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贈り物

全体公開 五歌 3 148 5234文字
2022-12-24 05:12:30

お付き合いアオハル五歌のクリスマスのお話。糖度高。

Posted by @37kmgszn

十二月二十四日、午後。次の任務の事前調査のため歌姫は冥冥と共に繁華街の外れにある雑居ビルを訪れていた。調査も完了し、あとは高専へ戻るだけ。大通りへと向かう途中、冥冥が歌姫に聞き返した。
「十八歳くらいの男の子へのプレゼント?」
「はい」
「それって五条くんへのプレゼントかな?」
「え!!ち、ちがっ!」
「夏油くん?」
「違います!夏油じゃなくて、えーっと」
「五条くんだろう?付き合うことにしたって聞いたけど」
「め、冥さん?!何でそれをっ」
「五条くん本人から聞いたからね」
「あいつ……
「それで?何でそんなに悩んでいるのかな?彼は歌姫から貰えれば何でも喜ぶだろう。五条くんがよく食べている棒付きキャンディーで良いじゃないか」
「それはプレゼントって言うんですか。コンビニ行ったついでみたいじゃないですか」
「なるほど。君は五条くんと非日常的で特別な日を過ごしたいって訳か。青春だね」
「冥さんっ!揶揄わないでください!」
「ふふっ。そろそろ私は行かないと。お疲れ。二十六日の任務も宜しく」
「お疲れ様でした。来週も宜しくお願いします」

冥冥と歌姫がこんな会話をしたのは今から三、四時間前のこと。
半ば勢いで告白してきた五条のいつになく真剣な顔につられてその想いを受け止めてしまったのが先月の話。そこから一ヶ月もしないうちに発生したのは〝彼氏の〟誕生日イベント。
そして今、冥冥に思わず話してしまった通り歌姫は悩みに悩んでいた。
「ほんとなんで誕生日が十二月なのよ」
十二月七日の誕生日にはマフラーをあげたばかり。そこから十七日経過したクリスマスイブの今日。冥冥と別れた歌姫は繁華街を一人でフラフラと歩いていた。既に陽は落ち、クリスマスのイルミネーションが煌びやかに色を放っている。周りはデートをしているカップルを筆頭に家族連れや友達同士のグループなどクリスマスというイベントを楽しむ人たちが大勢いた。そんな中、歌姫はショーウィンドウを見ては溜息を漏らしていた。彼女の目下の悩みは明日へと迫っている五条へのクリスマスプレゼントである。冬の定番と言えるマフラーは誕生日で渡した。可愛い後輩である硝子へのクリスマスプレゼントならいくつでも思い浮かぶのに生意気な後輩から生意気な後輩兼恋人へ昇格してしまった五条へのクリスマスプレゼントが何一つ思い浮かばない。任務の合間を縫ってはこうしてプレゼントを探しているのだがどれもしっくりこない。
そもそも五条へのプレゼント自体がハードルが高いのだ。
いつもシンプルな私服を着ている五条だが七海と灰原によると一着数万円らしい。去年着ていたTシャツが身長が伸びてキツくなったという理由で五条から譲り受けた二人が「高そうですね」と言ったら「そんなことねーよ。たぶん六万くらいだし」と返答があったらしい。歌姫が高専内で七海と灰原に偶然会った時に二人が教えてくれたのだ。
そしてその一着数万円のシンプルな私服に合わせていたスニーカーは人気シューズブランドとどこかのハイブランドとの限定コラボモデルらしい。自販機の前で夏油が五条と話しているのを偶然聞いて知った。歌姫としてはそもそも五条の足のサイズなんて知らないので最初からプレゼント候補からは外れているが。
前に見かけたペンケースも上質な革のものを持っていた。きっと私服やスニーカーと同じような価格帯の物なのだろうと容易に想像が付く。
誕生日プレゼントは少し奮発して手触りの良いカシミヤマフラーにして良かったと思う反面、その一回でもうネタ切れだ。手袋も考えたがそんな冬のアイテムばかりを贈ってどうするのかと自問自答を重ねた上でやめた。冬になると雪が降ることもあるがここは東京都だ。雪国ではないのだから冬のアイテムばかりは不要だろう。
歌姫は両手にいくつも持っている紙袋へ視線をやると小さく溜息を漏らす。そろそろ高専に戻らなくてはならない。そしてメールと着信が溜まっていく携帯電話をどうにかしなくてはならない。見なくても相手が五条だということが明らかで歌姫は憂鬱な足取りで駅へと向かった。



『やっと繋がった。今どこにいるんだよ?』
電話の向こうの声はその苛立ちを隠す気配など微塵もない。
……学生寮の前」
『はぁ?高専にいんの?歌姫の呪力弱過ぎて気付かねーんだよ』
……電話掛け直さなければ良かった」
『とにかくウロチョロすんなよ。すぐ下降りるから』
一方的に切られた通話。しかし通話が切れる直前の言葉通り、学生寮の玄関はすぐに勢い良く開かれた。五条は大股で歩くと歌姫の目の前で止まる。
「何で連絡してたのに無視したんだよ」
……ごめん」
「それに最近俺のこと避けてたよな?どういうつもり?」
「それは……
言えない。クリスマスプレゼントが決まらないことが気不味くて、プレゼント探しに忙しかったからメールも電話も無視してましたとは言い難い。本当のことを言えば「プレゼントのセンスも弱いとかウケる」なんて言い出しそうだ。地面に視線を落とし、言い淀んでいる歌姫の両肩を五条は勢い良く掴んだ。
「絶対別れないからな!」
「え?」
いつになく必死になり不安そうな五条の表情に歌姫は驚き、目を丸くした。
「俺は歌姫と別れる気ねえから」
……何で別れる話になってるのよ?」
突然何を言っているのか。別れ話?そんな別れるような相手のためにプレゼントを悩む訳がないでしょう、なんて言葉が歌姫の脳裏に浮かぶがそんなこと五条が知る由もない。
「だから別れねえよ!て言うか歌姫が俺を避けてるのがいけないんだろ!」
とりあえず何か勘違いをしている五条を宥めなくては話が進まない。
「待って。別れ話はないから。そういうんじゃないの」
「それマジで?」
「うん。そもそも何でそんなことに」
……だって歌姫から返信ないって言ったら硝子がクリスマス当日に盛大に振られろって。傑も否定しねえし」
罰が悪そうに少しいじけた表情で五条が言った。それは日頃の行いのせい、なんて喉まで出かかった言葉を歌姫は飲み込む。それと同時に何だか擽ったい気持ちが湧き出てくる。ただのストレスの原因でしかない五条だったはずなのにこうも一生懸命になられると可愛い。誕生日プレゼントを渡した時の嬉しそうな笑顔もいつもの生意気な態度が陰を顰めていて可愛いところもあるんだなんて思ったからこそクリスマスプレゼントも悩むほど考えてしまったのだ。
思わずくすくすと笑い出した歌姫に五条はムッとした顔をする。
「歌姫の癖に何笑ってんだよ。笑ってないで避けた理由言えよ」
五条の要求に歌姫は笑うのをぴたりと止め、気不味そうな顔を再び浮かべる。
……プレゼントどうして良いかわからなくて」
「は?プレゼントぉ?」
「七日が誕生日だったでしょ。それですぐクリスマスで。凄い考えたんだけどそもそもあんたの持ち物ってどれも良い物ばかりだし。だからもう何あげたら良いのかわかんなくなっちゃって」
……そんなくだらねーことかよ」
呆れた表情で盛大に溜息を漏らす五条に今度は歌姫の眉間に皺が寄った。
「くだらないって何よ!人がどれだけ悩んだと思ってるのよ?」
「別に物が欲しくて歌姫と付き合ってねえんだよ。それより俺の連絡、無視するなよ!」
「そもそもあんたメール多過ぎ!返信なければ一日待ってみるとかない訳?」
「何で俺が待たなきゃいけないんだよ?しかも一日?絶対嫌だね。浜松の任務で二日も行方不明になった癖に」
痛いところを突かれた歌姫は思わず口を閉ざす。別に歌姫の責任ではないが心配を掛けたのは事実だ。
……ごめん。返信はする……なるべく」
「なるべく?」
「うん」
……まぁいいや。それより何入ってんの?」
「お菓子。クリスマス限定とか冬季限定のお菓子。プレゼント何が良いかよくわからなくなちゃったから糖分にし、……五条?!」
急に身体ごと五条の方へ引き寄せられた歌姫が驚いて声を上げる。真冬の冷たい空気に晒されていた身体がじんわりと温かくなっていくのを歌姫は感じた。
「あーぁ。こんな冷たくして。ほんとバカ姫。弱いんだから風邪引いたらどうすんだよ」
……ごめん」
「早く帰ろ」
「うん」



甘ったるい香りが広がるそこで歌姫はゆっくりと目を開く。視界に入る銀髪の男は彼女の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「あ、起きた?」
……ベッドの中でお菓子を食べないでよ」
「だって腹減ったし」
そう言って五条はベッドのすぐ近くにあるローテーブルへと腕を伸ばすとチョコレートを一つ摘んで口に放り込んだ。
「あのね、お腹減ったのはわかるけどそこで食べることないでしょう?せめてベッドから出なさいよ」
「だって寒いじゃん」
「そんな至近距離で喋るな!寝起きでチョコは胸焼けする」
「胃腸も弱いの?」
「五条のせいでしょ!」
初めて一緒に迎えた朝。その甘ったるさは物理的に強制されたものであり、二人はと言えば相変わらずいつも通りだ。
「俺のせいと言えば身体大丈夫?」
そんないつも通りの空気を先に破ったのは五条だった。五条の言葉に歌姫は一気に顔を赤くすると枕に埋まる。
……うん。だいじょう、ぶ……
布団の中でモゾッと動こうとした瞬間の違和感に歌姫が不自然に身体を硬直させる。そんな彼女を見た五条は歌姫の頭をそっと撫でた。
「駄目そうだな。傑たちとのクリスマスパーティーは夕方からだしそれまでダラダラするか。あ、あとこれ
クリスマスのプレゼント」
五条はベッドの下に手を伸ばすと小さな箱を歌姫の前に置いた。枕から顔を上げた歌姫はその特徴的な色合いの箱を見て目を見開く。
「こんなの受け取れない!」
「は?俺からのプレゼント受け取れないってどういうこと?」
先程までとは一転、不機嫌な声を出す五条に歌姫は慌てて口を開く。
「そういうんじゃなくて!だって、私あげたのお菓子だけだし……
色々な種類のお菓子とその色だけで誰でも知っているようなブランドの箱。金額のことを持ち出すなんて野暮なことかもしれないがどう見ても釣り合っていない。眉を下げて困惑している歌姫とは対照的に五条はニヤリと笑った。
「歌姫も貰ったけど?」
その瞬間、歌姫が耳まで真っ赤に染めた。
「なっ!!ば、バカじゃないの?!」
「照れるなって。もう一回して良い?」
「えっ?!」
「嘘嘘、冗談だって。また今度な」
「今度……
確かに今後もそういうコトはあるだろう。次にそんなコトになるのはいつだろうか。昨日は何だかよくわからないうちにどんどん進み、ついに……という形だったので今改めて思い返すと羞恥心で溢れ返りそうだ。
頬を赤く染め少し涙目になっている歌姫に五条は思わず喉を鳴らした。
「やっぱもう一回」
上半身を起こした五条が歌姫に覆い被さろうとするがその身体を歌姫は一生懸命に押し返す。
「えっ?!む、む、無理っ」
「ちぇっ。まぁ歌姫、弱いからな」
「それ関係ないでしょ!……くしゅっ」
「ほら、風邪引くからもっとちゃんと寄れよ」
自身の身体を押し返してきた歌姫の手を取ると五条は歌姫をそのままベッドに縫い付けるように抱き締めた。
「っ!ち、近いっ!!」
「何だよ、今さら。昨日はもっと」
「あああああああ!!」
「うるせ」
耳元で急に大きな声を出された五条が顔を顰めるが歌姫はそれどころではない。
「そういうこと言うな!」
「そういうことってどんなコト?」
「知らないっ!!」
「ねー、歌姫」
「何よっ!」
「来年も一緒にクリスマスやろうな」
答える代わりにその目を閉じた歌姫に五条は優しく口付けた。



夏油、硝子、そして七海と灰原も含めた学生たちで行ったクリスマスパーティーから一夜明けた十二月二十六日。
今日の任務先である繁華街の外れの雑居ビルの前に立つのは冥冥と歌姫の二人だ。既に任務は滞りなく完遂しており、補助監督の迎えを待つだけ。そんな時にふと冥冥が口を開いた。
「それで彼氏の五条くんへのクリスマスプレゼントはどうしたんだい?」
「冥さん、それわざとですよね?いちいち強調する必要ないじゃないですか」
「ふふ。まぁ良いじゃないか。それより良いプレゼントは見つかったのかな」
「冥さんが提案してくれたプレゼントとほぼ同じです」
「私が提案した?……あぁ、棒付きキャンディー?」
「はい。クリスマス限定とか冬季限定のお菓子を山ほどあげました」
「喜んでいただろう?」
「そうですね。なんかあんなに考えてたのが馬鹿らしくなりました」
「まぁお菓子だけじゃないと思うけどね。二つに結ってるからちょうど見えるよ」
「何がですか?」
「首の後ろ。冬なのに虫刺されかな?」
「?!」

おわり。



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