@82sousaku
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母が倒れた。
高熱で意識も朦朧としていてまともに起きられる状態ではない。ずっとうなされている。病院でももはや手だてはないとばかりに。しかし、優しく丁寧に対応してくれた。
小さな弟は母の実家に行かせた。
私だけでは頼りないから。
母はいつからかちゃんと眠れていないのだと思った。
大丈夫かと聞いても笑って大丈夫としか返ってこなかった。せめて父が生きていればもう少しは休めたかもしれないのにと思いながら。
私がもっとちゃんと見ていれば、
私がちゃんと支えていられれば、
私がちゃんとしっかり立っていたら
私が
「ミコト」
はっとする。
顔を上げたら、優しい優しいナギお兄ちゃん―正確には叔父だが―がいた。優しく手を握られて、掌に爪が食い込んでいたことに気付いた。
「ミコ。お前のせいじゃねぇよ」
「ちがう」
「違わない。姉貴だってそう思ってない」
「お母さんはやさしいもん」
「うん」
私がしっかりしてれば良かったなんてお母さんはそんなこと思わない。おねえちゃんだから、とか言われたこともない。だけど、だからお母さんをちゃんと見とかなければいけなかった。
「お母さん……しんじゃやだ……」
「うん、やだな」
頭をぽんぽんと撫でられる。目の奥がつんとした。
「お母さん、私とみかのこと置いてったらやだぁ……っ」
「うん」
ナギ兄さんに抱きついて泣きじゃくる。涙が止まらない。弟だってまだ小さいのに。お父さんももういないのに。
「もっと、しっかりするからおいてかないで」
「…………」
駄目だろうなとは思っている。わかっている。
私がしっかりするとか、しないとかじゃなくてもう駄目なんだろう。先生だって駄目そうな素振りを見せたし、叔父も何も言わない。でも止まらなかった。悲しかった。母が大好きだった。
「ミコ、お前も家に来い。な?」
「……」
「病院は家から通えるから。お前一人で家にいたら駄目だ」
「やだ」
まだ 嫌だ。
ああ、“まだ”なんて。ああもう。
「じゃ、俺がこっちに来る」
「!! そ、れは兄さんに迷惑が掛かるから」
「掛かってねぇ。掛からねぇ」
抱き締めて背を撫でられる。
また涙が溢れる。
「ミカミにも帰ってきてもらって。な? 一緒に姉ちゃん待とうぜ」
顔を見れば殊更に優しい顔で、でも泣きそうな顔をしていたから頷くしかなかった。
暫くして母は亡くなった。
部屋を片付けて、母の実家に引っ越すことにした。
これ以上、叔父に迷惑は掛けられないので。
幼馴染みにそれを告げると、その方が良いねと言われた。少し離れるくらいだし、すぐに会えるよ。そっちの家の方がミコも安心でしょ、と。彼も母に可愛がられていたので泣いていた。
それから数年後。
私は母の死因を察することになる。
けれど、
だから、
私はただ守ることだけを考え続けている。
私のように後悔する人がいないように。
悲しむ人が減るように。
この身が動く限り私は守り続ける。
そうするのが、この力を得た私の役割だから。
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