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Paranoia seed. -プロローグ③-

全体公開 Paranoia seed. 1203文字
2022-09-21 19:33:40
Posted by @apurimura3

 被験体たちは、汚染された濃い霧に包まれた森の中を必死に逃げていた。背後から「しにたくない」と叫び果てていく、自分と同じ子供の声がこだまする。
 レイスは辺りを伺うと、いくつか見知った顔が倒れ込んでいるのが見て取れた。傷を負い致死量の血を流している者、霧に侵されたか泡を吹き血走らせた目を見開き事切れている者。自分も遅かれ早かれああなるのだ、という嫌な予感に脳裏を支配されそうになる。
 すぐ近くの枝を銃弾が掠めた。既にぼやけかけた目を細め、追手を視認する。─こちらをマークしているのは恐らく3人。レイスは自らの影に意識を集中させ腰辺りの高さに手を掲げた。
 影は流れに逆らう液体のようにうごめき、直刀に近しい形状をとった。それを掴んだレイスは木の陰に潜むのを止め、正面から3人の追手を迎え撃つ。
 手応えはなかったなと感じたと同時に、いまのでデータがきちんととれているのか、レイスは心配になってしまった。それほどに、自分たちを殺すために用意された相手は良い戦闘相手ではなかった。レイスの目の前に3人の大人が倒れ伏している。彼らが身に着けている防護服は先の戦闘で腕や脚の箇所に切れ目が生じていた。今は気絶しているだけだろうが、あたりに充満する霧の毒がすぐにまわってしまうだろう。どうせ足跡の付かない方法で集められた者たちだ、数名死んでもさして問題ないだろうと判断し、レイスはそれらを放置して更に森の奥へと駆け出した。
 先程よりも息をするのが苦しくなっているのを感じていた。死がすぐそこまで迫っている状況がまだ飲み込めずにいたが、先程見かけた他の被験体たちの惨状が思い出され、今すぐ叫び出したいような気分に駆られた。
 ─このまま当て所なく走り続けたら、いつか森を抜けて、そうしたら普通に生きていけるだろうか。そんな甘い妄想に囚われたくなる。だが生まれてはじめて触れた外の世界は、自分を死へと誘っている。思い描いていた世界が存外残酷であることを知り、乾いた笑いが溢れた。
 自分らしくない、とも思ったし「この感覚が本来の自分なのだろう」とも思った。
ホーンとした最期の会話が、あんなもので良いはずがない、もっと話すことがあったのに。後悔が喉の奥で渦巻くように滞留している。
頭の中で「俺は道具だ、俺は、道具だ」と自分自身に語り掛ける。
 ふと、視界が暗転した。気を失ったのではない。─己の異能、影が大きくうごめいたのを感じた瞬間、レイスは『影』に呑み込まれた。
 状況を理解する前に意識の離脱が促され、『影』が四肢にまとわりつき頭から爪先まですっぽり覆ってしまったときには、レイスの意識は既に遠のいていた。

 『影』は2メートルほどの大きさの人型を形成した。緩慢な動きで、確かな目的を持って歩きだす。
 辺りの霧は先程よりも濃く深くなっていた。大きな人影は霧の奥へと進んでいきやがてどこかへ消えていった。


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