X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

路地裏ワルツ

全体公開 神無三十一受け 44 56 7016文字
2022-12-28 18:18:20

カルみと リクエストより
女装する🎃さん
シナリオネタバレあり

 

 その日、神無は珍しくバディのディーノとは別行動で仕事に赴いた。
 内容は別の課からの協力要請で、目標から逮捕に繋がる有力な情報を聞き出すための、所謂ハニートラップだ。
 上司の青木が言い辛そうに、神無が変装が得意だと溢したらあれよあれよと協力を頼まれてしまったのだと頭を下げていた様子を思い出す。
 女性の警官を出動させるのは危険だし、外聞も悪いのだろう。その点、整った顔立ちの変装に秀でた神無の存在は協力元にとって都合が良かった。
 神無も、自分の特技が武器となるならば協力は惜しまないと答えたのだ。確かに女装の経験はないが、自らの美しさに自信のある神無は完璧に女性に変身できる確信があった。

 「ふん、ふふん、流石俺だな。」

 現に、任務は大成功だった。
 準備した茶色の長い髪は、化粧した神無の肌に良く馴染む。品の良い落ち着いた色のニットに花柄のスカートを履けば、男が好みそうな儚い女性の完成だ。
 バーでそれとなく隣に座り、情報を聞き出せばあとは適当に薬で眠らせて店を逃げ出す。無線で手に入れた情報を手掛かりに駆け回る刑事たちの声を聞きながら、神無は仕事の成功に少しだけ浮かれていた。
 だからおそらく、それが良くなかったのだ。

 「お姉さんひとり?」

 署に帰るまでに近道をしようと通り抜けた裏路地で、神無の背に声が掛けられる。それまで鼻歌を歌ってご機嫌に道を歩いていた神無は、足を止めて背後を振り返った。
 数人の男たちが神無を上から下まで眺め、顔を緩めている。

 「……あー

 そういえば、この辺りの路地は最近治安が悪いことで有名だった。
 刑事の制服に袖を通した普段の神無ならば誰にも声をかけられることなく通過できるため、気にしたこともなかったのだ。
 咄嗟に逃げ出そうと身構えた神無だったが、ハニートラップのために履いているヒールは走ることにはあまり適していない。この場は言葉だけで切り抜けるしかなさそうだと、男に囲まれたまま神無は小さくため息を漏らす。

 「ねぇ、お姉さん俺たちと遊ぼうよ。」
 「えっとすみません、急いでて」
 「大丈夫大丈夫!ちょっと話すだけだからさぁ!」

 近づいた男たちから香るアルコールの匂いに、神無は思わず顔を顰めた。かなり酒に酔っているらしい彼らは、たじろぐ神無に構わず言葉を重ねる。

 「俺たち怪しい者じゃないよー?ちょっと綺麗なお姉さんとお話ししたいだけ!」
 「怪しい者じゃないって言ってる時点で怪しいだろー!!」
 「あ、ははあの、じゃあ私はこれで」

 タチの悪い酔っ払い程度ならば躱せるかもしれない、神無は半笑いで背後へと数歩後ずさる。
 仕事用の無線機はまだ繋いだままだ。このままでは、状況確認のために無線を聞いているであろう上司の青木や、バディのディーノが心配してしまう。
 はやくここから抜け出して、路地を出なければ。そう一歩を踏み出そうとした神無の腕を、男の一人が掴んだ。

 「っや!?」
 「お!悲鳴かわいい!!」
 「ちょっと低いけど可愛い声してるよなぁ」

 咄嗟に漏れた声はかろうじて女性を繕っていたが、男の声にぎくりと肩が揺れる。
 今女装がバレるのはまずい。酔っ払いに逆上されて何かされかねない。男を傷害罪や公務執行妨害で捕らえるのは、女装している自分にも非があるような気がして些か気が引ける。
 声と腕に怯んで動けなくなってしまった神無を、気を良くした男たちが囲む。
 男の背中越しに見えた通りを歩く人々は、皆遠巻きに逃げていってしまうばかりだ。誰だって面倒ごとには巻き込まれたくない。

 面倒になった神無は、小さくため息を吐くと俯いて肩を揺らした。いっそのことこの場は泣き落としてしまおうと方針を切り替える。

 「や、やめてください」

 か弱い女性を演じ、涙を滲ませて男たちから怯えるような素振りで腕を解こうともがいた。
 大体の男なら、女の涙に怯んで手を解くだろう。そう踏んでいた神無だったが、酔っ払いの思考は計算外だった。

 「おい泣かせるなよお前ー!!」
 「泣いた顔も可愛いじゃん!!」
 「、っえ

 こいつら、頭までアルコールに浸かってダメになってるんじゃないか。神無は思わず顔を引き攣らせる。
 泣き顔を覗き込んで更に神無を誘う男たちは、既に正常な判断などできていないのだろう。
 いっそ警察手帳でも出してしまおうか、それでも彼らが止まるとは思えないけれど。そう考えて神無がやけになろうとしたその時だった。

 「ちょっと待った。」

 路地の先から、声が聞こえた。
 男たちがそちらへと視線を向ければ、暗がりから現れたのは黒の長髪を揺らす一人の男だ。

 「だ
 「誰だお前?」
 「今お姉さんと話してるんだから邪魔すんなよぉ」

 思わず口から漏れそうになった声を神無が慌てて飲み込めば、男たちから怪訝な声が上がる。
 彼、縞斑狩魔はそんな男たちの批判を気にした様子もなく、路地の中へ入っていく。

 「まぁまぁ、その辺でやめときなよ。彼女、困ってるだろ?」

 泣いてるじゃない、と言って縞斑は男に囲まれたまま俯く神無に視線を向けた。
 顔を見られないように慌てて髪で顔を隠した神無の様子を、縞斑は泣き顔を隠したのだろうと考えて男に視線を戻す。

 「ね?これ以上絡むようなら、警察呼んじゃうよ?」

 警察、という言葉に男たちは僅かに酔いが覚めた様子だった。縞斑の雰囲気にも威圧されたのだろう、彼らが僅かにたじろぐ。

 「な、なんだお前
 「いやぁ、名乗るほどの者じゃないよ。それとも、名乗れる者じゃないって言った方が分かりやすいかな?」

 言いながら縞斑は笑みを浮かべる。そうして触れた彼の右腰には、愛用のサブマシンガンが収められていた。
 男たちから悲鳴が上がる。安全装置も外しておらず、撃つ気は全くないのだろうが、銃の使い方など知らない一般人に与える威圧としては十分だった。

 「どうする?試してみる?」
 「な、なな、なっなんだこいつ!」
 「やばいぞ!逃げよう!!」

 縞斑の言葉に、男たちはついに顔を青ざめると神無の腕から手を離して駆け出した。すれ違い様に悲鳴を上げる彼らを見送り、縞斑は小さくため息を吐く。
 最近スパロウのアジト周辺の路地の治安があまり良くない。先ほどの酔っ払いなら可愛らしいもので、時々薬を売る者などの姿もあり、簀巻きにして警察の前に突き出したことも数知れず。
 外に出入りする人間は自衛をできる者たちばかりだが、警察に睨まれて付近をパトロールされたら堪らない。少しでも、自分の噂が一人歩きして酔っ払いがここに来ないことを祈るばかりだ。

 「さて君、大丈夫?」

 縞斑の脅しを見ても尚逃げ出さなかった女性に縞斑は向き合う。怯えて動けないのだろうか、考えながら歩み寄れば、びくりと肩を震わせて彼女は俯いた。

 「あぁ、怖がらせてごめんね。君にどうこうするつもりはないから、安心して。」

 自分も彼女を怖がらせる原因になっていたらしい、気付いた縞斑は慌てて両手を上げて無害を訴える。
 それでも尚動こうとしない彼女をここに置いておくわけにもいかず、せめて路地の外まで送り出そうと縞斑は歩み寄った。

 「路地の外まで送るよ。そこからは一人で帰れるよね?」
 「あ……えっと

 縞斑は神無に近付いていく。俯いてこのままこの場を去ることも、不可能になってしまった。

 「こんな人通りのないところを女の子が一人で歩いてたら危ないから、君も気をつけて

 焦る神無の様子に気付くことなく、縞斑は神無へと腰を折って注意しながら顔を覗き込む。そうして、彼の瞳が驚いたように見開かれた。

 「………。」

 沈黙の中、未だ涙の滲む視界で神無は縞斑を見つめる。
 バレた、間違いなく気付いた。背に汗を掻きながら、一言も発することのできない神無に対して、縞斑は口を開いた。

 「まさか、君にそんな趣味があるとは思わなかったな。」
 「なっ!?」

 ぽつりと、呟かれた言葉はあまりにも不名誉で、神無は咄嗟に声を上げる。
 深く深くため息を吐いた縞斑がそのままするりと長い髪に触れる仕草に、神無は慌てて弁解を始める。

 「こ、これは!仕事で!!仕事帰りで!!」
 「まぁ、だろうねぇ。じゃなきゃ困る。」

 もう泣かないの、と呟いた彼は親指で神無の頬と目尻を拭った。そうしてようやく、神無は自身が未だ泣き止んでいなかったことに気がつく。
 それにしても、あまりにあっさりと飲み込んだ縞斑の様子に神無は首を傾げた。彼ならばもう少し疑いや揶揄いの言葉があるだろうと身構えていた手前、拍子抜けだ。

 「ひょっとして、分かってないの?」
 
 神無の様子に、縞斑は笑みを浮かべたまま問い掛ける。なにを、そう尋ねる前に彼は神無の手を引いて耳元に唇を寄せて囁いた。

 「他の男に恋人が掴まってて、それがただの趣味だったりしたら、腑煮えくり返るでしょ?」
 「っ、あんた、何言っ!?」

 至近距離で伺った彼の瞳は、笑っていなかった。思わず口から飛び出した悲鳴と動揺を、縞斑は唇に指を当てて黙らせる。
 そうして彼は、神無の胸元を指差した。ちらりと視線を落とせば、そこには警察署で至急された無線機がついている。
 これには、男たちにナンパされて縞斑に助けられるまでの一部始終が、おそらく記録として残っているはずだ。
 持ち帰った無線は解析のためにドロ課だけでなく協力を要請した課も聞くはずである。もしあのまま、縞斑に対して恋人であることを言及する声をあげていたら、そう考えた神無は青い顔で咄嗟に無線機の電源を落とした。

 「っ、けした」
 「うん、あとでちゃんと大丈夫って伝えておきなね。みんな心配するだろうから。」

 満足げに頷いた縞斑は、周囲に男たちの姿がないことを念のため確認すると神無に手を差し出す。

 「署の近くまで送るよ。」
 「でも、だらだら先輩だって仕事……
 「今日の俺の仕事は見回り。この辺りの治安がどうにも悪くてね。」

 有無を言わせない、という表情と優しく差し伸べられた手のひらは少しだけちぐはぐで、神無は黙って従うべきだとこれまでの経験から思い直した。
 大人しく手を取ると、そのまま彼の指が絡まる。堂々と恋人繋ぎに結ばれた手に、神無は思わず顔に熱が集まった。

 「ここ、外……
 「今の格好なら君だってバレる心配もないでしょ。」

 外ではいつも、縞斑は神無に配慮して接触しない。刑事として働く神無が犯罪集団である自分と関わる様子を見られたことで、万が一にでも彼が不利な立場にならないように。
 そんな縞斑の思いを知っているからこそ、神無もその思いに応えて外では彼を見つけても声を掛けることがなかった。
 しかし今、神無は女性の変装をしている。例えこの姿を目撃されても、縞斑が恋人と街を歩いていたと噂される程度だ。
 
 「ヒール履いてるけど、足は大丈夫?」
 「練習したからわりと平気。」
 「仕事熱心だねぇ。」

 軽い会話を交わしながら路地の外に出れば、縞斑は神無をエスコートするように手を引いて歩き出した。
 促されるままに歩く神無の背に、好奇の目が刺さる。神無一人でもそれなりに注目を集めていた自信があるが、隣を彼と共に歩くとなれば、その視線は桁違いだ。

 「めっちゃ見られてる。」

 神無の言葉に縞斑は周囲に視線を向ける。目を合わせた女子高生たちが、きゃあと羨ましそうな歓声を上げる様子に、縞斑は思わず苦笑いをこぼした。

 「そうだね、君を見てる。」
 「あんたを見てるんだよ。あんた、綺麗だから。」
 
 縞斑は自覚がないが、彼はとても整った顔をしているのだ。伸ばされた艶のある黒髪も、すらりと長い足も、雪のように白い肌も、そこに浮かぶ一見人の良さそうな笑みだって、全てが縞斑狩魔という男の魅力だった。
 神無の言葉に少しだけ意外そうな表情で眉を動かした彼は、小さく笑うとこちらを見下ろして口を開く。

 「お褒めに預かり、光栄至極。でも今日は、君ももう少し自覚を持った方がいいよ。」
 「え?」

 ぽつりと呟く縞斑の言葉に、神無が顔を上げた。至近距離で見つめ合う彼らの姿に、再びほうとため息のような声が上がる。
 流石に居心地の悪さを覚えた神無は、咄嗟に縞斑の手を軽く引いて路地を指差した。この道を抜ければ警視庁はすぐそこだ。
 二人で歩く今ならば、面倒な輩に絡まれることもないだろう。もしもの時は返り討ちにすれば良い。
 意図を汲み取った縞斑はこくりと頷くと、神無を連れて路地に入った。人の視線から逃れた二人は小さく息を吐く。

 「自覚って、なんの?」
 「君が、思ってる以上に見られてるってことだよ。」

 自分に向けられる視線をそれなりに自覚していた神無は、今の意識でも足りないのだろうかと首を捻る。自慢の多い自分でも、流石にそれは自意識過剰ではないかと心配に思った。
 そんな神無の様子に再び苦笑いを浮かべた縞斑は、絡めた手を引いて路地の先へ歩き出す。それについて歩きながら、神無は思い出したように口を開いた。

 「そういえば、アサギリは?一緒じゃないの?」
 「手分けして見回りしてたんだよ。連絡したから、後で合流する予定。」
 「そっか。元気そうでよかった。」

 最近は共同捜査もないため、随分スパロウの仲間たちに会えていない。連携しなければならないほどの事件が発生していないという良いことではあったが、仲間に会えないのは少しだけ神無にとって寂しいことだった。
 そんな神無に縞斑は、アサギリはもちろん、ニトやリトも会いたがっていたことを教える。懐いてくれた可愛い子供たちの顔を思い出して、神無は嬉しそうに笑った。
 
 そうしてしばらく他愛も無い会話を交わしながら、二人は路地の先を目指す。道を抜けた先、近くに建つ警視庁を見上げると、縞斑は神無の手を離した。

 「ここまできたら大丈夫だね。」
 「そう、だな。」

 縞斑の手のひらが名残惜しい神無は、手のひらを押さえて頷く。
 とはいえ、まだ神無には仕事が残っていた。戻って任務の結果を改めて報告し、無線を途中で切ったことを謝らなければならないのだ。
 おそらく心配しているであろう青木やディーノに、どう説明しようかと神無は悩む。

 「それじゃあね、神無ちゃん。」
 「あぁ、ありがと。だらだら先輩。」

 縞斑の声に合わせて、神無も手を振った。
 しかし、歩き出そうとした縞斑はふと足を止めると、あぁそうだ、と呟いて神無を振り返る。何か忘れ物だろうかと首を傾げる神無の髪に手を伸ばした彼は、それを掬うと唇を落とした。

 「ーーーっ、」
 「言い忘れてたけど、今日の君、めちゃくちゃ可愛い。」

 囁いた彼はすぐに体を離すと、神無の返事を待たずに手を振って路地の向こうに消えていく。呆然とその背を見送った神無は、彼の言葉を脳内で反芻した。
 かわいい。縞斑のその声は、ベッドの上で囁く彼の声に似ていた。恋人になってから初めて聞いた、縞斑の神無を甘やかす声だ。

 「ぅ………
 「神無?」
 「わーーーーっ!?!?!」

 唐突に、そんな神無の肩が叩かれる。悲鳴を上げて背後を振り返れば、そこにはぽかんと目を丸くしたディーノの姿があった。

 「驚かせてすみません。通信が途切れたので、探しにきました。」
 「あ、あぁ、悪い、大丈夫だ。怪我はないから。」

 ばくばくと跳ねる心臓を押さえ、思い出してしまった夜のあれやそれを必死に神無は脳裏から追いやる。
 そんな神無の姿をじっと見つめたディーノは、不思議そうな表情で首を傾げた。

 「神無。」
 「な、なんだ?」
 「血圧と体温が上昇しています。興奮しているのですか?」
 「こっ!?」

 絶句した神無の顔に、更に熱が集まっていく。このままでは倒れてしまうのではないかと心配するディーノの一方で、口をぱくぱくと動かしていた神無は慌てて声を上げた。

 「しっ、してない!!!!その言い方やめろって言っただろ!!!!」
 「でも、」
 「でもじゃない!!いいから!!戻るぞ!!!」

 食い下がるディーノを必死に言葉で押し留めると、神無は警視庁へと足を向ける。
 怒っているのか、照れているのか、そのどちらもなのか、ディーノにはまだ神無のことが分析しかねる。
 神無の背中を眺めていた彼は小さく再び首を傾げ、ひとまず相棒をこれ以上刺激せずに落ち着かせようと、黙って後に続くことにしたのだ。

 


一方その頃
 「アサギリちゃんおつかれ〜」
 「?随分、ご機嫌ですね。」
 「いやぁ、良いもの見せてもらったからねぇ。」
 「そうですか。」
 「あ。」
 「今度はなんです?」
 「いつも可愛いけど、って言うの忘れてたなぁ。今度言おう。」
 「……………私ひょっとして今、盛大に惚気られてます?」


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.