グロ注意
創作/怪談話です。デパートのマネキンの話。
@lianmiso
怖い話か。前の職場ではよくあったけど………
マネキンってよく衣料品店で見るよね。最近ではスーパーでも洋服売っているから、見かける機会は多くなったかな?
デパートにも、必ずと言っていいほどある。
ボクの働いていたデパートにも沢山あった。
流行な服を着て、様々な格好を取る。人々の注目の的。店の中で常に流行を生み出すマネキンがあると、売り上げが断然に違くて売り場のセンスが試されるという訳だ。
ボクの居たデパートでは、それはそれは美しいマネキンがあった。お客さんにも従業員にも評判でね。ファンクラブなんてできていた。
白磁機のすべすべした肌に、艶やかな黒髪、長々とした睫毛に物憂いげに伏せられた目、薔薇の花びらみたいに可憐な唇に形が整えられたすらりと伸ばされた指はもう人間みたいでね。スタイルはスレンダーな体型でどんな服でも似合う。憧れの的だった。
昔、マネキンは生き人形と呼ばれていたっていうけど、納得したよ。
………ボク?
そのマネキンが来た服は飛ぶように売れるから、万々歳だったよ。
美しくて近寄るのも触るのも憚られる。そんなマネキンだった。
ボクの生まれる前からあるらしく老若男女問わず人気でね、そんな中に中学生くらいの女の子がいたんだって。平日も土日も祝日もマネキンの前にいたらしいんだ。あまりにも熱心だから、店員とも仲良くなって、専用の椅子まで置いたんだって。
ある日、突然彼女は居なくなった。
親御さんが泣きながら、捜索願いの紙を持って来て、デパート中に貼っていった。
悔やんでいたよ。
あまりかわいい服を着せてやれなかったって。
願いも虚しく、見つからなかった。長い年月が経ち、ポスターも貼られなくなった。
………ご両親もご高齢だったらしいからね。
それが昔の話。
ボクの働いていた時の話をしよう。
デパートの仕事は多々あってね、その中にはマネキンの点検もあった。売り場は毎日、月一で倉庫の中のマネキンも数えないといけない。
不人気な仕事だったな。
他の所はどうか知らないけど、うちは古くからあるデパートだからね。
空調は効かない。地下だから窓もない。湿気も籠る。少し動くだけでも埃が舞ってさ、咳もくしゃみは止まらず、鼻の中も真っ黒になる。夏はサウナのように暑くて汗が滲む。冬は指も悴む歯の根が合わない寒さ。薄暗い倉庫の中、それを延々と数えて、磨くんだ。椅子もなかった。ずっと立ちっぱなし。
しかも、デパートのマネキンだ。
特設イベントはもちろん、壊されてもいいようにたくさんいるし、そして、壊されたマネキンもパーツ取りとして取って置かれている。
老舗だったから、何十体何百体、パーツは一山も二山以上もある。
途方もない作業さ。終わる頃には目もしぱしぱして、手足どころか全身に疲労感がある。帰るときには天辺は越えていたよ。
デパートは目の回るような忙しさだったから、そこにベテランや中堅を割けないというんだ。他にも覚えることあるのにさ。
最初のうちはボクも意見を出したけど、効果はなかったね。
大体は新人への洗礼か遅刻とかの懲罰かだった。
特に新人は最初のうちにできることは少ないし、ミスも数え切れないくらいある。だから、その仕事は毎日必ず来る。
最初のうちは新人たち数名が雑談しながら、数えていくんだけど、ボクの働くデパートは離職率が高くてね、最後には1人になってしまう。
マネキンって不気味じゃない?
人の形をして、たとえば外で転がっていたらパッと見、見違えるよね。
暗がりの中だと尚更。
何って死体にさ。
倉庫にゴロゴロ転がる手足や首を黙々と数える。そんな仕事をしたくない。
抜け出そうとするから、奮起して仕事を覚える人を出そうという目論見だったらしい。
根性試しとしてそのままだったんだけど、ある事件が起きて、ボクが入って2、3年後には必ず2人でやるように、倉庫に入る前には一報を入れることになった。
御察しの通り事件があったんだよ。
ボクの同期に変わった人がいてね。
福田という人なんだけど、あまり話さない、無口な奴で引っ込み思案だった。でもね、その仕事だけは進んでやる奴だった。仕事を代わってくれることもある。
ボクらとしては嬉しかったよ。あんな所、行きたくなかった。
理由を聞いてみたことがあるよ。
単純に「マネキンが好き」なんだって。
ある日、当番だった奴が倉庫から飛び出して来た。
夏でもないのに、汗をびっしょり掻いてね。
「マネキンを数えると一体多いんだ!」
僕ら新人は飛び上がったよ。
みんなで倉庫に行って数え直した。
ひとり、ふたり、さんにん………
何度数えても、何人で数えても、一つ多い。しかも、見た目が他のものと違う。他のマネキンは白いものだけど、黒い絵の具を塗り重ねた、倉庫の暗がりを固めたようなマネキンだった。
仕方がないから、ボクが渋々上司に相談に行ったよ。散々雷を落とされて、上司が実際に確認することになった。
マネキンを見て、上司の顔色が変わったよ。
その場所から飛ぶようにいなくなって、一枚の紙を握りしめて来た。
広げて、僕らは心臓が飛び出しそうになった。
うん、もうわかるかな。
上司が持って来たのは10年前に行方不明になった子のポスター。
その子に瓜二つなんだ。
髪も何もないんだけど、顔つきがさ。
夢中になりすぎると、周りが見えなくなる。憧れがすぎると、その者に近づきたい、なりたいと思う人もいるよね。
彼女の場合、それがマネキンだったんじゃないかな。
どういう訳かわからないし、ボクの推測でしかないからね。
うん、話はそれで終わらない。まだ続きがあるんだ。
マネキンは普通に売り場に置かれるようになった。調査の結果、普通のマネキンだったし、その頃は売り場のマネキンたちの手足を砕かれる悪質な悪戯が多くあったから、数が足りなくなっていたんだ。
使えるものは全て使う。商売人は逞しいものだよ。
仲の良かった売り場の人間がその子にとって本望だろう、ということもあって推したという噂だけど、その人は語ることは定年までなかったね。
あのマネキンよりは劣るけど、そのマネキンもなかなかの売り上げだったな。
ボクはあまり近寄りたくなかったけどね。
ん?なんでかって?
ボク個人の意見なんだけど、マネキンというものは本来服が主役なんだよ。
人気のあったマネキンは服を引き立てる力があった。でも、黒いマネキンは何というか只ならぬ空気を出していた。
嫌な感じ、近寄り難い空気のところってない?例えば人気のない夜の学校、湿気の多い真夜中の墓場だったり。
黒いマネキンが売り場に置かれると、特にそれが強くなった。
ボクも仕事なんで、行くときは行ったけど、よくみんな近寄れるなぁと思ったよ。
それに集まった人がじとっとした嫌な熱気を出していたんだよね。
そのうち存在感があるマネキンができたからか最初のマネキンは他の売り場に異動してしまった。残念に思ったよ。異動してから黒いマネキンの置かれている売り場の嫌な雰囲気は強まったからね。先輩に遠慮していたみたいにさ。
増えてからも点検は変わらず行われていた。嫌々ながらみんな行ったものだけど、福田に任せる奴も多く出てきた。
変な事が起こった場所と見知らぬ怪しいマネキンなんて点検したくないものだよね。だから、福田が倉庫に行く機会も多くなった。
嬉々として行っていた。他の仕事覚えてないと困るくらいだったんだけど………
ある日、福田が消えたんだ。
どこを探してもいない。
みんなで探したら、倉庫の中にいた。
壊れたマネキンのパーツに埋もれていたんだ。
それだけじゃない。
服は着ていなかった。
顔には袋がすっぽりと被せられ、首には縄が絡み付いていた。両手、両足が捥がれて、赤黒い肉の隙間から白いものが見える。下腹部はぽっかりと拳大の穴が空いていた。
隣には黒いマネキンが転がっていた。袋を被り、首に縄が締め付けられ、赤黒い液体の中に白い破片と黒い破片が浮いていた。手足が砕かれていたんだ。下腹部に穴が空くマネキン。
福田と同じだ。
福田の奴、ただ人形が好きという訳じゃなくてさ。マネキンを愛していて、完璧なものを壊したいという願望があったらしい。
悪戯の正体は福田だったんだ。
そして、マネキンのメンテナンスで一時倉庫にしまわれた黒いマネキンを狙ったんだ。
それで返り討ちって訳さ。
あの子の怨霊だろうなって噂は閉口令が出されても駆け回った。しかも、警察が証拠品として預かった黒いマネキンがどこかに行ってしまったらしい。噂に拍車がかかった。
ボクらにも探すようにお達しがでてね、一応倉庫を見ても、デパート中どこを探してもない。
ボク以外の同期は全員辞めたよ。当然だね。そんな気味悪いところで働きたくないもの。
ボクは行く場所なかったからね。この会社に誘われるまでずっとデパートさ。10年以上いたけど、ついぞ見つからなかったな。
人とか襲っていないといいんだけど………
襲うとしたらどんな人だろう。
福田みたいに乱暴を働く人かもね。
だから、ゴミ捨て場とかにマネキンを見つけても暴力を振るってはいけないよ。
それが福田みたいに返って来るかもしれないからね。
ボクの話はこれで終わりだ。
顔色が悪いけど大丈夫かい?