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北海道編49幕 幕間

全体公開 1 13 1757文字
2022-11-07 08:10:04

すくえあ12月号、北海道編49幕に滾りまくって、即興で書いた永倉さんと斎藤さんの会話。
剣心の「不殺」を知った永倉さんが思ったことと、斎藤さんに思うこと。
誤字脱字チェック、推敲いっさいなし。本編と齟齬があっても気づかなかったことにしてください←

Posted by @tachik_k

「は? ころさず?」
 素っ頓狂な声が出た。振り返った先で、斎藤がいつものように煙草をふかしている。
 ぺらりと、書類をめくる音が聞こえた。



「いやいや、何だよ、ころさずって」
「そのままだ」
 思わず詰め寄った永倉に、斎藤が実にあっさりと答える。
「緋村は二度と人を斬らないと誓ったらしい」
「・・・・・・」
 ーーころさず、殺さず。・・・・・・不殺?
 斎藤の言葉に、最初に聞いた「ころさず」がだんだんと結びついていく。
 永倉は唖然とした表情で目を瞬かせた。
 なんだそれは。まったく想像できない。
「不殺」と言う言葉は、永倉が知っている【彼】とは、あまりに縁遠い言葉に思われた。

 ーー緋村。緋村抜刀斎。
 今は緋村剣心と名乗っているらしい。
 幕末、「人斬り抜刀斎」の二つ名を持ち、その類希なる剣の腕から、維新志士最強とまで言われた男。冷酷無比の人斬り。斬り殺した数は数百とも、場合によっては四桁とも言われている。
 何より、自分たち新撰組の最大の敵だった人物。
 維新後、行方をくらましていたらしいが、5年前の志々雄事変の際に、政府の協力者として志々雄討伐に加わり、政府に貢献したと報告書に書いてあった。
 今回、たまたま北海道、しかも函館に来ているとの情報が入り、協力を仰ぐことになったのだが・・・・・・ーー
 維新前、自分が最後に抜刀斎を見たのは鳥羽伏見だったか。
 血のように赤い髪と、冷たく鋭い眼光。
 人斬りの名にふさわしい、凍り付くような剣気と殺気。
 様々な修羅場をくぐり抜けた自分ですら、寒気を感じたものだった。

 それが。

 ーー不殺?

 いやいやいやいや。そんなアホな。
 どうにも信じられないと言うか、やっぱり全然、さっぱり、もうどうしようもないくらいまったく、抜刀斎と不殺と言う言葉が結びつかない。
 しかも、結婚して妻子がいると言うだけでも驚きだと言うのにーー不殺。
 いやもう、それ別人じゃね?
 いったい何があったの抜刀斎くん。

 想像の遙か彼方の範疇外すぎる展開に、呆然としてしまう。
 確かに、碧血碑の前で会った時に、ずいぶん雰囲気が丸くなったとは感じていた。そう言えば、彼はが持っているのは斬れない刀ーー逆刃刀だった。
 だが、それにしたって。
 そんな永倉を知ってか知らずか、斎藤は淡々と続けた。
「まぁ不殺と言っても、その辺のヤツらよりはまだ使えるはずだ。どのくらい使い物になるかは知らんが。
 あとーーーー」
 半ば惰性で聞いていた永倉は、ふと我に返って斎藤をマジマジと見つめた。
 そう言えばーー斎藤はここまで一度も、緋村抜刀斎ーーいや、緋村剣心を「抜刀斎」と呼んでいない。
 それは彼が名を変えたからか。それとも・・・・・・ーーーー

 そういう、ことか。

 唐突に気が付いた事実に、永倉は深く息を吐き出した。
 納得が、すとんと胸の中に落ちてくる。
 ・・・・・・何のことはない。抜刀斎は変わったのだ。
 維新から16年。変わらないものなどない。時代が変わり、町が変わり、人々が変わりーーーー
 かつて人斬り抜刀斎と呼ばれた男が、新しい時代を「緋村剣心」として生きている。自分が「杉村義衛」と名前を変えたように。
 きっとそれは悪い変化ではないーーはずだ。

 ただ。
 永倉は書類に目を通す斎藤に視線を戻した。
 その横顔は少しだけーーーー
 くっと喉が鳴る。
 斎藤は怪訝そうに眉を寄せたが、何も言わずに、再度書類に目を落とした。
 その横顔が、屯所で静かに本を読んでいた当時の斎藤と重なる。
 変わらないな、と思った。
 新撰組として闘っていた時と、この男は何も変わらない。
 時代に抗っているわけでも、時代に取り残されているわけでもない。新しい時代に、彼は「斎藤一」として生きることを選んだのだ。
 本当にこの男らしい。
 その鋼の強さを、少しうらやましく思った。

 けれど変わっていく「戦友」に、思うこともあるに違いない。
 旧敵を語るその横顔が少し寂しそうに見えたと言ったら、この男はどうするだろう。
 出来心でちらりと想像してみる。
 すぐに思いっきりイヤそうにしかめられた斎藤の顔が浮かんで、永倉は笑いをかみ殺した。


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