「明日も面白い事がありますように。 https://privatter.net/p/9303696」「きっと最強の吸血鬼 https://privatter.net/p/9304825」から続いたシリーズです。ロナルドくん視点になります。
吸血鬼と人間が住みやすいシンヨコでギルドの面々がわちゃわちゃする話。
私がドラヒナ民なので、出番が少なめになりがちですが、ロナルドくん書くのは楽しいです。
2022/08/04に上げました。
@kw42431393
「あれ?マスター。この生き血ボトルにパック…」
「あぁ、ロナルドさん。いや、最近吸血鬼の方々もフランクに来て頂けるバーにしようと思いましてね。ドラルクさんに、吸血鬼向けのカクテルや軽食、ディナーメニューを考案してもらって、やっと軌道に乗り始めたんですよ。」
ここシンヨコは、吸血鬼が住みやすく、集まりやすい土地柄である。吸血鬼向けの飲食店やスーパー、娯楽施設も多かった。
とはいうものの、吸血鬼達の食事事情は個人差が激しく、人間と吸血鬼が一緒に食事できる飲食店となるとなかなか対応しづらいのが現状だ。
新横浜ハイボール兼吸血鬼退治人ギルドマスターのゴウセツは、それまで吸血鬼を客層にしてこなかったが、ドラルクがここに出入りする様になってから、それが可能となったという話だった。そもそも、本来吸血鬼達もギルドに立ち寄る事さえなかったはずだが…。
「へぇ、あいつがね。あのバカ、料理だけは認めざるを得ないもんな。」
「我々に味見はできませんから、ドラルクさんのレシピのみが頼りですけどね。最近では、SNSに上げて下さるお客さんの口コミで、吸血鬼と人間のカップルとかダンピールのお子さん連れとかも来られますよ。」
「確かに最近吸血鬼の客も増えたなぁ、と思ってたんだよ。吸血鬼がギルドのバーで食事するなんて、ちょっと前では考えられなかったもんな。」
ロナルドはギルド内を見回す。以前は、出動待ちでたむろしている退治人達とお酒を飲みに来ている一般人ぐらいだったのに、今は、退治人に混ざって多種多様な種族達の笑顔で賑わっている。
退治人は地域アイドルを兼ねているので、サインをねだったり一緒に写真を撮ったりしている客も見えた。
「マスター、ヴァモネさんは?この前の件で礼を言いたくて来たんだけど。」
「あぁ、今出動してますよ。ヒナイチさんの件ですね。無事解決したんですって?よかったですね。」
「さすが、ヴァモネさんだよな。他県の退治人にまで尊敬されているなんてな。」
子供達を肩車してあげながら、サテツが言う。
「さすが、趣味でカモ被ってるだけあるよな。」
「言ってくれりゃあ、ヒナちゃん手助けに行ってやったのによぉ。」
「水臭いある。あの子いつも遠慮する。真面目過ぎるね。」
退治人のブロマイドの会計をしていたショット、吸血鬼の客と飲んでいたマリア、コユキと配膳を手伝っていたター・チャンも口々に言う。
「俺もそう言ったんだけどよぉ、ヒナイチの奴が他所の管轄の事件に首を突っ込んで、俺達が解決しても意味がない、なんて言うもんでよ。」
子供の様に口を尖らせるロナルドにゴウセツが言った。
「いや、それでよかったんですよ。実際、それで解決したんです。あの地域は、退治人と吸対の連携が悪いのは有名なんです。事件が頻繁に起こるのはそれが一因なんですよ。彼らは何故精鋭揃いなのに、トラブルが減らないのか理解する必要があった。これから改善されるかは別ですが、要請されたとは言え、ここと違い過ぎてあの子は辛かったでしょうね。」
「マスターもドラ公みたいな事言うんだな。」
「ドラルクが?」
皿を片付けながらショットが言う。
「ロナルドくん、助けに行ってやり給え、とか言いそうなのにね。」
ホームランバッターが頬杖をつきながら笑ってみせる。
「あら、あんた達分かってないわぁ。さすが、ドラちゃんね。ヒナちゃんがちゃんとできる子だって知ってたのよぉ。」
いきなり入ってきたシーニャに皆驚いて振り返った。が、彼は気にする事なく、ロナルドに近づくと顔を覗き込んできた。
「ところで、ロナルド。あんた眠そうにしてるけど、どうかしたの?」
「どうもこうもねぇよ、あのバカ。ヒナイチが帰ってくるって電話あってからよぉ、ずっと上機嫌で一晩中歌いながら仕込みしてんだよ。キッチンからあの読経みたいな鼻唄聞かされてみろ、たまらねぇよ。」
よく見ると目の下に隈ができていた。その晩は、ジョンと一緒に地獄だったらしい。
「最初は、ヒナイチが外食ばっかりで体壊さないか、とか勝手が違って怪我してないか、とか言ってたくせに。君が助けに行っては誰の為にもならない、ヒナイチくんの言う通りヴァモネさんに連絡を取り給え、だとか言いやがって。」
訳が分からないとばかりに、ロナルドは肩を竦めた。
「なんか、前半過保護の母ちゃんみたいだな。」
「素直にキモい。」
ショットとター・チャンが揃って言う。
「あらぁ、あんた達子供ねぇ。あたし今度ドラちゃん捕まえて聞いてみてやろうかしらん。なんか面白そうじゃない?」
「面白そうだな、シーニャ。ヒナちゃんこっち着くの何時だって?皆で迎えに行ってやろうぜ。」
シーニャとマリアがウキウキして言う。
「さぁ?あんまりドラ公がはしゃぐもんで聞きそびれた。ヒナイチの奴、あいつに何て言ったんだか…昼間も早めに棺から出て最後の仕上げやってるよ。歌もうるせぇし、暴力に訴えてもすぐ再生して煽ってくるんだわ…ふあぁ…。」
ロナルドは、びっくりするぐらい大きな欠伸をした。
「俺もヒナイチ労ってやりたいんだけどさぁ、食いもんはドラ公がやっているし、なんか思い浮かばねぇんだよな。お洒落する奴でもないしさ。」
「いや、実はお洒落してるぜ。ロナルド、ほんとヒナちゃんの事見てねぇのな。」
マリアにそう言われて、ロナルドはぐさっとなる。そうだった気もする…な。
「今度ヒナイチさんの非番に合わせて、皆で百和温泉に行きませんか?我々も仕事があるので日帰りですけど、また行きたいと皆言ってましたし。」
ゴウセツが皆を見回して言った。
「おぉ、さすがマスター!賛成!」
「もちろん、ロナルドの奢りあるか?」
「そりゃねえわ。でも、あいつ喜ぶかもな。じゃあ、あいつの非番分かったら連絡するわ。皆またな。」
ロナルドがギルドを出ると、前を野球拳大好きがY談おじさんを担いで歩いているのが見えた。
「あれ?野球拳。おじさんどうしたんだ?」
「どうもこうもねえよ。新横浜ハイボールが吸血鬼の間でもすげぇ評判だろ?客に迷惑かけないならいいって言うからおっさんと来たんだけど、杖をとっつぁんに預けるふりをして、お嬢ちゃんにY談波かけやがってよ。とっつぁんにボコられてこの様なんだよ。」
「あぁ、それでコユキちゃん喋らなかったのか。お前は?」
「おっさんほっとく訳にもいかねぇし、殺されそうだし、お嬢ちゃんのY談がいたたまれなくてな…とっつぁんがいない時に行くよ。」
「えっ、お前それでいいのか…。まぁ、またな。」
野球拳大好きを見送りながら、ロナルドは最近の退治人と吸血鬼、一般人の距離間に今更ながら違和感を感じていた。
事務所に戻ってくると、門番兼帽子掛けのメビヤツがロナルドを見上げて嬉しそうに寄ってきた。
「ただいま、メビヤツ。ドラ公達、もうヒナイチを迎えに行ったのか?」
「ビッビッ!」
「あれ?ジョンは行ってないって?珍しいな。」
ロナルドは屈んで優しくメビヤツを撫でた後、帽子を被せてあげた。
「ジョン、ただいま~。」
ダイニングに入ると、指を咥えながらジョンがテーブルを見ていた。豪勢な料理とデザートが並び、クロスがかけられている。
「ヌー?」
「なんだぁ?ジョン、つまみ食いしたいのか?さすがにまずいだろ。今日の主役がまだなんだしさ。」
「ヌー!」
「でも、こんだけあればバレないかなぁ…ちょっとだけな。」
「ヌッヌヌッヌ!」
ジョンが嬉しげにクロスをめくって選んでいるのを見て、ロナルドは思い出した様に言う。
「ジョン。ヒナイチさぁ、ドラルクに何て言ってたんだろうな。俺がギルドから帰ったらすでにああだったんだよな。」
「ヌーン…ヌヌヌ、ヌヌンヌヌヌヌヌヌン…」
「あー、いやゴメン。まだ、ヌー語ちゃんと分かんなくてさ。まぁ、いいよ。あのバカの事だから大した事じゃないだろし。それより、帰ってくるまでにつまんじゃおうぜ。」
「ヌー…」
「ビッ!ビビッ!」
その時、玄関にいたメビヤツが、慌てた様にダイニングに走り込んできた。さっきから、事務所の方が騒がしい…。
「えっ、何だメビヤツ。もう、ドラ公達帰ってきたって?ジョンまずいぞ、あぁ、顔拭いて…」
「ヌヌー…!」
「ジャーン!!畏怖くてキュートな最強の吸血鬼ドラドラちゃんと、最強で可愛い副隊長のヒナイチくんが帰ってきたぞー!」
慌ててジョンの顔に付いているソースを拭いていると、相変わらずご機嫌のドラルクがヒナイチと共に入ってきた。
「ち、ちょっと更に盛りすぎだろう。それにそれを連呼するのはやめてくれ。電話した後で、自分の語彙力のなさに恥ずかしかったんだ。」
「もう、照れちゃって!さっ、床下に行って着替え取っておいで。お風呂沸かしておくから、さっぱりしてから食事にしようではないか。」
ヒナイチの頭を撫ででからバスルームに向かうドラルクを見送りながら、ロナルドは呆れた様にヒナイチを見下ろした。
「あー、あれやっぱお前がドラ公に言ったのか。昨日からそればっか言うからさぁ。お前センスねぇなってか、あのクソザコ砂おじさんのどこが最強で畏怖いの?」
「チン。言わないでくれ。あれは、そのぅ…後でちゃんと説明する。私が向こうで気づいた事が正しいのか、お前にも聞いてみたいんだ。」
首まで真っ赤にしながら顔を覆うヒナイチに、ロナルドはポンっと頭に手を乗せた。
「ちん!」
「ヒナイチ、頑張ったな。お疲れさん。あと、おかえり。」
にっと笑ったロナルドを見上げて、ヒナイチは満面の笑顔を見せた。両目には涙が滲んでくる。
「ヌヌンヌ、ヌヌヌヌ。」
「ビッビビ!」
ロナルドの肩からヒナイチの肩に飛び乗ったジョンが、よしよしとばかりに頭を撫でる。足元から見上げるメビヤツは歓迎するかの様にグルグル彼女の周りを回っていた。
ジョンとメビヤツを両手に抱えながら、ヒナイチは幸せを嚙みしめた。
ただいま!やっぱり、私、監視任務を続けてよかった。このシンヨコでよかった。ドラルク、ロナルド、ジョン、メビヤツ…これからも一緒にいさせてくれるか?ずっと一緒にいたいんだ!