お彼岸が近づいた頃にTLに死ネタが多かった時期がありまして、寿命が違う者同士の話なら必ず訪れる結末。辛いけど見ちゃうんですね。
でも、辛いんで一人残されたドラルクさんが救われる死ネタを目指したら、ドラヒナ夫妻の娘とロナサン夫妻の息子の間に生まれた孫とジョンを抱いて、枕元に置いてる骨壺に見守られながら棺桶で眠るおじいちゃんルクが浮かんだので書いた話です。
正直、捏造しかありませんので注意して下さい。
2022/09/19に上げました。
@kw42431393
「私の為に一生クッキーを焼き続けろ。」
「ずっとこの日は、お前のケーキを食べられるんだな。」
「これからも一緒にこの街を守っていこうな。」
君は「ずっと」という言葉が好きだったね。そう言われるたび、期待したものだ。その反面、年齢の割にあどない君が誰にでも言うんじゃないかと要らぬ心配もしたものだ。
要らぬ心配だったのだ。こんな自分より10倍以上年上のクソザコおじさんを選んでくれたのは、君だった。初めはお菓子で手懐けて、美味しそうな血を貰えないかと、獲物として見ていたはずなのに…。
「あいつはいい奴だ。一緒にいて楽しいんだ。」
この一言で、私は君を獲物として見るのをやめた。高等吸血鬼としてもプライドには目を瞑った。
卑怯な私は自分から想いを告げずに、雛鳥が自分から巣立つ事に怯えながら望んでいた時期があった。少女が女性になっていくのを見るたび、彼氏を連れてきたら対応できるだろうか、と考えたものだ。
「私はお前といたいんだ。」
皮肉なもので、獲物として見るのを辞めてから、彼女の方から私の手の内に堕ちて来てくれた。私の彼女への執着は形を変え、彼女は年老いて亡くなるまで家族とたくさんの思い出を残してくれた。
「私達の子供や子孫の世代もこの街を守ってくれるか?」
赤毛の少女が言った殺し文句を今も思い出せる。
「すまないな、あの時の約束がお前をこの街に縛るんだろう。でも…」
臨終の際の君の言葉…
「分かっているとも。畏怖すべき最強の吸血鬼が、この街を守ってみせようではないか。永遠に…。」
だから、安心してくれ給え。私の大事なお嬢さん。
「もしもし、ドラルクキャッスルマークⅡ。」
「おう、ドラルク。」
「おや、ギルドマスター。何か用かね?」
「マスターはよせって言ってるだろ。亡くなったとっつぁんとコユキの遺言でなけりゃ、こんな堅苦しい恰好はしてねぇよ。」
電話向こうの野球拳大好きの膨れっ面が目に浮かぶようだ。野球拳道を貫くつもりだったのに、コユキ嬢に惚れたのが運の尽きで、今では新横浜ハイボールのマスターとなっている。彼らの間には娘が生まれ、母親のガブリエラとも和解し、マスターとコユキくんが安心して彼らに見送られたのは、いつの事だったか…。
「フフフ。じゃあ、拳くん。何か用かね?」
「この前、お前が立てた案で解決した事件の分け前だがよ。ほんとにこんな端金でいいのかい?」
「あぁ、適当にしておいてくれ給え。ロナルドくんが残した事務所を続けているのは、趣味だからね。それに…」
「あぁ、嫁さんの事な。俺もそれを言われると何も言えねえよ。」
「そう、街を守るのはヒナイチくんとの約束でもある。リカルドくんがここを継がずに、カメ谷くんに傾倒して週バンに行ってしまったからね。分からないものさ。」
かくいう私はロナルドくん達が亡くなった後、ロナルド吸血鬼退治事務所の経営者となっていた。彼とサンズ女史との間には、リカルドくんが生まれたが、彼が選んだ道は父親とは違う道だった訳だ。
まぁ、こんな体質だから荒事は出来ない。依頼があればジョンと調査をし、ギルドや吸対、暇を持て余している変態達の力を借りて解決する。私が今までシンヨコの事件を解決してきたのはお墨付きなので、ギルドだけでなく若い退治人達や吸対、吸血鬼達からも相談されたりして、そこそこ忙しい日々を送っている。
「まぁ、いいじゃねえか。相棒の息子が自分の娘と結婚して、今や義理の息子。両方の実家がその事務所で、明日、孫も連れて来てくれんだろ?結構なこった。」
「夫婦というより今も姉弟同然だね。彼が人間だった頃には娘との間に子供が出来なかったのに、吸血鬼化して45年も経ってから出来たと言うんだ。まさか、私もおじいちゃまなんて呼ばれる日が来るとは思ってなかったよ。」
「あのクソ所長が残した研究メモのおかげか…すごいもんだったな。」
ヒナイチくんが亡くなってすぐの頃だったろうか。吸血鬼化した者や吸血鬼を人間にする薬が開発されて、逆にリスクなしに人間を吸血鬼化できる薬も出来たのは…。ヨモツザカの死後、出てきた研究メモから作られたのだと聞いている。
本来、人間の吸血鬼化は難しく、その人の適性次第な所が大きい。失敗するとグールになる可能性がある。一応、予め吸血鬼側が血を吸っておく事で、成功率を上げる事は可能だが、やってみるまで分からない。今まで失敗を恐れて、伴侶を見送った同胞も多かっただろう。私もそうだったのだ。
ロナルドくんとヒナイチくんを見送った後、憔悴した私を見て、リカルドくんはその薬を使っての吸血鬼化を決意したのだという。娘に同じ顔をさせたくなかったと…。
その逆に、伴侶と共に年老いたいと人間化を果たしている同胞も多いと聞く。
「ああ、たいしたものだ。しかし、これだけ人間と付き合っててもそこに関しては度し難いよね。生まれ持った運命を捻じ曲げようというんだから。」
ねぇ、ヒナイチくん。君がもう少し死ぬのが遅かったら、その薬で君は吸血鬼として私の側にいたのかな。君は私に甘かったから、「吸血鬼となって永遠に一緒にいてくれ」と言えば、君は首を縦に振った気がする。私は「ずっとこの街を守る」と君と約束をしたのだから、それに執着しているのだから、人間化する選択肢はないのだよ。この街を離れる選択肢もないんだ。だから、再生できなくなる事故でもない限り、もう君に会う事は出来ないんだ。
ピピピッ!ピピピッ!
目覚まし時計の電子音で私は目を覚ました。時間を確認すると、もう6時だ。そろそろ起きないと…私は、枕元の小さな壺を引き寄せた。
「おはよう、ヒナイチくん。今日は皆帰ってくるよ。楽しみでしょ?」
軽く骨壺に口づけすると、返事をするかの様に中でカラリと音がした。
今日は、娘夫婦が来る日だ。だから、仕事も休みにしてある。君達を失ってから、ジョンの分の料理しか作って来なかったから、久しぶりにご馳走を作ろうか。君も嬉しいだろう?
ドラルク様、おはようヌ。
蓋を開けると、ジョンが着替えを背中に乗せて持って来てくれた。
「ジョン、おはよう。今日は皆が来る日だから、ご馳走だよ。」
そっと抱いた骨壺を持って棺桶を出る。そして、キッチンがよく見える所に置いた。君は私が料理をするところを見るのが好きだったから、よく見える様に。
孫も来る事だし、お子さまランチでいいだろうか。ロナルドくんの好みがお子さまだったので、旗を立てて「5歳児、ご飯でちゅよ~。」とからかったらよく殺されたものだ。
オムライスに唐揚げに、コーンスープにフライドポテト、サラダに…。
「おっ、うまそ。」
後ろからニュッと出てきた、がっしりした手が唐揚げを摘まんだ。
「こら!若造、手をあら…」
後ろに立っていたのは、ロナルドくん…いや。
「リカルドくん!」
「ごめん、ごめん。おじさんの料理久しぶりだからさ。それに若造はやめてくれよ、俺、もう100歳超えてんだよ?」
「ふん、つまみ食いなんて行儀が悪いぞ。手を洗って来なさい。ロナルドくんにそっくりだ。」
「へいへい。」
ピンクがかった銀髪に、父親譲りの長身に筋肉質な体格。目と口元は母親譲りらしく、ネコ科の肉食獣をイメージさせた。カメラとカバンを持っているので、取材帰りにそのままこっちに来たのだろう。いつの間に入ってきたのか、と見回すと窓が開いたままになっていた。母親のサンズ女史はくノ一なので、いつも窓から出入りするのがロナルドくんの悩みの種だったが、息子もそこを受け継いでしまったらしい。
「お、ジョン。久しぶり。相変わらず、可愛いなぁ。」
「ヌヌンヌヌ、ヌイヌヌヌ。」
落ち着きのない彼は、ジョンの腹毛を吸っている。と思ったら、今度はメビヤツと遊んでいたりする。
「100歳どころか、君も5歳で十分だ。私なんて、そろそろ320なんだぞ。」
私は苦笑して、オーブンで焼き上がったクッキーを取り出す。アミに乗せて冷ましていると、床下でかすかに気配がした。こちらも来たかな?
「父様、お邪魔するぞ!」
「おじいちゃま、こんばんは!」
リビングを出て事務所の方に移ると、床下から娘のミナと孫のドランが顔を出していた。クッキーが焼けたタイミングなんて、どこぞのクッキーモンスターと一緒ではないか。
「おかえり。母様と同じ事をするんじゃない。ちゃんと玄関から入りなさい。」
「え~!」
「あはは。かあさま、おこられちゃったね。」
彼女は、母親譲りのアンテナをピコピコ動かしながら外に出てきた。娘は生まれた時、私の祖母に瓜二つだと言われたものだが、最近ヒナイチくんに似てきた気がする。少し眠そうな目は、私の母に似た様だ。彼女が生まれた時、お祖父様とお父様とノースディン師匠の驚いた顔は忘れられない。
「えっ、お、お母様…??うそ!こんな可愛い子が、私の孫でいいの?」
「ミナおば様そっくりだ。良かったな、弟子よ。お嬢さんは間違いなくお前の子を産んでくれたのだ。」
「祝いの席まで、嫌味言うのやめてくれませんかね?だから、ヒナイチくんが言わなければあんたを呼ぶつもりはなかったんですよ。」
「ミナ、おかえり。また遊べるね。」
「ちょっと!お祖父様、もう決定なの?」
あの無表情なお祖父様が、満面の笑みではしゃいでいた。お父様の溺愛っぷりは言うに及ばず、お母様はかつて私にしてやれなかった事を孫のミナに存分にしてやれる事ができた。それは吸血鬼と人間の共存化が進んだ事を象徴している様だった。
ただ、この子は私の虚弱体質を受け継いでしまい、ダンピールでは長生き出来ないだろう、と宣告を受けた。この体質に不自由がない事を実感していた私は、娘に血を与えて吸血鬼にした。そして、今に至る。
私達夫婦とロナルドくん夫婦は、床下を拡張した二世帯住宅のこの事務所で暮らしており、3カ月遅れて生まれたリカルドくんも加わり賑やかに暮らしていた。
「ミナちゃんは、ドラルクおじさんといっしょですぐしんじゃうから、おれがまもってあげるね。」
「うん。ミナ、リカルドくんのおよめさんになる。」
幼き頃に交わしたその約束は果たされ、そして、つい5年前に孫のドランも生まれた。赤い目に吸血鬼の牙と尖った耳、一族特有の癖毛が二本、控えめに付いている以外は、驚くほどロナルドくんそっくりだった。私は初めて見た時、その場で泣いてしまった。お父様も「あのクソポールそっくり」と認めながら、私達以上にベタベタに甘やかしている。
「いただきま~す。」
「「いただきます。」」
久しぶりに賑やかな食卓は、私の心を満たしてくれた。確かに、私は作るのが趣味だが、賑やかであればある程楽しい。目の前のドランは、リスの様に頬を膨らませてプレートの上の料理を平らげている。
「おいしい、おいしい。」
「そうかね、もっとお食べ。」
「ヌヌンヌヌ、ヌヌヌイヌ。」
「えへへ。じょん、ふいてくれてありがとう。」
「ビッ!ビビッ!」
「あ、めびやつもあ~んする?」
こうして見ると、この子はヒナイチくんの様でもあり、落ち着きなく跳ね回る所はサンズ女史の様でもあった。
「ごちそっさん。おじさんの料理、いつ来ても美味いわ。」
「父様には誰も勝てないさ。それにしても、早いな。明日、もう母様の50年目の命日なんだぞ。」
「え?そんなになんの?」
「そうだよ。50年の間に、この街の風景も変わったね。まぁ、忙しない方が退屈しないからいいけど。」
街を歩くたびに、そこで起こった事件、擦れ違った者達との思い出、親しかった者達の子孫や後輩達、今もつまらない事で騒ぎを起こす同胞達…この街は、今でも私を退屈させない。
ただ、一番楽しかった時と比べてしまうだけなのだ。ただ…それだけ。私の手から滑り抜けた大事な者達と…。
ミナ達が持ってきてくれた花を生けながら、私は答える。骨壺の前には小さめのプレートに盛り付けたお子さまランチを供えた。勿論、クッキーも。今日も楽しかったね、ヒナイチくん。
「おじいちゃま、くっきー、もっとたべていい?」
「勿論だとも。」
皿から一つ摘まむと、ドランは口を開けてクッキーを待っていた。床下から顔を出したヒナイチくんがよくやった仕草…胸に込み上げる感情をどう表現したらいいのだろう。
「おいしい!」
この子の中に、私が一番大事にしている者達が混ざり合って、存在している。込み上げる感情に抗わず、私はドランを抱き締めた。滲みそうな涙を孫の銀髪に隠した。
「ねぇ、おじいちゃま。」
「なぁに?」
「きょうは、おじいちゃまのかんおけでねてもいい?」
「勿論いいよ。」
「じょんもいっしょにねよ?」
「ヌンヌヌ、ヌヌヌイ。」
「あと、めびやつも。」
「ビッ、ビビッ!」
「あとね!」
「おいおい、ドラン。ドラルクおじさんの棺桶いっぱいになっちゃうだろ?」
「ウフフ、どうせなら私達全員入れる大きな棺桶を買わないか?キャンプみたいで面白そうだ。」
「面白いけど、無理じゃないかね?リカルドくんとドランの寝相で、私とミナが時々死んじゃうでしょ。」
「あぁ、ゴメン。俺が起きたら、ミナちゃんが隣で砂ってなってる事あるもんな。」
「あとね、あとね!」
相棒そっくりの真っ直ぐな眼差しが、私を見上げた。それから、机の上のヒナイチくんに視線を移した。
「あとね、ヒナイチおばあちゃま!」
だって。ヒナイチくん、今晩は棺桶がすごく狭いけどいいよね?だって、こんなに素敵な宝物と一緒なんだから。