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テーマ:手入れ部屋 CP:燭へし

みえろ🦋双騎ありがとう
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2015-08-14 23:26:28

#長谷部受け深夜の真剣文字書き60分勝負
テーマ:手入れ部屋 CP:燭へし

 皆が寝静まった深夜の本丸。その手入れ部屋の前にひとりの男の姿があった。固く閉じられた戸の前に、燭台切光忠はまんじりともせずに座していた。灯りひとつつけず、暗闇の中で男はただ、待っていた。

 部屋の中にいるのはへし切長谷部。男の大切な友であり恋人でもある存在だ。彼は夜の戦場から瀕死の状態で帰ってきたばかりだった。

 帰還した部隊を出迎えたのは燭台切自身だった。短刀たちに抱えられて戻った長谷部は、腹に深手を負っていた。手当てをされてはいるものの傷口からの出血は止まっておらず、彼の白いシャツを真っ赤に染めていた。自らも傷を負いながらここまで運んできた短刀たちをねぎらい、彼らから長谷部を受け取ると、燭台切は手入れ部屋を目指す。腕の中の長谷部の目は固く閉じられ、顔面は蒼白だった。微かに開けられた口で苦しげな、短い呼吸を繰り返している。

 手入れ部屋につくと、長谷部を寝かせた。燭台切に出来ることはここまでだ。あとは彼の苦痛が一刻も早く取り除かれることを祈るばかりだった。そのまま静かに側を離れようとすると、体温を追うかのように長谷部が手を伸ばしてきた。思わずその手を掴んだ燭台切は、長谷部の口から出た名前に凍りつく。

「ながまさ、さま……」

 冷たい手で心の臓を掴まれたようだった。これは自分が聞いてはいけないものだったと、燭台切は確信した。長谷部の手を出来るだけ優しく下ろすと、燭台切は逃げるように部屋を出た。後ろ手に戸を閉めると、燭台切は崩れ落ちるように床に座り込んだ。

 大丈夫、大丈夫たと、燭台切は自分に言い聞かせた。どんなに深手を負おうとも、折れない限り手入れをすれば元通りになる。一日も経たずに長谷部は元気になるだろう。彼の人の名前を聞いた時によぎった嫌な想像を、燭台切は必死に振り払おうとした。だが高まった心拍はなかなか静かにならず、不安な気持ちも簡単には去っていかなかった。
 
 暗闇の中で燭台切はひとり天を仰いだ。

 あの世、天国、死後の世界、極楽……。人が死んだあとに行くといわれている場所がある。そこに辿りついた者はあらゆる苦しみから解放され、この世で別れた愛する者と再開し、永遠の幸福を得るのだという。ならば刀剣男士は、冷たい鋼に宿ったこの命は、どこに行くのだろうか?

 人と同じ場所には行けないのだと、長谷部が確信したように話すのを何度も聞いたことがあった。その時に彼の心にいた人間が誰なのか、燭台切は今初めて知った。彼が明かすつもりのなかった心の内を、図らずも覗いてしまったという罪悪感が胸にわだかまっていた。

 我々は人ではない、物に魂はない、と彼は言った。それでもなお、死の淵にあって求めるものは彼の人なのだ。その事実に、燭台切はどうしようもない哀しみを感じていた。幾百年の歳月が流れてもなお、ひとりの人間を思い続ける心が魂でないのだとしたら、一体何なのだろうか。答えの出ない問は、やり場のない怒りのように燭台切の心を焼いた。

 夜明けは、まだ遠い。


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