「明日も面白い事がありますように。 https://privatter.net/p/9303696」から続いたシリーズの最終話です。「太陽への執着 https://privatter.net/p/9317766」からそのまま続いてます。
この時、本当はうなじ舐めをするドラルクさんを書いてたが表なので削除したという話をしまして、見たいと言って下さる方がいて、まとめをベッターに上げる時に消してた内容を戻しました。
2022/08/09に上げました。
@kw42431393
…新横浜駅、新横浜駅です。〇〇方面に乗り換えの方は…
電車のアナウンスを聞いて、うたた寝していたヒナイチは、膝に置いていた荷物をを手に取った。
「やっと、帰ってきたんだ。」
ホームに降りると、様々な服装、姿をした人間や吸血鬼達がたむろしている。いつものシンヨコだ、と彼女は安堵していた。
だから、目の前を変態スタイルの吸血鬼が人間と笑いながら、スナバに入っていくのはいつも通り…いや平和だと思っていい…のである。
「おかえり、ヒナイチくん。」
振り返ると、いかにもオードソックスな恰好をした吸血鬼が手を振っている。聞きたかった声に安心したヒナイチは、彼に駆け寄ろうとした。
「ドラルク!!ただい…っ」
「お前はきっと最強の…畏怖されていい吸血鬼だと思うんだ」
「私はお前といて楽しいと思っている。お前とずっと一緒にいたいんだ。」
昨日、電話でドラルクに告白した事が思い出されて、彼女は紅潮した顔を覆って俯いてしまった。
一人泣きながら他所の土地で気づいた事…騒がしいが人間と吸血鬼が楽しく共存している理由…自分が上から吸血鬼や退治人を押さえつける人間にならなかった理由…その事にドラルクが関係しているのだと気づいてただ、礼を言いたかっただけだったのに…。
恥ずかしい…とても恥ずかしいぞ。もう少しマシなセリフを言えなかったのか?なのに、こいつときたら…。
「え…なになに?ヒナイチくんったら、そんな風に私の事思ってくれたの?嬉しいなぁ、も一回言って?」
「ちん!ふ、…ふざけるな!こ、こんな事…何度もい、言うわ…け」
「もう照れちゃって!君ったら私に、一生おいしいクッキーを焼け、とか吸血鬼たらしな事言うでしょ?そんなに熱烈な事言われたら、今度こそ本気にしちゃうけど、いいかね?」
「た、たら…っ!からかうな!もういい!私はもう寝る。また明日な!!」
「待って待って、ごめんて。ねっ、ねっ!何時にシンヨコ駅に着くの?迎えに行くよ。」
「…7時に着く。どちらにしてもそちらに行くから迎えはいらないぞ。」
「私が君の顔を早く見たいんだよ。調子に乗ったのは悪かったから、行かせておくれ?ね?」
うぅ、どんな顔をすればいいんだ。
ヒナイチが自問自答している姿を見て、ドラルクはクスッと笑った。そっと彼女に近づくと、マントの中に彼女を招き入れる。
小柄な彼女はすっぽりと腕の中に納まり、ドラルクは優しく落ち着かせようと頭を撫でた。
「ドラルク?あっ…ンンっ…?」
頭を撫でていた手が滑り降りて来て、首と頬に触れた。よく見るといつも着けている手袋がなかった。それで、ヒヤリと冷たかったのだろう。くすぐったさと冷たさに体を強張らせていると、今度は冷たい両手が頬を包んだ。
「可哀想に…この前より顔色は良さそうだけど、少し痩せたね。私の大事なお嬢さん。」
「冷たっ!また、そういう気障な事を…」
「おや、ゴメンね?さっきまで料理してたから、手袋を忘れてしまったらしい。どおりで様子がおかしいと思ったよ。」
ヒナイチは、ドラルクの胸に顔を押し付ける様にした。今の顔を見られたくなかったのだ。
「フフ、甘えてくれるの?でも、私ガリガリだから痛くない?」
「うん。痛い…な。」
「本当に君はよくやったよ。誇りにしていい。今日はたくさん食べてゆっくり休んでおくれ。」
ドラルクはそっと額に口づけると、顔を覗き込んだ。色づいた頬に蕩けた目、赤毛から覗く染まった首筋…凛々しい彼女を知っているだけにゾクッとしたものが背を掠めた。これ以上見ていると、ジェントル違反をしそうだ。
「いつもと場所が違うんだな?」
「ん、いつも通り手にキスした方がよかったかね?こういうのは、場所によって意味も違うんだよ。」
「そうなのか?」
「そう。例えば、今の額は祝福の…まぁ、いいか。そろそろ行こうか、ご馳走もデザートも用意してあるよ。」
「ご馳走!?クッキーも?…あぁ、そうだな。すまない、行こうか。」
恥ずかし気に身を離す彼女を見て、ドラルクは満足気に笑う。
「いつでもどうぞ。荷物はショルダーバッグだけかね?他にあれば持つよ?」
「いや、着替えやお土産も送ってもらった。明日、事務所に届くだろう。」
ヒナイチは、少し目を逸らしながら言った。
「そう。あのね、ヒナイチくん…」
「えっと、昨日電話した件だが…」
同時に二人が喋ろうとした。顔を見合わすと、ドラルクが手を差し出す。
「お先にどうぞ。」
「あぁ、そうだな。人目も多いし、歩きながら話さないか?」
「奇遇だね、私もそうだよ。」
駅を出ると、満月が二人を見下ろしていた。深呼吸を一つして彼女が口を開く。
「ドラルク。昨日の電話は、すまなかった。ただ、礼を言いたくて電話したはずだったのに。急に何か胸に込み上げてくる感じで…支離滅裂でちゃんと言いたい事が言えなかった。おかしかったんだ。」
「フフ、私は嬉しかったよ。君の本音が聞けたからね。それにしても、面白い事に気づいたものだね。」
「あそことシンヨコがどう違ってこうなったのか、を考えたらお前が来てからだ結論したんだ。」
「ロナルドくんの所に転がり込んだ私が、吸血鬼と退治人のパイプ役になった、と?」
「シンヨコも元々ここまで2つの種族が仲良かった訳ではないからな。今や、ロナルド事務所は吸血鬼の依頼も聞いてくれる、と評判だ。」
ドラルクはクスクス思い出し笑いをした。
「フフ、ロナルドくんなんか、アダムくんやへんなくんに言われてたっけ。ザコ吸血鬼を保護してる、吸血鬼とコンビを組む奇特なアホってさ。」
「お前が弱いのがキーなんだ。殺す価値もない程弱いから、誰も敵にしないし警戒しない。それに、お前は人を誑かすのに長けていて、相手は誤魔化されたり罠にかけられたりする。あと、自分の無力を自覚している点は大きいな。適材適所で助っ人を呼んできて、我々をサポートしてくれる。」
「所々酷い事言うね。」
ドラルクが少し拗ねた顔をしてみせるが、ヒナイチは気にせず続けた。
「事実だろう。お前の監視に私もあの床下に来た。3つの立場の者が、家族の様になって…いつの間にかそれぞれが他の者達へのパイプ役を果たしていたんだ。」
「それも私のせい?」
「私はそう思う。時期的に合うし、お前がいなければ解決しない事件は多かった。」
「お祖父様も言ってたっけ。いい時代になった、と。私達の時代では考えられなかったから。」
「他所もそうとは限らないんだ。お前がこの街を変えてくれたんだ。」
「そう言って貰えて嬉しいよ。あのクッキーモンスターが大人になったものだね。それに、ここは私の街だから当然だよ。」
ヒナイチは足を止めてドラルクに向き直った。
「考えたんだ、お前に会う前の私はどうだったのかと。若干19の私が、吸血鬼達や退治人達に対して上から目線で話してたんだ。」
向き直った彼女は、ドラルクの手を取って軽く口をつけた。初めて会った時を思い出しながら…
「ドラルク、あの時の私の態度を許して欲しい。今更過ぎるが、キッチリしておきたいんだ。」
ヒナイチはそのままドラルクの前に頭を垂れた。取った彼の手は、今夜も深紅のマニキュアに彩られて月光に映えて綺麗だった。返事を待ってその手を見つめていると、ザラっと塵になって崩れてしまった。
「え!?何で今死んだんだ?」
「いや、あまりに嬉し過ぎて…君が純粋過ぎて、なんかこれから私が話そうとしている事を考えたら、罪悪感が襲ってきて死んじゃった。」
慌ててヒナイチが屈んで塵をかき集めようとすると、ドラルクが彼女の背後からのしかかる様な姿で再生した。顔は、肩口に埋められて彼女からは見えなかった。
「ちん!何をする!?」
「アハハ…ちょっと待っててくれる?今見せられる様な顔じゃないのだよ。許してもらえなかったら、最終手段も辞さないつもりだったのに、情けないなぁ。」
華奢な腕が彼女を逃がさない様に、肩と腰を巻いていた。いつの間にか川原まで来ていたので、人気もない。通りがかった人がいたら、男女がいかがわしい行為をしている、と見たかもしれない。
彼女は、今自分が肩口の開いたワンピースでカーディガンを脱いでいた事を後悔した。そもそも、彼を簡単に人を誑かす吸血鬼だと言ったのは自分ではなかったか…?
「ふっ…くぅ…。」
首筋に吸血鬼の冷たい吐息がかかり、冷たい手が鎖骨をなぞって、ぞくりと背筋が震えた。
いきなり動くと、また彼は死んでしまうだろう。そのままの姿勢でゆっくりのけ反る様にして確認したが、ドラルクが行動を起こす気配はなかった。
「見ないでって言うと、人は何で見ようとするんだろうね。私の手でもつねってころしたら?」
「ん…、お前こそ私の血を吸わないのか?」
「吸いたいよ。私の手料理を食べて育った子が美味しくない訳ないでしょ?ここに…」
うなじにヒヤリとした感覚とリップ音が聞こえた。そのまま牙が動脈をなぞり、舌でチロリと舐め上げられた。ヒナイチは、身を強張らせて体を走る感覚に耐える。恐怖はあったが、どういう訳か嫌ではなかった。
「あっ!!…ひぅ…」
「自分で育て上げた極上の処女の血が流れていると思うと堪らないもの。」
やっと顔が見えた。吸血鬼らしくない、と思っていた彼であるが、月光に照らされたその姿は捕食者そのものだった。
「ほら、顔色変わったね。だから、見せられないっていったのに…。」
月光に牙が反射して、彼女は冷や汗が噴き出すのを感じた。
「私ね、君が初めて事務所にやって来た時、血の美味しそうな自分好みの子だなって思ったのだよ。」
「そ、そうなのか?」
「私はうなじが綺麗で、芯の強い女性が好みなんだ。お菓子に目を輝かせるハムスターの様な君を手懐けて、君から血を吸おうと思っていた。自分の獲物を同胞に盗られまいと、陰で駆けずり回ったりしたものだ。」
「え、獲物…私がか?」
「…そのつもりだったのに。みっぴきで過ごす時間が楽しくて、一緒にいて楽しいと言ってくれたのが嬉しくて…本性を見せて君達を失うぐらいなら、これまで通り事務所で疑似家族の茶番劇を続けてもいいと思って…私…」
…昼の子はあっという間に年を取って死んでしまうから…少しでも楽しい時を一緒に…この先は考えたくない。
「そう…か。今は違うんだな。」
彼女はホッと表情を緩めると、肩にまわしたドラルクの手にそっと触れた。
「今までごめんね。」
「うん、じゃあお互い様だな。」
ヒナイチはドラルクの手を握り返すと、筋張った彼の手をなぞる様にした。
「危険思想有りとして、私を告発しないのかね?」
「私以外の血も吸いたいと思っているのか?それとも、さっき言ってた最終手段というやつを企んでいるのか?」
首を傾けてジト目する彼女を見て、ドラルクは思わず見惚れてしまった。
こんな大人びた顔のできる娘だったろうか…?
「君以外の血なんて…。それに、私が人を襲うと君も辛いでしょ?泣いている君の顔を見るだけで辛かったから、少なくとも君達がいる内はしないんじゃないかな。」
「よかった。」
「この前は、君が目の届かない所で、そんな思いをさせるぐらいならいっそ…と考えたぐらいだよ。」
「それが最終手段とかいうやつか?ど、どうするつもりだったのだ?」
「君、この期に及んで聞きたいの?昨日の電話で言った事を前言撤回するかもよ?我々は執着の生き物だ。我々と一緒にいたい、というのはそういう事だよ?」
「…う…か、覚悟の上だ。確かに、さっき吸血鬼らしい姿をみて怯んだが、そ、その…嫌じゃなかった。言ってくれ。」
彼女は舐められた首筋に触れながら答えた。思い出すと頬が赤面してくる。一瞬躊躇った彼は、肩口に埋めていた顔を上げた。耳元に口を近づけて言う言葉には、人外特有の不気味さがある。
「…私の目の届かないところで苦しむぐらいなら、私の手元から飛び立ってしまうぐらいなら、籠に鍵をかけて閉じ込めてしまおう、と考えたと言ったら?それでも、私といたいと言ってくれるかね?」
「…っ…!?そ、それは私だけか?」
「そういう意味では、私は欲張りではないよ。」
しれっとした顔でドラルクは返した。嘘ではないらしい、と彼女は何故だかホッとした。
「そ、そうか。それは良かっ…あぁ、いや、そうではなくて。」
コホンと咳ばらいをして彼女は仕切り直した。
「なぁ、ドラルク。今回気づいた事は兄への報告書に書こうと思う。身体的に危険性はないが、人心・吸血鬼心を把握し、誘導する能力の影響は計り知れない。彼の監視任務はこれからも引き続き私に続行させて欲しい、と。」
「?」
「彼は家族同然の私達に執着している。だから、私達と共にいる内は人間に敵対しないだろう。むしろ、敵性吸血鬼事件への協力を要請できるはず。さらに、彼との絆を深めれば私達の子孫の世代もこの街を守ってくれる可能性がある、として…」
「ヒナイチくん?それって?」
「ん?」
「私達の子孫の世代って言ったよね?」
どうも無自覚だったらしい彼女の顔が赤くなった。この子の吸血鬼たらしっぷりが恐ろしい、とドラルクは思った。
「そ、そうだ。私達の子供や子孫の世代もこの街を守ってくれるか?」
赤面しながらもはっきり言う彼女を見て、ドラルクは心が満たされていくのを感じた。
「ウッフフフ…分かったよ。君の申請が通ったら、ずっとこの街を守ってみせよう。最強の畏怖されるべき吸血鬼のドラルクがね。」
「ありがとう。これからもよろしく頼む。」
照れながらも輝く様な笑顔をもう一度見れて、本当によかったとドラルクは思う。
「ヘルシングの再来と言われるロナルドくんに、最強の吸血鬼の祝福を受けたヒナイチくんがいれば、恐いものなしだろう。」
「ん?ロナルドはそんな二つ名があったのか?」
「いや、付いたらあの若造喜ぶだろうと思って。」
「やれやれ、では吸血鬼の祝福とは?いつの間にしてくれてたんだ?」
彼はいたずら心をくすぐられて、彼女に拗ねた顔をしてみせた。
「酷いなぁ。さっき私したじゃない。私にはしてくれないのかね?」
「駅で額にキスしたでしょ?」と続けようとした所で彼女が口を開いた。
「む…。そ、そうだな。貰いっぱなしというのも。じ…じゃあ、少し屈んでくれないか?」
確かに、小柄な彼女にはきついだろう。ドラルクは、少し屈んでみせた。だが、頬を染めたヒナイチは何故かクラバットを外しだした。
「ヒナイチくん、何やってるの?」
「取らないとできないだろう?」
だから何が、と聞く前に首に温かい感触とチュッという音が鳴った。
「駅でキスする場所によって意味が違うと言ってただろう?ついさっき、お前が私の首に…って、何だ?死ぬほど嫌だったのか?」
あぁ、君って子は若造と違う方法で何度私の心臓を止めたら気が済むのかね。駅で額にした方の事を言ったのだけど。私の想いを理解して貰うには、もう少し大人になるのを待つしかない様だ。
彼女が勘違いをしているのは分かったが、ドラルクはしばらく訂正しない事にした。いたたまれなかったのもあるが、首への口づけには執着の意味がある…彼女にも自分に執着して欲しかった。