🦖🎃 ディノみと
🦖くんを咄嗟に庇った🎃くんの話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
残党の男が銃口を彼に向けた時、気が付けば体が勝手に走り出していた。
「ディーノッ!!!!」
声を上げて、こちらを見た彼の腕を掴む。
強く引いて必死にその頭を抱き込むと同時、辺りに発砲音が響き、肩で熱が爆ぜた。
「うぁ、っ…!」
苦痛の声が漏れるが、それでも彼を守る腕の力は緩めない。しかし、その悲鳴を聞いたディーノはすぐさま異変に気づいて顔を上げた。
肩に滲む赤に、小さく目を見開いた彼は、神無の腕を掴んで口を開く。
「神無。離して、神無。」
「こと、わる…っ」
応えた神無は、刀で二発目を切り捨てた。
その気迫に押されて狼狽える男の様子に安堵を覚えた瞬間、神無の足から力が抜ける。
崩れ落ちる神無を横抱きにして抱き上げたディーノは、すぐに弾道から男の存在を見つけ当てた。
「……発見。制圧します。」
殺すなと言う以前の言いつけを守る彼は、神無を尾に預けてショットガンの引き金を絞る。
撃ち抜かれた弾丸は、寸分違わず男の拳銃を叩き落とした。次いで二発目が、男の腕を抉り意識を奪う。
周囲の安全を確認すると同時に、通信を起動して青木にチャンネルを合わせた。数秒のコール音の後に、青木が無線に応える音がする。
「ディーノ?どうし…」
「神無が撃たれました。至急救援を要請します。」
「っ…分かった。すぐに到着するから、応急処置を行なっておいてほしい。」
「はい、わかりました。」
横にした神無の上着を脱がせて肩を剥く。されるがままの彼の服には、じわじわと血が滲んでいた。
支給されていた止血帯をきつく巻けば、痛みに彼が小さく呻く。幸い肩を掠めただけだったらしく、レミと合流して処置を行えば命に支障はない傷のようだ。
「……神無、」
「ディーノ…?」
呟くディーノの声に神無は薄く瞳を開く。
見上げた彼の表情は、以前のように我を失ってはいなかったが、瞳の奥に確かな怒りを孕んでいた。
「何故、庇ったのですか。」
「………、」
ディーノは、静かに腹を立てていたのだ。
アンドロイドである自分を庇って怪我を負った神無が理解できず、彼は言葉を連ねる。
「僕は神無より頑丈です。拳銃一発程度では、僕のボディを傷つけることなどできません。」
「…ディーノ」
「どうして、僕を庇ったのですか。」
ディーノに拳銃が当たったところで、痛覚のない彼が苦しむことはない。破損した部品を入れ替えれば、元通りにすることができる。
けれど、人間はそうではない。怪我を負えば治るまでには時間がかかるのだ。傷が深ければ命にも関わるかもしれない。
「僕は、そんなに、頼りない?」
「……違うよ、ディーノ」
神無は俯くディーノに片腕を伸ばした。肩を引き寄せて、宥めるように抱き締めると背を撫でる。
大人しく腕の中に収まる彼に向かって、幼子に言い聞かせるように神無は口を開いた。
「俺は…俺が、もう見たくなかったんだよ。」
「見たくない、ですか。」
「怪我をするお前を、俺が見たくなくて勝手に動いたんだ。」
朧げな記憶の中で、自分に向かって振り下ろされたナイフを彼が受け止めた光景を覚えている。
それが全ての事件の始まりだった。開花したトラウマも、再会したふたりも、あの日の騒動も、全てがあの瞬間に始まってしまったのだ。
神無は無意識に、ディーノが傷つくことに怯えていた。怪我を負っても尚、平気な顔をして戦う彼のことが、少しだけ怖かったのだ。
「…神無が僕を庇って撃たれた時、とても怖かったです。」
腕の中で神無の苦しげな声を聞いた時、一瞬頭が真っ白になった。
以前浮かんだ敵に対する殺意をどうにか意識を総動員して抑え、冷静に敵を殺さず撃ち抜いただけで、ディーノにとっては大きな進歩だ。
「…そっか。俺もあの日、同じ気持ちだったんだと思う。」
「……ごめんなさい。」
「謝ることじゃないだろ。お前は、俺の命を守ってくれたんだから。」
お互い様だな、と神無は小さく笑う。
そんな彼の胸に顔を埋めて、ディーノは祈るように呟いた。
「ねぇ、神無。」
「…なんだ?」
「僕は絶対、神無より先に死にません。」
彼の言葉に、神無は息を呑む。
それは、大切なものにいくつも置いて行かれてしまった彼が、心のどこかで抱えていた怯えだった。
「だから、もっと僕を信じてください。…神無を置いていったりしません。」
VOIDの寿命は部品交換を行えば200年はくだらない。スタックさえ破壊されなければ、その肉体を永遠に引き継ぐことが可能だろう。
整備する人間がいる限り、ディーノの体は生き続けるのだ。
「……信じて、いいんだな。」
神無の手がディーノの袖を掴む。縋るような声と仕草に、ディーノは胸の底から湧き上がる温かいものを感じた。
「俺が死ぬときは、お前と一緒がいい。」
「はい。」
「それと、これは俺の我儘だけど……その時はお前を俺の手で止めたい。」
神無を失った後に残されるディーノを思うと、胸が張り裂けそうだった。
もう二度と、置いて行かれる悲しみを味わってほしくない。そんな建前と、醜い独占欲だ。
呟く神無の手をディーノが掬う。その甲に唇を寄せれば、目の前の彼の心拍が急上昇した。
怪我をしているのだから、血の巡りが良くなるのはあまり感心しない。傷口に血が滲んでいないことを確かめるディーノに向かって、口をぱくぱくと神無は動かす。
「な、に…」
「……僕も、同じ気持ちです。」
自分を壊すのは彼であってほしい。
彼を見届けて、そのまま壊れることができたら、それは世界で誰より幸せな機械だ。
「きれいだと思ったとき、真っ先にそれを伝えたいと思ったのは神無でした。」
「悲しいと思ったとき、そばにいてほしいと思ったのは神無でした。」
彼の隣で見る世界は、いつだってなんだって、愛で満ちている。
機械に生まれ直したディーノにはまだ、上手く言葉にできないが、彼の手を引いて未来に駆け出したいような、そんな感情に駆られるのだ。
もし、あの気持ちを人が恋だと呼ぶなら。
「僕は今、神無に恋をしています。」
神無の目が大きく見開かれる。傷の痛みも忘れてディーノの顔を覗き込んでいた彼は、やがて遠くから聞こえ始めたサイレンの音に我に返った。
ディーノの頭を緩く撫でて、彼は困ったように笑う。
「返事は、元気になってからでもいいか?」
「はい、待ってます。」
「ったく…こんな状況で告白するなよ。」
見上げた彼の顔は赤かった。血の巡りが良くなって、傷口が悪化しないだろうかと心配になるほどだ。
それでもなんとなく、それを口にしたら照れた彼に蹴飛ばされる気がして、ディーノは大人しく頷く。
まもなく駆けつけた青木たちによって、保護された神無は病院へと運び込まれた。
幸い軽傷で済んだ彼の病室には、数日後には返事を迫るディーノの姿があったらしい。
満更でもない表情を浮かべながらも、公衆の面前だと声を上げる彼の姿を、青木と一羽のスズメが穏やかに見守っているのだった。
終
「元気になりました、返答をください。」
「まだ入院中だろうが。というか、こんな人の多いところで告白の返事迫るなよ。」
「しかし、」
「あぁもう!ちゃんと退院したらお前のこと好きだって言ってやるから!!大人しく待ってろ!!」
「え。」
「…あっ」