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朗読劇2

全体公開 3 1782文字
2022-11-20 18:38:45
Posted by @uk_plus_



 「じゃ、よろしくお願いしまーす」
……わかった」

場所は越知の自室。部活も学校もない休日の昼頃。ごろりと自分のベッドに横になった彼女に驚きながらも、越知は頷いて自室の本棚に目を向ける。予定を合わせて自室に訪れた彼女を迎えた越知は何故こんなことになったのだろうと思いながら、勝手知ったる場所でもないこの部屋のベッドに横たわる彼女を見て内心頭を抱えた。

 事の発端は彼女の突然の告白だった。唐突に突き付けられた声が良いという評価に戸惑った越知だったが、なし崩し的に彼女に朗読を披露することになってしまった。

 様々な本棚の背表紙に指を這わせながらどれがいいのだろうかと越知は思案する。しかしどれ選ぶべきか全くわからなくてふとベッドの彼女を振り返れば、彼女は目を瞑りながら胸の上で手を重ねていた。

……何を読んだらいい」
「越知が一番好きなのでいいよ」

一番言われて困る言葉だったが、越知は愛読書をさらりと選んで本棚から抜き取った。そしてそばの学習机の椅子に腰を下ろして、ぱらりとその本のページを捲る。

「読むぞ」
「どうぞ~」

ひとつ咳払いをして、越知はすっと息を吸った。朗読など人生で一度もしたことがない。あるとすれば学校の授業で読まされた教科書の内容だけだった。越知は少々強く跳ねる心臓に小さく苦しさを覚えながら、その声帯を震わせた。

「地面の底の

―――――――――――――――


 揺蕩うような感覚の中で、彼女はじっくりと瞳を瞑っていた。左側から聞こえてくる低く落ち着いたその声にうっとりとするような、しかし震えるような感覚を持ちながら心の中で微笑んでいた。微かに聞こえる窓越しの環境音が、よりその声を際立たせていた。鼓膜を通る声は、やはり思っていた通り心地良い。


―――――――――――――――


 「……大きな、生き物のような月がぼんやりと

そこまで読んで越知は気付く。それはすうすうと聞こえる小さな寝息だった。

……本当に寝るのか」

呆れた感情のままにそう呟けば、その言葉は越知の自室の宙を舞った。窓越しから聞こえてきた鳥の声が、案外と自分が朗読に集中していたことを知らせていた。

「おい」

椅子から立ち上がってそう声を掛けても、彼女は一向に起きる気配がなかった。彼女の胸は規則正しい動きをしている。その様子を見て、越知は今一度椅子にどさりと腰を掛けた。先程まで開いていたページを閉じて、その本を机に置いてから越知はひとつ溜め息を吐く。まるで一仕事終えたように吐き出されたそれは深い深いものだった。

どう聞こえていたんだ。

自分自身で己の声などよくわからない。彼女の耳にそれがどう聞こえていたのか、越知は少々気になってしまった。眠る彼女を見つめながら、越知は思案する。何せ初めて言われた評価に、やはり越知は戸惑っていたのだ。しかししっかりと寝入ってしまった彼女の様子を観察するに、安眠に丁度良いというのは事実だったのだろう。
 起きていた頃は飄々と言葉を紡いでいた唇は今や薄く開かれ、完全に無防備な様子を見せている。窓からの木漏れ日に照らされたそれは血色よく越知の目に映り、瞼が落とされているその下の頬はつるりと光を反射していて澄んでいるように白い。先ほどまでは感じなかった幼げな彼女の様子を見て、越知は苦笑した。

こうして見るとまるで別人のようだな。

頬杖をついて今一度溜め息を吐いた時、越知はふと気付いた。眠っている女性と己が密室で二人きりであることに。その事実に気付いた瞬間には心の臓がどきりとしたが、やれやれと首を振って越知はベッドに乱雑に置いてあったブランケットを拾い上げ眠る彼女にゆっくりとかけてやった。そして机に置いていた本を拾い上げてまた椅子に腰掛け、ゆっくりとその本を開く。何があるわけでもないと思いながら、越知は活字の波に視線をやった。
 行間の余韻に紛れてしまった感情に、越知が気付くのはだいぶ先のことだった。


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