@apurimura3
20☓☓年 某月 某日 研究施設より北の山奥にて被験体の殺処分─兼最初で最後の実地実験が執り行われた。殺戮の舞台となる場所は、100年ほど前に起こった原子実験の爆発で汚染された今も封鎖されている区画だと聞いている。
執行人として呼ばれた殺し屋達は防護服を身にまとい、被験体の子供たちと対峙する。
被験体の着用する衣服にはチップが内蔵されており、生体反応や異能行使の有無、諸々のデータが収集される。チップと遺体は後日回収される予定だ。
殺し屋の大人たちと、殺される子どもたちが向かい合う。勿論今から死ぬ子どもたちに、防護服はおろかマスクすら用意されてはいない。
「皆、この度は君たちを戦場まで連れて行ってあげられず、本当にすまなかった」防護服越しでも分かるピンと伸びた背筋の男─研究所のトップに君臨するバディスト・シュバリーは、本当に残念だ、と無念を隠しきれないという表情をのぞかせた。
「だがこの舞台は君たちの終わりを飾るために用意されたのではないよ。君たちと僕たちの目指すものは決して潰えない。……ここから僕たちの研究はまた再スタートするんだ」そのための、尊い犠牲になって欲しい。
所長の言葉が終わると同時に銃声が響いた。殺し屋たちの威嚇射撃を前に、死を前に、子どもたちは恐怖し一斉にあたりへ散り森の奥へと駆け出した。
その光景をホーンは移動用のバンの側でただ見ていた。もしものときのためにと持って来た拳銃を防護服の手袋越しに握りしめる。
「来ないんじゃなかったのか」
すぐ真横のやや低いところから聞き馴染みのある声がした。いつのまに自分を見つけたのだろうか、声の主はこの危機的状況下においても、冷静沈着ですという顔を崩さない。
「せめて見届けるのが、俺にできるケジメなんじゃないかと思って」
「前にも言っただろ、失敗は付き物だ。今後も同じ場面に何百回と遭遇する。その度にいちいちケジメだのなんだの言っていたら……。保たないだろう」あんたが。この期に及んでまだ自分を気遣う様子のレイスに、ホーンはいよいよ痛む胃と胸の苦しさに立っていられなくなりそうだった。
ホーンは拳銃のグリップを握り直し引き金に指を掛け、銃口ごと少年へと向き直った。
「せめて…せめて…、痛い思いをしないように、ここで俺に殺されてくれないか」
声も手も、少年を見つめる視界もすべてが震えているのを感じて、ホーンは自分の情けなさに涙が出そうだった。子鹿のように震える大きな男を見据えた少年はしばらく考えた末に「断る」と短く答えた。
「俺は優秀な被験体だ。俺のデータをあんたらは何より望んでいるはず、そのチャンスを逃して都合が悪いのはそっちだろう」
それは事実だった。レイスは異能が特異で、かつ普段のテスト成績も極めて優秀。殺処分を前に、この少年だけ例外として残しておく。という案もでた。しかし所長のバティストが首を横に振ったことで、彼の命も儚く散ることが決まった。
しばらくの沈黙の後に「なあ、先生。あんたは他の研究員たちとは違った」とレイスは話し始めた。
「俺たちを人間の子供と同じに扱い飼い慣らすか、決して人間としては扱わずあくまで道具として見る奴はそれなりにいた。だがあんたは俺たちに、子供であることと兵器であること、両方を求めた。」ホーンは度々レイスに「今のお前は兵器とレイスのどちらだ?」と問い掛けていた。それは兵器としての自分と、レイス個人としての自分を、そのどちらかに傾倒しないよう、都度切り替えて自認させるための習慣だ。要はオンとオフの切り替えを促すためのものだった。
「あんたにとって、俺は可愛そうなガキかもしれない、でも今の俺は兵器だ。道具だ。使われることがないのなら処分される、それだけの物だ」あんたが教えてくれたことだぜ。その言葉はホーンを酷く後悔させた。
見つめるバイカラーの瞳が少しだけ凪いだのを、ホーンはみとめることが出来なかった。その間にホーンが向けていた銃口が下げられ、ホーン自身もその場に膝を落としていたからだ。
「俺個人から、あんたに言えることがあるとするなら…そうだな」レイスの足元に銃弾が届いた。少年を見つけた殺し屋数名が駆け寄ってくるのが見える。
「次の被験体にも同じように接してやってくれよ、ホーン。あんたは優しかった。─優しくされると、道具も人間も従いたくなる」
ホーンが顔をあげるとすでにレイスの姿は無く、少年をを追う数名の防護服姿が通り過ぎた。