社会を肌で感じたりしてほしい。そして、中学生くらいになった小黒や小白に、十歳くらいになった小妖精たちが読み書きを教わったり遊びに連れていってもらったりする未来があったらいいなと思います。小白の部屋の机にノートを広げて文字に奮闘する三人に、優しく教えてあげる小黒や小白や山新がいたりして、そこへ小白ママがジュースとお菓子を持ってきてくれる風景とか。そんな『妖精と人間の共存』が見られたらとても嬉しいな、なんて妄想を広げています。
 虚淮は、風息の木+三人の木に毎日水をあげつつ離島で暮らして、向こうの暮らしに慣れた三人が季節ごとに帰省してくるのを温かく受け止めたりしていてほしい。たまには虚淮が龍游に出向いてくれてもいいし。大はしゃぎで虚淮に街を案内する三人とかいいな。霊力の補充が難しいから離島にいるけど、三人とは永遠の別れじゃなくて、たまに帰省してくる子を田舎で待ってるお母ちゃんのような感じの未来がいいなと思っています。みんな幸せに生きてくれ。最後までお読み下さりありがとうございました。
 
 ■蛇足の設定など■
【伝音箱】
 スマホ。今はもう館の管轄の島でもあるので、電波はきっと館が何とかしてくれているはず。電源は、モバイルバッテリーが定期的に支給されているかもしれない。
【転移門】
 新たに設置したということにしており、洛竹天も度々来ているし、あんな涙の別れしなくても転移門から行き来できるじゃん!? と思われると思います。その通りです。転移門があるとはいっても、どこでもドアみたいにいつでも自由に使える訳じゃなくて、それなりの手続きや霊力が必要なのでということにしてます(笑)
【小妖精】
 最初、名前付きのオリジナルキャラクターに抵抗があったんですが、この話を書くなら名前も個性もつけねばなるまい、と思って考えました。詳細を書き込むことは極力控えましたが、どんな感じで想定していたかご興味ある方はご覧ください。
 ライ(雷/ハイイロオオカミ) 元気でやんちゃで長男気質で、つい風息と重ねて見てしまうキャラになりました。
 ユウ(雨/キタリス) 明るくてお喋りで賢くてしっぽがでかい……と思ってたらだいぶ若水ちゃんみたいな感じになってしまいました。
 ソウ(霜/カワウソ) のんびりやで甘えんぼタイプの末っ子。カワウソってイタチ科だけどあんまり顔がイタチっぽくなくてかわいいよね。
 名前は「雨冠で揃えられて、日本語でも読めて、名前として成立しそうなもの」という観点で選びました。諸事情によりユウ(雨)だけ中国語読みです。
 似せようと思ったわけではないのですが、書いてたら「これ、風息・洛竹・天虎っぽいな?」と気づきました。気づいたけど突き進みました。
 ちなみに、小妖精の名前と、小妖精が呼ぶ「洛竹」や「虚淮」は全部片仮名表記、小妖精が自称する「俺」「私」は全部平仮名表記にしています。



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