以前、264死を読んで、カッコいい塵バリアを大人になったヒナイチくんにやって欲しくて書いた話です。
退治中に二人共、痛々しい目に遭うので注意してください。ちょっと、パニック映画っぽい感じですね。
この世界、話の通じない下等吸血鬼の方が恐ろしいんじゃないかな、と思ったりしてます。
2022/10/01にttwitterにあげました。
@kw42431393
この体質は生まれつきだった。初めて死んだのはよく覚えていないが、お父様が泣きながら慌てていた事だけは朧気に覚えている。
今では想像もつかないが、私にも塵から再生する間の感覚に怯えて泣いていた頃があった。お父様は、そんな私を「あるがままで完璧なんだから、元気に育っておくれ。」と慰めてくれた。いつの間にか、恐怖も何もなくなり、息をする様に死と再生を繰り返し、何も感じなくなっていた。
貴様に分かるものか、死の恐怖とは喪失だ
貧弱クソモヤシの事件で、サイコ犬仮面の所長は吐き捨てる様に私に言ったが、私の心には何も響かなかった。それより、彼が大事に撫でるフラスコの方が気になった。中に入っている吸血鬼の塵…犬に拘る彼…察しがつかないでもないが、やっぱり興味が薄かった。後で、からかった面々にボコられたのもあるのだが。
そんな事より、明日は何をしようかな、ゲーム実況動画も上げたいし、この前もらった食材も片付けたい、ついでにうちの腹ペコゴリラとハムスターに何を作ってあげようかな、そんな事を考えている内に、彼が言った言葉を忘れてしまった。
「いい月夜だねぇ、ジョン。昨日はひどい雨だったのにね。」
ドラルクは、ジョンといつものお気に入りの河原を散歩していた。雲一つなく気持ちのいい散歩日和…と言いたいが、昨日の集中豪雨で足元はドロドロであまり気持ちのいいものではなかった。
ヌン、ドラルク様。これじゃ、ヌンの楽しみの穴掘りができないヌ。
ジョンがションボリして言う。そして、足が汚れて気持ち悪いので主の元に帰ってきた。ドラルクは足を拭いてやってから、いつも通り肩に乗せてあげる。
「さて、帰ったら何を作ろうか。ロナルドくん達も、外来性下等吸血鬼の駆除が昼間にどうのって、昨日言ってたからもうすぐ帰ってくるかな?」
お昼の事だったけど、日が暮れるまでに吸対と連携して蟻塚を駆除してくるって、防護服着て出て行ったヌ。
「外来性の下等吸血鬼だ?」
「あぁ、何でも南米からのコンテナに紛れて来たらしい。ヒアリが吸血鬼化したものなのだそうだ。それが、VRCへの輸送中に脱走してな。」
「あぁ、あれ刺されたら痛いよね。」
「ヌー。」
「何だよ、ドラ公刺された事あんのか?」
怪訝そうに見るロナルドに、ジョンを撫でながらドラルクが言う。
「昔、南米に行ってた時にね。お祖父様が捕まえて、飼育しようとしたんだけど、屋敷の中で逃がしちゃってね。大変だったよ。」
「なんだ、その雑な導入は。」
「ほんとだったんだから、しょうがないだろう。」
「ニュー!ニュニュニュ!」
当時、棺桶で寝ていたドラルクは、ジョンの泣き声で目が覚めた。あまりにも切羽詰まった声なので慌てて蓋を開けると、走り込んでくるジョンと、その後ろから迫ってくる赤い塊が見えた。
「な、なにこれ!?こわい、こわい!」
ジョンを抱き抱えて、後退るドラルクの後ろから呑気な声が聞こえた。
「ソーリー。昨夜、ジャングルで見つけた吸血ヒアリを観察しようと捕まえたけど、逃がしちゃった。回収するから、ちょっと待っててね。」
「おまえのじいさんらしいな。で、ジョンは大丈夫だったのか?」
「私の心配もしなさいよ。」
「どうせ、お前は死んでただけだろうってのは、もう予想できてるわ。」
「死んでたけど、ちゃんとジョンは守ったぞ。失礼な。」
「どうやったんだ?蟻塚の確認されている場所からはこの雨で動かないだろう、という事で明日駆除作業の予定なんだ。性質なんかも聞いておきたいな。」
「おぉ、さすがヒナイチくん。どこぞのゴリラとは、えらい違い…」
「さっさと話せや。」
ロナルドの拳骨で塵になったドラルクだが、例の如くすぐに体を再生させた。
「駆除については殺鬼剤を使うよね、その当時よりずっといい薬剤が出てるから、そこの説明は省かせてもらうよ。」
「そうなんだ。今回の作業は昼間行う訳だから、お前は関係ないが、忌避剤で囲んで移動できない様にして、防護服を着た我々が殺鬼剤を散布する。防護服の下も肌が露出している所には、忌避剤を塗り込んでおくから、万が一潜り込まれても大丈夫だ。」
ヒナイチは、防護服と忌避剤を取り出した。ドラルクは、それをひねくり回して玩びながら言う。
「まぁ、ヒアリと言ってるけど、吸血鬼化してかなり性質が変わってるんだよ。完全に肉食になってるんだよね。」
「積極的に襲ってくるって事か?」
「そう。毒針には気をつけてね。本来、そんなに強い毒ではなかったんだけど強毒化してて、それが大群で襲ってくる。刺された場所は、火傷したみたいになって、かなり腫れ上がる。その後、ショック症状が出て動けなくなるんだ。」
「そいつは怖えな。」
「そして、動けなくなった獲物を巣の中まで引きずってきて、血を吸い、肉を食いちぎるんだね。引きずり込まれる姿は想像したくないなぁ。」
「お前の時は、どうだったのだ?」
ヒナイチがジョンを見やりながら聞いた。
「忘れている様だけど、私はお祖父様の濃い血を引く吸血鬼だ。所詮、奴らは下等吸血鬼だからね、私の血を吸えないんだよ。毒針どころか、あの顎で噛みつかれた段階で私は死んでたけど、塵でジョンを覆って駆除が終わるのを待ってたんだ。それでも、ジョンを狙ってずっと塵を刺してくるでしょ、怖かったよねぇ?」
「ヌヌヌンヌ。」
納得した様にロナルドが、主従を見やった。
「なるほどな、血統だけは良かったっけ。」
「だけって、言うな。他にあるでしょ?」
「「ご飯が美味しい。」」
「なんで、そこ二人でハモるの?」
事務所でそんなやり取りをしたのが、昨日の晩の事だった。2人共、泥だらけになって帰って来るだろうから洗濯が大変だ、などと考えていると、懐の携帯の通知音が鳴った。
スマホを立ち上げて確認すると、「ヒナイチ」と文字が写っており、RINEで位置情報が送信されていた。
「おや?この近くじゃないか?」
メッセージがなかったので「近くにいるよ、どうかしたの?」と送信したが、返事がなかった。不思議に思ったドラルクが、彼女に電話をかけた。
何度目かの呼び出し音の後、携帯の向こうから聞こえてきたのは…
「もしもし。ヒナイチくん?」
「…っく。ひっく…うえぇ…。」
いつも聞きなれた少女の声ではなく、怯える子供の泣き声だった。
ズルリ…ズルリ…
赤い塊が白い何かを引きずっている。赤い塊は、よく見れば5cm程のアリの集団で、白い服を着た少女の足を咥えて引きずっているのだった。
まだ死んではいないようだが、服から露出した手足は、赤く腫れ上がり、仮に意識があっても走る事も可能かは怪しい。
吸血鬼を惹き付ける為に、目立つ様に想定されたデザインの白い制服は泥だらけで、この先に待つ惨劇を強調しているだけだった。
あの子は無事だろうか…私の携帯に誰か気づいてくれただろうか…
ヒナイチは、アリ達に引きずられながら、さっき自分が保護した子供の事を考えた。
雨が上がった昼から、退治人達と吸血ヒアリの蟻塚を駆除した後、確認作業と片付けをロナルド達に、自分達は避難させた市民を帰宅させていた。内の一人から、子供が見当たらないという報告があり、近辺を捜索していた矢先だったのだ。
河原から聞こえる泣き声に、彼女が駆けつけると腰を抜かして泣いている子供と彼を取り囲むヒアリの集団を見つけた。
「女王蟻を逃がしちゃダメだよ。塚にはあちこちに脱出路がある。異変を感じると逃げてしまうからね。生き残りがいたら、皆女王の元に集まって、またどこかで営巣するんだよ。」
ドラルクが言う様に、どこかに抜け道があったのだろう。忌避剤にしても、昨夜の雨で効果が薄かったに違いない。
子供に駆け寄った彼女は、着ていた防護服を彼に着せると、手を引いてアリ達から逃げ出した。いくら自分でも、小さな標的を剣でどうにかできる訳がない。
もう少しで歩道に辿り着く、という所で…
「あっ!」
ブカブカの防護服を着た子供が、そのまま水溜まりに足を取られて転んだ。彼女はその子を庇って受け身を取ったが、その隙に追い付かれてしまった。しかも、手と半身が水に濡れた…塗り込んでいた忌避剤が落ちてしまったのだ。
「し、しまっ…!い、痛ッ!ああ!」
一度、追い付かれるとどうしようもなかった。手足におぞましい数のアリ達が這い回り、毒針が打ち込まれ、全身が痛みを訴えてくる。
「うああっ!あ、つっ…う!こ、この子だけでも…。」
しかし、よく見ればアリ達は子供に関心をなくしたらしく、襲う気配はなかった。確かに防護服を着た子供を襲うより、弱らせた自分を狙った方が効率がいいに決まっている。
彼女は、みるみる内に腫れ上がってくる手でスマホを立ち上げると、事務所のライングループに、そして吸対、女子会のライングループにも位置情報を送った。
本当は、「捜索していた子供を見つけた、保護を頼む」と伝言を打ちたかったが、腫れた手では文字が打てなかった。
「坊や、泣くな。いい子だから、これを持って待っててくれ。必ず、助けが来るからな。」
泣いている子供にスマホを渡す。そして、アリ達を纏わせたまま彼女は剣を杖にして立ち上がると、逆の方向へ歩きだした。自分がここにいれば、救助にきた者達まで襲われてしまう。動ける間に、子供から離れる必要があった。
やがて、腫れ上がった手足だけでなく、呼吸さえまともに出来なくなった彼女は、地面に倒れて動かなくなった。獲物が無抵抗になったのを見定めたアリ達は、忌避剤の落ちた足に群がった。まだ、巣は再建していないが、雨露を凌げる場所に女王アリがいる。そこまで、餌を運ぶつもりなのだろう。
ガサガサ…ガチガチ…
どれだけ意識を失っていたのだろう…ヒナイチは、自分の視界を覆うアリ達の音で目を覚ました。アリが顔面や服の下を這い回る感触が気持ち悪かったが、もう払いのける力はない。ボヤけた視界の向こうに、働きアリよりさらに大きなアリが見えた。
あれが女王アリか。…残った忌避剤の効果もなくなったらしい。このまま、全身喰われて終わるのか…
「…くっ…はぁ…はぁ……あぁ…」
後悔はない、ただ…また…お前達、と
「事務所…でお茶…して、…遊園地…って…楽しかった、なぁ…また、行きたかっ…」
その瞬間、ザラリとした物が彼女に覆い被さり、濡れた布で包まれた。
勿論、行けるとも。私の手料理で育てた極上の血を、こんな奴らにくれてやるものかね。
聞きたかった声に包まれた気がして、ヒナイチは意識を手放した。
「う、ぐすっ。…きゅうたいの、おねえちゃんが…あ、ありがいっぱいで。いっ、いっぱいかまれて…ひっく。」
「そう、怖かったね。よく我慢したね。」
彼女のスマホを持った子供を保護した私は、すぐにロナルドくんと半田くんに連絡を取った。半田くんもヒナイチくんが、位置情報だけ送ってきた事に違和感を感じていた様で、近くまできていたのだ。私は、その子を彼に預ける事にした。
「私は、ヒナイチくんを探しに行く。半田くんはこの子を頼むよ。」
「いや、俺が副隊長を探した方がいいんじゃないか?貴様では、噛まれて死んで終わりだろう?」
「いや、私だからこそできる策がある。幸い、昨日の雨でどこに行ったかすぐに分かるからね。救急車も呼んでくれ給え。」
「分かった。」
「女王アリを見つけたら、すぐ連絡するよ。彼女もそこにいるだろう。ジョン、ロナルドくん達もここに向かっている。案内しておくれ。」
「ヌン!」
ジョン達がいなくなった後、私はシンヨコでタピオカ屋を営んでいる古き血のイシカナに連絡を取った。
「おや、吸血鬼ドラルク。何か用かな?」
「イシカナさん、お久しぶり。唐突で悪いが、あなたに頼みたい事があるのですよ。」
「ふむ。この前、お前が考案してくれたタピオカのスイーツが好評でな。その礼もある。内容によっては、手を貸してやってもいいぞ。」
これで、一つ目はクリアした。私は河原に降りると、マントを脱いでしっかりと水を含ませた。あとは、ジョンがギルドの者達を連れてきてくれれば、この策は成功するだろう。
残された足跡を追うと、途中で倒れた痕跡があった。そこからは、引きずられた様な跡に変わっている。あの勇敢な少女がこんな泥濘を引きずられたのだ、苦しかっただろうに…私は気が気でなかった。
「ドラルク、クッキー!」
床下から飛び出す元気な声…あの声が明日から聞けなくなるなんて、我慢がならなかった。
私は、とっくに彼女を獲物として見る事は辞めていた。だが、他の奴に取られるのは別の問題だ。
果たして、引き摺られた跡の行き着く所…アリ達は岩陰を仮の巣にしていたらしかった…に辿り着いた。アリ達に集られたヒナイチくんも見えた。
「う、うぅ…くっ…ぁ。」
呻き声が聞こえる、生きている!間に合った!
「ヒナイチくん!」
私が彼女に走り寄ると、アリ達が波の様に襲ってきた。予想通りだ、ここまでは…だから…
私は彼女を抱き寄せると、自分の手を地面を叩きつけて、その衝撃で塵になった。濡れたマントで彼女を覆い、さらに自身の塵ですっぽりと覆った。スマホで皆に合図をしたから、こちらに間もなく集まるだろう。
あとは、皆が集まるまで耐えるだけだ。一度は塵を避けて逃げたアリ達が戻ってきて、狂った様に刺してくるが、私はずっと殺され続けているだけでいい。
いつもの事だ。死ぬ事は恐ろしい事でもなんでもない……いつもの事だ…いつも…の?
「…ぁ、は…ぁ…っ」
自分の下で、彼女の息が微かになっていく。なんとかしてやりたくて頬を撫でたが、吸血鬼の自分より冷たくなっていく。心臓に触れたが、脈も弱くなっていた。
胸にこみ上げてくる、これは何だろう?…恐ろしい、に近いがそれだけではない気がした。…悲しい?それだけでもない気がする。理解すれば、今までの自分が足元から崩れ落ちてしまう…そんな気がした。気づいてはいけない…そんな気がした。
「吸血鬼ドラルク、準備は出来ているぞ。そっちはどうだ?」
ドラルクは、イシカナの声で我にかえった。そして、塵のままで叫びかえす。
「存分にやってくれ給え!女王アリは、そこにいるぞ!」
ニヤリと笑ったイシカナは、軽やかに躍り出ると目の前を全て焼き払った。
ビキビキ…パチパチ…
女王アリどころか、周辺一帯が炎に包まれた。そして、ドラルクも…
「ぐぎっ!」
この為に、マントを濡らしておいたのだ。我が身も川の水で濡らしておいたから、塵も燃えにくい。とはいえ、自分の塵も燃え始めた所でさらに第2の策が続く。
「ショーカ、準備はいい?」
万が一の為に、周辺に忌避剤を撒いたメドキが、相棒のショーカに声をかける。
「おー、いつでもいいぞ。」
「俺達も準備できてるぜ。」
さらに向こうではサテツが大きな網を持って、さらに向こうではロナルド達が網を張って待っていた。
「放水開始!」
メドキの合図で、ショーカの高圧水流が放たれた。水は、周辺の炎を一気に鎮火させ、そのままドラルク達も押し流していく。
「ドラルクさん、いきますよ!」
そして、待ち構えていたサテツが、ドラルクの塵を大きな網で捕らえた。さらに、下流では残りの塵をロナルド達が回収している。
「ドラルクさん、ヒナイチさん、大丈夫ですか!?」
サテツが心配そうに声をかけると、流されてきた塵の塊が再生を始めた。そして、その下からヒナイチの姿も現れた。さすがに、ドラルクも五体満足とはいかなかったらしく、指や足など体の一部が足りなかった。
「よくやったな、ドラ公。ほら、残りの塵だ。」
「ヌヌーン!」
ショットとジョンとで集めた塵を持ってくると、ドラルクはやっといつもの姿に戻った。
「…」
「ドラルク、どうしたんたよ?」
「そりゃ、火と水は吸血鬼の弱点だ。さすがに参ってるんじゃないか?」
「ドラルクさん。救急の人が来ましたよ、ヒナイチさんを…」
サテツがドラルクに手をかけようとすると、彼は手を払いのけて、ヒナイチをかき抱いた。手が反作用で塵になるのも気づいていないらしい。その姿は、親鳥が雛を渡すまい、としている姿に似ていた。
「ド、ドラルクさん?」
「何してんだよ、ほんと大丈夫か?」
ハッとした様にドラルクは、ロナルド達を見た。そして、死人の様にぐったりしているヒナイチを抱え直した。
「すまない、腕の人。ちょっと、動揺して…。」
「様子がおかしいな、私の火が強すぎたのだろうか?」
今回、一番の功労者のイシカナがドラルクを覗き込んだ。
「いいえ、あれぐらいやらないと全滅させるのは無理だったでしょうね。ご協力感謝します。礼は、また後日。」
「フフ、じゃあまたいいレシピが思い付いたら、お前のマジロと指導を頼もうか。それに、この子はうちの馴染みの客だ、気にするな。」
やがて、後ろから救急隊員が担架を持ってきた。
「さあ、患者をこちらへ。」
今度はドラルクもヒナイチを素直に救急隊員に渡したが、憑かれた様に遠ざかっていく救急車を見つめていた。
死の恐怖とは喪失…誰が言ってたんだっけ?ねえ、帰ってくるよね?明日になったら、また床下から顔を出して、クッキーをねだるんでしょ?だから、今日はもう寝よう…何度も殺されて疲れたし。明日になれば、戻るはず。いつもの日常に戻るはず…。
翌日、ロナルドとジョンが帰ってくると、まだ昼の3時だというのにドラルクが棺桶から出てきていた。一睡もしていなかったらしく、目が険しかった。
「ヒナイチくんは?」
「ひでえ顔だな、それに第1声がそれだもんな。」
「勿体ぶらないでくれ給えよ。どうなの?」
「それは安心しな。峠は越えたってよ。昼間の駆除の時に取っていたアリのサンプルから治療薬が出来てたんだと。」
「そ、そうかね。良かった。」
明らかに顔色が良くなった相棒を見て、ロナルドもホッとした。
「じゃあ、これからクッキーを焼こう。お見舞いに行かないとね。」
「おいおい、ドラ公。まず、お前頭冷やしてこいよ。はしゃぎ過ぎだろ?」
「それとも、あっさりしたゼリーとかの方がいいかね?」
急に豹変したドラルクをロナルドとジョンは、呆れた顔で見た。
「まだ、面会出来ねぇんだよ。アニキの話だと、検査も色々あるし、足も腫れてるからリハビリもしないとダメだとさ。もうちょっと、落ち着けって。」
ほら、そんな事なかったじゃないか。予想よりずっと先になるだけの事じゃないか。面会できる様になったら、頑張ったあの子に好きなものをいっぱい作ってあげよう。退院したら、行きたい所へ連れて行ってあげよう。
…そういえば、私は何に怯えていたんだっけ?