@EYK_adzuraki
「彼の謎めいた恋人」
彼の「恋人」については追及しないのが暗黙の了解だ。いわく言い難いが、あれはいわゆる「触れてはならないもの」だと思う。
美人で気立ても良いらしいその恋人を、彼以外の誰も一目と見たことはない。さらに奇妙なことに、恋人ができてから彼は日に日にやつれていくのだ。今や骨と皮の有様だが、髪や服だけは恋人の手で小綺麗にされているのが不気味だった。
――謎は謎のままであるべきだ。鶴女房も雪女もイザナミもエウリュディケーも、姿を暴かれたあとは破局しか無い。
いずれ衰弱しきった彼の孤独死の報など聞くのかもしれない。だがそれならそのほうが良い。孤独死という単なる事象になってしまえば、もはやそこには「謎」の余地は無いから。
(300字/タイトル・スペース除く)