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アンソロジー「ダレンと5つの心の扉」お試し読み

全体公開 7853文字
2022-11-09 13:03:06

山間の小さなその町には不思議な噂がありました。毎週土曜の昼下がりに開かれる告解室で牧師様一家の愛犬ダレンが皆の悩みを聞いてくれるらしい、というものです。
皆の心のうちにしまった思いに寄り添ってくれる不思議な犬、ダレンと5人の相談者たちが織り成す物語をつづった手製本によるアンソロジーです。

Posted by @raixxx_3am

丘の上の教会に住む不思議な犬のお話

 いまからお聞かせするのは、僕が親友から聞かせてもらったちょっぴり不思議でとびきり素敵なお話です。
 
 山間のちいさなその町ではこのところ、ちょっとした愉快な噂が広がり、町の人たちを楽しませていました。
 なんでも、丘の上のオレンジの屋根が目印の教会では、毎週土曜の昼下がりに解放される告解室で優しい口ぶりの牧師見習いの青年が皆の悩みをやさしく聞いてくれるのだということ。人々の前に決して姿を見せようとはしないミステリアスな「彼」の正体が実は、牧師様一家の飼っている犬のダレンだというものです。
 はじめにそんなおかしなことを言い出したのが誰なのかだなんてことはいまでもわかりません。なんでも、おしゃべりの途中で彼がしばしばそうする鼻を鳴らす声がかすかに聞こえたのだとか、牧師様の呼びかけに「はあい」とお行儀よく返事をする姿を見たのだとか、部屋に入っていく彼の影にふわふわの立派なしっぽが見えたのだとか──奇妙な噂話は、姿を見せない彼の存在をよりミステリアスなものへと昇華していたそうです。

「ねえ、あの噂はほんとうのところはどうなんですか?」
 神妙な顔をして尋ねる者を前に、得意げににっこりと笑いながら牧師様は答えます。
「ごめんなさい、私にはお答えすることは出来ません。ただひとつだけ言えることがあるとすれば、私は彼のことを心から信頼しているからこそ大切な役割を勤めてもらっているのだということ、彼はなによりもみなさまの幸福を願い、みなさまの心を被う憂いを晴らすことが出来るようにと願っていること、ただそれだけです」
 ぱちりと目配せを送りながら答えてくれる牧師様の足下には、艶々と光輝く琥珀色の瞳でまっすぐに主人を見つめながらじいっと耳を傾けるしっとりと美しい毛並みの黒い犬──噂の張本『犬』が、お行儀よく座ったまま、時折ぴくぴくと首を傾げるようにして問いかけを投げかける主のようすを伺い見ていたそうです。
 ただの荒唐無稽な噂話だと捕らえるのか、牧師様の態度は真実をはぐらかすためのポーズに決まっていると捉えるのか――解釈はきっと、受け手の数だけ存在するのだと思います。
 それでも、確かに言えることがあります。
 告解室を訪れたひとりひとりがそうっと胸の内から取り出した「告白」を前に、彼はいつだってじいっと優しく耳を傾け、朴訥なやさしい語り口で「ほしい言葉」をそうっと差し出すようにして、前を向いて歩き出すための力を貸してくれること。そんな彼から手渡される思いのひとつひとつに、いままで幾人もの人たちが救われ続けてきたこと。そのふたつです。

 果たして、奇妙な噂話の真相はと言えば──おおよそ信じてはもらえないかもしれないけれど、どこから洩れたのだろう? と牧師一家が思わず身構えてしまうほどにはすべてほんとうのことなのです。
 知人の紹介により、新たな家族の一員となった滑らかな美しい黒い毛並みに、こっくりと深くやわらかな琥珀に輝く瞳の持ち主──今年で三歳になるのだという彼らの愛犬、ダレンの特技は人間と同じ言葉を話すこと、毎日欠かさない日課は新聞を読むこと、近頃ではタイプライターの使い方をおぼえ、遠い町に住む親友と手紙のやり取りを交わしているのだというのだから驚かされます。
 飼い主一家には、特別に『それ』を教えたつもりはありません。
 当『犬』曰く、実の兄妹のように育った末娘のマディが言葉をおぼえていくさまを横で見守るうちにごく自然と自らもそれを身につけたのだとは言うのですが──おおかた、気まぐれな神様がいたずらのような気持ちで彼に授けた不思議な能力なのだろうと、一家は至極おおらかにそう捕らえているのだとか。

 はじめはほんの偶然──牧師様が席をはずしていたその時、衝立越しに呼びかけられたあまりに切実な痛ましい声に思わず返事を返してしまったことが、すべてのはじまりでした。
 かたく禁じられていた『家族以外』とのおしゃべりは、彼の世界をたちまちに広げ、沸き立つような想いを呼び起こしたのです。
「もっとたくさんの人と話をしてみたい」
「みなの胸のうちで巣くっている迷いや不安に、自分なりの答えを示してあげたい」
 息を潜めるようにして一部始終を見守ってくれていた牧師様がダレンに与えてくれたのが、「悩める人々の話を聞き、助言を与える」という、神様の使いとしての役割でした。


 かくして毎週土曜の昼下がり、週に一度だけ開かれる告解室には、評判を聞きつけた遠い町からも、相談ごとを聞いてほしいというありとあらゆる人々が訪れては順番に扉を叩くようになりました。
 どんな話を持ちかけてもじっくりと丁寧に耳を傾け、迷える人々の背中をそっと押してくれるやさしい声の「彼」は、いまではすっかり町のあらたな名物となっているのだとか。
 頑なに姿を見せようとしない声の主の正体を巡り、町の人々の間ではいくつもの憶測が飛び交っています。その中でもとりわけ奇妙なものは、衝立の向こう側にいるその人は、牧師様一家の愛犬のダレンだというものです。
「ねえダレン、君が話を聞いてくれているっていう噂はほんとうなの?」
 教会を訪れる人々の投げかける問いかけを前にしても、ダレンはすました顔をして、くぅんとかすかなうなり声で答えてみせるのみなのだとか。

 さてはて、僕がこの話を誰から聞いたのかなんてことは、もうあなたもお気づきでしょう?
 ええ、もちろんそうです。豊かな黒い毛並みに琥珀の瞳で人々の心に寄り添ってくれる大切な「親友」からです。
 もしあなたが許してくれるのなら、あともうすこしばかり、僕が聞かせてもらったすてきなお話にお付き合いしてはくださいませんか?


(「ダレンと5つの心の扉」告知フライヤーより再掲)





「伝えたい言葉」 くまっこ


 丘の上から続く道には、長い人の列が伸びていた。
進みの遅すぎるそれを呆然と眺め、少年は肩を落とす。大層な評判と聞いてはいたけれど、こんなに人が集まっているとは。
オレンジ色の屋根の教会。土曜の昼下がりに開かれる告解室は、誰もが求める答えを導いてくれるという。
けれども、救いを求め焦る少年には、この風景が絶望的に思えた。教会に向かう姿を誰にも見られたくなくて、遅い時間を選んだのが間違いだったか。
少年は人目を避けるため、木陰に身を寄せていた。こんなことでは、少年に扉が開かれることはないだろう。それでも、少年はその場から立ち去ることができなかった。教会にいざなわれる人をぼんやりと見送るうちに日は暮れ、最後の一人がその場を去ったときにはもう、辺りは闇に満ちていて、少年はランプを持っていなかったことを後悔した。
「もう、家に帰らないと」
遠くに見えるガス灯を頼りに、来た道を戻るしかない。重い腰をあげたそのとき、視界の端に、黒い影が動くのが見えた。人、ではない。それは獣の尻尾のように見えて、少年は身震いをした。
「どうしよう……
ここは田舎ではあるけれど、人を襲う獣が出るほどの場所ではない。大丈夫、と自分に言い聞かせ踏み出した後ろで、「ギギギギィー」と大きな音が鳴り、少年は飛び上がった。体の外にも漏れ聞こえそうな心臓の音を手で抑えて振り向くと、閉められたはずの扉が開かれていた。

「ずいぶんとお待たせしてしまったようで、申し訳ありません」
「あの、僕……
「今日はあなたで終わりですから、ゆっくり話してくださって構いませんよ」
何から話せばいいのかと言葉を詰まらせた少年に、声の主は優しく言う。若々しい青年の声だった。そういえばこの教会は、見習いの牧師が話を聴いてくれるのだったかと、街の噂話を思い出す。歳が近いのかもしれないと思うと、少年の緊張は少しだけ和らいだ。
「僕、兄のようになりたいんです。兄は僕と違って頭が良くて、頼りになって、都会の学校に行って……お医者になる人でした」
「お兄さんを尊敬しているのですね」
……はい。でも僕、勉強は苦手で」
俯いて声を落とす少年の様子は、ただ自分の将来を憂いているだけのようには見えない。衝立の向こうにも、それは伝わっているようだった。
「どうしてお兄さんみたいになりたいのですか?」
「母を、喜ばせたくて」
 不自然な答えではなかった。親の期待を将来に重ねることは往々にしてあることだ。でも、少年の思い悩む様は、それだけでは無いように見える。告解室の主は、慎重に言葉を紡いだ。




「迷子の行方」七歩


駆け抜ける強い風。花壇の向日葵はその色を散らし、迷い猫の貼紙はいまにも飛んでいきそうに翻っている。いつもは明るいオレンジ色の屋根も今日は幾分くすんで見えた。教会に入り込みランプが作り出す心許ない自分の影を追いかけるように歩みを進める。人影はない。誰にも見られず誰にも知られず告解室へとたどり着く。
「雨、大丈夫でしたか?」
ややあって隔たりの向こうから落ち着いた声が聞こえた。噂ではこの声の青年がダレンだというけれど、記憶にあるダレンは犬の言葉を話しているものだからどうにも印象が繋がらない。
「平気よ」
  向こう側の気配に耳を澄ませながら作法も分からず前だけ見てた。何から切り出そう。教会の牧師見習いの青年が犬のダレンであると噂に聞きつけ、居ても立ってもいられずここに来た。彼ならきっとわたしの求める答えを知ってるはずだから。
「聞きたいことがあるの」
「どうぞ」
「人とお話しすることについて」
「お話しですか。会話が苦手ですか?」
 咄嗟に首を横に振り、それではあちらから見えないと気づき「違うの」と答える。
「今までお話しができなかった。それが急にできるようになって困ってるの」
「声が出るようになったのですか?」
「出るようになったのは言葉。わたしずっと人とお喋りができなかった。突然話せるようになってどうしていいか分からなくて」
「それでこちらに?」
「そう。困っておうちを飛び出しちゃった」
「よりによってこんな嵐の日に」
「何日か前のことよ」
家出娘のわたしを彼はちっとも咎めなかった。お腹は空いてないかと尋ね、困ったときはいつでも教会に身を寄せるよう教えてくれた。心地よいやりとり。優しさに包まれていく。
「それにしてもどうして困ってしまったんです? はじめてのお話、辛いことでもありましたか?」
「いいえ。実はいまがはじめてのお話しなの。どうしていいか分からなくて。肝心な人たちとはまだ何にも話せてないわ」




「優しさの練習」三明結都


 クロードの元に、メイ=リュンヌという少年の母親から家庭教師の依頼があったのはとある夏のことでした。前の家庭教師が突然都合がつかなくなったので、推薦で紹介されたクロードに頼みたい、と言うのです。
 今回は一体どんな無理難題が来るのだろう、とクロードは思いを巡らせました。どの家庭教師でもうまくいかなかった子どもが、最終的にクロードの元に来る――その流れはクロードがこの仕事を始めて数年の間に、すっかりこの街で築かれ、周知されたものでした。クロードは起こりおる様々なケースを想定して備えました。  
ところが、メイという少年は、クロードの想像に反してとても聡明で大人しい子どもでした。テストの点数は申し分ないし、授業態度も至って真面目。どの家庭教師も長続きしなかったという母親の話が、クロードにはいまいち理解できませんでした。  
 なんでも言うことを聞くいい子、という縛りこそが、少年を苦しめる原因なのではないか。クロードはそう思いました。心の底から笑ったり泣いたりできるような安心を提供できないだろうか。  
 そしてクロードは、ある面白いことを思いつきました。


 *
 
 
 「クロード、ぼく、この教会を知ってるよ。噂で聞いたことがある。悩みを聞いてくれるってやつでしょ?」
 今日は課外授業にしようと、クロードから突然の提案があったのは数時間前のこと。  
 まだ午前だというのに、太陽は元気に地面を照り付けています。行く先を告げられぬまま、少年メイ=リュンヌは家庭教師のクロードに連れられて道を歩いていました。滲む汗を拭いながら、変な抜け道を散々連れ回された後、ある建物が見えてきます。それを目にしてメイは思わず抗議しました。
「課外授業なんて言って、何かと思ったら。ぼくのこと探ろうってわけ? どうせお母さんに何か言われたんでしょう?」  
 一方クロードはさらりとこう答えます。
「心の中で何を考えていようと、そんなものは個人の自由だよ。じゃあこんな噂も聞いたことあるかい? ここの見習いの青年が、実は ほら、噂をすれば!」  
 見ると、大きな黒い犬が嬉しそうに尻尾を振って、クロードに向かって駆けてきます。
「ダレン、久しぶりだね!」  
 ダレン、と呼ばれた黒い大きな犬は、クロードとひとしきり戯れたあと、挨拶するかのようにメイに近づき、鼻を鳴らしました。
「メイ、ダレンはとても頭がいいんだ。きみに良く似てね。二人は気が合うんじゃないかと思って」  
 メイは行儀良くお座りしている犬の体を撫でながら、クロードを怪訝に見やりました。気が合うと言ったって、犬じゃないか。実際に話ができるわけでもないのに。




「きこえない」らし


 夏の終わりの昼下がり、ダレンが告解室に入ると、衝立の向こうから消えいりそうな声がした。
「牧師さま、牧師さま、聞こえていますか? どうかお返事をしてください」
「はい、はい、聞こえていますよ。どうされましたか」
「ああ!」
 と、声の主は感極まったようにさけび、いった。
「ぼくの名前はスチューベン。町はずれの農園で、ブドウ農家を営んでいるものです。本日はご相談があってうかがいました」
「どんなことでもご遠慮なくお話しください。私でよければ、答えを見つけるお手伝いをしますよ」
 ダレンのやさしい受け答えに安心したのか、スチューベンと名乗る男性は、先ほどよりもやや落ち着いた声色でこういった。
「牧師さまは語学がお得意ですか?」
「語学ですか? ええ、まあ、言葉を学ぶのは好きですね」
「よかった! それなら、ブドウ語はおわかりでしょうか? ご存じなら、ひとつご教授いただきたいのですが……
「ちょっと待ってください。なんでしょう、そのブドウ語というのは」
 ダレンの返事は、スチューベンさんをひどくがっかりさせたようだった。
「えっ。ご存知ないのですか? 困ったな。学識ある牧師さまなら、もしかしたらと思ったのですが。それじゃあもう、打つ手なしだ。ああ、どうすれば……
 とり乱す気弱な男に、ダレンはつとめておだやかに呼びかけた。
「スチューベンさん、どうか落ちついてください。なにか事情がおありのようですね。よろしければ、お話を聞かせていただけませんか」
「いや、失礼しました。お恥ずかしい」
 我にかえったスチューベンさんは、内気な声をふるわせて、ことの次第を語りはじめた。
「そう、あれは、おととしの春のことです。先代の農園主が、肺病のため亡くなりました。もう高齢だったとはいえ、突然のことで、農園は大さわぎになりました。とはいっても、従業員は僕ひとりでしたから、僕が大さわぎだったんですけど。先代の農園主──ニーナさんは、〈ブドウの魔女〉と呼ばれるほどのブドウづくりの天才でした。彼女には夫も、子どもも、きょうだいも、いっさいの身寄りがなかったので、ただひとりの弟子であるこの僕が、農園の仕事を引き継ぎました」
 と、そこで言葉をきって、スチューベンさんはふかぶかとため息をついた。
「ところがです。困ったことに、ニーナさんがいなくなったとたん、花は萎れ、葉は色あせ、ブドウ畑はすっかり元気を失ってしまったのです。実をつけたと思ったら、ついばんだ鳥が気絶するほどすっぱい実! これではとても売り物になりません。肥料を工夫するなど、できるかぎりの努力を重ね、かろうじて食べていけるだけの収穫は得られるようになりましたが、それでもニーナさんがいたころとは、とれ高も、質のよさも、まったく比べものにならない現状です」




「風は丘から海へと」実駒


 兄妹のように育ってきた幼なじみにして親友、そしてあたしの婚約者でもあるウィンの様子がおかしい。先週、実に一年ぶりに帰省してきて以来、窓際の椅子に座って遠くを眺めながら物憂げな溜息をついてばかりいる。
「おはよう、ウィン。悩みでもあるの?」
 あたしの気配に気づいていなかったらしいウィンは大きく肩を揺らして振り返った。
「お、おはよう、アーシャ。もう約束の時間か、ごめん」
 慌てた様子のわりには優雅な動きで立ち上がると、あたしの全身を見てやわらかく微笑む。
「新しいドレスかい? とても素敵だ」
 あたしは笑みを返す。上の空でいるように見えても、ウィンはいつものウィンだ。あたしのどんな些細な変化にだって、必ずいちばん先に気がついてくれる。
「靴も新しく仕立ててもらったの。身長が伸びて、去年のは窮屈になってしまったから」
「内緒話がしやすくなるね」
 ウィンとの身長差は去年の時点では頭一つ分に近く、話しかけたいときには上着の裾を軽くつまんで気を引くしかなかった。今年は、ほんの少し背伸びをすればもうウィンの耳許に届く!
「それじゃあ出かけようか。僕のかわいい仔鹿さん」
 ウィンの差し出してくれた肘にあたしは腕を絡める。
「どうして、仔鹿? ドレスの色?」
 ウィンはあたしのことをそのときどきに気の向いた愛称で呼ぶ。今日みたいに分かりやすく見た目の印象だったり、読んでいる本の登場人物から採られていたりと、名付けの法則は一貫していない。それを推理するのもまた楽しいことだった。

 ウィンが連れきてくれたのは隣の街の小さな劇場。これまでに観たことのないタイプのお芝居を観る。優美で、仄暗くて、刺激的。
 幕が引かれたあとも余韻に浸ってぼうっとしているあたしに、ウィンがいたずらっぽく笑いかけてきた。
「気に入ったかい、仔鹿さん」
「ええ、とても……!」
「それはよかった」
 劇団はウィンの学友たちが結成したもので、今日が旗揚げ公演初日だったのだ。
 ウィンといっしょに楽屋に行くと、中の一人が「ウィン! 来てくれたのか!」と破顔して駆け寄ってきた。華やかで意志の強そうな貌立ち主人公のライバルを演じていた人だと気づく。
 ウィンの肩を抱いた彼が、あたしに視線を向けてきた。
「セイル、こちらは僕の婚約者のアーシャ。アーシャ、こちらは僕の同級生のセイル」
「やあ、君がウィンのお姫さまか!」
 目を輝かせたセイルが、あたしに右手を差し出してくる。
「はじめまして。お芝居、とても素敵でした」
 握手をしながらあたしが伝えると、セイルはうれしそうに笑った。


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