了遊(付き合ってない)。
ラキカ5のワンドロライ参加作で、お題「プレゼント」。
@d9_bond
いつものカフェナギのバイト中、店頭にやってきた了見は他に客がいないのを良いことに、用があると遊作をテーブル席へ呼びつけた。
何事かと示されるまま向かいのイスに座れば、なんでも渡したいものがあるという。
「これを、受け取ってほしい」
差し出されたのは四角い包みだった。深いグリーンの包装をそっとはがすと、金色のブランドロゴが刻まれた真っ白な箱が現れる。
いかにも高級品の入っていそうなしっかりとした箱で、そうっとあけるとスエードを模した内装の中に一本のボールペンがあった。深い藍の艶やかな本体にペン先とクリップの金のシンプルな装飾が美しい。ボールペンなどその辺の店で色しか見ないで買っている遊作からしても、相当に良い品と分かるものだ。
「なぜだ?」
別に誕生日でも何でもないし、了見に対し何か礼をされるようなことをした記憶もない。
問えば了見はちょっと目を細めて忌々しげに遊作の胸元──カフェナギのエプロンの端に引っかけているボールペンを指した。
「ずっとそれを使っているだろう」
「……まあな」
そのボールペンは、数か月前に遊作が了見から貰ったものだった。
いや、貰ったというのは語弊かもしれない。たまたま会話の折にメモをしようとした遊作が手元に何も持っておらず、了見が貸してくれたのだ。そのままうっかり借りっぱなしになっていたのだが、後日返したいと言った遊作へ了見は不要なのでそのまま処分していいと言った。それを良いことに遊作は自分のものとして日々持ち歩き愛用していたのだ。
預かったフュリアスは戻ってきた際に返してしまった。だから遊作にとって、この何の変哲もないボールペンは初めてで唯一了見から貰ったものだった。向こうが意図していなくても。
だが当然ながら了見にとっては処分していいようなボールペンに何の価値も抱いていないようだった。
「そんなものを後生大事にするならこれを使ってほしい」
遊作はしげしげと差し出された高級ボールペンを眺めた。
普段使いにするには良すぎるし、万が一にも落として傷でもついたら申し訳ないような代物だ。とはいえこの時点では遊作としては理由如何によって受け取る気はあった。
だが、
「代わりと言ってはなんだが、それは処分するから引き取らせてもらう」
その言葉に遊作は眉を寄せた。
「断る」
箱を閉じ、包装ごと了見の前へ押し戻す。
「これは必要ない。今ので十分に書けるし、書きやすくて気に入っているんだ」
「こちらの物のほうが書きやすい。保障しよう」
了見が遊作の前に箱を押し戻す。
「なら自分で使え」
更に遊作が押し返す。
「お前のために用意したんだ。それでは意味がない」
なおも了見が押し戻す。
ついで胸元に手を伸ばされて、遊作はさっと身を引き立ち上がった。
「そんなことは頼んでいない! それにどうせ捨てるなら持っていていいだろう、なにがそんなに気に入らないんだ!」
思わず声を荒げてしまったが、了見は引かなかった。こちらも思わずといったふうに立ち上がる。
「お前がそんなに大事するとは思わなかったんだ……!」
呻くように言われて遊作は目を瞬いた。
「これは──」
と、了見は箱を示す。
「──厚い紙にも薄い紙にも使えて、衝撃や温度差にも強く発色もいい。何より本体の色がお前の髪色に似て美しいが目立つ色ではないから日常で使いやすいはずだ。想う相手に物を渡すなら良いものをと思って何が悪い! そんな量販品で満足されるのは、私が」
「……」
「……いや、その」
明らかに失言と自分でも分かったのだろう、了見は咳ばらいをしてイスに戻った。頬が赤くなっている。
遊作も毒気を抜かれてイスに座った。
しばし沈黙が落ちる。
「……了見」
ややあって遊作は、そっと箱を手に取った。
「これは受け取るが──この、今使っている物を処分するのはやめてくれないか。普段使いはせずともこのまま持っていたい」
「しかし……」
「俺だって、想う相手から貰ったものは何でも嬉しいし大事にしたい。──悪いか?」
じっと目を見つめながら問えば、了見はいくらか目を見開いた後でぎこちなく首を振る。動揺が抜けきっていない様子のその様は珍しくも少し可愛らしくて、遊作は思わず笑ってしまったのだった。