#M右ワンドロワンライ様より お題「ハロウィン」で書きました。 スライダーとマーヴとアイスが男子校のノリで仲良くしてるのを書きたかった。
@diveforyou
「20ドル賭ける」
「20ドル」
親し気に肩を組んできたスライダーに、マーヴェリックは口端を吊り上げて応じた。
20ドル。20ドルかあ。
でも内容による。要は面白ければいいのだ。それにマーヴェリックはこの手の誘いを断りたくない。もちろん相手にもよるが。
「で?」
揉むように肩を撫でてくる悪友にマーヴェリックは心地よさげな息を吐きながら体を向けた。金に近い茶髪。スライダーは上目遣い気味に周りを見回して、「アイスマンだ」と小さく耳打ちする。
「アイスマン」
マーヴェリックは頷いた。俺の僚機。じゃあその賭け、乗るしかないな。
談話室には誰もいなかった。マーヴェリックとスライダーだけ。みんな明日の甲板パーティの準備にたぶん忙しい。明日のピクニックはハロウィンパーティーを兼ねるため、仮装できる者は仮装して参加せよというお達しだった。
「お前アイスを誘えよ」
「甲板パーティに?」
「あいつ乗り気じゃないから」
「知ってるよ」
「俺はお前が誘ったら来ると思う。40ドル」
「……待て待て。作戦を立てよう。お前の協力があるなら可能性あるかもだけどな?」
ぐっと体を寄せてくるスライダーに、マーヴェリックはクスリと笑った。わかってないな。お前が誘って乗り気じゃないなら、自分が誘っても同じことなのに。例えば二人きりになろう、という誘いならば、アイスはマーヴェリックの誘いに乗ることもある。けれどあの輪に加わろうという誘いならば、アイスはスライダーでなければ駄目だ。
「協力って?」
スライダーの右手にはアイスと同じカレッジリングがはまっていた。それを羨ましいとは思わなかったし、むしろこんな風に自分を甘やかし、気遣ってくれるスライダーに柔らかな気持ちがこみ上げる。
――そうだな。
好き勝手飛ぶことも好きだけれど、共同戦線というのはもっとすごく気持ちがいい。マーヴェリックはそれを、ほとんどアイスとスライダーによって覚えこまされた。
「要はアイスは仮装がめんどくさいんだろ?」
だから作戦はこう。
Talk to me Slider。
にやにやしているスライダーに、マーヴェリックは自分の頭を押し付けるようにして作戦を打ち明けた。
そしてそれは三時間後。午後のロッカールームにて。
「Trick or treat!」
マーヴェリックはそう言って、その言葉にアイスマンが上を見て下を見て右を見て左を見るのを見守った。それよくやるよな。でもマーヴェリックはアイスのこの癖みたいな仕草も気に入っている。さまよう眼差し。場の安全を確保するような哨戒行動。
ほどなくして戻ってきた視線に、マーヴェリックはいつもの笑いを浮かべた。耐Gスーツを取り外し、呆れるほど軽くなった体で見つめ合う。
胸ポケットから櫛を取り出したアイスが、跳ね上がったままのマーヴェリックの髪をさくさくと梳いた。すぐ櫛を出すアイスもアイスだが、おとなしく梳かれている自分も自分だ。
「お前、それ、俺に?」
とは、ハロウィン定番のセリフについてだろう。
「用具ロッカー内のゾンビに言ってるって? お前にだよ」
「生憎ガムしか無い」
「じゃあイタズラしていいってことだな?」
ゴン!
そこまで言ったところで、掃除用具ロッカーが不穏な音を立てた。アイスの首が掃除用具ロッカーの方に向く。マーヴェリックも同じようにロッカーを注視する。『作戦通り』に。
「……モップが倒れた音だろうな?」
アイスはそう言って、掃除用具ロッカーからマーヴェリックへと視線を戻した。
「それかゾンビが潜んでるか」
あいまいに頷きながらマーヴェリックはそう返す。……いや、怪しんでくれよ。モップが倒れた音なわけあるか。
中に潜んでいるスライダーが哀れになってきて、マーヴェリックはもう一度掃除用具用ロッカーを見た。だが気にするなとばかりにアイスが顎を掴む。気にするなとばかりにキスを落とそうとしてくる。気にしてくれ。どう考えてもモップが倒れた音じゃないだろう。
ゴゴン!
するとタイミングよくもう一度掃除用具ロッカーが音を立てた。興を削がれたアイスが今一度用具ロッカーを見る。笑いだしたさを抑え込んでマーヴェリックもそうする。
「まあ、モップが立て続けに倒れた音だろうな?」
「んなわけあるか!」
「ミイラ男が潜んでる音だよ!!」
さすがにもう芝居どころではなくなって、マーヴェリックはアイスの腕の中で笑い叫んだ。と同時に、掃除用具ロッカーがガッコガッコと揺れだし、中からミイラ男が飛び出してくる。こ、こわっ。何この絵面。無機物だと思っていたロッカーが、勝手に激しく揺れだす光景って普通に怖い!
「よう、スライダー」
「おまえいつから気づいてた?」
「最初に物音がしたとき。潜んでいるならお前だろうなと思った」
アイスはくっくっと肩を震わせて笑って、フーフー息するスライダーの肩を労うように叩いている。マーヴェリックはこの状況の面白さに力が抜けてしまって、二人の足元に這いつくばってイッヒヒッヒと笑ってしまっていた。
でも作戦通りなんだよな。アイスが驚かなくたってそれは想定の範疇内。
スライダーのミイラ男は、トイレットペーパーを雑に巻かれただけの低クオリティ。しかもフライトスーツの上から。こんな仮装でもいい、そんな仮装でもいいならとアイスに思わせることが自分たちの狙いなわけで――。
「よかったな。お前それ明日の甲板パーティまでその恰好でいろよ、スライダー」
「妬くなよ。まあ可愛かったぜ。お前のマーヴェリックがせっせと俺に包帯を巻きつけていくのは」
「は? それケツ紙だろ?」
「なあ、アイスは明日の仮装は決まってるのか?」
「まだだ。そういうお前は?」
「俺とマーリンは決まってるんだよ」
さらりと言ったマーヴェリックに、スライダーとアイスは兄弟のように「うわっ」と悲鳴を上げた。今気づいたかのように。つまりはマーヴェリックが狼男、マーリンが魔法使いというわけだ。
「鉄板ネタがある奴はいいな……」
「これもう一人勝ち誇ってる男がいるだろ」と、ウルフマンのことを指してアイスが笑っている。
娯楽室、図書館、教会室と続くエンタープライズの廊下は、紫や橙色のリボンで色鮮やかになっていた。ミイラ男姿のスライダーは、すれ違う下士官たちからいち早く笑いをとっている。
「じゃあ、アイス。俺の僚機にしかできないぴったりの仮装があるんだけど……聞くか?」
「お前が俺の僚機だ。で、何だって?」
「Red Hood。かわいいかわいい赤ずきんなんてどうだ?」
「手軽でいいな。お前はつまり、先回りしてベッドに籠って、今か今かと赤ずきんを待つ悪い狼ってわけだ」
同僚たちの邪魔にならないよう、縦に三人のフォーメーションでずんずん歩く。このフォーメーションの悪いところは、ニヤつくお互いの顔が見えないところだ。
でも、マーヴェリックは勝ちを確信して言った。スライダーが歩きながら、後ろ手に手をひらひらさせてくるのを見て言った。
「ばーーか。いいから、俺の赤ずきんになれよ」
先頭を歩くアイスが、ついに負けたように、声にはならない笑いを上げる。
よってマーヴェリックは、スライダーがかざす手のひらに、ばちんと手のひらを打ち下ろして歓声を上げた。
(終)