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「NL」呼称問題についてのご回答/堀井千香

イチカ(堀井千香)
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2015-07-28 22:51:52

「『NL』呼称問題についてです。代案として『HL(ヘテロラブ)』が出されることがありますが……」という、ask.fmに寄せられたご質問に対する答えです。

「NL」呼称問題についてです。代案として「HL(ヘテロラブ)」が出されることがありますが、ヘテロの対義語が「ホモ」である以上、「対義語が差別用語だからダメ」という、NLと全く同じ理由を適用できてしまうように思います。「HSL(ヘテロセクシュアルラブ)」だったら問題ないかも……?イチカさんのご意見をお聞きしたいです。
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 このようなご質問をいただいたので、回答していきたいと思います。以下はもともとask.fmに投稿していた(そして文字数が多すぎて弾かれた)回答です。

 まず、「対義語が差別用語だからダメ」「ノーマルの対義語がアブノーマルだから使わない方がいい」という理由は、ごめんなさい、堀井は初耳です……そんな理由で「NL」を問題視してるという話は聞いたことがないぞ。脳内検索にひっかかりません。不勉強で申し訳ないです。もちろん、堀井自身がそのような主張をしたこともありません。念のため私のタイムラインを「対義語」で検索してみましたが、とくに何もひっかかりませんでした。(ただし、下書きフォルダに残されていた「『女の腐ったようなヤツ』って言葉の対義語を考えてみよう。『ピッチピチの男そのものであるお方』だな。えーと、何だろう、お、おいしそう?」というアホのような、というよりアホそのもののツイートは発見されました……いつ書いたんだこんなツイート)
 本当にごめんなさい、せっかく私に意見を求めてらっしゃるので、いろいろ答えてあげたいんですけど、前提がだいぶ違っちゃっているので、うーん、難しいなあ……。
 ひとつ言うと、私は「ノーマルの対義語がアブノーマルだから、ダメ!」と、“アブノーマル”という言葉のみを問題視しているのではありません。「ノーマル/アブノーマル」というこのペア、この対義語同士の関係自体を問題視しているのです。「アブノーマル」単体ではなく、セットで「こいつらってさあ、対義語同士で偏りがありすぎるから、恋愛フィクションのジャンルを指す言葉としては使わない方がいいよね」と思っている。

 ノーマルの反対がアブノーマルだからダメなんじゃありません、ノーマルという言葉の時点でそもそもダメなんです。ノーマルという言葉は、少々、強すぎるんです。フラットじゃないの。「ホモ/ヘテロ」は元来フラットな言葉でした、片方が差別的な文脈で用いられることが多くなってしまったけど、本来は非常にフラットな言葉です。でも「ノーマル/アブノーマル」はそうじゃない。意味的に、すごく偏ったペアなんですね。
 ちょっと解説していきたいと思います。がんばる。一発書きだけど。

 ノーマル(normal)という言葉の語幹は、規範(norm)です。規範というのは、「~であるべきだ」という、とても強い言葉です。ノーマル――普通、という言葉は、「通常、こうあるべき姿」という、非常に強い意味を持っている。そこには、ものの価値を一方的に判定するはたらきがある。「こうあるべきだ」の、「こう」あったものに、ごほうびとして価値を与えるはたらきがあるんです。これは、言葉のなりたちからしてそうなんです。もちろん、語源だけですべての言葉の意味を決定できるわけではありませんが、今回は私があなたへの説明に使える武器がこれしかないので(愛用してた電子辞書の充電コードなくしたんですよ)、これだけを頼りに説明していきたいと思います。
 恋愛フィクションのジャンルにおいて、特定のジャンル(男女での恋愛とか)を、「通常、こうあるべき姿」とは呼ばない方がいいと思うんですよね……。別に男女の組み合わせでない恋愛だって、フィクションにも現実にも、それこそ“フツー”にあるわけで。男女の恋愛のみを指す名称として、「こうあるべきだ」という意味を持つ言葉を、ノーマルだなんていう強い言葉を使ってしまうと、当然、それ以外の、男性同士や女性同士での恋愛は「こうあるべきではない」という意味を背負ってしまう。私はそれを問題視しているんだと思います。
 さて、そこに“~から離れた”(ab)という意味の接頭語が加わると、アブノーマル(abnormal)になります。これは「通常、こうあるべきである、という姿からかけ離れた姿」という意味になっちゃうんですよね。どうでしょうこの「ノーマル/アブノーマル」ペア、勢力が偏りすぎていると思いませんか? 片方は「こうあるべきだ」、もう片方は「こうあるべきではない」という意味です。そしてそこには、ものの価値を一方的に判定するはたらき、普通(ノーマル)とみなしたものに価値をあたえ、普通ではない(アブノーマル)とみなしたものから価値を奪うはたらきがある。強い、強すぎる。偏りがありすぎる。たかが恋愛フィクションの一ジャンル名として冠するには、あまりに強い言葉です。ちょっとやめとこうぜ。取り扱い注意だぜ。危ないぜ。

 では「ホモ/ヘテロ」はどうでしょう?「HL(ヘテロ・ラブ)」のヘテロ。こちらは成り立ちからして、非常にフラットなペアです。確かギリシャ語由来の接頭辞なんですね(電子辞書の充電コードをなくしているので、辞書の起動ができず、記憶だけでしゃべっています)。同種のもの同士の接合を「ホモ」といい、異種のもの同士の接合を「ヘテロ」という(うろ覚え……明日掃除してコード探すんでカンベンしてください)。ここに「~であるべきだ」という強い意味、ものの価値を判定するはたらきは含まれていません。ただ同種(同性)同士であればホモ、別種(異性)同士であればヘテロ。
 お分かりでしょうか、ボーイズラブ(BL)やガールズラブ(GL)が、単純に「少年(男性)同士の恋愛」「少女(女性)同士の恋愛」以上の意味を持たないのと同じく、ヘテロ、という言葉は、単純に「異性同士の」以上の意味を持ちません。ここに、HL派のみなさんが「HL」という言葉を選んだ最大の理由があると思います。実際、私も、男女同士の恋愛であることを、横文字を使ってなるべく簡潔に、余計な意味を(ものの価値を判定する視線を)入れないように表せと言われたら、ヘテロという言葉を使わざるを得ないと思います。まあ私は「男女カプ」派ですけどね。だって分かりやすいから。

 なお、最後に補足しておくと、成り立ちがフラットな言葉だからといって、現在も気軽に使えるかというと、そうでない言葉もあります。さっき出てきた「ホモ」です。こいつは危険です。言葉としては悲しいことに、長い間、いろんな人を貶めるために使われてしまった言葉です。これは「NL」とはまたちょっと違った意味でオススメしない。誰かにあらかじめ避けられたくなかったら、やめといた方がいいです。
 でも「ヘテロ」の方には、そんな歴史はありません。まだ原型の、「異種同士のつながり」という意味以上の意味を背負ってはいません。だから、使っても大丈夫だと思います。

「ヘテロ」という言葉が、「ホモ」という言葉と同じ道を辿らずに、今の今まで無傷で残っている理由を考えると、私はとても悲しくなります。

【まとめ】
・ノーマルという言葉の中には、語源からして、『先天的に』ものの価値を一方的に判定するはたらきがある。それは「ノーマルでない」ものを差別することにつながっている。したがって、対義語がアブノーマルだから悪いのではなく、ノーマルという言葉そのものに問題がある。
・ヘテロという言葉には、ものの価値を判定するはたらきは内在していない。ただ単純に「異性同士である」ことを表しているため、代案として用いられることが多い。
・ホモという言葉にも、元々、ものの価値を判定するはたらきは内在していなかったが、『後天的に』あまりにもひどい使われ方をされてきたため、今はなるべく使わない方がいいと、私は思う。

 以上です! 長々とごめんなさい! 伝わってるかな……伝われ!!! そして充電コード出てこい!!!


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イチカ(堀井千香) @Michelle_1ka
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