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Paranoia seed. -プロローグ①-

全体公開 Paranoia seed. 2438文字
2022-09-21 16:50:55

Paranoia seed. 漫画版第一話の前日譚。

 異能兵器開発を行っている施設にて、第一実験が実質上の白紙になった。そして、実験に使われたラット─被験体たちは殺処分が決まってしまう。

Posted by @apurimura3

 「これは研究の初期実験だ、失敗しないわけがなかったのさ」
 誰かがそんなことを呟いた。ミーティングルームがため息で埋まっていく様が、押し寄せる波の音のようだと青年は感じた。
 集められた研究員を前に、背筋の良い初老の男が研究は一時中断する旨を事務的に伝え、研究員たちへねぎらいの言葉を並べた。
「皆も承知だとは思うが、なにか新しいことをしようとすれば失敗や挫折がつきまとう。むしろこれは成功への第一歩だ。落ち込む者も居るだろうがどうか前を向いてほしい」さて、と我らが所長は実験で使用したラットの処分について続ける。
 使用した被験体は処分対象。後日然るべき方法で殺処分を行う。尚、この研究をはじめた頃から口を酸っぱくして言っていると思うが。
「被験体を外へ逃したり、この事実を口外することの無いように。君たちが得することはなにもないからね」

 ミーティングが終わり青年は縦に長い肢体を引きずるように自室へと戻った。
 見慣れた光景が広がる。─一見殺風景ともいえる、壁や天井の白が多く目につく窓のない部屋。走り書きのメモやらデータの資料やらが乱雑に乗った執務机。今は一段しか使われていない二段ベッド。そして部屋の奥には青年の寝室がある。
 部屋の中央にちょこんと座りこみ本を読んでいた少年は、無機質な音をたて素早くスライドされるドアの気配に振り返った。
 黄色と水色のバイカラーな虹彩と目があう。
「おかえりホーン、ミーティング長かったな、何かしら進展があったのか」
……進展はなかった。むしろ」
 後退した。研究は一旦白紙に戻ったのだ。そして少年に伝えなければならない事柄、被験体の処分についてホーンは少年に話し始める。それを受けた少年は、多少目を丸くしたもののすぐに観念したかのような色を浮かべ「そうか」と呟いた。
 沈黙が部屋に充満して心底居心地が悪かった。なにか別の話題を出したところで、この少年─被験体を殺処分にしなければならない現実からは逃避できないのに。
「そういえば、今日のテスト成績はどうだったんだ」
もう意味のない成績をチェックする必要があるのか?と少年は近くのパッドに手を伸ばし成績閲覧のデータファイルをタップした。パッドを始点に空中にデータが投影される。成績はオールA+、数値も他の被験体と比べると群を抜いた成績をたたき出していた。
「相変わらずお前は優秀だな、レイス」
「周りが雑魚すぎるだけだ」それか俺の持つ異能が特異なだけだろう。とパッドの液晶画面を指でなぞった。
『被験体No.00 異能:影の操作』そう個人データに表記があるのはレイスただ一人だ。他の被験体が持つ異能は全て共通しており、『異能:体力増強、治癒能力の上昇、光の操作』と表記されている。
 彼ら被験体が持つ異能力は先天的なものではなく、この『異能兵器開発研究』の実験で被験体の子どもたちに異能の核の欠片が植えつけられ、それが開花したものだ。だから開花する異能は、母体の核が有する異能に帰属するはず。
 『光を操る異能の核』を植え込まれ『影の異能』を開花させてしまったレイスはイレギュラーな存在だった。そんな彼も今は他の被験体たちと等しく処分宣告された失敗作だ。
「すまない。こうならないために俺はここへ来たはずだったのに」ホーン自身、所長からの誘いで研究所に来た当初は、あまりに非人道的な研究に怒りを覚えた。「こんな施設は存在してはいけない、必ず内部告発してやる」持てる正義感と勇気を奮ってこの組織に組み込まれた。今の彼は毎日の職務に忙殺される毎日を送っている。被験体の子供たちと共に過ごす日々も、子どもたちが人として扱われない光景も見慣れた日常になってしまった。
「処分って、俺たちをどう処理するつもりでいるんだ」
レイスからの質問に一瞬喉が詰まった。
「この施設から北の山奥に、昔起こった事故で立入禁止になっている区画がある。そこでお前たちは処分されることになっている」
「あんたがやるのか」
「いや、違う」まっすぐにホーンを見据える瞳には恨みや怒りの色は無かった。ただ事実確認をする、無機質な視線だ。
「今回の殺処分のために殺し屋が雇われるらしい、殺しのプロに兵器のお前たちをぶつけてデータをとる」最初で最後の実地実験だ。
「外に行けるのか?」目の前の少年から発せられる言葉にはじめて子供らしい色がのった。
 この施設は地下にひろく展開されている。地上には別の施設がカモフラージュのために併設されている。子どもたちはテストなどでホログラムの外を体験することはあれど、本物の外を見る機会はない。
 被験体は孤児院から引き取った子供が殆どだが、レイスは赤子のときに所長がどこからか連れてきた子供だった。この少年は物心ついたときから無機質な空しか知らない。
「あんたは見に来てくれないのか」
「どうしてお前が殺されるのを見に行かなきゃならない」幼い子どもたちが猟奇的な実験のために蹂躙される様を見届けろというのか。
「殺されるとは限らないだろう」俺は優秀だからな、そういうレイスは絶対的な自信こそ浮かべていないものの、あるかもしれない可能性を諦めないというような意志を感じ取れた。
「兵器は人間を殺すためにある。今回とれたデータは次回の被験体のために使われる。決して意味のない実験じゃない」
ホーンは目の前の少年が発する言葉に相手を─この状況ではホーンを宥めるような声音がのったのを感じた。この大人が子供に諭される光景は今までも度々体験してきたものだった。
 この少年はあまりにも大人だと思う。どうして受け入れがたい現実を受け入れるのがそんなに上手いのか。「俺は兵器だ。選択する義務も権利も必要ない。それだけだ」と答えられ返す言葉を失い恐怖すら感じたことを思い出した。あの頃にはもう一人居た白髪の被験体から「つまんなくなったね、レイスは」と小言を言われていたことも思い出した。


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