ショウちゃんがポケモンをチタタプしてはんばあぐを作るお話。
@oboro73672367
「ええと……。今日もお肉なんですね。わー。嬉しいなぁ……」
目の前の膳にこんもりと盛られて、香しい匂いを放っている焼き肉の山を眺めながら、ショウはやや棒読み気味に呟いた。
今日の夕食は、焼き肉、漬物、ご飯。
ここヒスイの地では肉はそれなりに貴重で、衛生面の管理の難しさもあって、コトブキムラでは簡単に手に入らなかった。
紅蓮の湿地では近くに食用にできるポケモンが住んでいるので、コンゴウ団は昔から肉を食べる習慣があった。だからお肉が大好きなショウは、お肉を食べるためによくコンゴウの里に遊びに出かけていたのだけれども……。
「はぁ、そろそろお野菜や汁物が恋しくなってきました……」
ショウは無表情で呟きながら、ごりごりミネラルの粉末を振りかけて肉を頬張る。肉の焼き加減は絶妙で、噛みしめるたびに肉汁が口いっぱいに広がって美味しい。とっても美味しい。
けれども、ショウはここ三日間ほど毎日肉を食べ続けている。さすがに朝から肉という訳ではないが、昼は茹でた肉や甘酢で煮た肉が出てきて、夜は必ず焼き肉だ。いくらこの時代の肉は貴重で中々食べられないと言ってもこんなに食べ続けていると飽きてしまう。
「ショウ、オレの分も食うか?」
「え、さすがにそんなにはいりません。っていうか、セキさんのノルマはちゃんと食べてください。ずるはいけませんよ」
ショウが睨みつけると、隣でショウと同じメニューを食べていたセキは渋々と肉を口に運び始めた。しかしその動作は酷く緩慢だ。
「はぁ。もうすぐキノコが旨くなる時期だって言うのに、肉ばっかりで飽きちまうな」
「セキさんが言わないで下さいよ。私は完全にとばっちりなんですからね。……ああ、でも、キノコの佃煮、食べたいですね」
「天ぷらも食いたいよな。ケムリイモも輪切りにして、さっと素揚げにしてもいい」
「いいですね。……でも、そのためにはまず、この肉を完食しないと」
「……そうだな」
とても美味しそうな肉なのに、見ているとため息が止まらない。ショウとセキは、再び無表情で焼き肉をつまみ上げ、ゆっくりと口へと運ぶのであった。
コンゴウの里は、近年まれに見るほど肉の備蓄が潤沢だった。むしろ、肉が多すぎて保管用の氷室に入りきらず、皆でせっせと肉を消費しなければならないほどだ。その理由は、一週間ほど前、里のすぐ近くでポケモンの大大大発生が起こったからだった。
大大大発生の報告に、里には緊張が走ったが、たまたま近くにいたショウも応援に駆け付け、各地へ散らばっていたキャプテンたちも緊急参戦した。出来る限りのことをして全力で戦った結果、無事にポケモン達を撃退して、里は守られた。
奇跡的に人的被害もなかったが、さすがにポケモン達を無傷で追い払うことは出来なかった。
「傷つき、倒れ伏したポケモン達は、オレたちの糧にする。廃棄処分は可能な限り、少なくする」
セキはそのように指示を出し、ショウにはこれがコンゴウ団の信念なんだ、と語った。
ポケモン達の闊歩する大地で生き抜いてきたコンゴウ団。ポケモン達と食らい合いながら共存してきた中で、奪った命は粗末にしないという想いが信念へと変わっていったのだろう。そうショウは納得したが、いかんせん、今回の大大大発生の戦いは激しかった。命を落としたポケモン達も大勢いた。その結果、コンゴウ団は食べきれないほどの肉の山を抱えることになったのだ。
「これがもう少し涼しかったら、シンジュ団やギンガ団にも肉を運べたんだがな」
カチコールの暮らす氷室から今日食べる分の肉の塊を運びながら、セキはため息交じりにショウに溢した。
残念ながら、秋めいてきたとはいってもまだまだ気温は高い。
今日も、しっかり重たい肉の塊を運んでいると、じんわりと汗ばむほどの陽気だ。だから肉は運べない。確実に道中で腐ってしまう。
「でも、早く肉を片付けないと、私もギンガ団に帰れないんですよね」
「応。貴重な肉の消費者を減らすわけにはいかないからな」
「もう! これでも私、結構忙しいんですからね!」
ショウは頬を膨らませるが、セキは笑顔のままでショウの苦情を聞き流す。
ショウとてコンゴウ団の事情は理解している。大大大発生の後処理で人手が足りないのも、ショウが引き留められている理由の一つだろう。もちろん、ショウも勝手にコトブキムラに帰ってしまうつもりはない。
(でも、それで私が肉を延々と食べさせられるのは納得がいかないんですよね!)
折しも今は食欲の秋。周りの木々は色づき始め、ちらほらと秋の味覚も採れ始めている。けれども、ショウの口には入らない。
(これはちょっとなんとかしないといけないね)
ショウは手の中の肉の塊を睨みつけながら、何か妙案はないかと思案するのであった。
「というわけで、今からセキさんに料理を教えたいと思います」
「どういう了見かはわからないが、あいわかった」
それからさらに二日後。忙しかったコンゴウの里の雰囲気も落ち着いてきた頃。ショウとセキは、里の広場にいた。
肉の塊を前にして、ショウは鼻息荒く腕まくりをする。対するセキは、またショウがよくわからないことを始めたぞ、と苦笑いを浮かべながらも興味深げにショウを見つめていた。
「今日はハンバーグを作ります。ハンバーグ……というか、挽き肉を作れるようになったら色々と料理の幅も広がると思うので」
「わかった。はんばあぐに挽き肉だな」
いつの間にかセキは、懐紙と筆を取り出してメモの準備を始めていた。なんのかんの言いながらも自分の言葉を真摯に受け止めてくれるセキの姿勢が嬉しくて、ショウはふわりと優しく微笑んだ。
「さて、始めます。まず用意するのは、お肉の塊、ご飯、すなはまダイコン、それから、バサギリ……」
「ちょっと待て」
ショウは説明をしながら机の上に材料を並べていく。そしてダイコンの隣にモンスターボールを並べたところで、セキから静止の声がかかった。
「どうしました?」
「どうしましたじゃねぇよ。なんでバサギリがいるんだ? 食うのか?」
「セキさん酷い! さすがにバサギリは食べませんよ。バサギリには、お肉の加工をしてもらうんです」
そう言うとショウは、モンスターボールを開いてバサギリを呼び出した。バサギリはショウに嫌そうな視線を送り、そしてくわと欠伸をする。
「おい。なんか機嫌が悪そうだぞ」
「……この前、かき氷を作る時に協力してもらってからちょっと反抗期なんですよ」
「……大丈夫なのか?」
ひそひそ、小声で囁き合って、セキは不安そうにバサギリに目を向ける。けれどもセキの心配をよそに、バサギリは自分の鎌で黙々と肉を叩き始めた。
「ちょっと気難しいけど、真面目ないい子なんですよ」
「こき使うのはいいけれど、たまには労わってやれよな」
「はーい」
ショウとセキが会話を交わしているうちに、肉塊はどんどん潰れて、その形を変えていく。
「こうやって、お肉を潰すと挽き肉になります。今はバサギリがやってくれているけれど、人間がやっても大丈夫ですよ。あ、でも手早くやって下さいね。気温も暑いですし、お肉はどんどん傷みます。色が茶色く変わらないうちに終わらせてください」
「あいわかった。しっかしこれは、人間がやろうとすると手間だな」
「そうかもしれませんね。みんなでやらないと、大変かもですね」
バサギリが手慣れた調子で肉を叩くと、あっという間に肉の塊が潰されていく。しっかり潰れた頃合いを見計らって、ショウはバサギリをモンスターボールに片付けた。
「さて、ここからもさくさくっといきますよ。まずは材料をお鍋に入れます。ひき肉、すりおろしダイコン、卵、ごりごりミネラル、それからごはん」
「ダイコンに……飯も入れないといけねぇのか」
「ごはんはつなぎです。これを入れると、ひき肉が上手くまとまるんです」
「なるほど」
全ての材料を鍋に入れて、ショウは手で挽き肉を捏ねていく。
「時間をかけすぎるとお肉が痛むので、さっと混ぜるのがコツです。混ざったら、形を丸く整えて、真ん中を少し凹ませて、鉄板に脂を馴染ませて……焼きます!」
熱々の鉄板に肉を並べると、ジューッと賑やかな音がして香ばしい匂いが辺りに立ち込めた。
ショウは、いつの間にかセキが書き物の手を止めて目を見開いたまま鉄板の上を凝視していることに気づいた。心なしか、その瞳が煌めいている。セキがごくりと喉を鳴らしたことを確認して、ショウは得意げに微笑んだ。
「鉄板に触れている部分に焦げ目がついたらひっくり返します。そして火力を弱めて、焦げないようにじっくり焼きます。……本当は蒸し焼きにできるといいんですけどね」
ショウは火の扱いが下手なので、火力の調整はセキが行った。勢いよく燃えている薪を崩すと、ジュージューという音が少し小さくなる。
「棒を指して、赤い肉汁が出てこなくなったら中まで火が通ったってことです」
「つまり、完成だな」
言うが早いか、セキはハンバーグへと箸を伸ばしていた。大ぶりのハンバーグを器用につかみ取り、勢いよくかぶりつく。
「っ! あっちぃ!」
「そりゃ熱いですよ。焼き立てですもん。もー、せっかちなんですから。……やけどしてませんか?」
「んなやわじゃねぇよ。……にしても、これはうめぇな。焼き肉の方が肉は消費できるが……これなら老人や子供でも食える」
「一口サイズの団子にして、スープにしても美味しいですよ。米粉を練った皮で包んで蒸すのもありだと思います」
「なるほど……。肉が多い時も助かるが、骨や内臓周りに付着したくず肉も食用に使えるようになるな」
「お役に立ててよかったです」
真剣な眼差しで口と筆を動かすセキを眺めながら、ショウは満足そうに微笑んだ。これでコンゴウの里の食糧問題にも目途がついただろう。これにて自分はお役御免。ようやくコトブキムラに帰れると、ショウは安堵の息を吐く。
「出来上がったハンバーグはぜひヨネさんやワサビちゃんにも食べさせてあげてくださいね。私は、そろそろおいとまを……え?」
やれやれと立ち上がったショウは、後ろから肩を掴まれてぴたりと静止した。後ろにいるのはセキしかいないが、彼がまだ自分を引き留める理由がわからない。
「セキさ、ん?」
「こら、ショウ。そそくさとギンガ団に帰ろうったって、そうはさえねぇぜ。今のところ、ひき肉を作れるような訓練を受けたバサギリは、あんたのバサギリしかいねぇんだからな」
「あ……」
それは思いもよらない指摘だった。確かに、挽き肉を作るためにはバサギリが必須だ。けれども今からバサギリを捕まえても、信頼関係もないバサギリがひき肉を作ってくれるとは思えない。そもそも、まず指示を理解してくれるかも怪しい。
「あ、でも、ほら、ヨネさんのところにいる……」
「まさかバサギリさまに肉を潰させろだなんては言わねぇよな」
「ひゃい……。わかりました……」
なんとか自分の代役を見つけようとしたショウだったが、笑顔のセキに真正面から威圧されて、泣く泣くコトブキムラへ帰ることを諦めるのであった。
今日も里の広場にジュージューと肉の焼ける音が響く。
「お、本当に美味しいんだね。味はしっかり肉なのに、やわらかい」
「ヨネ! ソースは、こっちのキノコソースと、ダイコンおろしと、どっち?」
「両方かけちまおうよ。こうやって、半分ずつ……な」
ハンバーグはコンゴウの民に大層喜ばれた。肉も順調に消費され、大量の肉を廃棄することもなさそうだ。
大変喜ばしいことなのだが、ショウの顔色はさえなかった。
ショウは広場の喧騒から離れ、バサギリと共に地面に座り込んでため息をつく。
「はぁ……。疲れたね。コトブキムラのイモモチが恋しいねぇ」
もう肉汁が焼ける匂いが漂っても、美味しそうだなんて思えない。しばらく肉はこりごりだ。ぼんやりと空を見上げながらショウはそう誓った……はずなのに。
「ほら、ショウ。あんたが言ってたやつの試作品だ。はんばあぐのなかに、チーズを仕込んでみたぜ」
ショウをコンゴウの里に縛り付けるこの男は、無邪気な顔で笑ってショウに肉を差し出してくる。
「……セキさんが、あーんって言ってくれたら、食べます」
やさぐれて、八つ当たり気味に呟いたショウは、自分の言葉を後悔してすぐに口を手で押さえた。でももう遅い。目の前の色男の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「おっと、悪かったな。恋人に対して、配慮が足りなかった」
「いえ、セキさん。何でもないです。今すぐ食べますから……」
「ほら、ショウ。あーん」
ちょっとあざとく小首を傾げて、優し気な流し目を送って、普段より低い声で、セキは甘く甘く耳元で囁く。
そんな彼はとっても色気たっぷりで、艶やかで、見ているショウが恥ずかしくなってしまって。
「……あーん」
真っ赤な顔をしたショウは、小さく口を開くのであった。