#M右ワンドロワンライ様より お題「雨」で書きました。
アイマヴェちゃんがどっちも、女性を女呼ばわりしておりますので、苦手な人はご注意ください。
@diveforyou
「笑うなよ」
そう前置きしてアイスマンが声にするのを、例によってマーヴェリックは少し離れた場所から見ていた。
「……心臓が雨になるところ」
は?
えっどういうこと? お前そういうこと言うやつなんだ?
そこにはハリウッドもいて、ウルフマンもいて、スライダーすら変わっているよなという感じで薄く笑っていて、さすがエースは違うなと、マーヴェリックの横にいたグースすら揶揄した。
強いていうならその瞬間だ。
マーヴェリックがアイスに、プラスの興味を持ったのは。
『心臓が雨になる』。
マーヴェリックはあいまいに微笑んでグースを見た。感心しているような、呆れているような、そんな目をしている相棒の横顔を見上げた。もつれる心臓を抱えて。
どうした、と視線を下げてくるグースに対して、マーヴェリックは何か言おうとしてやめた。言ったところでこれは。この通じ合いたさは。
「……ハニー?」
思考に割り込んできたグースの声に、マーヴェリックはほっとして自分を取り戻した。変な奴。僕もそう思う。『心臓が雨になるところ』だなんて。
「…………」
マーヴェリックは軽く目を伏せて想像した。
雲を突き抜けて雲の上へと出るあの瞬間のこと。
「…………、」
マーヴェリックは心臓に触れながらアイスを見た。
あるいは、『心臓より』雨になる。
Assuming your heart makes it rain.
「雨嫌いか?」
素っ裸で水を飲みに行き、素っ裸で戻ってきたマーヴェリックを引き戻すようにアイスは言った。
「は? なんで?」
「俺のほうを全然見なかったろ、今日」
「は~~~~。よく見てるな、アイス」
「雨苦手なのか?」
「別に?」
「嘘をつくなよ」
「ついてない。てか何、わっ、お前さあ、」
持ってきたグラスの水はすでに半分になっていた。それをナイトテーブルに置くと、アイスはすかさず我が物顔ですべてを飲み干す。『いつものように』。
儀式だった。お互いを甘やかし、お互いがお互いの特別であるための儀式。
ベッドへ連れ戻すようにアイスの手が伸びてきて、だからマーヴェリックは苦笑しながらその強引さに甘える。首を舐めて、そうしたらうなじを撫でられて、そのまま背中、腰を撫でられる。きもちいいアイスの手。
枕にするのにちょうどいい腕が転がっているのを見て、マーヴェリックはごろんと自分を頭をそこに置いた。気を良くしたアイスが額にキスを落としてくる。頬を撫でられ、唇を撫でられ、至近距離でうっすらと笑い合う。
(僕と目が合わなかったから、僕が雨苦手かもって?)
おかしいだろ。どんだけ自意識過剰なんだ。アイスのこういうところにマーヴェリックはくらくらくる。ずるい。天然なんだよな。その自信が、どれだけ相手を勇気づけると思う? その信頼が、どれだけ僕をいい気分にさせてると?
「ピート?」
のぞき込むように言われて、マーヴェリックはセットの崩れた美しい金髪を見た。青い目。整った鼻筋。鍛えられた身体から香る何かの甘い香り……。
「嫌いじゃないのか?」
「雨? ああ、嫌いじゃない」
「お前隣の女も口説いてなかったろ?」
「ほんとうによく見てるな。そんなに僕に夢中か?」
「ああ、お前ばっか見てたせいで今日は女のほうからふられた」
くつくつと笑いながら言うセリフじゃない。
クラブに入って、クラブを出るまではばらばらに過ごすのがルールだった。たいていは女の方から声がかかる。なんでもない会話をしながら一杯二杯とアルコールを楽しむ。そしてたいていはアイスが先に席を立って、マーヴェリックの視界を横切るような動線でトイレへと向かう。お互いを、より特別な存在へと仕立て上げる、儀式でゲームみたいなものだった。
ゆっくりと追いかけたマーヴェリックは、ゆっくりと手を洗うアイスに、男子トイレの鏡ごしに視線を送る。それが、『出よう』の合図だった。
アイスもマーヴェリックも、最初に女と飲むのはカモフラージュにすぎない。
(そういえば今日は、こういう関係になってから初めての雨の日か……)
雨。雨は全然嫌いじゃない。
傘の上でぼつぼつと雨がはじける音が好きだし、雨雲を突き抜けて雲の上に出た時の明るさも好きだ。自分と僚機だけのために広がっている空間。手つかずの天空。まさに『心臓が雨になるかんじ』。
マーヴェリックには、あの日アイスが言っていた感覚がわかる。そうとしか言いようのない優越感。感動。わかちがたさ。
心臓が雨に見舞われるのではない。
心臓の血が、雨になって四肢へと駆け出す感覚だ。ドクンという鼓動がそのまま、戦闘機へと浸透するような。心がそのまま天空と化すような。そんな一瞬。一瞬の高揚。戦闘機を操縦していて、どのタイミングが一番好きかだなんて――。
僕もだ。
つまりはそう言いたくて言えなかった。もつれる心臓を抱え、あの日自分はグースの横顔を見つめることしか出来なかった。グースに訴えるしかできなかった。きっと初恋だった。
雨は嫌いじゃない。
「僕の初恋、お前の心臓だから」
「はぁ? おまっ、どういう」
腕枕の上で頭を転がし、マーヴェリックはアイスの上をとってアイスの心臓に口づけた。ひれ伏すように手のひらを置き、目を閉じてくちびるを押し付ける。ここが雨の降る心臓。とくん、とくん、という鼓動がそのまま自分のくちびるに乗り移ってくる。やわらかな霧雨がマーヴェリックの心臓にもあふれてくるようだった。
「雨の日はお前のことばっか考えてるって話」
初恋は言い過ぎかもな、と思いながら、マーヴェリックはアイスの胸に頬ずりをした。なにか、(よぅし)という顔をしているアイスと目が合う。喜色を隠せず、企んでいる顔が愛おしい。
「毎日雨にするか?」
さすがにマーヴェリックは噴いた。
それは困るとか、それは無理とか、思ったけれど黙っている。
意思のある指先が腰に食い込んでくるのを感じて、マーヴェリックはゆっくりと目を閉じた。
(終)
平気で神様みたいなことを言うアイスに、マーヴあきれているし惚れていると思う
毎日雨でもいいなと思っている
僕の初恋。僕の神様。