「明日も面白い事がありますように。 https://privatter.net/p/9303696」「きっと最強の吸血鬼 https://privatter.net/p/9304825」から続いた話です。ドラルクさん視点になります。
元々、ヒナイチくんとの電話内容が気になる、駅に迎えに行って何を話してたの?等々の感想を頂いて、幕間を埋めるのに書いた話でした。
みっぴきのお母さんポジの彼ですが、一人だと人外特有の仄暗い感情を持ってるんじゃないかな、と思っています。
例によって、twitter の時よりかなり加筆しています。
2022/08/06に上げました。
@kw42431393
昨夜から仕込んでいたローストチキンが、オーブンの中で焼き上がっていく。ドラルクは、我ながら上手くできたと満足しつつ、美しく盛りつけたサラダに特製ドレッシングをかけ、鍋のポタージュスープをかき混ぜた。
「ジョン、味見を頼むよ。どうかね?いつもより少し濃いめにしてみたのだけれど。」
ヌン!バッチリだヌ。あと、こっちも少しハーブを変えたヌ?なら、もう少し塩味を効かせた方が合う気がするヌ。
「おや、分かったかね?フフフ、みっぴきで食事できるの2週間ぶりだもの。あの子、向こうで碌なものを食べてなかったみたいだから、お腹いっぱい食べさせたくて…色々奮発しちゃったんだよ。」
ヌン!無事帰って来れてよかったヌ。だって、RINEで見たヒナイチくんやつれてて、ヌンも心配してたんだヌ。
彼らの脳裏に出張から5日目だったか、初めてRINE通話してきた彼女の姿が蘇った。
「おい、ドラルク。ヒナイチからだぜ。なんかお前にも頼みたい事があるってよ。」
「ヒナイチくんから?忙しそうだから遠慮してたんだけど、よかった。元気そうかね?」
「おう、そうなんじゃねえの?」
エプロンで手を拭いて、ロナルドのスマホを受け取ったドラルクは、画面を覗き込んで我が目を疑った。
「ヒナイチくん!?」
「ちん!ど、どうした。ドラルク?」
「何が、そうなんじゃねえの?だ、このニブ造!!見て分らんか!脛毛絡んで死ね!ボケ!」
「は?藪から棒に罵られるとかねぇわ!?」
「ヒナイチくん、泣いてたんじゃないのかね?ひどい顔じゃないか。」
疲れた様な顔、かすかに腫れぼったい目元には、うっすらと隈が出来ていた。
泣いていた事を気取られない為に顔を洗ったのだろう。頬に赤毛が貼り付いている。何より機嫌によってピコピコ動く頭のアンテナが萎れた様に下を向いていた。
「え?ヒナイチ!お前泣いてたのかよ?何で言わねえんだよ!?」
「アハハ。心配させたくなくてな、声が落ち着いてから電話したのに。ドラルク、お前にはすぐ分かってしまったんだな。」
やつれた顔で困った様に微笑するヒナイチに、ドラルクは何とも言えない気分になっていた。
この子は、こんな笑い方をする子じゃなかったはずだ…。
元々、彼女は綺麗なうなじの持ち主で、芯の強い所が私の好みだった。若干19歳で吸対副隊長まで出世したエリートだが、あどなくて、危なっかしい彼女に庇護欲を刺激された私は、今まで何かと世話を焼いてきた。
クッキーが焼ける匂いがすると床下から頭を出して、私の手からクッキーを頬張る姿はハムスターやリスの様で愛らしかった。
その反面、彼女を見ていると自分の手料理で育て上げた極上の処女の血がそこにあるのだ、というどす黒い感情を自覚しなければならなかった。
私が最終的に行動を起こさなかったのは、それ以上にみっぴきで過ごす時間が楽しくて、真っ直ぐな目で私の事を「いい奴だ」「一緒にいると楽しい」「おかげで退屈しない」と言ってくれた昼の子らの言葉が嬉しくて、吸血鬼としての本能を見せて彼らを失うのが恐ろしくて…私はこの子を獲物として見るのをやめた。高等吸血鬼としてのプライドに目を瞑った。
しかし、私が目を離している間にこの子にこんな辛い思いをさせるぐらいなら…
この子を籠に入れて鍵をかけてしまおうか…
どうせ昼の子の寿命は短い…
私がお菓子を差し出せば、今でも雛鳥の様に口を開いて待っているのだ。いっそ、餌は私から貰えるものだと刷り込んでしまおうか…
「…彼は無罪かもしれないのだ。ドラルク、竜の血族の嫡孫であるお前は…古き血の吸血鬼の中でリーダー格であるお前のお父上は、吸血鬼達の中では顔が広いはずだ。頼む、力を貸してくれ。シンヨコと違い、外から派遣された私は無力なんだ。」
「おい、無理しなくていいぜ。そんな事情でヴァモネさんとコンタクトを取ろうとしてたんならよ。ヒナイチ、待ってろ。俺達がそっち行ってやるよ。サテツ達だって助っ人に来てくれるって!なぁ、ドラ公。」
「ロナルド、ありがとう。でも、それじゃ意味がないんだ。今回の事件を終えればそれでいいという事じゃない。」
やつれてはいたものの、自分に協力を求める彼女は凛として、太陽の様に自分のどす黒い部分を焼いていく。
あぁ、ついこの前まで幼いクッキーモンスターだったのに、そんな顔が出来る様になっていたのだね。人間共の愚かさを見せられても、君はまだ諦めていないのだね。それならば…
「分かった。お父様に連絡を取ろう。竜の一族の伝手と能力を借りれば、犯人や潜伏先を辿るのは難しい事ではないだろう。」
「ドラルク!ありがとう!」
画面の向こうで輝く様な笑みを浮かべる彼女を見て、ドラルクは自分の判断に自信を持った。
「我々は君に協力を惜しまない。だから、無理はしないで…やるだけやって帰っておいで。私の元に…帰っておいで。」
「勿論だ!」
程なくして、事件は解決した。容疑者にされた青年は冤罪と分かり釈放された事、連続吸血事件の犯人を捕らえた事、その後、吸対と退治人の業務体制が見直される予定だと、嬉し気に話す君がどれだけ誇らしかった事か…。
「さてと、そろそろ時間かな?ジョン、ヒナイチくんを迎えに行こう。」
エプロンを外し、マントを羽織りながらドラルクはジョンに話しかけた。料理は全て並べ終えられ、後は主役の入場を待つばかりである。
ううん、ドラルク様、ヌンは家で待ってるヌ。
「おや、どうしてかね?」
ロナルド君が帰ってきたらヌンが相手してるヌ。だから、二人でゆっくり話をしてから帰って来てもいいヌ。
「フフ、料理が冷めちゃうからそんなにゆっくり出来ないけど、そうだね。じゃあ、いってきます。」
あの子を駅に迎えに行こう。昨日の電話では嬉しさのあまり茶化してしまったけど、ちゃんとあの子が「ずっと一緒にいたい」と言ってくれた真意を確かめよう。
まずは…とっくに時効だし、本人も知らなかった事だろうが、私が彼女を獲物として見ていた事を詫びようと思っている。彼女が大好きなお菓子で手懐けようとしていた事も…。
「簡単に人を誑かす」吸血鬼だと知った上で「一緒にいたい」と言ってくれた今の君なら話してみてもいいだろうか…。少し前まで私の手元から君が巣立つのを見送る考えもあったのに、今は手放すつもりになれない。
もし、拒否されても焦る必要はない。私に時間はいくらでもある、あの子の心が開くまで百年ぐらい待っても余りある。
私の事を殺す価値さえない程弱く、簡単に人を誑かし、街をも変えてしまった最強の畏怖されていい吸血鬼だと言ったのは君だよね?そんな私と一緒にいたいと言ったのも…私の大事なお嬢さん。