🦖🎃&縞アサ
白黒さんのネタより キスする二人の話
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
放たれた弾丸が、翻る制服の脇を掠めていく。次いで向けられた銃口に神無が顔を向けると同時、縞斑が彼の襟首を掴んで物陰へと投げ込んだ。
「ぐえっ!?」
「神無ちゃん、そっち詰めて!!」
転がった神無に覆い被さるように縞斑が飛び込む。その後を追うように、彼らの足元の地面が大きく爆ぜた。
「ッ、あいつ今膝狙ったぞ!?」
「はぁ…はぁ…っ動きを封じて、確実に仕留める気でいるね……さすがディーノちゃん、狙いが性格悪いなぁ」
声を上げながら神無が物陰から様子を伺えば、次弾を装填しながら赤の瞳を向けるディーノの姿がある。
ゆらりとこちらに狙いを定める様子に咄嗟に神無が顔を引くと同時、真横の壁に弾丸が撃ち込まれた。
冷や汗を垂らす神無の隣で、どうにか呼吸を整えた縞斑が冷静に分析をする。視線を落として手の中のスズメのロボットを確認するが、応答はなかった。
「無線応答無し。…まだもう少し持ちこたえないとね。」
「無理だって!あいつら相手に何分ももたないだろ!!」
神無が言いながら様子を伺うべく物陰に再び身を寄せる。その瞬間、音もなくそんな彼の前に白の機体が現れた。
両手に拳銃を握り、赤の瞳を光らせる彼が無表情で銃口を向けると同時に、神無の腕を縞斑が引く。
「あさ、っ」
「引け!!!」
神無を背に押しやり、縞斑は手の中のサブマシンガンを撃ち放った。それを避けるために後退した相手の攻撃は、二人の頬や髪を掠めるだけに終わる。
舌打ちをした縞斑は、そのままサブマシンガンを彼らの足元に撃ち込む。それを避けるために一度撤退して物陰に潜んだ彼らを確かめると、縞斑は壁に背を預けて荒く息を吐いた。
「まずいね、このままだとほんとに解析までもたないよ。」
「まじで厄介だなハッキング…!!」
アンドロイドを兵器として活用しようと企む組織の制圧に、スパロウとドロ課が連携して乗り出したのは数刻前のことだ。
神無とディーノ、縞斑とアサギリの四人は、組織の施設へと乗り込んだ。そうして制圧が目前となった時、相手組織が抵抗してアンドロイドにハッキングを仕掛けたのである。
マスター認証システムに介入されたディーノとアサギリの二人は、神無と縞斑に突然銃口を向けたのだ。どうにか直撃は免れたものの、彼らの頬や腕には血が滲んでいる。
彼らの持つハッキングを跳ね除けるためのプロテクトを上回るシステムを、相手の組織が開発していたことは、神無たちにとって大きな誤算だった。
「おそらく、あのシステムを使ってアンドロイドたちを兵器として育てていたんだろうね。」
「どうするよ。早くあいつら取り返さないと…」
「とはいえ、相手は未知のシステムだ。リトたちの解析もいつ終わるか……」
事態が勃発して間も無く、青木とリトは直ちにそのマスター認証固定の解除のために解析を行っている。
しかし、いつまで待っても反応が来ない様子から彼らも苦戦しているのだろうと察しがついた。
このまま通信を待つ間にも、ディーノとアサギリは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。神無と縞斑はそれを避け続けて、ついに部屋の隅の物陰にまで追い詰められていたのだ。
「どうする神無ちゃん?スタック狙いなら、二人を止められなくはないけど??」
「……それ、本気で言ってたら怒る。」
「やだな、冗談だよ。二人を傷付けるつもりなんてないさ。」
縞斑の発言に神無がじろりと睨めば、彼はいつもの薄い笑みを浮かべたまま首を横に振った。相変わらず手の内が分からない彼に対して、神無は頭痛を覚えて壁に身を預ける。
時々サブマシンガンによる牽制を続けながら縞斑は、とはいえ、と口を開いた。
「いったいどうしたもんかねぇ。」
「だらだら先輩の作戦でどうにかならないわけ?」
「そうは言っても……」
声紋認証も指紋認証も絶たれた今、彼らからマスターとしての権限を奪い返すのは至難の業だ。
そうして考え込んだ縞斑は、ふと思い出したように言葉を続ける。
「あ、そうだ。神無ちゃん、ディーノちゃんとキスしたことある?」
「は。」
「あぁもちろん、ディープなやつ。」
びしりと神無の体が固まった。
これほど緊迫した状況で、この元先輩は一体何を言っているのだろうか。神無も自慢のサングラスも全く理解が出来ず、頭の中と画面に大量のエラーという文字が浮かぶ。
そんな神無の反応に構わず、縞斑は意外そうな表情で口元を抑えたまま口を開いた。
「えっ?だって年頃の男の子なんだから、やることはやってるでしょ?」
「な、なな、あんた、なにいって!?」
狼狽える神無を他所に、神無ちゃん結構ウブだからなぁ、などと失礼千万なことを呟く縞斑に、神無は羞恥によって真っ赤に染まった顔のまま拳を固める。やはりこの男、一度は殴っておかねばならない。
しかし、そんな神無の拳を視線すら向けずに避けた縞斑は、壁の外への警戒を怠らないまま言葉を続ける。
「で?したことあるの?ないの?」
「そ、それと今の状況と、なんの関係が…」
「舌だよ。」
振り返った縞斑が、べ、と長い舌を神無に見せた。舌先を揺らして見せる彼は、理解の追いつかない神無に簡潔に説明を始める。
「人の舌の模様は、指紋と同じで全部違う。だからひょっとすると、認証に使えるかもしれない。」
「…そんなこと、」
「可能性は低いよ。けどおそらく、相手もそこまで把握はできていないはずだ。」
認証に必要なのは、人間の個人を識別するための情報だ。
縞斑の言う通り、もしも舌での認証が可能ならば、相手がその情報に気付いていなければ、認証手段としてまだ機能するかもしれない。
理屈を理解して頷いた神無はしかし、はたとその言葉が指し示す意味に気付く。
「それって、つまり……ディーノにキスしろってことかよ…?!」
「そ。俺はアサギリちゃんと。」
「今!?この状況で!?ぶち抜かれて死ぬだろ!?!」
「そこはまぁ、大天才の手腕でどうにか避けてもらって。」
現在も会話の合間に縞斑の牽制がなければ、とっくに制圧されていてもおかしくない状況なのだ。
操られている彼らに近づいて、その唇を奪うことがどれほど至難の業か。そもそも羞恥心が勝り声を上げる神無だが、縞斑の声は相変わらず冷静なままだった。
「それに、今俺が思いついたこの方法以外に何か策はある?」
「それは……」
「じゃあ試してみる価値はあるよね?このままじゃ二人とも、負け犬だよ。」
それは嫌でしょ?と振り返る縞斑の瞳には、既に覚悟が決まっている。
危険な賭けであることは、彼だって承知なのだ。相棒の拳銃の腕を一番良く知っているのは自分なのだから。
食い下がろうとした神無だったが、そんな彼の瞳に口を噤む。諦めたように深くため息をついた神無は、頭をがしがしと掻くと口を開いた。
「仕方ないな…その話、乗るよ。」
「うんうん、そうこなくっちゃ。」
「失敗したら一生恨むからな。」
話しながら二人は物陰で体制を立て直す。刀を手に大きく息を吐いた神無を横目に、縞斑は相棒二人が潜む物陰から警戒を怠らないまま声を潜めた。
「スリーカウント、撃ったらそっちのコンテナに飛んで。」
「りょーかい。」
「健闘を祈るよ。3、2……」
1、縞斑が口の中でそう呟いた瞬間、彼は物陰の周囲に目掛けてサブマシンガンを撃ち込んだ。
相棒たちが攻撃の手を止めて影に身を潜めた様子を視界の端に、神無はその場を駆け出すと斜め前のコンテナに滑り込む。
神無の接近に気付いたらしいディーノが、物陰から獣脚によって飛び上がると、ショットガンの銃口を向けた。
「ディーノ!!」
咄嗟に声を上げる神無だが、彼はその言葉にも応じない。放たれた一発目の弾丸を身を反らせて避けた神無だったが、続く二発目がサングラスの端を捉える。
「ッ…!!」
衝撃によってサングラスが弾け飛ばされたが、幸い目元に怪我はない。すぐさま体制を立て直そうとする神無の背後に、援護するようにアサギリが現れた。
防御が追いつかず神無が息を呑めば、そんな彼の前に装填を終えたサブマシンガンを掴む縞斑が現れる。
「君の相手は俺だよ、アサギリちゃん。」
目の前に現れた敵影に、アサギリはすぐさま反応をした。神無に向けていた二丁の拳銃が、迷わず縞斑へと向けられる。
一発目、二発目を左右に避けた縞斑だったが、三発目がその肩を掠めた。一瞬体制を崩した彼を見逃さず、アサギリの四発目の弾丸が左腕を抉る。
「っ…ぐ」
「だらだら先輩!!!」
激痛に声を噛み殺した縞斑の様子に、側の神無は刀を構えたまま叫んだ。
しかし、縞斑は腕を押さえながらも手の中の武器を取り落とすことなく、相手に構えたまま声を上げる。
「こっちは気にするな!!!目の前に集中しろ!!!!」
縞斑の言葉は最もで、神無が弾かれたように顔を上げれば、爆発的な速さで駆け寄ったディーノが目の前でショットガンを構えていた。
避ける暇はない、咄嗟に考えた神無は構えていた刀を発砲と同時に横に薙ぐ。一発目を切り捨て、返し刀で二発目を弾いた神無は、相棒の元へと駆け出した。
「いやー…アサギリちゃん、いつもこれくらい当たるといいんだけどねぇ。」
一方負傷した縞斑は茶化してみせるが、それを無視したアサギリは追い討ちをかけるように拳銃を撃ち込む。
それをみた縞斑は、待っていたと言うようにサブマシンガンを撃ち返した。放たれた弾丸を的確に相殺して弾くと、彼も相棒の元へと駆け出す。
接敵した時点で、二人は相棒に手の内が読まれていることを察していた。権限を乗っ取られた上に、それまで彼らが学習してきた二人の癖を利用して立ち回っているのだ。
駆け出す神無と縞斑に向けて、ディーノとアサギリは銃口を向ける。
手を読むアンドロイドを相手に人間が戦うなど、負け戦も良いところだ。勝ち目があるとするならば、相棒が予想もしないような行動で不意を突くことのみである。
「君たちが予想もしないことっていうのは」
言いながら縞斑がサブマシンガンを投げ捨てる。隣で刀を落とした神無の姿に、二人は一瞬動きを止めたが、すぐに銃弾が放たれた。
神無と縞斑は、それを避けることはない。頬を掠めた銃弾と、痺れるような痛みに小さく笑みを零し、神無は声を上げる。
「俺たちが避けないこと、だろっ!!!」
避けていれば間違いなく額を捉えていたその銃弾をやり過ごし、耳鳴りの響く鼓膜に顔を顰めながらも神無と縞斑は目の前の体に手を伸ばす。
ディーノの手を引いて抱き締めた神無は、そのまま掬うように呆けたその唇を奪った。
一方アサギリの腰に手を回して引き寄せた縞斑が、驚いて顔を上げたアサギリの唇に噛み付く。
呆然と動けない相棒の口内を犯した二人は、歯列をなぞり、上顎を舐め、舌を絡め合わせる。自身を教え込むように交わされる口付けには、流石の敵組織たちも絶句のようだった。
虚だった彼らの赤の瞳が、瞬きを繰り返すうちに本来の色に戻っていく。
「ぷ、はっ……はぁ…はぁ……」
「…………かみな?」
「っ…は……」
「…ます、たー……」
真っ赤な顔で息切れをする神無を、不思議そうな顔でディーノが見下ろした。
その隣に立つ縞斑が唇を解放して頬を撫でると、アサギリの目が大きく見開かれる。
データの書き換えは成功したらしい。相棒二人の反応を確かめた神無と縞斑は、安堵のため息を吐いた瞬間、怪我の蓄積による疲労を覚えてその場に脱力した。
「…もう、外ではぜったい、キスしないからな……」
「もー…アサギリちゃんたら…キスしたいからって、乗っ取られたら…だめ、だよ……」
ずるりとその場に崩れ落ちる彼らを支えた相棒たちは、素早く怪我を確かめる。
自分の持つ武器によって刻まれたいくつもの傷。他でもない自分たちが、彼らを殺そうとしたのだと思い知った。
「神無、神無。」
「…マスター。」
呟く彼らに向かって、敵組織の人間が喚き声を上げて何かを放つ。しかし次に脳裏を犯そうとした何かの存在を、彼らは何も言わずに脳裏だけで叩き潰した。
ぱちん、火花が散って彼らがゆらりと立ち上がる。解析をようやく終えて駆けつけたリトと青木が、スズメのロボット越しに同時に引き攣った悲鳴を漏らした。
「ディ、ディーノ…」
「レオ…?」
無言のまま、彼らはアンドロイドたちの銃弾の雨を掻い潜る。目に見えて怒りに燃える彼らを止める者は、もう誰も居ない。
相棒を片腕に抱えたまま、彼らは手の中の得物を相手へと向けた。
「僕らが、大変お世話になりました。」
「…これは、私たちからの三行半です。どうぞお受け取りください。」
彼らの銃口が火を吹く。
そうして始まった一方的な蹂躙の景色を、青木とリトは肩を寄せ合って眺めることになった。
二人は後にこう語る。引き止めて溜め込んだ挙句爆発されるより、手放しにそのまま暴れさせたほうがまだ相手の被害も二人の負傷も最小限で済むと思った、と。
そうして彼ら二人は、医療班に運び込まれた神無と縞斑が目を覚ますまで組織で暴れ続け、二人きりでその集団を壊滅まで追い込んだのだ。
これが後に語られる、火の7日間である。
終