君と一つ屋根の下! #健康ICMVドロライさまのお題「元気」で書きました。現実的な話、アイマヴェ付き合うならアイスはサラさんにフラれて欲しいし、マーヴもペニーにしっかりフラれてほしい。仕事かまけてばかりだった同士で、前途多難に前途洋洋していきなよ〜! と思います。このアイマヴェちゃんが、昼夜問わずいちゃいちゃする話なんかもいつか書いてみたいです。もう堂々といちゃいちゃすんだろうな。ずっと見てられる。笑
@diveforyou
バツン!
という確かな手ごたえにマーヴェリックはとまどって、とまどったのを気づかれないために「ふう…」とため息をついた。ふぅ…。足元には緑の塊。マーヴェリックが小一時間かけて刈り込んだカザンスキー邸の生垣の残骸である……。
(おかしいな……)
こんなはずではなかったと思う。
(お、おかしいな……!)
足元の緑を蹴り蹴りしながら反対側に回り込む。
ちら、とマーヴェリックは脚立を移動させるついでのようにアイスマンを見た。今脚立を移動させる必要などみじんもなかったが。
庭全体が見渡せるテラスの一席に座って、アイスマンは先ほど同様書類を読み込んでいた。身体を斜にして。たまにペンを回して。リラックスした姿勢がこんなに様になっているなんてずるい。ずるいと思いながらマーヴェリックは植木に向かって……、この小一時間にわたる労働の成果を見つめ直した。
(まずいな……)
サー、まずいであります。
じ、自分で言うのも何だが、これで伝説のアヴィエイター…。アズノウアズマーヴェリックのはずだ。空間を把握する力は常人よりも優れているはず…、と『自負』してしまっていたのがそもそもの間違いだった。潔く認めよう。そう、間違いだったのだ!
(取り返しがつかないんだよ……)
物置を漁って、これだと思う道具を引っ張り出してきた。ハンドソーに刈り込みバサミ。それと細かい作業に向いていそうな剪定鋏。ペンチやスパナの扱いならば慣れたものだが、植物の手入れとなるとさっぱりわからない。
でも、これは伸びすぎ、と思う枝を見つけて切り落としていけばいいんだろう? と思って二股の柄をつかみ、閉じた。刃が捕えていた枝が思ったよりも太かったのか、ジムの、あの腕や背中を引き締めるトレーニングに使う道具…、あれの名前ってなんていうんだっけ? とにかく、あのトレーニングの時みたいに力が要った。バツン! という派手な音と共に太めの枝が飛び、目の前にある生垣の、緑の部分が欠損して穴が開いたようになった。
(ええっ? まずい……)
今の枝って伐ってよかったのか。よくないよな。一本の枝にこんなに葉っぱがついているなんて聞いてないぞ。というか、どこからどう枝分かれしているかがよくわからないのだ。葉っぱがわさわさと生い茂っていて…、ええと、だからこのくらい手前の枝だったら大丈夫か? 大丈夫だよな! えいっ。
さっきの二の舞にはならないぞ、と思って強く柄を握る。脇を締めるように発条を絞る。ぱつっ、という、さっきよりは軽めの手ごたえがして、なのにどさっと大量の緑が落ちる。
(なんで……!?)
つまり、こういった試行錯誤のなれの果てが現在の状況だった。
穴ぽこだらけの生垣をたたえる海軍大将、トム・カザンスキー邸の出来上がり。
「アイス……、アイス……? 今ちょっとだけいいか?」
「ああ、どうした?」
「とりあえず見て欲しい。まずいことになった」
「ふぅん? 始末書ものか?」
「かもしれない。どうしよう。どうサラに謝れば? それか、今からでもプロの人に来てもらえば、少しはましになるかな?」
マーヴェリックはしおしおして、愛する僚機の正面に座った。まずはこの惨状を見てもらい、思いつく最善の策を授かる。
どれ、と足を組みなおしたアイスマンに、マーヴェリックは改めて惚れ惚れした。柔らかそうで美しいロマンスグレー。黒ぶちの眼鏡は逆台形でクラシカルでおしゃれ。優しいところも、強情なところも好きだった。つんと尖った上唇もね。本当に長いこと大好きだ……。
うちで暮らそう、と言われたときはびっくりした。きみには家庭が、と言って、ゆるゆると首を振ったアイスを覚えている。そうか…。顧みる時間が…、あまりに無かったな。将官になるということはそういうことであるし、もしかしたら……、まあもしかしたらマーヴェリックが原因の一つであるのかもしれなかった。あまりにやらかして、あまりにアイスの手を煩わせた。それは紛れもない事実だった。
つまりどうしてマーヴェリックがカザンスキー邸の生垣の手入れをすることになったかというと、ペニーと共に慰安旅行に出かけてしまったサラの書き置きに、生垣の手入れをお願いねというのがあったためだ。病から回復したとはいえ、まだ在宅での仕事も多いアイスマンであったから、僕がやろうとマーヴェリックが手を上げた。
体力仕事ならまかせてくれ。
きみは、その、夜のために、体力を温存しておいてくれ……。
にょごにょごと口にして、それを聞いたアイスマンの顔ときたら!(どうしてくれようと、猫科の肉食獣のように細くなる薄青の目を見て、マーヴェリックの心臓は高鳴った)
(浮かれて……、浮かれて、生垣を穴ぽこだらけにしまった……!)
これはそういうことなのだろう。慎重さに欠いていたといえば欠いていた。
たぶん剪定という仕事を甘く見ていたのだ。
葉先のみを切り落とし、丸っこく整えるだけよかった庭木も、今眺めるとなぜか軒並み角刈りのようになっている。左右のバランスを取ろうとして、あれ? あれれ? と刈り込んでいたら、見事な角刈りになってしまったのだ。なぜ……。
「ふふっ……、なかなか…、奇抜な生垣だ」
「アイス。もっと焦ってくれ。君の家だぞ?」
「もうお前の家でもある。俺もうんと昔に穴ぽこだらけにしたことがあるぞ」
「ん?」
「結構難しいよな。サラもプロに任せてた」
「んんん?」
つまり――。どういうことだ?
結構難しいことを知っていて、アイスマンはマーヴェリックを野放しにしていた? あれ? んん? と刈り込みバサミを使うマーヴェリックを、書類チェックの合間にくすくすと盗み見ていた? そういうこと?!
「また生い茂った頃に業者に頼めばいいさ」
「何か! 前途多難な気がしてきたぞ!」
マーヴェリックは席を立って、奇抜、というか悲惨なカザンスキー邸の庭の様子に項垂れた。奇抜にしたのはマーヴェリックだが、こういうことに家主が無頓着というのは考え物だ。
というか、これはサラもサラだ。アイスがうまく出来なかったなら、マーヴェリックがやったところでどっこいな結果になることは見えていたはず。それなのになんでわざわざ宿題を残していった…? ああそうか。わかったぞ。
「アイス! 男二人の生活ってやばい!」
「たまに様子を見に来てくれるらしいぞ」
くっくっと穏やかに笑うアイスマンに、マーヴェリックはその場で一回転して頭を抱えた。
やることたくさん。おたがいてきとう。
妻に捨てられた男と、彼女に見限られた男と。
これからの生活が、楽しいことになりそうなのは確かだ。