ドラルクさんの誕生日話の前日譚です。ヒナイチくんが、自分の血を隔日採血する話。ドラヒナで両片思い期の時間軸。
生き血ボトルの設定が捏造だらけです。注意して下さい。
2022/11/15に上げました。
@kw42431393
十月も末の頃だった。昼間はまだ暖かかったので、油断して薄着で出掛けたヒナイチくんが、寒そうに帰ってきたのは…。
「娘さんが体を冷やしちゃダメでしょ。」
そう言って、コーンポタージュを出してやると、照れ臭そうに笑って受け取ってくれた。
「フフ、お母さんみたいな事を言うな。」
「そこは、せめてお父さんにしてくれ給えよ。世話を焼かせてるのは君達でしょ。あと、これも羽織ってなさいね、風邪を引かないように。」
事務所の皆でお揃いに縫った、キルト生地のポンチョだ。フードが付いていて、ロナルドくんは被るとジョンに、ヒナイチくんは鼻息丸に、ジョンは私に、メビヤツはロナルドくんになれる素敵仕様にしてある。
「本当ににお前は器用だなぁ。モコモコで温かいぞ。」
羽織っている彼女を見て、我ながら完璧でないだろうか…そう思っているとツンと異臭が鼻をついた。
消毒用アルコールと鉄の…血の匂いだ。どこか怪我でもしてきたのだろうか?
「ん?どうした?何か顔についてるか?」
「血と…消毒薬の匂い…?」
「!?…あ、あぁ、さっき駅前で献血して来たんだ、200ml程。」
何故か彼女は、フードを目深に被ってしまった。どうしたんだろう。
「え…あぁ、そう。」
献血ね…そりゃ悪くはない、むしろとてもいい事だ…でも、何だか…面白くない。顔も知らない赤の他人にやるくらいなら…
「私にくれたっていいじゃないか。」
思わず口をついて出た言葉に、ハッとする。しまった、つい本音が。軽蔑して口をきいてくれなくなったら、百回は死ねる。
「あぁ、ヒナイチくん。そ、その…。」
しかし、当の彼女はポカンとした顔で私を見上げていた。なんだろう…不思議な物でも見た様な…。
「ちん?今、なんて言ったんだ?」
「あぁ、気にしないで。独り言だよ。」
助かった。無意識に出た言葉だから、母国語だったのだ。彼女には分からなかったらしい。
「そうか、ルーマニア語か。なんだか、不思議な感じだったな。」
「そう?私も日本来て長いから、訛りもほとんどないつもりだけど?」
「う~ん、なんと言うか…いつもと違って少し低い…渋い感じの声だったな。うん、なんか…いいなって…。」
少し照れた風に答える彼女を見て、機嫌が良くなる。口角が上がるのを押さえられない。我ながらチョロいおじさんだ。
「教えてあげようか?どらどらチャンネルでもしようかな、5歳のゴリラでも分かるルーマニア語なんてどうだろう?」
「あはは…。ロナルドなら後ろに。」
振り返る前に、私は塵になっていた。
「なんだ?ヒナイチ、その格好。」
「ドラルクが縫ってくれたんだ。ロナルドもジョン、メビヤツの分もあるんだぞ。」
「そういや、メビヤツとジョンに似合ってるぞって言ったばかりだわ。お前が作ってくれたのか?」
「そうだよ。そろそろ寒いからね、君も着なさいよ。」
「サンキュー、と言いてえけどな。お前、ヒナイチのこれさぁ…」
ロナルドくんは鼻息丸のポンチョを着たヒナイチくんを見てため息をついた。
「いや、やめとく。こいつも喜んでいるんだし。」
「なんの話だ?」
「いいの、いいの!さっ、テレビの前にクッキーがあるよ。ジョンと食べておいで。」
「クッキー!早速頂こう!」
ヒナイチくんが、そのままリビングに向かう。ホッとしたものの、ジト目のロナルドくんを直視できない…しらばっくれてキッチンに向かおうとするとロナルドくんに呼び止められた。
「ところでよ。ドラルク、お前は着ないのかよ?あの白と青のポンチョ…消去法でいうならお前のだろ?」
勢いで縫ったものの、着るのは恥ずかしい。しかし、他の人間には着せたくないのでクローゼットに押し込んでいたものだ。私は、黙って塵になった。
あぁ、危なかった。私は、腕の採血の痕を撫でながらため息をついた。
「ヌヌヌイヌン、ヌイヌヌヌイ?」
「ん、大丈夫だ。ちょっとな…。」
来月はドラルクの誕生日だ。いつももらってばかりなので、何かいいものをあげたい、そう思っていた。
ロナルドに聞いてみると、この前手芸屋に寄った時、ミシンが欲しいと言ったので、早いけどその場で買ってあげたのだという。
「前、トマトジュースとピューレ間違ってバカにされたからよ。最近、俺達の服もあいつが縫ったのも多いからいいか、と思ったんだが。ミシンって結構高いのな、驚いたぜ。」
ピンからキリまであるので、ここぞとばかり高いのを買わされたんだろう。おそらく、それで皆のポンチョを縫ってくれたのか。
私は、スマホで吸血鬼にお勧めのプレゼントを検索していたが、どうもピンと来ない。そう言われれば私は何が喜ぶか、知っている様で知らないのだ。ゲームは既に持っているかもしれないし、そもそもこいつはお坊ちゃんなのだ。ワインとかならいいのをお父上から貰っている。
…いや、本当は知っている。最近、あまり言わなくなったな。そっと、採血の痕を撫でた。
「その綺麗なうなじから一口頂戴?」
勿論、冗談半分だ。私が「クッキーは?」「おやつは?」とはぐらかすと、「勿論あるよ。おいで。」と手招いてくれる。そして、食べている私を満足そうに見ているのだ。
以前、誕生日にホットチョコスプーンをあげると「美味しい生き血が一垂らしあれば」とも言っていた。
やっぱり処女の血が欲しいのかな、私は吸血鬼対策課の者だ。気楽にやっていい立場じゃないんだ…。
今日、私は吸血鬼向けの贈答品を扱っている店に足を運んだ。
あいつが好きなのは、B型の血だ。シンヨコに来たばかりの頃は、合わない血を飲むと死んでしまったりしていたが、最近は生血屋の並や自販機のおじさんの血をしれっと飲んでいるのも知っている。胃が強くなったのかもしれない。
隔日採血でシングルブラッドのB型…出来れば処女のボトルを探す。
「やっぱり、処女の生き血ボトルはないな…。」
お父上から頂いたと言っていた処女のボトルについては、市場にほぼ出回らないと言っていた。シングルブラッドだと、ラベルに「私から採られました」と年齢や性別、成分、場合によっては写真も貼ってあったりする。私達人間の農作物で「私達が育てました」と載せる様な感覚なのだろう。
今、手にしているボトルは、20代B型女性のものだ。成分表があるが、私には全く分からない。そこそこいい値だし、これにしよう。
そう思って、レジに向かおうとした時、お洒落な空のボトルやラベル、化粧箱やリボンが並んでいるコーナーがあった。カウンターには、「自分の生き血を大切な方に お世話になっている方に 採血、検査、ボトリングまで承ります」の文字が並んでいる。
聞いた事はあったがあるんだな、と思った。ちゃんと認定されたソムリエと設備を抱えた所でないと許可されていないが、家族や友人、恋人、吸血鬼の有名人等に、自分の生き血をボトリングして贈るサービスが存在しているという。
手間賃だけだから安くできるし、恋人にあげたいが噛み痕が残るのを嫌う者達も利用していると聞く。勿論、ちゃんとした食品なので、味や香り、栄養価や安全性もチェックした上で防腐処理やランク付けまでして貰える。
目の前には、200mlから800mlのボトルやパックが並んでいる。私は、800mlのボトルを手にした。メッセージカードや包装も選べるらしい。自分の手首を凝視する。
処女の血ならここにある、あいつが欲しいと言っていた血…匿名ならいいだろうか。
「すみません、あの…。」
「Ce s-a întâmplat?」
「うわっ!?びっくりした。」
「難しい顔をしているから、どうしたの?って言ったんだよ。ね、格好いい?」
さっき、誉めたから教えたくて堪らないのだろうか。実際、吸血鬼の本場はルーマニアなのだ。資料でも現地の言葉で書いてるものもある。覚えてて損はないだろう。
何より…なんというか、耳に心地よい。あいつのルーマニア語をもっと聞いてみたかった。
「そうだな、教えて貰おうか。」
「bine.」
「オッケーって意味か?」
「正解。さ、私の発音を真似てみて?」
口元に手を当てて、ゆっくり発音してくれる。最近、ロナルドに似てきて口が悪いが、こうして見ると育ちの良さが出てて上品だな。
「び、びぃね?」
「フフフ。」
「わ、笑うな。真似ろって言ったくせに!」
「ごめん、だって。ヒナイチくんったら緊張して、いつもとまた違う…可愛い声だなぁって。」
なんだか不思議な発見だね、と笑うお前を見て、私も嬉しくなった。
そうだ。来月もう一度採血に行った時、メッセージカードにお前の母国語で「誕生日おめでとう」と書いてみようか。つい、「おめでとう」より「ケーキ」と声に出してしまうが、今回はルーマニア語で「おめでとう」と言ってみよう。
「やっぱり、初めは『こんにちは』からかな?でも、私達が会うのは夕方からだから『こんばんは』の方がいいかね?」
「なんだか、ウキウキしてるな。」
私は膝に抱いたジョンを撫でながら、来月のこの事務所を思い描く。
自分の誕生日なのに、私達のリクエストが揃ったご馳走に、お前の特製ケーキを食べて。
食事の後は、ゲーム大会かクソ映画の上映会をして。そういえば、私もペットボトル立てバイトシュミレーター上手くなったんだぞ。今度はもう少し、お前と対戦できると思うんだ。
11月28日に間に合わないので、600mlになってしまったけど、検査と試飲してくれたソムリエの店長が特1級だと太鼓判を押してくれたんだ。
喜ばしいのか複雑だが、お前の口に合ってくれるだろうか。そこだけが、心配だ。