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仮面舞踏会の夜

全体公開 ウィザプロ 3130文字
2023-01-13 23:00:08

ゴーストダンスパーティ夜の部。
お借りしたお子さんたち
・メルヴィン先輩(@こあさん)
・ギンジくん(@大和さん)
・スファレ先輩(@はこのえさん)
ありがとうございました!

 足を踏み入れたパーティ会場は、非日常を思わせる煌びやかさで私を迎え入れた。
(わ……、こんな感じなんだ)
 去年は不参加だったからわからないけど、毎年こういう雰囲気なんだろうか。少しドキドキしてしまう。
 邪魔にならなそうな壁際に陣取って、貰った飲み物を片手に会場を見渡す。仮面を着けてフォーマルな装いに身を包んだ人達は、まるで映画の中から抜け出してきたみたい。やがてゆったりと流れだした音楽に合わせて、みんな思い思いに中央のホールで踊り始める。それだって幕の向こうの別の世界に見えて、なんだか自分が場違いに思えて仕方ない。
……せっかく練習したけど、この中で踊るのはやっぱり気が引けるな)
 暗くなっていく気分を誤魔化すようにグラスに口をつける。冷えたドリンクは少し気持ちを落ち着けてくれたけど、それでもやっぱり、この壁から背を離す事はできそうにない。いつの間にかグラスの中身はなくなっていて、空いたグラスを近くのテーブルへ追いやった。
 手持無沙汰のままぼんやりダンスホールを眺めていると、ふと近くに人の気配を感じる。視線を向ければ、照明を浴びて光る金髪が目に入った。全体的に青と黒を基調とした服装のその人は、なんとなく人目を惹くオーラのようなものを纏っている気がして……そして、目が合った。無遠慮に眺めて気分を害しただろうかと慌てる私を他所に、自然な所作でこちらに手が差し出される。
「可憐なお嬢さん、僕と一曲踊っていただけますか?」
「え……
 どこかで聞いたことのある声に、ついまじまじと顔を見つめてしまった。そんなことをしても、仮面に隠れた正体はわからないのに。促すように微笑まれてその手を取ると、ちょうど次の曲が始まるタイミングだったらしい。そのままダンスホールへ連れ出されて向かい合う。
……緊張してる?」
「は、はい……
 スファレ先輩との練習で少しは自信がついたと思ったけど、いざ踊り始めると私の身体はがちがちに固まっていた。それが彼にも伝わったのだろう。
「じゃあ、魔法をかけてあげる」
「魔法?」
「肩の力ぬいて、今は舞う理想の自分を思い描いて」
 耳馴染みの良い声が囁く。やっぱり聞き覚えがある気がするけど、今はそれどころじゃない。
(身体が軽い……
 彼の言う『魔法』の所為なのか、さっきまで緊張で重かった足が嘘みたいにふわりと浮き上がる。理想を……と言われて、頭に浮かぶのは練習に付き合ってくれた先輩や会場で踊る人々の姿。あんな風に、と考えるのと同時にステップを踏む。思った通りに動けることが嬉しくて彼の顔を見上げれば、相手も笑みを浮かべていた。
 あっという間に時間は過ぎて、ダンスを終えた私達はまた壁際へ戻る。一度速くなった鼓動はまだ落ち着かないらしく、深く息を吐いた。高揚感か動いた所為か、頬が熱い気がする。
「飲み物取ってくるけど、要る?」
「えっ? あ、自分で……
「いいから待ってて。あと、これ」
 肩に温もりが乗った。驚いて見れば、彼の上着が掛けられている。
「預かっててくれる?」
 身体冷やしそうだし、と続いた言葉を聞いて、厚意を無碍にするのも申し訳なくて上着を返そうとした手が所在を無くした。
……楽しかった、な)
 あんなに緊張していたのに、今はただ楽しかった気持ちと練習が無駄にならなかった安堵感で胸がいっぱいになっている。それも全部あの人のおかげで、戻ってきたらちゃんとお礼を言わなくちゃ、と背筋を伸ばした。そのタイミングで彼が戻ってきたけど、私が口を開くより先に「ごめん」と謝られて言葉を飲み込む。
「知り合いに呼ばれたから、もう行くよ。踊ってくれてありがとう」
「わ、私こそ、ありがとうございました!」
 慌てて頭を下げて、飲み物を受け取った。そのまま見送った後ろ姿はどこかで見たことがある気がして、学園の生徒なんだから当然なのだけど……どうしても気になってしまう。ううん、と唸りながら視線を落とすと、自分のドレスには無いはずの色が視界に入る。青と黒。
「あっ、上着……!」
 慌てて顔を上げて辺りを見回したけど、あの金髪はどこにも見つからなかった。


 返す相手を見失った上着は、とりあえず汚さないようにクロークへ預けた。帰りに受け取るのを忘れないようにしなくちゃいけない。
(その前にあの人が見つかれば、それが一番良いんだけど……
 自由参加とはいえ大勢の生徒が集まる会場では、それも難しいかもしれない。そんな事を思いながらパーティ会場へ戻り、望みは薄いけどあの人を探すべきかな、なんて考えていた時だった。
「アリーシャだよな?」
 とん、と軽く肩を叩かれると同時に呼ばれた自分の名前。今度こそ聞き覚えのある声に振り返ると、思い浮かべていたのとは違う装いの人が立っている。あれ、勘違いだったかな、と首を傾げた私に向かって、その人は少し仮面をずらして笑いかけた。
「俺だよ俺! わかるか?」
 その声も笑顔もやっぱりよく知った同級生のもので、勘違いではなかったことと、知り合いに会えたことに安堵する。……それにしても。
「ギンジさん? いつもと雰囲気が違うからわからなかった……
 着崩してはいるものの大人っぽいジャケットスタイルに加えて、髪色どころか瞳の色も違う。声を聞いてもすぐにギンジさんとは結びつかなくて、ちょっと驚いたのは確かだった。
(髪と瞳の色、何かで変えてるのかな? 似合うけど不思議な感じ……
 それに比べて、自分の格好が普段とさして変わらないことに今更気付く。だからこそ、彼も仮面を付けた状態の私が私(アリーシャ)だとわかったのだろうけど。
「せっかくだから踊ろうぜ!」
 いつもと同じ、初めて話しかけてくれた時から変わらない明るい声に、自然と頬が緩む。
「私で良ければ、喜んで」
 ――ギンジさんのリードは力強かった。表情こそ凛々しいけど生き生きして楽しそうで、明るい方へ引っ張ってくれるみたい。私もさっきよりは緊張が解れて、ちゃんと練習通りに身体が動くから、楽しむ余裕があった。ダンスもそろそろ終盤に差し掛かり、これなら問題なく終われそうだと、こっそり安堵したのも束の間。
「あ、」
 ギンジさんの、思わず漏れてしまったといった感じの声。頭の中で描いていたのと違う足取りに、誤魔化すような別のステップが混じってダンスは締め括られた。一瞬何が起こったのかわからなかったけど、たぶん、ギンジさんがステップを間違えたのだと思う。指摘するのもどうなんだろう……と固まる私の頭上から、笑い声が降ってくる。見上げた先にあったのは満面の笑みだった。
「楽しかったな!」
「ふふ……うん、楽しかったね」
 本当に楽しそうにそう言うから、つられて私も笑ってしまう。ステップを間違えたなんて、そんなことはもう頭の隅に追いやられていた。

「上手い下手を気にする気持ちもわかるけど、一番大事なのは、心から楽しむことじゃないかな」
 上手く踊れない、と落ち込んでいた私にスファレ先輩がかけてくれた言葉。あの時はわからなかったけど、今ならその通りだと思える。
……楽しむのが一番大事、か)
 上手く踊れるかとか不恰好じゃないかとか、そんなことばかり気にしていた私は、もしかしたら考えすぎて勿体ないことをしていたのかもしれない。これからはもっと、思い切って挑戦してみて……楽しんだ方が、いいのかも。こんな風に思えるようになっただけでも、私にとっては大きな進歩だろう。
(いろんな人のおかげだよね……
 ……まずは、お母さんにドレスのお礼を言わなくちゃ、かな。


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