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誰が為に描く未来

全体公開 2702文字
2022-12-02 21:14:04

【アルシュル未満】フォロワーさんへのバースデープレゼント🎁

Posted by @wtnbear

「君は一体――?」
 故郷と同じ澄んだ蒼の瞳が脳裏に浮かび、次々と浮かび上がる疑問と仮定への答えを求めて投げかけられた言葉が頭の中に反響する。思い通りに事が運んだことを確認したあと、眺めていた手のひらを握り込んだ。
 マクナ原生林で無意識に介入し、標的を仲間から引き離した。一人きりとなったところへテレシアをけしかけて今後必要となる戦闘技術と自身への面識を与えたあと、先の言葉を受け取ったのだ。それに続くものは容易に想像できる。
『何者なのか』
 ごく自然でシンプルな質問だ。同じホムスの体をした、年齢が近そうな見た目の人間が、巨神の上層部に、一人で、自身シュルク以外を拒んで扱えなかった神の剣モナドを易々と使いこなし、未知の能力を発動して、未知の敵を倒し、知らない情報を口にした。一度に得る情報量としては多かったかも知れない。それでも懸命に事実を整理し、答えを導き出そうとするその目、その姿勢はいかにも研究者らしくあり、知的生命体の活動として好感が持てる。

 原生林から上層の皇都へと引き返していた白髪の青年は、白亜はくあの建造物の高層にある自室に戻っていた。そこにしつられた質素な椅子に腰を掛け、かの地で得た情報を頭の中で整理する。おおよそは推測の通りだが、ひとつ気掛かりなのはモナドから伝わってきた感触だ。巨神の意識はまだ覚醒からは遠いものの、確実に凝固し始めていた。予想よりも早く進んでいるそれは着実に宿主の精神を蝕み、うつわのなかで機が熟すのを今か今かと待っている。
 ――まだだ。まだ、巨神たるザンザには微睡まどろみを楽しんで貰わねばならない。彼が、シュルクが、神に仇なす存在となるにはまだ足りないものが多い。当人の実力もそうだが、未だ天の時は満ちておらず、地の利もなく、人の和もまとまっていない。いずれも未熟で不十分だ。この世界の考え得る最良の幕引きのため、役者を集め、育て、舞台を整えなければならない。それら総てを秘密裏に、速やかに、最低限の関与で。

 ふむ、とアルヴィースは口元へ手を当てる。数日のうちに、あの一団は難なく復習用•••のテレシアを討伐し、村の援助を受けてエルト海へ上がってくるだろう。そして助けた少女の導きに従い、ここアカモートへ立ち寄るはずだ。僕の導き出したみらいへ自発的に進んでもらうため、ここで上手く味方につけておかねばなるまい。
 まず、肝心かなめであるシュルクは問題ないだろう。彼にとって好奇心は重要な原動力だ。モナドを扱える同年代と思しきホムスという擬似餌に上手く食いついている。あとは、彼の思考や心境に大きな影響を与える彼の盾と英雄殿の不審を得ぬように注意すれば良い。特に後者は剣術の達人ならではの鋭い第六感がある。尻尾を見せるようなことをすれば追求は免れないだろう。一行の行動方針を変える力のある彼から警戒されることは避けておきたいが、不要に距離を置くこともいぶかしがられる原因となる。
 ここはディクソンを緩衝材とするべきだろうか。彼はディクソンのお気に入りではあるし、彼もまたディクソンのことを慕っている。とは言え、人の心ほど非論理的なものはない。まだ巨神が目覚めぬうちにディクソンが彼らを裏切るとは考えづらいが、いつ壊れるとも知れない二人の関係を頼ることへは懸念が残る。運良く、彼は少しばかり大人で気が利くため、ここは高官という政治的な立場を使い、迂闊うかつに近寄られぬように防衛線を引いておくのが上策だろう。出来れば、ダンバンからの不用意な接近によるディクソンの嫉妬も買いたくはない。

 さて、今頃はそのご意見番たる黒髪の彼に自分のことを伝えているに違いない。ホムスが生存するための希望たる剣。それをシュルク以外で自在に扱える人間が存在する。知らない知識を持っている。彼もまたモナドを振るった直接の関係者であるから、この情報を無視することは出来ないはずだ。人は、気になったものについて無意識のうちに情報を集め、その姿を探してまう生き物。関与したものならば尚のこと、その耳を澄ませ、目を凝らし、手掛かりを掴もうとする。そうして集めた情報は次第に形をつくり、いずれひとつの道筋を指し示す。そしてその線は、いずれどこかで交差する。この世界はそういう風にできている。
 ゆっくりと腰を上げ、アルヴィースはテラスへ出た。髪や服を撫でる風もなく、白い都を覆うガラスドームの向こうを流れる雲を見つめる。本来ならば今まで通り、あの雲の変容を眺めるように世界の行く末をただ傍観していれば良かったのだろう。だが今は、気流を操り、大気中の水分量を変えてその雲を思い描く形にしたいと思っている。
 ――傍観。それは自身に結びついてしまった高次意識としての立ち位置スタンスであって、自律機械たる僕、ウーシアの願いとは異なる。ウーシアたる僕の願い。ただの機械が持つには少しばかり大袈裟で嘘のような、幾千幾万の時を経ても変わらない、たったひとつの願い。内在する高次意識の役割を一時的に放棄し、神聖予言官のアルヴィースとしてこの世界へ干渉すると決めたのは、他ならぬ彼を救うためだ。首元から下がる赤いクリスタルへ優しく指を添え、空を仰いだ。
「急ぐことはないさ。いずれ分かるよ」
 彼の消えた言葉尻、惑いに揺れてもなお真っ直ぐな瞳を思い出しながらアルヴィースはぽつりと呟く。受け取り手のいない言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。
 少し悲しげに空を見上げていた顔がいつもの笑みを取り戻す。下層の大恐竜テレシアを取り巻くエーテルの群れ。その中で一際美しく輝く、澄み渡る空のような、水底から見上げる水面のような、炎の揺らぎに似た温かいクリアブルー。シュルクの意志の色。潰えるには惜しい光。

 偶然と必然は表裏一体、立場や見方次第でいくらでも変わる結果論的な単語だ。君が巨神ザンザに選ばれたのが必然か偶然か、それは観測者の主観に委ねよう。ただ言えることは、巨神に選ばれたが故に君が背負った運命は必然で、君という器を壊して羽化するため、この先も創造主の悪意が様々な形で君に襲いかかることもまた必然、ということだ。それらに挫けることなく生き延び、抗する意志を持ってその生を理解したとき、差し伸べるこの手もまた必然のひとつに過ぎない。
 そうして積み上がった必然の先に君が何を願うのか。僕の願いのあと、この先の未来を築く者よ。君の導き出す解が何なのか、僕は楽しみでならない。



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