弊荘園版、夜来香×ロナードのトゥルリズ世界線
@hirop573
「ご機嫌いかがですか、Mr.ロナード。今宵は月がよく見えます」
花が舞う。見たこともない、しかし綺麗だと言わざるを得ない花弁が頬に触れていく。月を背にした男からは狂気を感じて仕方がない。
路地裏へと歩いてくる男の乾いた靴の音だけが響き、ロナードは一歩も動かず男の言葉を待った。
「無用心ですよ。この様な時間にこんな場所で一人とは…。狙われても仕方がない」
「誰かのお陰で気が張ってしまってね。この時間しか散歩の自由がないもので」
「それはそれは」
原因だと分かっているような素振りで、しかし己のせいではないと大袈裟に肩を竦ませた男を見てロナードは溜め息をついた。
昨夜、ロナードはこの男に出会した。
この男が暗がりでも分かるほど血に塗れた服のままロナードの前に現れたのだ。誰しもが人を殺したのかと疑うだろう。
その時の男はロナードに軽く会釈し、すぐさま姿を消した。声でも発すればよかったものの、その時の所作に迷いが無かった驚きで忘れてしまっていたのだ。我ながら情けない。
そして、それからというもの遺体は発見されていなかった。あれだけ返り血を浴びていたというのにだ。
それが昨夜。そして今、再び見えている。
あれやこれやと聞きたい事はあったが、ロナードは早く眠りにつきたかった。何せ昨夜のこともあり全く睡眠をとっていないからだ。この街は治安が悪く、殺人や窃盗など犯罪は尽きない。夜とはいえこの男がこれだけ目立つ姿をしていれば噂も立ち、いずれは御用となるだろう。元凶が目の前にいるものの、自分の力では今どうしようもできない。故に帰りたいがために口を閉じている。
開けば皮肉や悪態しかつけないからだ。それは自分自身がよく分かっている。
仮面をつけた男はくつくつと笑い出した。それと同時にこちらへと更に歩みを進めてくる。気づけば目の前だ。
「それでは」
いうや否や、腰に手を添えられ引き寄せられた。思わぬ感触に思考が追いつかずロナードは為されるがままとなってしまう。
「!?なっ…」
「Shh…」
静かに、と咎められ思わず口を噤む。思わずすんなりと従った自分に恥ずかしくなる。それを見て男は声を上擦らせた。どうやら機嫌が良いらしい。
「あぁ、あぁ、やはり。貴方と出逢えた事は幸運だ、Mr.ロナード」
「なん、なに、を」
路地裏の、街灯からの光がほんのり注ぐ中、男二人がくるくるとまわる。とん、とん、とステップを踏みまるでワルツだ。ロナードも経験故につい男の足を避ける。いっそ踏んでしまえたら終われたのに。
「待て、止まれ…!」
「構いませんが条件があります」
この期に及んでこの男は駄々を捏ね始めた。
「なんだ!」
「私、貴方が気に入りました。ですので…毎晩お訪ねしてもよろしいでしょうか」
「は、」
「名残惜しいですが、そろそろです」
ピタリとワルツが止まり、添えられた手が離れていく。
無数の花弁が目の前で舞い思わず目を瞑る。開いた時には既に男の姿はなく、残った数枚の花弁がヒラヒラと落ちていく光景だけだ。
また会いましょう、とでも言うように彼の手に一輪花が握られていた。
「………………なんなんだ、一体」