メイアビ二次小説、異国の探窟家と蒼笛の少年の話。
残酷・ゲロ表現含む。ゲーム連星設定、主人公はアキ♂。
@rondonozatta
いいカモだと思った。
天上瀑布と名付けられた岩場の不毛の地は、見晴らしがよく大型原生生物の絶好の狩り場だった。しかしそこを通らねば深界三層には降りられず。三層以下へと挑む探窟家の最初の試練と云えた。白笛の黎明卿なぞは自ら遺物で縦穴を掘り出して秘密の通路を持ったという噂もあるが、はて。
異国から来た探窟家はまず探窟組合の許可を得て、同行者を雇い、あるいは自力で未知の大穴を切り拓く。確かにそんな「律儀者」もいないわけではないが、とかく金がかかる。
その探窟家は、より楽な道を選んだ。即ち、略奪である。
二層と三層の呪いが入り混じる天上瀑布で、疲れ切った探窟家たちを襲うのは簡単だった。
「は、……」
蒼笛の少年はゲロ混じりの唾を地面に吐き捨て、黒革の手袋で雑に拭う。右手には探窟用のピッケル。少年には不釣り合いな大きさのピッケルは、使い込まれてところどころ欠けている。未来ある有能な蒼笛だったのだろう。実力を過信して、二層ぎりぎりの地まで、単独で降りてきた。いいカモだった。
こちらは対人戦に慣れた大人が三人、相手はまだひよっ子の子供一人、差は歴然としていた。蒼笛は岩を盾にゲロを吐きながら逃げ続けたが、子供の足はたいして歩幅も稼げず、逆に壁に追い詰められてしまった。
隊長は油断なくじりじりと近づく。肩で息をする蒼笛は往生際悪く遺物の積んだリュックを大事そうに背負ってピッケルを構えている。
張り詰めた糸は蒼笛が切った。
蒼笛がピッケルを放り投げ、地面にしゃがむ。異国の探窟家たちの目線は突然の暴挙に向く。蒼笛は片手で鷲掴んだ砂を払う。
その程度の抵抗は予測していた隊長だけが仮面のゴーグルの装着が済んでいた。仲間たちが目を覆う。隊長は構わずに突っ込む。捕えた! 所詮は子供、もがく力も幼く簡単に抑え込めた。
グゥガウゥゥゥゥ!
リュックを奪い取ろうとしたそのとき、地面に巨大な影が落ちた。見上げれば鋭い爪が迫ってくる。とっさに隊長は蒼笛を脇にぶん投げて自身も飛び退いた。虹色の羽根を持つコウモリ! 急には飛行を止められぬ爪は隊長を大きく逸れて、仲間の肉に喰らいついた。
絶叫。断末魔。遺物の鎧で覆った身体がまるでチーズのように爪が喰い込み、限界まで握り潰されて、弾けた。どろりと不快な臭いと共に中身が飛び散る。二匹目が飛んでくる。もう一人の仲間も呆気なく。手毬のように跳ねていって、動かなくなった。
隊長だった異国の探窟家はなりふり構わず駆けた。虹色のコウモリは仲間だったものに夢中だった。今のうちに。
「こっちです!」
人間の甲高い声に振り向く。岩陰の穴から蒼笛がこまねいている。なるほど、子供の体格なら楽に通れるだろう。だが隊長は子供よりふた周りは大きい。蒼笛が答えを出した。
「荷物を捨てるか、僕にください!」
「はぁ?!」
「早く!」
蒼笛が顔を引っ込める。空洞が出来て、リュックを捨てればぎりぎり異国の探窟家が通れるほどになった。背後には肉を喰らう粘着質な音が迫っており、なりふりかまっている時間はない。ほら、最初の予告と同じように地上に影が落ちる。
「〜〜くそったれ! 持ち逃げするんじゃねえぞ!」
返事はない。背中の大きなリュックを打ち捨てる。腰に巻き付けていた鞄を洞穴にぶん投げるとすぐさま奥に引きずり込まれた。身軽になった異国の探窟家は洞穴に飛び込んだ。
暗闇に慣れる前に石灯の緑光に目を細める。蒼笛はヘルメットの明かりをつけ、異国の探窟家の鞄を抱えて待っていた。蒼笛はくるりと回転する。
「こっちです。すぐですから」
蒼笛は膝立ちになって進んでいく。小さなリュックはそれも可能だった。異国の探窟家は肘を使ってなるべく頭を下げながら這っていかなければならなかった。
横穴はゆるやかに上方に坂をつけて伸びていた。上昇負荷は酷くはないが胸がむかむかとした。先ほど仲間のはらわたを見てしまったかもしれなかった。異国の探窟家は蒼笛に従ったことを後悔し始めていた。異国の探窟家は最低限の装備の他はほとんど丸腰で、この道を知らない。蒼笛が始末しようと思えばナイフ一本で事足りる。無論、ただで死んでやるほどおめでたくはないが、出口で這い上がろうとしたところを一突き、狙えばいいだけの話なのだから。
蒼笛の歩みは迷いがなかった。しばらくして、頭痛もいいかげん嫌になってきた頃になって、ぱっと通路が開けた。異国の探窟家が警戒に潜めていると、蒼笛は出口のそばの木にうずくまり、いきなりどばどばとゲロを吐いた。暗い森のせいで顔色はわからない。
「おい」
「ごめん、少し休ませて……」
「俺の鞄」
観念して出口に立ち、指摘すると無言で鞄が差し出された。異国の探窟家は乱暴に掴み取る。蒼笛はよろよろとロウハナの棲む池に近づいて、水をすくって口をゆすいでいる。警戒心が欠片もない。
「ここはどこだ」
「暗い森、の、樹洞回廊のはしっこ……。気をつけてください。このあたり、毒蛇も毒虫もいるので」
ようやく気を取り直したような顔で蒼笛が立ち上がる。異国の探窟家が銃を突きつけているのにも気づかずに。
銃口をわかるように見せつけると、蒼笛はさすがに怯えたように視線を逸らした。
「それ、しまってくれませんか?」
「なぜ助けた」
「えぇ……」
「答えろ」
異国の探窟家が脅せば、三人に囲まれても気張っていたような蒼笛がひっと悲鳴を上げる。何を今更。演技にしても下手くそだった。
「ええと、やられたらやり返せっていう教えがありまして……」
「はぁ?」
「リーダーに、探窟家は助けられたら助け返せ、と教えられたんです。そしたらまた助け返してもらえるかもしれないから。ふっと思ってしまったんです。ここで助けたらあなたから助け返してもらえるだろうって」
「……借りを作ったつもりか」
「というのは方便です。ほっとけなかったのが十割」
「おい」
しれっと云い放つので思わず引き金に力が入る。蒼笛が飛び退いた。異国の探窟家は舌打ちした。全く、子供はすばしっこいのが嫌だ。
「僕は、あなたを殺したくないし、こんなところで殺されるつもりもないんです」
まっすぐに見上げてくる瞳がいつぞやも見たような目で、異国の探窟家は苛々とまた舌打ちする。
これだから探窟家という人種は面倒なのだ。誰も彼もアビスへの探究心と希望に満ちている。異国の探窟家にとって彼らのまなざしは強すぎる光だった。片目を潰してしまったために、冒険をとうに諦めて、略奪に走るほかアビスと繋がる手段を失ってしまった者にとっては。
蒼笛は銃が下げられたのを確認して、リュックを下ろして留め金をいじっている。四級遺物の太陽玉ばかり、ごろごろと入っていた。蒼笛にとっての最下層まで降りてきて、実入りがガラクタとはご苦労なことだ。
「おい」
こつんと頭を叩くと、ヘルメットの角が刺さったのか嫌そうに顔を上げてくる。
「こいつをやる。貸し借りはなしだ」
鞄に入れていたものを取り出す。蒼笛と遭遇する前に拾った三級遺物だ。四層以下でよく掘り起こされるが、たまに上層でも見つけられるのは、誰かが落として行ったのか、それとも骨も残せず喰われたのか。等級は低いものの、蒼笛にはもの珍しいだろう。
蒼笛はきょとんと目をまるくして、それからそろそろと受け取る。よく矯めつ眺めつ遺物を見て、眼を輝かせる。こういうところは子供らしい。異国の探窟家は胸奥が変にむずむずするような心地で周囲の警戒に務めた。
蒼笛は律儀にも頭を下げた。
「ありがとう」
「やめろ」
「うん。貸し借りはなし、ですね」
遺物を大事そうにリュックにしまいこんで、蒼笛は再び背負う。あまり話し込んで長居するのも危険だった。ここはアビスの腹の中、深界二層の最深部だ。
「ここから暗い森を出るまで歩きます。あなたも来ますか」
「こんなところで置いていく気か」
「じゃあ案内します」
あんまりにも当然のように云うので、異国の探窟家はやれやれとため息をついて追いかける。
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「ねぇ、名前は? 僕はアキ」
「簡単に名前を教えるんじゃねえよ」
「教えてくれないんですか?」
「馬鹿。教えるわけないだろ。お前に報告されたら面倒だろうが」
「そっか。じゃあおじさんと呼びますね」
「お兄さんにしろ」
「えぇ……」